歴ログの今年の振り返りをしてみます
年末に今年の振り返りをするのが恒例?になってます。
恒例といっても3回目なのですが。
今年は仕事と私生活がメチャクチャ忙しくて、更新の頻度をガクッと落とした年でした。その分品質を上げようと努力したんですがあんま上がってないので、ただ量が少なくなっただけでした。すいませんでした。
本は週2〜3冊のペースで読んでいるんですが、あんまり世界史に関係ない本も読んでいました。
ということで、2016年のブログの振り返りと今年読んだ記事をまとめてみます。
2016年度に読んで面白かった本
今年は直接ブログのネタになるような本だけでなく、あんま関係のない本を結構読んでました。特に辺境作家の高野秀行さんの本を凄く読んでました。
1: 「 世界の辺境とハードボイルド室町時代」 高野秀行,清水克行 集英社
これはメチャクチャ面白かった。2回読み直しました。
高野秀行さんのソマリランドでの体験と、中世史家の清水克行さんの対談の本なんですが、「日本の中世とソマリランドは似ている」という話からスタートします。あまりピンと来ないんですが、両者の社会の秩序や価値観や文化などに驚くほど共通があり、妙に納得してしまう。混沌の中に生まれる人間の社会に関する面白すぎる話がどんどん登場し、男色とか食文化とか経済の話まで色んな話題が語られます。
あまり歴史とか世界に興味ない人にこそ読んでほしいです。
2: 「謎の独立国家ソマリランド」 高野秀行 本の雑誌社
「世界の辺境と…」を読み終わってすぐにkindleで買って読みました。
無政府状態が続くソマリア北部は、「ソマリランド」と自ら称して内戦を終わらせ、血みどろの内戦が続く南部ソマリアを尻目に平和な国家を築いている。なぜ、ソマリランドは平和になったのか、南部ソマリアとの違いは…?
その理由は実際に本を読んで知っていただくとして、読んでいくにつれて一緒に高野氏とソマリアを旅行している気分になってきます。取材が進める高野氏の破天荒な行動や彼を取り巻く人たちの面白おかしい言動、時には「さすがにヤベーだろ!」となる冷や汗もののシチュエーションもあります。
元バックパッカー&歴史好事家としては、このような題材は非常に興奮するのです。
3: 「日本の歴史をよみなおす」網野善彦 筑摩書房
歴史家の網野善彦氏は恥ずかしながら「世界の辺境と…」を読むまで存じ上げませんでした。日本史についてはあまり知らないため、と言い訳しておきます。
この本で網野氏が口酸っぱく言ってるのが「日本の歴史は江戸時代以降、農民を主軸に置いて考えられ過ぎだが、実際は農民以外の雑多な人々が国内外をワーと動き回っていた混沌とした社会だったのだ」という点。
「世界の辺境と…」で清水氏も言ってましたが、網野氏は読み込んだ資料の数が半端なく、話の展開の中で様々な中世資料の言及が現れて論の展開のバックボーンになっています。説得力がスゴイ。
来年から網野氏の著作を読んでいこうと思ってます。
4: 「新動物生態学入門」片野修 中央公論新社
生物多様性(ダイバーシティ)という言葉を最近よく聞きますし、多様であればあるほど良い、みたいな語られ方をすることがありますが、ではダイバーシティとはいったいどういう状態のことを指し、どうすれば保てるのか、そもそも保つことができるのか、といった点を様々な事例を元に紹介した本です。
例えば、清流に住む魚がいるとして、川の流れの早いところ、淀んだところがあって、同じ生物とロケーションでもそれぞれ環境は異なり、個体の生存戦略も異なる。仮に大雨が降って川の環境が変わってしまったら、魚の生存環境はガラリと変わってしまう。
また、あるマングローブの一角に生じる生物とその割合は常に変化しており、10年もたつと全く異なる生物のグループが住んでいる場合もある。
生物多様性の維持とは「いまある自然の状態を維持すること」では決してないということです。生物学の素人でも分かりやすくよんでいけるため、オススメです。
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5: 「確率思考の戦略論」森岡毅,今西聖貴 角川書店
確率思考の戦略論 USJでも実証された数学マーケティングの力
- 作者: 森岡毅,今西聖貴
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
- 発売日: 2016/06/02
- メディア: 単行本
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柄になくマーケティングの本を読んだんですが、これは「ああ、マーケティングとは本来こうあるべきだよなあ」と感心させられました。
通常の企業の場合、既にある意思決定の中でいかにマーケティングで市場価値を最大化するか、というやり方が取られます。様々な事柄が既に決まっている中でマーケティングが貢献できるボリュームは限られています。その意志決定は、企業の社長や要職の人の「勘」に頼られることがほとんどで、戦略的に意思決定がなされることは、少なくとも日本の企業では正直あまり例がないように思います。
筆者の森岡毅氏は、ユニバーサルスタジオ・ジャパンの業績を数学的マーケティング手法を用いてV字回復させた人で、彼が実際に用いたマーケティング手法が紹介されています。
ぼくは数学は全然わからないんで、書かれている内容が正しいのか全く分かりませんが、数学的理論で導かれた打ち手が非常にシンプルなのは共感したし、ありがちな「お偉いさんが好みだから」みたいな雑音が入ってないのが凄い。
マーケティングは経営戦略とセットで考えられるべきだと痛感します。
6: 「チャーチル」ロバート・ペイン,佐藤亮一 らぶりあ選書
これはマネたまで連載中の「人と歴史の動かし方~古のリーダーたちのマネジメント術~」というシリーズのチャーチル篇を書く際に参考文献として読んだんですが、よく語られる「英雄」「偉人」としてのチャーチルではなく、「偉人に憧れる自尊心の高いあるイギリス男」を克明に描いた作品。
不思議なことに読めば読むほどチャーチルのことが嫌いになっていく。
新たな時代を作ることを天命と悟り切り開いていくタイプの人間ではなく、「富を手に入れ人に賞賛される、自分がなりたい自分になる」ことを突き詰めたらこうなるという感じ。
アンチ・ヒーローが第二次世界大戦を機にヒーローになるのは壮観なのですが、ここまで自分の人生を楽しみ尽くした男はそうそういないのではないかと思います。
ご興味ある方は、これかなり長いので、時間のあるときにゆっくりご覧ください。
2016年によく読まれた記事
さてここからは2016年によく読まれた記事の紹介です。
1: 中世イタリア商人の「為替で簡単に儲ける方法」
中世の為替の慣習を突いた「裏ワザ的儲け方」を紹介しました。
それも興味深いですけど、「なぜ徴利が神学上の罪とされたか」の理由も納得してしまいます。個人的にも結構好きな記事です。
2: なぜ囚人の服は縞模様なのか
ミシェル・パストゥロー氏の著作「縞模様の歴史―悪魔の布 (白水uブックス)」の引用の記事です。身分が低かったり従属的な立場にある者の衣服の衣装は縞模様が多いのは「言われてみれば確かに」と思えます。
3: WWEにおける「日本」の描写・恐怖からCOOLへ
ずっと書きたかった記事。
トランプが大統領になり、ビンスの嫁リンダが閣僚入りし、ますます注目されるWWE。これまでの歴史で日本がどのように描写されてきたかをまとめています。
それは当時のアメリカ人の日本に対する認識が、どのように変わっていったのかを如実に表しています。
4: あまり普及しなかった「人工言語」
人工言語といえばエスペラントが有名ですが、それ以外にもあまり普及しなかった言語も色々あるし、今後AIの発展とともに普及しそうな人工言語もあります。
とはいえ、人工言語って言語マニアの趣味って感じで、モチベーションもよく分からない世界です。
5: 実はふさわしくない?神話をモチーフにした企業名・ロゴ
スタバのロゴをアイキャッチにしたのはズルかったね。
それにしても皆んな神話って大好きなんだなと思い知ったのでした。
6: タイ料理の歴史
たまに食べたくなるタイ料理。
実はバンコク王朝以前の歴史は全然分かっておらず、碑文もぜんぜんないので「こうではなかろうか」という推測するしかないそうです。
ラーマ2世の「マッサマンカレーの詩」は個人的に大好きです。
7: 多分あなたも知らない?ギリシア神話の怪物たち
これもギリシア神話のネタです。
比較的マイナーなのを集めたつもりだったんですが「んなもん知っとるわい」という声ばっかでビックリしました。ゲームとかで登場するからですね。
8: WWEのヒールレスラーに見る「アンチ・アメリカ」
WWE記事の第一弾です。
WWEで描かれるアンチ・アメリカから、アメリカ社会の変化を描いたものです。
トランプ時代になると、もっとアンチ・アメリカ像は変わっていくのでしょう。その時にまたこのネタは書きたいですね。
9: ふざけてるとしか思えない世界の10の政党
タイトル通り、実在するバカバカしい名前の政党を集めています。
個人的にすごく好きな記事。本当はもっとこういう記事をいっぱい書きたい。
10. 世界に散在する謎だらけの古代文明
実はこれ、書いてから1年半くらい下書き保存してたやつでした。面白くないなーと思って。けどいざ公開されたらよく読まれたので未だにインターネットの構造がよく分かりません。
この記事あんまり読まれてないけど面白いですよ
男臭い&血なまぐさい感じの記事もいっぱい書いてます。
人気があるのはライトな感じのもので、重たいのはあまり人気ないんですけど、 年末年始の時間ある時に是非どうぞ。
1: ソ連ヤクザ学入門 - 赤い大地の親分たち(前編)
裏で歴史を動かしてきた「ソ連のヤクザ」についてです。
「ヤポンチク(日本野郎)」というアダ名のヤクザ王が登場します。
2: アパルトヘイトはなぜ始まったのか
アパルトヘイトが始まった理由は、ヨーロッパ系住民の差別意識もありますが、その背景には労働問題があり、「労働力としての黒人を安価に使い倒し、ヨーロッパ系住民が富を全部吸い上げる」仕組みがその正体でした。
3: ハンガリーが枢軸国側で参戦した経緯
第二次世界大戦の枢軸国側の国々を見ると、日本・ドイツ・イタリア以外にも様々な国が参戦しています。ハンガリーもその一角で、第一次世界大戦で奪われた領土を取り戻すべく、その運命を危険な賭けに投じたのでした。
4: 弱小ポルトガル・ファシスト政権の「生き残り戦略」
同じくWW2ネタです。
ポルトガルもかつての大帝国ながら弱小国家に成り下がり、問題だらけの国でしたが、「保守的ファシスト」サラザールは、強力な国内統制を図りつつも、対外戦争を一切行わない第3の道で危機の時代の突破を図ったのでした。
5: チェチェンの歴史 - なぜ戦いは終わらないのか
未だにロシアに抵抗を続けるチェチェン。
民族の誇りをかけた「生き残り」の戦いが、いつしか戦争稼業にとって変わり、ロシア軍、世界中の武器商人、チェチェンマフィアなど、様々な勢力がチェチェン人の生き血をすすって富を得る呪われた地になってしまいました。
まとめ
ざっと2016年を振り返りましたが、今年は従来の世界史の枠組みから外れて、世界史に軸を起きつつも派生的に色んなジャンルの記事に挑戦できた年だったなと思います。
来年も「世界史は面白い」をキーワードに、エンターテイメントとしての世界史の魅力を伝えるブログとして発展していけたらと思っております。
あと、お仕事も可能な限りお受けいたしますので、お待ち申し上げております。
2017年もどうぞよろしくお願いします。