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韓国のフライドチキンの歴史

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한국어: 맥주를 곁들인 한국식 치킨 (간장, 후라이드, 양념)

甘辛タレがビールに合う!韓国のフライドチキン

いまや、韓国B級グルメはブームを経て日本に定着した感があります。

サムギョプサル(豚バラ焼肉)、トッポッキ、キムパブ(海苔巻き)、ハットグ(ホットドッグ)などなど。都市部ではチェーン店でいくつもあるし、コンビニでも売ってたりします。

中でも絶品が韓国風フライドチキン。ピリ辛の衣やにんにくの風味が効いた衣をつけて揚げたフライドチキンはビールのおつまみやご飯のおかずに最高です。

今回はそんな美味しい韓国のフライドチキンがどうやって進化を遂げたのかの歴史です。

 

1. 韓国人が愛してやまないチキン

韓国と言ったら焼肉とキムチ、というイメージが強い方もいるかもしれませんが、韓国ではフライドチキンが庶民グルメのキングです。

おかずにもなるし、子どものおやつにもなるし、鉄板のビールのツマミでもあります。ビール(メクチュ)をやりながらチキンを食うことを「チメク」と呼びます。

コリアン・タイムズ紙が公表した統計によると、韓国人は1人あたり毎年12羽の鶏を食べ、1日で52万羽の鶏を消費しているそうです。鶏肉市場は年間44億ドル(約5,000億円)もあり、フライドチキンだけで280以上のもフランチャイズがしのぎを削っています。

数百円でお腹いっぱい買えるし、丸1匹分買っても千円ちょっと。明洞などの繁華街にわざわざ行かなくても、地元の住宅街の中にもチキン屋があって買える。オリンピックやサッカーなど大きな試合がテレビである時は、チキンとビールを買い込んで仲間同士で観戦しながら食うのが定番だそうです。

安くて美味しいチキンがあちこちで買えるのはとても羨ましいです。

 

一方で、若者の貧困とチキン屋が密接に関連しているという指摘もあります。

韓国の2017年の大卒就職率は67.7%と低く、こうしたチキン屋は就職にあぶれた若者の雇用の受け皿となっている側面があります。これは半分ジョークですが、就職に失敗した若者は「餓死かチキン屋」のどちらかを選ぶしかない、など言われています。

また多くの店は、地域社会への貢献とか食文化の発展の寄与とかではなく、「儲けるためにチキンを売る」。金儲けが基本なので、どこかのチキン店がヒットしたらたちまち真似をする。類似商品が世に溢れる。

どこも美味しいのは美味しいのですが、没個性的というか、あまり違いがないのも韓国のチキンの特徴だったりします。中には品質面で他の追随を許さない商品もあるのですが。

そういうわけで、韓国のフライドチキンは文化のみならず韓国社会をいろんな意味で表している存在でもあります。ただしその歴史はさほど古いものではなく、本格的に広がり始めたのは1970年代の「漢江の奇跡」に重なります。

 

2. フライドチキン普及前

伝統的に韓国では鶏は高価なものであり、1950年代以前で韓国で代表的な鶏料理と言えば「参鶏湯(サムゲタン)」くらいしかありませんでした。

参鶏湯は鶏のお腹に高麗人参などの高価な薬膳を入れて煮込んだスープで、滋養強壮に効く「お薬」的な存在。昔は鶏肉は大病を患ったりした時に食べるもので、めったに口に入れられるものではありませんでした。

 

一説によると、朝鮮戦争の時代にアメリカ兵がフライドチキンを持ち込んだのが始まりと言われています。ただしアメリカ兵による影響がどの程度だったのかは不明。

韓国人による鶏料理が始まったと言われるのが、朝鮮戦争の休戦から8年後の1961年。ソウルの繁華街・明洞にあった「明洞栄養センター」というレストランがオーブンで焼いた鶏の丸焼きを提供し始めたのが最初であると言われています。

「栄養」とレストラン名に付いている通り、1960年でも鶏は伝統食・参鶏湯と同じく「滋養食」であり超がつく高級品であったわけです。

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3. 国産フライドチキンチェーンの誕生

「漢江の奇跡」と言われる、韓国経済が怒涛のような成長を始めた1970年代。

国民全体の所得が向上し、生活の質も「最貧国並み」と言われた戦後から驚異的な回復を遂げていきました。

フライドチキンにとって重要な物がこの時代に普及しました。

一つ目は「ブロイラーチキン」。

それまで韓国では鶏と言えば農家が家庭内で細々と飼うものでしたが、アメリカ式の大規模養鶏場の導入により、はるかに安価で手に入りやすいものになりました。

二つ目が「アザラシ油」。

現在は捕獲が禁止されていますが、1970年代はアザラシなどの海獣の捕獲には規制がなく、韓国政府は国民生活向上のために積極的に海獣の捕獲を奨励し、食用油に加工して市場に提供させました。ちなみに、この時の乱獲がきっかけで竹島(韓国名:独島)ではニホンアシカが絶滅したという説があります(韓国は1950年以前の日本人漁師の乱獲のせいと主張している)。

安価なブロイラーと食用油の普及により、チキンが普及するベースが整ったわけです。 そして1977年、初の国産チキン専門店「リムスチキン」がオープンしました。

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Photo from: 1977년부터 대학로를 지켜온 림스치킨 - 그 맛은 예나 지금이나 우월하다

リムスチキンは新世界百貨店食品部が子会社として設立した事業体で、1970年〜80年代にチャムシル(蚕室)やモクトン(木洞)、イチョンドン(二村洞)など大規模な公営団地が建設された首都圏ベッドタウン地帯に出店したことで人気となりました。

ただし、この時に食べられていたチキンは塩胡椒で味をつけてハーブで香りをつけた西洋風のものでした。韓国式フラインドチキンが誕生し人気を得るのは、1980年代のことです。

 

4. ヤンニョムチキンの登場

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Photo by by ayustety

韓国オリジナルフライドチキンとも言える「ヤンニョム(薬念)チキン」を開発したのは、デジョン(大田)のチキン店「ペリカンチキン」のオーナー、ヤン・ヘクウォン。

彼は元々西洋風のフライドチキンを経営するレストランで供していましたが、客が軟骨部分を食べるのに難儀している様子を見て、可食部全部を柔らかく加工することを思い立ちました。その上で、韓国人が好む甘辛いタレをかけたチキンを開発。1982年に「ヤンニョムチキン」という名で売り出したところ、瞬く間に絶大な人気を得ました。

ペリカンチキンが成功したのは積極的なテレビCMの効果もあります。

「ペリカンチキンがありますよ(페리카나 치킨이 찾아왔어요 ペリカンチキン、チャジャウソヨ)」と芸能人が歌うCMのメロディーは国民の脳裏に焼きつき、消費ブームも合間って一躍全国的な大ヒットとなりました。

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1984年にはケンタッキー・フライド・チキン(KFC)が韓国に上陸。流行に敏感な若者はKFCのチキンに飛びつき、負けじと国内資本も攻勢を繰り広げ、全国的な普及と大衆化が進んでいきました。

本格的に鶏肉が食べられるようになってわずか15年足らずの話なので、この時代いかに韓国社会の変化が激しかったか分かりますね。

 

5. 進化する韓国フライドチキン

1990年代後半に一斉を風靡したチキンチェーンが「BBQチキン」です。

BBQチキンは1996年、「チキンと言えばビール」が当然であった時代に、店内での酒類の販売と喫煙を禁止したことで、女性やファミリー層の絶大な支持を得ました。

最初の出店から3年後の1999年には、BBQチキンは全国で1,000店を展開する国内最大のフランチャイズにまで成長しました。

さらに韓国のフライドチキン普及を後押ししたのが、1997年の「アジア通貨危機」であると言われています。金融危機により多数の企業が倒産し、職にあぶれた人がフライドチキン店をオープンしたのです。すでにヤンニョムチキンでは競争過多になっていたので、新規参入者は新たなフレーバーを作らざるを得ませんでした。コーンスターチをまぶして食感を良くしたものや、ニンニク醤油味など、現在では定番の味がこの時に発明されました。

2000年代に入ると、薄切りネギをたっぷり乗せた「パダッ」や、とてもスパイシーな「ブルダッ」など、様々な味が登場しました。

ボンチョンチキンやサンダーチキンなど、いくつかのフランチャイズは今やアメリカやシンガポールなど積極的に海外にも進出し、「韓国式フライドチキン」を世界に拡めています。

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まとめ

日本の唐揚げも美味しいですが、韓国の唐揚げは独自の進化を遂げて日本のものとは全く別の所に向かっていますよね。

韓国風フライドチキンは、あまり食べる機会ないかもしれませんけど、コンビニの揚げ物コーナーやスーパーのお惣菜コーナーでもたまに見つかったりします。

ぜひ甘辛のチキンで「チュメク」をやってみてください。 

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参考サイト

"History of Korean-style fried chicken" The Korean Helard

"Behind Korea's Obsession with Fried Chicken and Beer" MUNCHIES

치킨의 역사" 치킨의 역사 | 얼루어 코리아(Allure Korea) 뷰티 라이프 스타일 잡지