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2020年に読んでおもしろかった本10冊

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「歴史に残る2020年」に読んだものたち

2020年もそろそろお終いです。

今年は新型コロナの影響で 在宅時間が増えて、読書時間が増えた人も多かったのではないでしょうか。そんな私は図書館にしばらく行けなくて、ネット書店でのお取り寄せ頻度が去年比で2倍以上になりました。

図書館にあるやや古い本ではなく、比較的新しく出た本を読む機会が増えたわけです。せっかくですので、2020年に読んだ本で面白かったものを10冊紹介してみます。

 

1. 『タイのかたち』

赤木攻 めこん  2019/10/25 ¥2,750

この本は今年の1月に書評を書きました

タイトルの通りタイ王国の歴史に関する本なのですが、一般的な通史ではありません。

いかにタイという国が多民族な国家で、異なる地域の集合体であるかが強調され、それゆえ近代以降に歴史と文化を「創り上げる」必要があったかが説明されています。 普通に通史を読むだけでは分からない気づきが多くありました。

書評にも書きましたが、個人的にタイ人の配偶者がおり、日本のタイ人コミュニティともつながりがあるので、タイ社会の、よく言えば「多様性」、悪く言えば「一枚岩じゃないところ」が、個人的な経験とピッタリ符合して心底勉強になった本です。

タイのかたち

タイのかたち

  • 作者:攻, 赤木
  • 発売日: 2019/10/25
  • メディア: 単行本
 

  

2. 『民主主義の死に方』 

 スティーブン・レビツキー ,ダニエル・ジブラット 著, 濱野 大道 訳 新潮社 2018/10/12 ¥2,750 

 アメリカ大統領選というのもあったんですが、政治学の先生に薦められて読みました。これはかなりおもしろかったです。

アメリカの政治制度は、アメリカ建国の父たちが慎重に考えぬいて作った制度を元にして、幾度の失敗を重ねながら、成文法と慣習法が積み重ねられ成熟し、共和党と民主党の中道派を多数派にして洗練された議会制民主主義を築いてきました。

それが1964年のジョンソンとゴールドウォーターの大統領選挙から徐々に歪みが生じ、議員は自らの私利私欲と名誉のための禁じ手、言わば制度を「ハッキング」で勝利していきます。それはエスカレートして現在見られる先鋭的な党派対立に繋がり、アメリカ社会の分断をもたらすに至ります。本書はその経過が生々しく描かれ、読むと背筋がゾッとします。

  

3. 『トロイア戦争全史』

 松田治 講談社学術文庫 2014/11/28 Kindle版980円

トロイア戦争の逸話は、イリアスやオデュッセイアなど複数の巻にまたがって叙述されています。当時の物語は弾き語りなので、文字だけの原典を読んでいくのは非常に分かりづらいものがあります。

で、読んだのが講談社学術文庫から出ていた「トロイア戦争全史」。

複数の書物をまとめて重複した話を除いて一つのタイムラインで叙述している上に、補足の説明まであって極めて分かりやすい。そしてなによりむっちゃくちゃおもしろい。夢中になって読んで4日ほどで読了してしまいました。

パリス、ヘレーネー、アキレウス、アガメムノーン、オデュッセウス等々、登場人物全員が名誉欲と性欲に脳がやられたクズばっかで、その発言、行動、いちいち共感できないところがすごいです。笑えると同時に怒りすらわいてきます。おいふざけんなてめえ、とか読んでて思う。

じゃあどこが面白いんだ、と聞かれたら回答が難しいですが、「この世にあるすべての物語の原典の中の原典」だからかもしれません。なんかどこかで知ってる。それが現代人をも惹きつける神話の魅力なのでしょうか。

トロイア戦争全史 (講談社学術文庫)

トロイア戦争全史 (講談社学術文庫)

  • 作者:松田治
  • 発売日: 2014/11/28
  • メディア: Kindle版
 

 

4. 『冒険商人シャルダン』

羽田正 講談社学術文庫 Kindle版 2014/10/24  1,100円

「フランス出身の商人ジャン・シャルダンの生涯を描いた本」

一言でまとめてしまうとそれだけなのですが、語学と冒険心に溢れた才能ある男の人生が、安楽と苦痛、希望と失望、名誉と屈辱という、自ら切り開いたが故の栄光と試練に見舞われる様子が描かれます。その生涯の中で思い描いた自分という存在のグランドデザインを叶えようとして結局叶えられなかった、と本著では描写されます。

偉大なペルシアの探検家として名声と富を残しつつ、妻とは早くに生き別れ、息子の養育に失敗し、ビジネスパートナーでもあった弟夫妻とも決定的に離反してしまう。

思い描いた理想の人生とは程遠い、孤独の中で他界することになるシャルダン。読み終わったら長編映画を一本見終わったくらいの疲労感があります。

冒険商人シャルダン (講談社学術文庫)

冒険商人シャルダン (講談社学術文庫)

  • 作者:羽田正
  • 発売日: 2014/10/24
  • メディア: Kindle版
 

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5. 『酒場の文化史』

海野弘 講談社学術文庫 Kindle版 2014/11/28  880円

 古代から中世、そして近世までのイギリスの酒場が社会的にどのような役割を果たしていたかを分析しつつ、そしてどんな人がどんなものを食べ飲み、どんな楽しみ方をしていたかを当時の詩や文学を通じて叙述していきます。とっても人間臭く、愉快で楽しい本です。 読んだら昔のイギリスの雑多でうるさい酒場に行ってみたくなります。

酒場の文化史 (講談社学術文庫)

酒場の文化史 (講談社学術文庫)

  • 作者:海野弘
  • 発売日: 2014/11/28
  • メディア: Kindle版
 

 

6. 『インドネシア大虐殺』

 倉沢愛子 中公新書 2020/7/10 902円

こちらは中公新書で2020年に出たものです。スカルノからスハルトの権力移行期に社会的な混乱と共産党の大弾圧があったのは知識としては知っていましたが、それがどういう過程で、誰によって、どの程度の規模で、という具体的なところまでは知らなかったので、都会から田舎までインドネシア全土を巻き込み100万人近くが殺害されたのは衝撃的です。また、この大虐殺の詳細が未だに明らかになっておらず、クーデターと共産党の弾圧を指揮したスハルトと国軍の主要人物がまったく裁かれずに他界し、また末端で虐殺にあたった人物たちもほとんど裁かれていないという、気味が悪すぎる事件です。また、多くの観光客が訪れる風光明媚なバリ島のあちこちで、未だに虐殺された人々が何千人も埋まったままであるというゾッとする事実も知ることになりました…。

 

7. 『韓国 行き過ぎた資本主義』

 金 敬哲 講談社現代新書 2019/11/13 946円

韓国がなかなか生きるに大変な社会だと言うことは知っていました。それは受験や出世競争くらいと思っていたのですが、本書は想像を絶する超絶競争社会・韓国の実態を浮き彫りにします。 

壮絶な受験戦争で病む子ども、就職戦争で疲弊する若者、高額な教育費を払うため上場企業の役員ですらワープア化、退職後20年近く非正規でキツイ労働をして日銭を稼ぐ老人。読んでて本当に心が暗くなってきます。同時に、なんで文政権の根強い支持があるかよく分かりました。

 

8. 『ノルマン騎士の地中海興亡史』

 山辺規子 白水Uブックス 2014/10/30 1,430円

2014年の本なのですが、たまたま読んだ論文の参考文献で興味があって読みました。おもしろかったです。

北欧出身のノルマン人は、人口増加に伴う耕地不作でフランスのノルマンディーに移住し勢力を安定させますが、出世コースから外れた者やチャンスを失った連中は、成り上がりの機会を求めて南イタリアに向かいました。

 本著は、貧乏騎士のオートヴィル家の出である兄ロベール・ギスカールと弟ルッジェーロ一世が、いかに南イタリアを平らげていくかを主要なテーマとしています。

「狡猾」とあだ名にある通り、卑劣な手段も使って出世をしていくロベール・ギスカールですが、その統治は自由なもので、それがゆえに旧体制の者はたびたび反乱を起こすのですが、宗教や政治や文化に干渉しないのが彼のやり方でした。

この自由さはルッジェーロ二世が開いたシチリア王国ノルマン王朝に受け継がれ、「12世紀ルネサンス」と呼ばれる文化復興や、シチリア生まれの神聖ローマ皇帝フリードリヒ2世の「交渉によるエルサレム解放」への系譜となります。

ノルマン騎士の地中海興亡史 (白水Uブックス)

ノルマン騎士の地中海興亡史 (白水Uブックス)

  • 作者:山辺規子
  • 発売日: 2014/10/30
  • メディア: Kindle版
 

 

9. 『未来のアラブ人』

 リアド・サトゥフ著, 鵜野 孝紀著 花伝社 2019/7/26 ¥1,980

 シリア人の父とフランス人の母を持つ筆者が、リビアとシリアで過ごした子ども時代の回想を描いたコミック。2020年12月時点で3巻まで出ています。

独裁国家のリビアでの物資不足での暮らし。次いで父の実家のシリアの田舎での、イスラームの古い価値観が残る地域での暮らし。最初の方は異文化での暮らし的な物語が進んでいくのですが、主人公リアドが成長していくと、両親や親類との微妙な関係、大人社会の理不尽さ、子ども同士でのいじめ、教師の虐待といった「辛さ」と否応なしに対峙せざるをえなくなります。異文化の話のはずなんですが、読んでいると思わず自分自身の小さい頃の辛かったことを思い出しました。

未来のアラブ人――中東の子ども時代(1978―1984)

未来のアラブ人――中東の子ども時代(1978―1984)

 

 

10. 『反穀物の人類史』

 ジェームズ・C・スコット みすず書房 2019/12/20 4,180円

この本は今年読んだ本の中で一番おもしろかったです。感銘を受けた本って、その内容が血管や脳細胞に浸透していくような感覚があるんですが、それを感じた一冊です。

「反穀物」と分かりづらいタイトルですが、一言でまとめると「初期国家が穀物の栽培を通じていかに民衆を支配してきたか」がです。 

農耕の対極には、狩猟採集があります。初期国家の領域の外には、農耕もやりつつも、狩猟や漁労、採集などで生計を立てる「野蛮人」の世界がありました。実は野蛮人は農耕民族よりも栄養価が高く健康状態はよく、一つの生計手段に頼る農耕民族がいかに脆弱で悲惨であったかが述べられます。今回の新型コロナウィルスのようなものが人口密集地である国家で流行ったら、ほんとうにひとたまりもなかった。

ただ、多くの犠牲を出しながらウィルスへの免疫をつけ、技術を徐々に発展させていくと、農耕民族は狩猟採集民族の敵ではなくなっていきます。戦いでは狩猟採集民族は農耕民族の敵ではないものの、富の蓄積という点で農耕民族は圧倒するようになり、狩猟採集民族の土地を圧迫していき、そしてウィルスを持ち込んで免疫のない民族を死滅させていく。

我々が学ぶ国家の歴史とはまったく異なる視点で描かれる文明史で、そーとー面白いです。ちょっとお値段がはるので、その場合はこのブログで書評も書いているのでぜひご覧ください。

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まとめ

 買った本が多かった、といいつつ今年出版された本はそう多くはなかったのですが、電子書籍のセールや、ブックフェアで数年前の本がお安く買えたりします。ぜひそういう機会を逃さず、いわゆる「名著」というものを読んでみてください。

それなりの見識がある人が「これはよい」という名著は、やっぱりそれなりの価値があると思います。 今回選んだ本も、振り返ると名著と呼ばれるものが多いです。

電子書籍もおおいので、年末年始の読書に是非ごりようください。