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ケチャップの歴史 - 英国流オリエンタルソースからアメリカの味へ

Heinz ハインツ ケチャップ 1.25kg 3本セット

洋食にはかかせないテーブルの必需品ケチャップ

皆さまのお宅では、ケチャップとマヨネーズはペアになって冷蔵庫に入っていないでしょうか。もしかしたら、お好み焼きソースやウスターソースもセットになっているかもしれません。

料理はしなくて冷蔵庫がほぼ空っぽな人でも、 ケチャップはあるという人も多いのではないでしょうか。

日本人は世界的に見てもかなりのケチャップ好きと言えると思うのですが、今回はそんな日本人の食生活に欠かせないケチャップの歴史を見ていきたいと思います。 

 

1. 初期のケチャップ

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Photo from Rex Roof

「ケチャップ」という名前は、福建語の「ケチアプ kê-tsiap 鮭汁」に由来します。

ケチアプは17世紀ごろに中国南部に広がった調味料で、塩漬けの魚に各種スパイスをミックスした調味料です。現在のナンプラーのようなものか、あるいはナンプラーにスパイスミックスを溶かしたやつかもしれません。中国南部やベトナム沿岸部、マレー半島にもあったということなので、たぶん地方ごとに微妙に味や製法が違ったと思われます。

18世紀にシンガポールでも浸透してきて、アジア貿易に携わるイギリス人貿易商の間でケチアプの旨さが話題になりました。

国に帰ったイギリス人は、かつてシンガポールで食べたケチアプの味が忘れられずに、イギリスで手に入る素材を使って再現を試みました。使われた食材は、キノコ、クルミ、カキ、アンチョビのような食材です。本場のケチアプとは似ても似つかぬもので、どっちかというとウスターソースに近いものだったに違いありませんが、この「元祖ケチャップ」ははるか彼方のオリエンタルの味として人気になりました。

1732年には早くもリチャード・ブラッドリー著作のレシピ本「Bencoulin in the East-Indies」に「Ketchup in Paste」が紹介されています。

この当時のケチャップはキノコやくるみのケチャップが人気だったようで、ペースト状にしたキノコやくるみに、酢を入れてまぜてスパイスや香味野菜で味を整えるというのが主流でした。

18世紀イギリスの女流作家ジェーン・オースティンはケチャップが大好物だったそうで、彼女が好んで食べた「くるみのケチャップ」のレシピが残っています。

 

緑のクルミをペースト状にする。それから塩をひとふりして酢を入れ、土鍋で8日間にわたってかき混ぜる。その後、粗い布に入れて絞って腐敗部分を除いて煮詰め、クローブ、メース、スライスしたショウガ、スライスしたナツメグ、ジャマイカのコショウ、エシャロットを入れる。これを沸騰させてから、冷やした瓶に詰める。

 

このケチャップは食べられるまでにさらに1年間保存して寝かせなければならなかったそうです。相当手間がかかりますが、これ本当に美味しいのかな…と思ってしまいます。いずれにしても、我々に馴染み深いトマトケチャップとは全くの別物で、トマトを使ったケチャップが登場するのは19世紀前半のことです。

 

2. トマトケチャップの登場

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Photo from A.Minkowiski

トマトケチャップの最初のレシピは1812年、園芸家で料理家のジェームズ・ミースによるもの。当時のケチャップは酢と砂糖を入れるのが一般的でしたが、彼は初めてトマトピューレとスパイス、ブランデーを入れました。

当時のトマトは(というか今もそうですが)、長期間保存することが困難であったので、トマトをケチャップにすることで1年間もフレッシュなトマトの風味を楽しむことができるようになったわけです。

イギリスだけでなくアメリカでも人気になり、農家が余ったトマトを作って家庭で使う他、商品として売り出しこともありました。

ただし、トマトケチャップの大規模な商品化は困難を極めました。

確かに上手く作れば1年間は保存できるのですが、初期のケチャップ製造者は衛生面や保存についてあまり知識がなかったため、すぐにカビが生えたり、バクテリアが繁殖して味が悪くなったり、色が変色したりしました。

そこで変色を防ぐためにコールタールを添加したり、腐敗を防ぐために安息香酸ナトリウムを添加したりなど、ケチャップは添加物まみれになっていきました。これらの添加物は有毒であることが知られており、人々はトマトケチャップをあまり食べたがらなくなってしまいます。

そりゃ、体に有害なケチャップを食べるくらいだったら生のトマトでいいよってなりますよね。

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3. ハインツ社のケチャップ革命

ハインツ トマトケチャップ逆さボトル 460g×4本

アメリカの化学者ハーベイ・ワシントン・ウェレイ博士は、ケチャップは適切に加工されれば防腐剤などの添加物を使用せずとも作ることができると考えました。

ウェレイ博士は、1876年にピッツバーグでケチャップを生産し始めたドイツ移民のヘンリー・J.ハインツという男と提携しました。

アメリカの消費者が防腐剤を好ましくないと思っていると確認していたハインツは、ウェレイ博士の協力の元、他のメーカーが使用したものよりもペクチンと呼ばれるトマト本来の防腐成分を多く含む赤いトマトを使用し、さらに酢の量を格段に増やすことで、ケチャップが腐敗するリスクを減らすことに成功しました。

1878年に防腐剤ゼロのトマトケチャップを売り出したところ、瞬く間に大ヒット。

ケチャップで成功したハインツ社はその後、オイスターバーで人気のあったレッドペッパーとグリーン・ペッパーを作り始め、1880年代までにビネガー、アップルバター、フルーツ・ジェリー、ミンチ肉など様々な加工食品に手を広げ、一大食品メーカーに発展しました。1905年にオーナー企業から株式会社化したハインツ社は、アメリカで500万本のケチャップを販売し、 現在は世界中で6億5000万本を販売し不動の世界シェアNo.1を誇っています。

 

トマトケチャップは名実ともに「アメリカ人の心の味」。簡単で便利で美味しく、肉・野菜・卵・魚いろんな食材に合う。

大量生産され安定した品質のケチャップは、T型フォードやマクドナルドと同様、大量生産文化を牽引したアメリカを象徴するものでした。

トランプ大統領もケチャップをかけたハンバーガーが「世界で一番旨い」「偉大なアメリカの料理」と言っています。

 

4.世界中に拡大したケチャップ

ケチャップは今や世界中に広がり、様々な料理に使われています。

フライドポテトや野菜、卵に直接つけて食べることもあれば、マヨネーズなど他の調味料と混ぜてソースにもできるし、味付けに使われることもあります。

ドイツ、特にベルリンでは焼いたヴルスト(ソーセージ)にカレーパウダーとケチャップをかけたカレーヴルストが大変な人気があります。

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タイでは、タマリンドという豆で出来た甘酸っぱいソースを料理に使いますが、その代替品としてケチャップが使われることがあるそうです。

日本ではトマトケチャップをベースにしたスパゲッティ・ナポリタンがすごく人気があり、ナポリタンの専門店もあります。

パスタにケチャップを使うのは日本だけでなく、トリニダード・トバゴ、レバノン、ポーランドなど多くの国でパスタにケチャップを使います。

これはイタリア人に言わせれば「パスタへの冒涜」らしいです。イタリア人のケチャップ嫌いは、トマトソースはイタリアこそ一番で、味覚の野蛮人アメリカ人が作ったケチャップなど断じて認められない、というプライドのようなものがあります。まあ、美味しければいいじゃないかと思うんですが…。

アメリカ人に負けず劣らずケチャップを愛しているのがカナダ人で、ケチャップ味のポテトチップスや、ケチャップ味のケーキなど、スイーツにもケチャップを使っているそうです。

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まとめ

 べったりケチャップにつけて食べるとケチャップの味しかしなくなって良くないなと思いますが、ソースに使ったり料理の味付けにちょっと使う分にはケチャップは大変便利な調味料だと思います。

スーパーでケチャップを買おうとしたら、だいたいカゴメかハインツの二択だと思いますが、メーカーごとに結構味が違うし、地方ではオリジナルのケチャップが結構売ってたりするので、ぜひいろんな味を楽しんでみてください。

 

参考サイト

"How Was Ketchup Invented?" National Geographic

"How a Food Becomes Famous" National Geographic

"The History of Ketchup" the spruce eats

"A Brief (But Global) History of Ketchup" Smithonian.com

"How the Regency Got Ketchup" The Regency Redingote