歴ログ -世界史専門ブログ-

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2018年に読んで面白かった歴史関連本

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今年読んで良かった本10冊

早いもので2018年も終わろうとしています。 

ぼくは年間で何冊の本を読んだのかいちいち数えてないのですが、100〜150くらいは読んだんじゃないかと思います。正確にはよく分かりません。ただし9割は歴史関連の本です。

年末ですし、今年1年間で面白かった歴史関連本をまとめてみます。

 年末年始にぜひどうぞ。

 

1. 八九六四 「天安門事件」は再び起きるか 安田 峰俊 KADOKAWA

タイトルは「天安門事件は再び起こるか」と煽り気味ですが、内容は地に足のついたルポとなっています。天安門事件を直接または間接で体験した人に、あの事件とは何だったのかを聞いて回るという内容。

本気で中共打倒を目指した人、ただそこに居合わせた人、流されて参加した人など様々です。ただその後の人生は、実業家として成功している人もいれば、ネットで「真実」を知ってしまったがために公安に追われつづける人など様々。めちゃリアルです。

 5年前でも5年後でも、この本は成立しなかったんだろうな、と思わせる貴重な証言の数々。バンコクで極貧亡命生活を送りながら、律儀に反中派を支援しつづける姜野飛さんにちょっと泣きそうになった。

 

2. アイルランド革命 1913-23――第一次世界大戦と二つの国家の誕生 小関隆 岩波書店

アイルランド関係の本は正直面白い本があまりないんですが、この本は本当に面白かったです。

第一次世界大戦前、アイルランド自治をいかなる形で与えるかの議論が始まったタイミングで物語は始まり、親英派、親独派、中立派など様々な勢力が入り混じる中、独立強硬派によるイースター蜂起が勃発。加速度的にアイルランド独立闘争は過激化し、IRAによるテロ活動、内戦、そして最終的には、誰も望んでいないはずのアイルランドの南北分断という形に落ち着いていきます。

アイルランド人が望んでも叶わなかった祖国統一という夢に嘆息しつつ、登場人物たちのマズすぎる一手一手に「おい!そこ、もうちょいうまくやれよ!!」と読みながらフラストレーションが溜まる内容でした。

 

3. 辺境の怪書、歴史の驚書、ハードボイルド読書合戦 高野 秀行,清水 克行 集英社インターナショナル

高野氏と清水氏の対談は前作の「世界の辺境とハードボイルド室町時代」も面白かったですが、今回は少し趣旨が変わって、お互いに事前に同じ本を8冊読み、その感想を語り合うというもの。

中にはイブン・バットゥータの「大旅行記」なんてのもあり、これ1冊が辞書並に分厚いのですが、全部で8冊もあって、目を通して内容をメモして理解していくのは相当大変だっただろうと思います。

対談で進んでいくのですが、まずはざっくり本の感想から始まり、その本の一節や内容で気になった点を、2人の経験や知識から内容がどんどん深掘られていき、話がシンクロしてどんどんお面白くなっていきます。脳がパカッと開化するような「知識を得る喜びや楽しみ」を得られる稀有な本と思います。

あともちろん、紹介されている本が俄然読みたくなります。

 

4. 陰謀の日本中世史 呉座 勇一 KADOKAWA

「応仁の乱」がヒットした呉座先生の最新作。これはおもしろかった。

最初はゆっくりじっくり丁寧な解説からスタートしていくのですが、本能寺の変の章あたりから急にギアが入ってきます。戦国無双やバーフバリのごとく、呉座先生が「陰謀論」を切って切って切りまくる様子は快感です。ノンフィクション痛快アクション歴史本という新しいジャンルを開拓したのではないかと思います。

 

5. トラクターの世界史 - 人類の歴史を変えた「鉄の馬」たち 藤原 辰史 中央公論新社

面白そうだけど、こんなニッチなテーマで持つのかなと思ったのですが全くの杞憂でしたね。

トラクターの農業への貢献は当然ですが、ヨーロッパやアメリカの社会や文化に大きな影響を与え、ナチスやソ連の集団主義のアイコンにもなりました。トラクターを通して歴史を見ていくと、世界史はこんな風に面白く見えるのか、と目から鱗でした。

あと、トラクターにまつわる風刺やアネクドートや小説の描写などの小ネタがいちいち面白かったです。

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6. 皇帝銃殺: ハプスブルクの悲劇 メキシコ皇帝マクシミリアン一世伝 菊池良生 河出書房新社

好きな文体ってあるじゃないですか。

結構複雑なことが書いてあるけどスラスラ読めていくやつです。

この本はぼくにとってまさにそれで、結構分厚い文庫なんですけど、ゴクゴクとお水を飲むようにどんどん読めていけました。

これはハプスブルグ家出身でメキシコ皇帝マクシミリアン1世となった、フェルナンド・マクシミリアン・ヨーゼフの伝記です。

兄はオーストリア皇帝のフランツ・ヨーゼフ。兄弟の仲は良くなく、兄はなぜかいつも人気がある弟マクシミリアンを嫌って遠ざけます。オーストリア海軍、ヴェネツィア副王と皇位から遠い仕事を回され、それなりに実績をあげるも、フランス皇帝ナポレオン3世の推挙でどう考えても「火中の栗」であるメキシコ皇帝に任ぜられます。最後はメキシコ自由主義者によって銃殺されてしまいます。

頭は悪くないんだけど抜群に良いわけではなく、調子に乗ったり現実を見ないところもあり、そういう部分を含めて身近で好感が持てる男でした。

この本は仕事が終わって寝る前に読むペースで、3日ほどで読んでしまいました。

 

7. 「五色の虹 満州建国大学卒業生たちの戦後」 三浦 英之 集英社

これも面白かった。

「五族共栄」の理想を掲げて開校された、満州帝国最高学府の「建国大学」の卒業生たちにインタビューし、どのような大学生活だったかと卒業してからの人生を追うというルポ。国策大学ではあったものの校風はかなり自由で独立しており、戦争中でも政府や軍部を批判したりできたらしいです。本気で五族共栄の理想を信じ奮闘した者も多かったが、戦後は建国大学卒というだけで「日本の手先」とされて苦労した人も多かったようです。

日本人の卒業生がカザフスタンに住む卒業生に会いにいく章があるのですが、ちょっと泣けました。

 

8. 「人民の戦争・人民の軍隊 - ヴェトナム人民軍の戦略・戦術」 ヴォー・グエン・ザップ 中央公論新社

ベトナムの伝説の将軍ヴォー・グエン・ザップが、ベトナム戦争が始まる前の1961年に書いた本です。

話は1945年8月に蜂起した後、フランス植民地軍相手にゲリラ戦を繰り広げ、1951年にディエンビエンフーで大勝利を挙げるまで、どのように貧弱だった軍隊を党の下に組織化し、ただの農民を精強な兵士に作り変えていったか、その戦略と戦術が書かれています。

 これは個人的には、ビジネスマンが読むべき本と思います。プロジェクトの目的を明確化し、マイルストーンを定め、どのように個々の人員にマインドセットをしていくか、というそのプロセスが大変勉強になります。

 

9. 「物語 ウクライナの歴史―ヨーロッパ最後の大国」 黒川 祐次 中央公論新社

ウクライナの歴史は前から勉強したかったんですけど、ウクライナの歴史の本って結構微妙で、あまりに専門的すぎたり、特定のイデオロギーに肩入れしがちでいい本が見つからなかったんですけど、これは入門編として大変有意義でした。

現在ウクライナとロシアがなぜ対立しているかよくよく分かりました。

 

10. 「密造酒の歴史」コザー ケビン・R,Kosar Kevin R. 原書房

この本は出だしの文章が素晴らしかったです。

イエス・キリストは言った。「貧しい人々はいたいもあなたがたと一緒にいる」。同じことが密造酒にもいえるかもしれない。「密造酒はいつもあなたがたと一緒にいる」と。

冒頭こう始まっているので、密造酒の歴史というよりは、酒と人類の親密さに筆が多く割かれています。国家が酒を介して税金を取ろうとした結果「密造酒」という概念が生まれたわけであって、そもそも酒と人類は不可分のものであったというわけです。

酒を飲みながら飲みたい本です。

 

 

番外編

標準世界史地図(2018―2019年版)吉川弘文館 亀井高孝,三上次男,林健太郎,堀米庸三編

世界史の政治・経済・文化の細々とした内容が、アナログな手書き地図やグラフにまとまった資料集です。高校生の時に大学受験に使った方もいると思うんですが、これは世界史好きの暇つぶしの最強アイテムです。

酒飲みながらとか、寝る前に空いた時間にパラパラ見るのもいいんですが、個人的には気になったページをスマホのカメラで写真に撮って、会社のトイレの大の時間とかに見たりします。(なぜなら、弊社のトイレは携帯の電波が入らないから!)

隅から隅までじっくり見てると、今まで気づかなかった発見があって、世界史ブログのネタ探しにはもってこいだったりしています。

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まとめ

誰か忘れたんですが、

「一生かけてもこの世の本すべてを読破できないのは何と悲しいことか」

 みたいなことを言った人がいました。

すげー分かる。この世にはめちゃくちゃ面白くて人生観が変わるような本がたくさんあるはずなのに、出会える可能性はとても低い。

世界史の話題を集めていくことで自分自身そういう本に限りなく多く出会っていきたいし、読者の方にもそういう本に出会えるきっかけを一つでも作れたらなと思ってやってきいます。今後ともどうぞよろしくお願いします。