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【ほっこり】チーズ愛あふれるカナダの酪農ポエム

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チーズをこよなく愛した詩人、ジェームス・マッキンタイア

アメリカを中心に評価が高い19世紀カナダの詩人、ジェームス・マッキンタイア(1828-1906)をご存知でしょうか?

彼の特筆すべきは、自作のチーズ・ポエム。

不器用ながらチーズ愛にあふれたポエムは近年注目されています。

今回はぼくの下手な日本語訳を添えて、マッキンタイアのめくるめくチーズの世界へご案内しようと思います。

 

 

1. マッキンタイアの生涯

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マッキンタイアはスコットランドの生まれ。

14歳で両親とともにカナダに移住し、ピアノ職人として生計を立てました。

結婚後、オンタリオ州セント・キャサリンズに引っ越しそこで家具を商って暮らしました。そこで貯めたお金と知見を元にして、オンタリオ州インガソールに引っ越し家具工場を設立。ピアノや棺桶などを受注生産しました。

マッキンタイアは地元の名士として尊敬を集め、彼自身インガソール地区の人に恩返しをしようとしました。

彼なりのペイ・バックが、自作のポエム。

マッキンタイアはインガソールの自然の美しさや人びとの美徳、そして何より地元産のチーズがいかに美味しいかをポエムで訴えました。別にジョークではなく、真剣に地元を愛する気持ちからであったわけです。

当時「カナダにヘタクソな詩人がいる」として話題になり、カナダ紙トロント・グローブやニューヨーク・トリビューンが面白半分でマッキンタイアの詩を取り上げたりしました。

1906年に死ぬまで、マッキンタイアは地元愛のポエムを作り続けたのでした。

 

2. チーズの詩

さて、ではそんなマッキンタイアのポエムをいくつかご紹介します。

 

2-1. 「ろくでもない古代詩人の夢(The ancient poets ne'er did dream)」オックスフォード・チーズ・オーデより

これは彼の初期の頃の作品。

若干自虐も入った、でも郷土愛が感じられるシンプルなポエム。

 

ろくでなしどもは、カナダが「クリームが流れる土地」だと想像したのさ

ところがどっこい、雪と氷の大地じゃあ、すべて凍っちまった

ろくでなしどもは、チーズにすがるようになったってことよ

 

2-2. マンモス・チーズに寄せるオーデ

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この歌は、1868年に地元の感謝祭で作られた超巨大なチーズ「マンモス・チーズ」に感嘆したマッキンタイアが詠んだものです。このマンモス・チーズはオンタリオ州からトロント、ニューヨーク、そして最後はイギリスにまで達して人びとの好評を博しました。

 

静かに横たわる、汝、チーズの女王様なり

夜風を静かに受けてたたずむ、ハエさえ寄せ付けぬその威厳ときたら

さあさあ、おめかししましょう、地方巡演に行くのですよ

トロントの洒落男たちのお眼鏡にかなうようにね

 

 

2-3. 10トンチーズにまつわるお告げ

このポエムもマンモス・チーズの続き。

トロントで大好評を博したマンモス・チーズは、とうとう大西洋を超えてイギリスに持ち込まれることになりました。

地元産チーズが海を渡ってイギリスの人びとの口に入る名誉に感激し、マッキンタイアの涙腺が崩壊しています。

 

いったい誰が予想したことだろう、この10トンチーズがどうなるかなど

この宝玉が最高品質ブランドを勝ち得たことは、私たちにとって最高の栄誉ではないか

このマンモス・チーズを作るのに、300カードも圧搾が必要なのだよ

力強いが愛がこもった女王様への愛撫がね

女王様の快進撃、ついに海を超えるときが来たのだ

 

 

2-4. チーズ職人へのヒント(Hints to Cheesmakers)

これは詩というか、経営者としての若者への教訓みたいな内容です。

 

チーズ職人で、賞賛を得たい者はよくお聞き

色、味、大きさを究めよ、艶よく甘くせよ

工場を整理整頓し、すべての業務をつつがなくせよ

それらが全て味に関わってくることを知りなさい

優れた仕事には自然と助けが来るものさ

豚の病気の治療だったり酪農家の日銭だったり

チーズと豚を一緒に作るのがいいよ

ホエーを食わせて豚を肥えさせりゃあ

お金も浮いて一石二鳥だしね

 

 

2-5. 乳製品のオーデ(Dairy Ode)

「春のチーズがマズイ」って嘆いている詩です。

これほど長いポエムにできるのも一種の才能ですね。

 

春に作られたオレたちのチーズに、女神様は祝福しない

春の飼料を食べた牛のミルクだと、良いチェダーチーズはできないんだ

春のチーズはいつもそう、味が濁っちゃって良くない

チーズは遅いシーズンに作るべきで、そう、5月の上旬まで待たなくては

初夏の草をたくさん食べた牛の乳は、クリーンで甘い味がしてね

どの牛のチーズがいいか競争になるね

毎日缶一杯になるほど乳搾りをするんだよ

そうそう、重要な事だけど、濁った水を与えちゃダメだよ

キレイな井戸水か湧き水だけを飲んだ牛の乳は、キレイなクリームになる

そういうわけで、春のチーズは困ったもんなのだけど、

春のバターもまた良くないのよね

何か良い利用方法はないのか、頭が痛いよ

 

 

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3. マッキンタイアの再評価

マッキンタイアは生涯で、「カナダ・テムズの黙想(Musings on the Canadian Thames)」と「ジェイムス・マッキンタイアの詩」の2つの詩集を出版しましたが、

死後はしばらくの間、その存在は忘れされらていました。

ところが、1970年代に彼のポエムは発掘され、1979年に「おお!チーズの女王様(Oh! Queen of Cheese)」が出版され、リバイバルヒット。

上手ではないけど、その素朴で郷土愛に満ちた作風は、現代でもカナダ人に愛されているのです。

 

 

まとめ

チーズのポエムと聞くと何かバカバカしく聞こえますけど、

自分の土地を心から愛した田舎男の素直な言葉の吐露ですよね。

名誉とかお金のためにやったわけではなく、住んでいる土地への恩返しだから、飾らないしシンプルで、すごく好感が持てます。読んでいてホッコリします。

マッキンタイアみたいに、人と大地に喜びと感謝を忘れないように生きたいものです。

 

 参考・引用

PHACTUAL, The Brilliantly Bad Poems of James McIntyre – Poet of Cheese

 BATHROOM READER, Poet James McIntyre: The Chaucer of Cheese

James McIntyre (poet) - Wikipedia, the free encyclopedia

 

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