歴ログ -世界史専門ブログ-

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韓国紙札に載っている人は誰?分かりやすく解説

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「国の顔」でもある「お札の人」を学びましょう

海外旅行に行った時くらいしか触れる機会のない、外国のお金。

あまり気にして見る人はいないかもしれませんが、その国の紙幣をじっくり見てみると案外面白いものです。政府が発行する「国の顔」とでも言うべき公的紙幣ですから、デザインも相当凝ってる。

そして、お札に刷ってある「人物」にも注目して見てみたいものです。

「世界に誇るおらが国の英雄」であって、政府公式で推薦されている人物たちですから、世界にどういう国に見られたいかのスタンスが分かってくるのではないでしょうか?

ということで、初回は韓国の紙幣を取り上げたいと思います。

 

 1,000ウォン札:李滉(イ・ファン)

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粛清事件に巻き込まれ失脚して隠居

李滉(イ・ファン)は16世紀に活躍した李氏朝鮮時代の儒学者。朝鮮儒教を大成させた人物です。

第11代国王・中宗、第12代国王・仁宗の時代に仕官しますが、 第13代国王・英宗の時代に起きた、前国王シンパ粛清事件「乙巳士禍(いっしかか)」で失脚。田舎に隠居して庵を結び、そこで学問の道を極めることに生涯を費やします。

日本の近代化に影響を与えた?

李滉先生の教えは、朝鮮半島の人にとっては参照すべき「国民の思想」みたいな位置づけのようです。その教えを簡単に言うと、

李退溪思想の特徴は「敬」にあるとされ、敬を重視した徹底的な内省によって朱熹の理気論を発展させ、理自体の動静(運動性)を明言し、四端七情について独自の「理気互発説」を主張した

とのこと。(「朝鮮を知る辞典」平凡社 より)

小難しいことはよく分かりませんが、道徳的善を学びによって会得した上で常に反芻すると物事の本質が判断できるようになり、常に磨き続けることで人間としての高みに登ることができるというようなことっぽいです。

なお、韓国では秀吉の朝鮮出兵によって大量の李滉の著作が日本に持ち去られ、そのことが日本の教育の発展と近代化に多大な影響を与えたと教えられているようですが…果たして因果関係はあるのでしょうか。

 

5,000ウォン札:李珥(イ・イ)

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李滉と並び賞される「二大儒」

李珥(イ・イ)は13歳で科挙の初試に合格し、その後の9度の試験でも常にトップの成績を取ったという、まさに神童でした。

官僚になって順調に出世しますが、一方で朱子学の研究を重ね独自の理論を構築します。それに基づき様々な施策提言を行った、有言実行の人でした。

李珥の思想をまとめると以下のようになるそうです。

儒学思想の人性論に反して、人間を衣食住生活の充足に存在本質があるとする本然的に同等な欲求主体として認識した。同時に、老荘思想に基づき自分の思想的独創性を発揮する「一而二 二而一説」、「各有太極説」、そして「理通気局説」などから、「理」を個体のそれぞれの独自的な生存原理(作用原理)として、「気」を個体の生成と運動の主体として把握する機能論的な理気論を提示した。それによって、李はみずからの反朱子学的な平等秩序観を体系化したのである。

近世民主思想の発展過程に関する韓日比較 より引用)

いよいよもって分かりません。

宇宙と人間の存在のあり方を説いているみたいなのですが。ぼくが理解できないので具体的な説明は割愛させていただきます。

 

秀吉の朝鮮出兵を予言

彼の思想は政治の道具とされてしまいます。

官僚や学者たちは、李珥の流派を汲む東人派と李滉の流派を汲む西人派に別れて飽くなき泥仕合を繰り広げることになります。

李珥は国王に「10年以内に土が崩れるように禍が起きるだろう」として、10万人養兵論を提言しますが聞き入れてもらえず。

結局彼の予言は的中し、朝鮮は秀吉の朝鮮出兵に対応できずに、国力の多大な疲弊を招くことになりました。

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10,000ウォン札:世宗(セジョン)

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朝鮮半島の歴史上代表的名君

世宗(セジョン)は朝鮮第4代国王。

様々な文化的事業を興し朝鮮文化を大いに発展させたと同時に、ハングル(訓民正音)を制定し初めて朝鮮に独自言語をもたらした王様です。

世宗は若い学者を経済的に援助して集中的に学習させ、またそのための環境も整えてあげました。その期待に答えて若い学者たちは励んで勉強し、礼楽、音韻学、農学、医薬学、天分学、地理学など様々な実用的な学問が発展しました。

その中でもっとも画期的な成果がハングルの制定です。

わが国の語音は中国とは異なり、(中国の)文字と互いに通じない。故に愚かな民は言いたいことがあっても、ついにその心情を伸べることができないことが多い。余がこれを不憫に思い、新しく28文字を制定した。人々が習いやすく、日用に便たらしむためである。

1446年10月9日に正式に公布されたため、韓国では10月9日が「ハングルの日」として様々な事業が催されています。

これはまあ、誰もが納得する人選ですよね。

 

50,000ウォン札:申師任堂(シンサイムダン)

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 ちょっと出来過ぎなくらいの良妻賢母

申師任堂(シンサイムダン)は朝鮮時代の芸術家。

韓国では「憧れの良妻賢母」として尊敬されている人物です。

倹約をして家計をやりくりし、夫の出世を内助の功で助け、夫の両親と自分の両親にも孝行をしました。

7人の子どもに教育を熱心に施し、三男の李珥は大学者に、また息子である李瑀と長女李梅窓は大芸術家となりました。

自身も芸術の才能があり、詩文や絵画をいくつも残しています。

儒教的な良妻賢母であっただけでなく、独立した女性としてその才能を発揮したという点が評価されているようです。

それにしてもちょっと、出来過ぎやしませんか?

http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/3/35/Shin.Saimdang-Chochungdo-01.jpg

申師任堂 『草蟲圖』(16世紀前半)

 

 

まとめ

さすが韓国は「儒」の国だけあり、学者や孝徳の人が選出されていますね。 

やっぱり日本と違うなあと思ったのが、申師任堂を選んでいるところ。 たぶん、日本ではあり得ない人選だと思います。 

というのも、夫に尽くしたとか、親孝行したとか、教育熱心だったとか、そういうのは日本ではサイドストーリーであって、「どう社会や文化に貢献したか」のほうが評価として優先されます。樋口一葉なんて、少女マンガの大先輩みたいな人ですからね。

お札1つとっても文化や考えの違いが出てきて面白いです。

バックナンバー

第1回:韓国・ウォン篇

第2回:ポーランド・ズウォティ篇

第3回:メキシコ・ペソ篇