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クスクスの歴史 - 謎が多い極小パスタの起源とは

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Photo by Khonsali

まるで炊き込みご飯みたいな出汁の効いた極小パスタ 

クスクスとは、北アフリカで生まれた極小パスタ、またはそれを使った料理を指して言います。

写真の見た目はご飯に見えますが、ご飯粒よりもっと小さいパスタ。しかし食べた感覚はご飯といった感じで、茹でた肉や野菜のスープでじっくり蒸し上げたクスクスは、ちょっとスパイスが効いた炊き込みご飯といった味。

 他にも、サラダにしたりスープに入れたりと、おしゃれで便利な食材ということでじわじわ広がりつつあります。

しかしその起源はよく分かっておらず、謎の多い食べ物なのです。

 

1. クスクスとはなにか

クスクスはデュラム小麦に水を混ぜたものを、極小サイズに形を整えて乾燥させたものです。

昔はこれは手で作られていましたが、現在はほぼ機械で作られています。

小麦粉に少量の水を加えて乾燥させ、できた固まりやダマを粗い目の金網の上でワイプし、網目に通るように形を整えます。最後にカラカラになるまで乾燥させて出来上がりです。 文字だけ読むとよく分からないと思うので、こちらの動画をご覧ください。

 www.youtube.com

出来上がりはこんな風になります。

一粒は米粒よりも小さく、スプーンに人さじ乗せただけで軽く100粒を超えます。

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Photo by Arnaud 25

 クスクスは大型スーパーや高級スーパー、百貨店などで簡単に手に入ります。

 見た目もおしゃれなので、サラダとあえると見栄えのするパーティ料理になりますし、ご飯の代わりにクスクスでカレーやオムライスにしたりなど、普段使いにもできます。パスタの一種なので長持ちしますから、1個買っておくだけで料理のバリエーションができて助かります。我が家にもクスクスが保管してあります。

ユウキ食品 クスクス 500g

ユウキ食品 クスクス 500g

 

 

クスクスの発祥元の北アフリカでは庶民のごくごく一般的な食べ物。そもそも「クスクス」は中粒のものを指して言い、大きさや材料によって様々なバリエーションがあります。例えば、細粒は「ムハムサ」、大粒は「ベルココース」と言い料理ごとに使い分けます。また、小麦以外にも大麦やとうもろこし粉、どんぐり粉、粟粉から作られるものもあります。

 食べ物の種類としてはパスタの一種ですが、その小ささから豆やコメ、麦のような感覚で食べられており、日本ではサラダにして食べるのが人気のようです。高級スーパーのお惣菜とかでたまに売ってるのを見ます。

とはいえ、日本では「一部の人にはかなり身近だけど、さほど広く浸透はしていない」といった状況かと思います。

 

2. クスクスの起源

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クスクスはいつどこで生まれたのか

クスクスがいつ生まれ、どのように広まったのかは謎に包まれています。

 まず、いつクスクスが発明されたのか分かっていません。

初めてクスクスが文献に登場する時代は13世紀のことで、それ以前は資料がありません。クスクスはあまりに小さすぎるためか、古代の陶磁器の中に遺物として残って発掘された事例もありません。

10世紀のアラブの地理学者ムカッダスィー(945-991)は、北アフリカの食文化に関する著作を残していますがクスクスに関する記述は存在しません。ムカッダスィーが知らなかっただけで10世紀の時点で既にどこかで食べられていた可能性はありますが、クスクスは10世紀後半から12世紀のどこかのタイミングで生まれたというのが定説です。

どこで発明されたのかも謎。

ざっくりと、11世紀ごろにモロッコからアルジェリア近辺で広まり、12世紀ごろにチュニジアにも広まり、13世紀にはイスラム・スペインにも広がったと考えられますが具体的なことはほとんど分かっていません。何かの道具の発明や民族移動などにより、同時多発的に発明された可能性もあります。

現在よくクスクスを食べるのはモロッコからリビア西部トリポリまでで、シドラ湾の東のキレナイカではクスクスを食べずエジプト料理を食べます。伝統的にエジプト人もクスクスを食べません。そのためシドラ湾はクスクス文化の東限ということで「クスクス・ライン」と呼ばれています。

 

クスクス黒人起源説

北アフリカと西アフリカの中間にある、サハラ・サヘル地帯に住む黒人がクスクスの起源であるという説もあります。

クスクスは北アフリカ原住民のベルベル人の遊牧民の伝統的な料理としても昔から食べられてきましたが、ベルベル人はサハラ・サヘル地帯の黒人女性を料理人として雇うことが多く、現在でもトゥアレグ族は家政婦として黒人女性を雇うことがあります。

かつては、マグレブの宮廷やアンダルシアの宮廷でも黒人女性の家政婦が雇われることが多かったため、このことからサハラ・サヘル地帯で食べられていたクスクスを、黒人女性家政婦が各地に持ち込んで北アフリカ全域に広まった可能性もあります。

実際に、タジンのような専用の鍋で穀物がスープで蒸し煮られることが始まったのは、現在の西アフリカである可能性が高いのです。現在もギニアやセネガルでは、キビやコメのクスクスを肉とピーナッツソースで食べる料理が存在します。

 

クスクスの文献の登場

 現在確認できる最も古いクスクスが登場する書物は、13世紀に匿名のイベリア・ムスリムの料理人が書いた料理本「キターバル・タービクヒアル・マグリブワル・アンダルス」です。この本にマラケシュの料理「アル=クズクズ・フィティヤーニー」というレシピが確認でき、これがおそらく後のクスクスのご先祖様にあたるものと考えられています。

14世紀になるとクスクスに関する文献が数多く登場するようになるので、本格的に普及して広く食べられるようになったのはこの時期であると考えられます。モロッコ出身の大旅行家イブン・バットゥータ(1308-1378?)もクスクスについて言及しています。

アラブの旅行家レオ・アフリカヌス(1465-1550)は、モロッコ滞在中に「安くて栄養満点だからクスクスばかり食べていた」と書き記しています。既に15世紀では高貴な人の食い物であるばかりか、庶民の食い物として定着していた可能性があります。

 16世紀後半、マラガでムスリムの女性を娶りハーメトというイスラム名を持っていたスペイン人フランシスコ・パブロが、当時人々がどのようにクスクスを食べているかの記録を残しています。クスクスは日常食でもハレの日の食事でもあったようで、ハーメトは1570〜1580年代にグラナダの結婚式や舞踊会に参加してムスリム式マナーでクスクスを賞味しています。当時はクスクスは大皿に盛られて、人々は床に皿を囲むようにして座り手づかみで食べるのがマナーでした。当時のヨーロッパではフォークやスプーンが普及し始めていて、料理も個別の皿に盛られるのが普通になっていたので、共通の皿を皆が手づかみで食べるのは「野蛮なマナー」と感じたようです。

先述のレオ・アフリカヌスは1526年に書いた"Cosmografia"で以下のように書き記しています。

ヨーロッパの人間と比べてだが、アフリカの人々は文化水準が低いように感じる。それは物資がないからというわけではなく、床に座って手で食べるのに拭くものやナプキンがないといった規律のなさから来る。クスクスや他の食べ物を食べる際も、彼らは一つの皿をシェアしてスプーンを使わず手で食べるのだ……教養のある男性や親切な貴族の男でさえだ。

 16世紀のモロッコでは、貴族も庶民も日常もハレの日もクスクスを食べていたことが伺い知れます。まるで日本人が日常もハレもコメを食っていた感覚で、「ハレの日はお赤飯」とかの違いはあったかもしれませんが常にクスクスなことに違いはなかったようです。

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3. 世界各国のクスクス

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ヨーロッパで一番クスクスを食べるフランス

 フランスはヨーロッパ諸国の中でもクスクスがよく食べられている国の一つ。ヨーロッパの情報を英語で発信しているTHE LOCALのフランス版によると、2016年度クスクスはフランス人の大好物ランキングベスト8とのことです。

同じ調査を日本でやったら第8位の座には焼き鳥とか餃子とかうどんとかが入ってくると思われます。まさに国民的料理といったところです。

フランスでクスクスが食べられたのは古く、記録が残っているのが1630年。旅行家ジーン・ジャックス・ブシャールがフランスのトゥーロンで「コメのようなパスタを食した」と記しているのが初めてです。しかしそれはトゥーロンに住むレヴァントのアラブ人が彼にふるまったもののようで、フランス人が日常の食事として取り入れ定着したというわけではありません。

本格的にフランスにクスクスが広がり始めたのはアルジェリアがフランスから独立し、ピエ・ノワール(在マグレブのフランス人)が本国に引き上げてきた1962年以降のことです。
1967年に出版されたArthur Frommerの格安旅行ガイド"Europe on 5 Dollarts a Day"には、

以前私がパリに行ったときは、クスクスはパリでは手に入れることが難しいアイテムで、上流階級を相手にするエクスクルーシブなアルジェリア・レストランで週に1~2度供される程度だった

とあり、クスクスがまだ相当珍しかったことが分かります。当時はまだクスクスは手軽に買えるものではなく、入手にも苦労するものでした。
しかしマグレブにルーツを持つ人たちの政治的・経済的・文化的な力が力が増した1980年代以降にクスクスはフランス人に徐々に受け入れられ始め、クスクスを販売する食品店やレストランが増えていきました。

現在はフランスはヨーロッパで最もクスクスを消費している国となっています。

 

シチリアの郷土料理クスクス

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Photo from "Couscous alla trapanese" Sanpellegrino Sparkling Fruit Beverages

クスクスが郷土料理となっているのが、イタリア・シチリア島西部の港町トラパーニ。港で上がった新鮮な魚やムール貝、エビを使った魚介のスープのクスクスが食べられます。トラパーニでは年に1回クスクス・フェスティバルが開かれ料理人がクスクスの腕を競うのだそうです。

トラパーニのクスクスの特徴は、本場のマグレブよりスパイスが控えめで魚介の出汁を活かすところにあります。
ぼくはこれを現地で食べたことがあるのですが、口に入れるとサクサクフワフワの食感のクスクスが濃厚で旨味が強い魚介のスープを吸ってたまらない旨さでした。ワインと一緒に飲むと、濃厚な味をワインがさらりと流した後に魚介とワインが組み合わさった別の旨味が舌の上に立ち上がって「アー、生きててよかった!」となります。

さて、クスクスはシチリア西部のマルサラや南部アグリジェント県のシャッカなどでも食べられており、シチリアの食文化の中に根付いています。いつからクスクスが食べられているかは議論があり、シチリアがイスラムの支配を受けていた10世紀に普及してその時代からずっと食べられているという説と、イスラム支配の終了後に一度絶えたが、17世紀に再導入されたという説があります。

イタリアではその他にも、サルディニア島やトスカーナにも独自のクスクスのレシピがあるようです。

 

イスラエルで独自発達したプティティム

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Photo by Nsaum75

イスラエルに独自のクスクス的な食べ物「プティティム」があります。
これはマグレブのクスクスとは全く別の文脈から誕生したもので、生まれたのは1953年と新しいです。当時のイスラエル首相ベン=グリオンが、イスラエル資本の食品会社オセムの社長と会談した際に「コメのように食べられる小麦パスタ」の製造を依頼したことがきっかけです。オセム社は試行錯誤の末、強力粉を使用しこねたものを丸い型に通して小さくカットし、オーブンで焼いたパスタを完成させました。プティティムはイスラエルで大ヒットし、人々はその誕生の逸話から「ベン=グリオン・ライス」とあだ名をつけました。
プティティムは茹でてパスタソースとからめたり、リゾットのようにしたり、スープの具にしたり、ラザニアのように焼いたりなどパスタのように様々な使い方ができます。特に子どもたちに人気があるため、一般的には子ども向けの食べ物と考えられているようです。
その見た目から外国人からは「イスラエル・クスクス」「エルサレム・クスクス」と言われていますが、イスラエル人に言わせると北アフリカのクスクスとは全く別の食べ物なので、そのような言い方をされること自体が不本意なようです。

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まとめ

クスクスの起源やどう伝播したかは謎が多すぎ、まとまりのない記事になってしまいました。
コメみたいに小さな粒を口にいれて咀嚼する「気持ちよさ」ってあって、小麦圏に住む人が気持ちいい食感を求めて試行錯誤したのだろうなあという気がします。オートミールみたいに丸の小麦を加工したのも食べていたでしょうけど、食の快楽を追求していった結果生まれた昔の人の知恵の結晶なんでしょうね。

 クスクスを食べたことのない方は結構いらっしゃると思うので、今度試してみてください。

  

東京

retty.me

 

大阪

lemarrakech.dunetrading.biz

 

名古屋

casa-nagoya.com

 

福岡

fanfunfukuoka.com

 

 

参考文献・サイト

"To Live Like a Moor: Christian Perceptions of Muslim Identity in Medieval and Early Modern Spain" Olivia Remie Constable
"A Bite-Sized History of France: Gastronomic Tales of Revolution, War, and Enlightenment" Stéphane HenautJeni Mitchell The New Press

"History of Couscous" CliffordAWrighter.com

 "Couscous: Ethnic making and consumption patterns in the Northeast of Algeria" Journal of Ethnic Foods

"クスクスってどんな食べ物!?各国比較も!" 食の知識 | オリーブオイルをひとまわし

Ptitim - Wikipedia