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現代の国家の始祖と見なされる古代王朝

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 現代の国家の始祖と位置づけられる古代国家

現代の日本国の始祖がどういう体制だったかはやかましい議論がありますが、一般的には大和国のヤマト王権を中心に各地の政治勢力が糾合して出来たとされています。

騎馬民族征服王朝説とかワクワクする説は色々ありますが、中国の制度をパクって作った農耕民族の連合国家というのが近いんじゃないかと思います。

このヤマト王権は現在の日本国の始祖的な存在である、ということに一応なっていますが、世界の国々にも「始祖王朝」的な概念があり、半ば伝説的なものもありますが、現在の国家の存在の正当性の根拠にもなっています。

 

 

1. 文郎国(ヴェトナム)

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龍と仙人の間に産まれた男が始祖のヴェトナム

文郎国は4000年前にあったとされる王国で、その初代王フン・ヴォン(雄王)はヴェトナム建国の王とされています。

中国の史書によると、紀元前2880年に炎帝神農三世の孫・帝明は中国南部の五嶺を巡幸中に地元の仙人に会い彼と結婚しロク・トック(禄続)を産んだ。帝明は位をロク・トックに継がせようとしたが、彼はそれを断ったため、ロク・トックは南方を統治させた。この国はスィックキ(赤鬼)国と呼ばれた。ロク・トックの息子ラク・ルアン・クァン(貉龍君)は帝来の姫と結婚し、100男が産まれた。

ところが貉龍君は姫に対して「オレは龍でお前は仙人だ。お互い上手くいくわけがない。別れよう」と言って、子どものうち50男を引き連れて南の山に入り、長男フン・ヴォンに帝位を継がせて文郎国を興した、とされています。

この文郎国は現在の広東省〜広西壮族自治区〜湖南〜四川一帯にあったとされ、現在のヴェトナムの領土とは全く異なっています。

ヴェトナム人は元々中国南部に住んでいてそこから南下して先住民族を征服しながら今の領土を形作った歴史があるので、こういう神話を持っているのは納得するんですが、それにしても仙人とか龍とか、いかにも中国の影響が強いですね。

 

 

2. ピシュダディアン王朝(イラン)

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 最初の人間の孫が創立した王朝

ゾロアスター教の神話は、善の神アフラ・マズダと悪の神アンラ・マンユ(アーリマン)の戦いの物語です。

戦いの末にアンラ・マンユを暗黒の深淵に落とすことに成功したアフラ・マズダは、最初の3000年で目に見えない霊的な世界を作り、次の3000年で目に見える物質的な世界を作った。

アフラ・マズダの手によって作られた人間は「ガヤ・マルタン」という名で、太陽のように光り輝く人間だった。アフラ・マズダはまた月のように輝く聖なる雄牛も作った。

しかし深淵から復活したアンラ・マンユは悪の軍団を率いて宇宙を攻撃し、ガヤ・マルタンと聖なる雄牛は殺されてしまう。ガヤ・マルタンの死体からは様々な金属が産まれ、大地に落ちた彼の精液から最初の夫婦が産まれた。聖なる雄牛の死体からは穀物や薬草が生まれた。

ガヤ・マルタンの孫フーシャングは成長して偉大な将軍となり、ペルシャで最初の王朝ピシュダディアン王朝を創設しました。

ピシュダディアンの王は何千年も生きて統治を行い、農業・宗教・政治・金属の使用・暦の採用など制度とテクノロジーの発展を促したとされています。

ゾロアスターの神話と密接に関連しているので、現在のイランの人々はこの物語をどういう風に思っているのか、聞いてみたいところですね。

 

 

3. 箕子朝鮮 / 檀君朝鮮

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 現在の国際関係にも尾を引く伝説の古代国家

箕子朝鮮(きしちょうせん)は、紀元前2世紀頃に現在の朝鮮北部にあったとされる古代王国。

「史記」によると、殷王朝28代皇帝文丁の子・箕子が、殷の滅亡後に遺民を引き連れて朝鮮北部に移り住み建てたとされています。箕子朝鮮は農業を基本とした理想的な国造りが行われたとされます。

ただしこの箕子朝鮮は、現在の韓国・北朝鮮では微妙な扱いをされています。というのも、これを歴史的事実としてしまうと、現在の朝鮮北部は中国の主権が及ぶ地域ということを認めることになり、「朝鮮民族古来の土地」という神話が崩れることになるからです。韓国・北朝鮮は「白頭山に降臨した天神の子・檀君が開いた檀君朝鮮」が朝鮮の始まりと主張しています。

檀君朝鮮神話では、箕子が朝鮮にやってくる以前の1500年もの間、檀君は朝鮮半島全域を統治したとされています。しかしこれは朝鮮国家の正当性を主張するために後世に作られたものである可能性が高いと思われます。

 

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4. ピャスト王朝(ポーランド)

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白鷲を象徴するポーランド初期の王朝 

ポーランド国家は一般的には、1025年にローマ教皇によりカトリック信仰の許可がおりた年に設立したとみなされますが、それ以前にも様々な伝説的な国王が存在します。

現在のポーランドの始祖とみなされているピャスト王朝は、グニェズノ付近の農民たちが近隣の軍事指導者の元に集まり統合されてポロニーと呼ばれる集団になり、伝説的な指導者ピャストの名を付けて自分たちの王朝の名としました。

このピャストという人物は、ピャスト朝初代国王ミェシュコ1世の高祖父にあたる人物とされます。

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ピャストは元々大工を生業にしていた男ですが、ある出来事をきっかけに裕福になり地元の名望家となったそうです。

ピャストの息子シェモヴィトの7歳の誕生日に二人の異邦人が訪れ、彼の誕生日を祝いたいと言った。ピャストは彼らを家に入れて共に誕生日を祝った。その誕生日会があまりにも楽しかったので、異邦人たちはピャストに感謝し、呪文を唱えて去っていった。

するとどういうわけか、ピャスト家は食べ物に困らないようになったということです。

9世紀にポロニーの指導者ポピエルが死亡した後、人々は集まり協議し、「朝に最初に市に入る者を指導者とする」と決めました。翌朝、最初に市に入った人物はユダヤ人のアブラハム・ポークハブニクという男。彼はこの要請を固辞し、人望のある名望家ピャストを国王に推挙しました。こうしてピャストはポロニーの指導者となったそうです。

 

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5. 夏王朝(中国)

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その存在に未だに議論がある中国の始祖王朝 

世界史の教科書で学ぶ中国最初の王朝は殷王朝ですが、その前に夏王朝というのがあった、というのは非常に知られています。

中国の歴史で最高の名君とされる堯・舜を継いだ禹が始祖の皇帝とされ、桀王の時代まで471年の間続いたとされています。

禹もまた後に中国の皇帝の理想的な姿と称される名君と言われ、大規模なインフラ工事を実施し農業の生産高を上げ、税金を免除し、制度を簡略化して、武器も廃止して人々の生活を楽にしました。率先して自ら地方巡幸に周り人々と触れ合った理想の君主であるとされます。

二里頭遺跡は中国では夏王朝の遺跡と考えられており、年代的にも後世に伝えられる夏王朝の伝説と整合性が取れいていますが、これが果たして王朝と呼べるものなのかは未だに議論があります。

 

 

6. ブリトン王トロイのブルータス(イギリス)

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ブリトン人の始祖=トロイアの英雄伝説

12世紀の年代学者ジェフリー・オブ・モンマスの「ブリタニア列王史」によると、ブリテンの始祖はトロイのブルータスという男なのだそうです。

この男はトロイア戦争の英雄アエネアスの子孫で、ギリシアで奴隷にされていたトロイア人7000人を解放して船に乗せ、巨人やセイレーンら化物たちと遭遇して打ち負かしながら航海を続け、当時アルビオンと呼ばれていたブリテン島に到達。そして最初の王となった、とされています。

トロイア戦争で敗れた末裔が国の始祖になった、という伝説はヨーロッパ中に存在し、ゴート族、ヴェネツィア、スカンジナビア、ローマ、ノルマン、トルコ、フランスですらみられるそうです。

当時よほど、アガメムノンの物語がヨーロッパ各地に普及して人々の間で信じられていたかが分かりますね。

 

 

7. マグナ・ハンガリア(ハンガリー)

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 マジャール族とフン族の兄弟伝説

「ハンガリー」とは「フン族の地」という意味で、ハンガリー人は自分たちのことを「マジャール」と呼んでいます。マジャール人は元々遊牧民族で、その始祖は西シベリアであると考えられます。遊牧民族の西進に従ってヨーロッパにやってきてハンガリー平原に落ち着き、定住化してキリスト教を受け入れ、現在の姿となりました。

13世紀、ハンガリー王ベラ4世はドミニコ会修道士を東へ派遣し、「マグナ・ハンガリア」と呼ばれるマジャールの郷土を探しに行かせています。ジュリアヌスという名の修道士は、遠くヴォルガ地区でマジャールの親戚筋の部族を発見することに成功しています。

伝説によると、マジャール族とフン族はもともと兄弟であったそうです。

マグナ・ハンガリアで有名なハンターであったニムロッドには2人の息子がいて、名をフノールとマゴールと言った。ある日、部下とともに狩りをしていると、2匹の「たいへん美しい白い狼」を見つけた。2人はそれを追うも、途中の沼地で見逃してしまった。

あきらめた2人は、途中で宿泊するためのテント地を探した。すると美しく肥沃な島を見つけて、そこに住もうと考えた。2人は父親の許可を得ようと自宅に戻ると、2人の「白い肌の美しい踊り子」に出会った。兄弟は踊り子2人を見初めて嫁にし、子を儲けた。そうしてフノールはフン人の始祖となり、マゴールはマジャール人の始祖となったのでした。

モンゴルの始祖は「蒼い狼」とされていますし、そこに遊牧民族の文化の共通性が見いだされて面白いですね。

 

 

 

まとめ

国の興りの物語というのは、昔の人々が「統治されるに納得する」文脈であり「他国に難癖つけられないもの」でないといけなかったであろうから、かなり慎重に作られているんだろうと思います。

今やこのような古代の国興りの物語は大勢に影響を与えないものですが、例えば明治維新の物語とかサンフランシスコ講和条約から始まる戦後日本の体制の正当性が何らかの形でひっくり返ってしまう可能性もあるわけです。

「国が安定して稼働する信頼性」とも言えるので、もしひっくり返ってしまって誰も政権の正当性を認めなくなると、誰もその国の通貨を認めなくなって破綻するのと同様、立ち行かなくなってしまう。

国の成り立ちの物語は馬鹿にできない大事なものであると思うのです。

 

 

参考文献

物語 ヴェトナムの歴史 小倉貞男 中央公論社

物語 ヴェトナムの歴史―一億人国家のダイナミズム (中公新書)

物語 ヴェトナムの歴史―一億人国家のダイナミズム (中公新書)

 

 

 

参考サイト

"10 Semi-Legendary Kingdoms Of Modern National Groups" LISTVERSE

 

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