気にしないといけない?センシティブな呼称
「人に言われたくないことを自分も言わないようにしましょう。インディアンは使ってはいけません。ネイティブ・アメリカンと言いましょう」
と小学校の担任だった江藤先生が言っていました。
じゃあインディオはいいのかよと思ったものですが、小心者だった僕は先生に何も言えないまま大人になってしまいました。
これ以外にもいろいろ論争のある呼び方はありまして、ちゃんと知っておかないとメンドクサイ論争に巻き込まれる危険性があります。
小心者のみなさんは、是非問題のある呼称について知っておいたほうが無難かと存じます。一緒に学んでいきましょう。
1. Corea vs Korea
Image from Caspian blue
日本の謀略によってCがKになった?
現在国際的に、韓国または朝鮮は英語で「Korea」と表記されます。
ところが韓国のナショナリストによると正しくは「Corea」であり、「Korea」になったのは「日本帝国主義による謀略」らしいです。
初めてヨーロッパの公式文書の中に朝鮮が登場したのは13世紀のことで、この時は「Caule」と表記されました。「高麗(コリョ)」の訛りですね。その後19世紀まで「Corea」と「Korea」が入り混じった状態でしたが、20世紀になって「Korea」に統一されました。
ソウル大学のウ・チュンヨン氏によると、きっかけになったのは1908年のオリンピックで日本が名前の改悪を図ったからだそうです。彼によると、開会式で日本(Jで始まる)が朝鮮(Cで始まる)よりも後に登場するのは調子が悪いから、Kに変えてしまって日本のほうが先に入場するようにしたのだ、とのこと。
韓国と北朝鮮はこの問題では連携しており、2003年に学者グループがソウルに集まり、「国際的な名称を正しくする」運動を開始しました。
彼らによると、CongoとかCambodiaとかのように「言語学的にもにCが頭につくほうが正しい」し、KatとかSkoolのように「子どもが間違ったスペルを覚える危険性がある」ためこれは単に歴史の問題にとどまらない、らしいです。
2. イヌイット vs エスキモー
イヌイットでも問題がある?
「エスキモーという言葉が差別的意味合いを含んでいるから、イヌイットと言わなくていけない」ことを知っている人は多いと思います。森永乳業のアイスブランド「エスキモー」も、批判を受けてかどうか知りませんが、2010年に終了しています。
「エスキモー」という言葉は当の先住民だけにとどまらずカナダ人にとっても侮辱的な意味を持つらしく、カナダ軍のエスター・ウォルキ伍長は上官に
「この野郎!今すぐ辞めて家に帰って、エスキモーのように飲んだくれてろ!」
と罵倒され、屈辱のあまり本気で自殺を考えたほどだったそうです。三重の侮辱ですねこれは。
そういうわけで「イヌイット」の使用が推奨されているわけですが、先住民の一部族ユピクの人たちは「自分たちはイヌイットではない」と主張しています。
「イヌイット=人間」という意味なのは有名ですが、ユピク語ではイヌイットなどという言葉は存在せず、「ユピク=人間」なのです。なので原住民をひっくるめて「イヌイット」と呼ぶのは不適当になってしまいます。
また「エスキモー」という言葉は平原クリー族の言葉で「生肉を食う奴ら」という侮辱を含んだ意味であるのは有名ですが、実は同音で「彼は雪の靴をはく」という意味もあり、実はこっちのほうが正しいのではないか?という説もあります。
もしこれが正しければ、原住民をトータルに「エスキモー」と読んだほうが適当ということになりはしないでしょうか。
3. ヒスパニック vs ラティーノ
ラティーノは差別的?
「ヒスパニック」と「ラティーノ」は厳密に言うと違います。
まず「ラティーノ」は正確に言うと「ラティーノアメリカーノ」で、アメリカの土地に居住するラテン系言語を話す人のことを言います。昔はフロリダはスペインの領土だったし、ルイジアナはフランスの領土でしたから、そこの人たちがラティーノと呼ばれました。一方「ヒスパニック」は「スペインに属する人」みたいな意味で、ざっくりとイベリア半島出身者のことを指します。
ただ現在は特に区別なくごっちゃになっており、両方共ざっくり「スペイン語話者をルーツに持つ人」を指します。
スペイン語話者からすれば、ヒスパニックよりも「ラティーノ」のほうが語感的にはいいらしいのですが、「ヒスパニック」のほうが全体的には好まれる傾向にあります。
どっちも政治的に強く区別された意味合いがあるとして、使用を嫌う人も中にはいまして、そんな人は「メキシコ系アメリカ人」や「キューバ系アメリカ人」、また「チカーナ」や「メキシカーナ」などを好む傾向にあります。
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4. スラヴ
Slav = Slave(奴隷)?
ロシア人やポーランド人、チェコ人など、東欧やバルカンにはスラブ系民族が数多く存在します。ただ、このスラヴという言葉の語源ははっきりしておらず、未だに論争があります。
5-1. Slovo = Word 説
古代スラヴ人は、人間を「言語を話す奴ら」と「話さない奴ら」の2種類で区別していました。話すというか会話が通じる、程度の意味だと思いますが。
スラヴ人はゲルマン人のことをnemec、つまり「無音」と呼んで区別し、自分たちのことをSlovo、つまり「言葉」と呼んだ。結構説得力ありますね。
5-2. Slava = Glory 説
そのままですが、自分たちのことを栄光ある民族として「Slava」と呼んだという説。
「スラヴ=栄光」説はロシアのナショナリストには人気があるそうです。カッコイイですからね。
5-3. Sclavus = Slave 説
多くのスラヴ人が認めたがらないけど、一番有名なのがこの「奴隷」説。
古代ギリシア人は奴隷のことを「Doulos」、古代ローマ人は奴隷のことを「Servus」と呼んでいました。ビザンチンの時代になると、ギリシャ人商人がスラヴ人の戦争捕虜などを購入して奴隷として地中海沿岸で大々的に売りさばくようになりました。これら奴隷として連れてこられたスラヴ人たちを指して、「Sklavos」と呼ぶようになりました。これが各国語で変わっていき、中世ラテン語で「Sclavus」、古フランス語で「Esclave」、英語で「Slave」になり、奴隷を指す言葉になった、というわけです。
5. ヤンキー
出どころがはっきりしない「ヤンキー」
もはや死語ですが、昔は不良のことを「ヤンキー」と言いました。
「素行の悪いアメリカ人のような奴ら」=「ヤンキー」で、安保闘争やベトナム反戦運動で反米感情が根強かった頃の名残ではなかろうかと思います。
実はこの「ヤンキー」という言葉の語源ははっきり分かっていません。
「ヤンキー」という言葉が登場したのは独立戦争の時代で、外国人がアメリカ人を総称して「ヤンキーたち」と言い始めたのが最初です。
当時の民謡「ヤンキードゥードゥル」は、独立戦争の時代に植民地軍の兵士によって歌われましたが、もともとはアメリカ人の田舎者っぷりを嘲笑する歌詞でした。
マヌケなヤンキーが子馬に乗って町へ行った
帽子に羽根を一本さすだけで
マカロニ野郎(イタリア人)風の伊達男の出来上がりだ
ヤンキードゥードゥル その調子
ヤンキードゥードゥル ダンディーだぜ
音楽にあわせてステップ踏めば
女の子たちだってメロメロさ
ちなみにこのメロディーは日本に入ってきて、「アルプス一万尺」という歌になってしまいました。
さて話をヤンキーに戻しますと1810年、最初にこの言葉が差別的な意味を含むと主張したのがダニエル・ウェブスターという人物。
彼によるとヤンキーの語源はペルシャ語の「janghe」という言葉で「好戦的な野郎」「馬で駆けてくる奴」みたいな意味だと言いました。
ただ上記の説はあまり支持されておらず、一番有名なのがオランダ人説で、当時よくあった名前「Jan」に、チーズばっか食う奴という意味の「Kees」を足した造語、という説。またオランダ人商人がアメリカ人船長のことを「うるせえ奴=yankers」と呼んだのが起源という説もあります。
ネイティブ・アメリカン発祥説というのもあり、「英国から来たヘビども」という意味の「Yankwako」が起源と言われたりもしています。
いずれにしても、良い意味ではなさそうですよね…。
6. Woman
Womanは差別用語?
これは20世紀になってフェミニスト団体が主張し始めたもので、
もともと「man」は人間そのものを指す言葉であるが、一般的に「man」と言えば男を意味します。それは暗に男性優位を表しているので、代わりに「womyn」という言葉を使うべきだ、と主張しています。
もともと古い英語では「man」は「人間」を意味して特に男性だけを指す言葉ではなかったそうです。
代わりに男性のことを「were」、女性のことを「wyfman」と呼んだ。
この「wyfman」が段々変化していって、「woman」になったそうです。
その後、男性を意味する「were」が忘れ去られて「man」が男性を意味するようになり、余計な混乱が起こっている、というわけです。
まとめ
「人に言われたくないことを自分も言わないようにしましょう」
っても何が正しくて何が正しくないか曖昧なこともあるし、意味は時がたてば変わっていくものですから、なかなか難しいものです。
そりゃ、ニガーとかチョンとか露助とか、あからさまなやつはダメだし、絶対使っちゃいけないと思いますけど。
ただCoreaとか ウーマンとかは、正直言いがかりにすぎないし、目的は別の所にあるわけだから、まともに取り合うのは馬鹿らしいとも思います。
参考・引用
listverse, 10 Etymological Controversies Over Well-Known Names