歴ログ -世界史専門ブログ-

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『「働き方改革」の人類史』(イースト・プレス)が出ます!

2022年11月14日に新刊が出ます

2冊目の本が出ます。

書名は『「働き方改革」の人類史』(イースト・プレス)です。

前作はブログで展開しているような、ややマニアックのテーマを通史で集めて、時代と国を跨いだストーリーを組み上げる構造にしたものでしたが、本作はそれとは全く違ったテーマです。

ざっくり、どんな内容の本かを解説したいと思います。

どんな本なのか

本著は4章構成になってまいます。

1章:働き方の世界史

2章:労働時間

3章:労働生産性

4章:やりがい

1章は現代の労働者の「働き方」は、どのような過程を経て作られ定着してきたかということを記したもの。

2章は1日8時間労働はどのように定着してきたか、労働時間の変遷をたどります。

3章は生産性の歴史。農業、工業、インターネット、革新的なテクノロジーの発展があり社会の生産性が上がった時に、いったい何が生じたのか。

4章はマネジメントの発展によっていかに労働者が「働かされる」価値観と規範が生じてきたか。

現在我々は職場において平社員でも「経営者と同じように考え行動する」「就業時間内に効率的に働き成果を出す」「リーダーシップを発揮し、クリエイティブな思考で会社に貢献する」ことを求められますが、このように言われるようになったのはごく最近のことです。

例えば20世紀の前半では、労働者は機械のように精確な行動をとることが全てて、現場における工夫やメンバー間のコミュニケーションは必要ないという考えが最先端でした。12時間労働は当たり前で、時には14時間から16時間も働かされていました。労使関係は非常に敵対的で、労働者は隙を見つけてはサボろうとしたし、提示する条件で働かせようとする経営者と戦闘的な闘争を行いました。

それが現在では、「働くことは偉いこと」という価値観になっているし、8時間労働を守ることが正しいとされ、クリエイティブやリーダーシップの重視、効率や生産性を求められること、協調的な労使関係を維持することが重要とされています。これらはいつの時代もこうだったわけではなく、様々な時代の産業構造や人々の意識、労働思想の変化によって、現在定着しているものになります。

そしていまの常識の成立過程と働き方を眺めると、今の我々の働き方も時代の要請であることが分かります。そして未来の社会構造を考えると、ざっくり、今後はこういう働き方になっていくだろうということも予想できます。

もちろん、それが正しいかどうかは分かりません。ただ、少子高齢化、人口減、デジタルテクノロジーの発展、新興国の成長などを鑑みると、おおよそ「近いうちにこんな働き方が定着するだろう」というのも分かってきます。

ただそれは、全くの未知の領域などではなく、歴史を見ると過去普通にあった働き方だったりもします。

過去の働き方を振り返ることは、未来の働き方を考えることでもあるのだと思います。

 

伝えたい事柄

私が本書で伝えたかったこととしては、今の働き方は「当たり前」ではないということ。

もちろん規範や価値観としてまるで衣服のように定着していますが、今後服のトレンドが変わるように変わりうるし、ここ20年とっても大きく変容しています。

書店に並ぶビジネス書なんかを見ると、効率的な働き方、クリエイティブなアウトプットを出す、自分自身をブランド化する、リスキリングで常日頃から他者に負けないスキルを得ていくのが当然と錯覚します。もちろんそれはそれで重要だし、今後の社会を生き残っていくうえで必要なことではあるのですが、「それはそれ」として俯瞰して見たほうがいいのでは、というのが言いたいことです。

また、給与が上がらない、労働時間が減らないといった不満を多くの労働者は抱えているわけですが、それは労働者が経営者と戦わないからです。過去を振り返ると、労働時間8時間制や、女性・子どもの酷い労働環境の改善など、経営者が課す非人間的な労働条件を、労働者は団結し、時には流血を伴う戦闘で戦い勝ち取ってきました。特に若い人は衝突することを忌避して、人間関係が悪くなるのであれば口をつむぐことがあると思います。しかしそれは大きな間違いだと言わざるを得ないです。

最後に、今後の働き方は、おそらく極めて「厳しい」ものになっていくと思われます。

そんな中で、自分の能力をレベルアップし時代に適応して大儲けする人もいれば、これまでのやり方から脱せずいいように酷使されて酷い労働環境に堕していくいともいるでしょう。

この本でもっとも強調して言っているのは、だからといって「できない」人を見捨ててはならない、ということです。「できる」人がちゃんと社会的な責任を持ち、「できない」人を支えるようにならないと、恐ろしいほどの社会の分断を招く恐れがあります。

ビジネス文脈でよく語られる「働き方改革」を推し進めた先、果たして本当に「幸福な社会」があるのか、極めて怪しいと私は考えています。

それよりは、隣の人を支え合う社会の方がよっぽど豊かで健全な社会にならないか。

ありきたりですが、そんなことを考えながら書きました。

 

まとめ

実はこの本は、企画の成立のタイミングではこんな説教臭い本ではなくて、もっと柔らかい「昔の働き方のおもしろエピソード収集本」といところからスタートしました。

2021年の夏ごろから執筆を始めたのですが、進めていくうちに私も編集者も段々と意識が高くなっていって、「今のビジネス界で言われる働き方改革のあり方にアンチテーゼを申し立てる少し違った味の本」に発展していきました。

何度も原稿を書き、何度も編集者から直しをもらい、1年半近くかけて完成した思いのこもった一冊となっています。

なにとぞ、なにとぞよろしくお願いいたします!