あまり聞き馴染みがないギリシア神話の怪物を学ぼう
実はギリシア神話は我々の生活のごく身近なところに息づいています。
前記事「実はふさわしくない?神話をモチーフにした企業名・ロゴ」の記事でも紹介したように企業のロゴや名称になっているケースも多いですし、ゲーム、漫画、小説にもたくさんギリシア神話がモチーフの物語やキャラクターが登場します。
若い人だったらソーシャルゲームのキャラクターでお馴染みかもしれませんね。
ミノタウロス、ペガサス、ケンタウロス、サイクロプス、ケルベロスなどはお馴染みの顔ぶれでしょう。
今回はあえて皆が知っている有名な怪物は外し、たぶんあまり知られていない怪物たちをピックアップしてみます。
1. ピュートーン
生まれてすぐのアポロンに射殺された大蛇
「Python(パイソン)」と描くとSEの人は反応しそうですね。
ラテン語でピュートーンと読む怪物は、ビジュアルはドラゴンや蛇のような感じ。地母神ガイアの息子で、「世界のへそ」と呼ばれた町・デルポイの神託所の番人でありました。
ある日、ピュートーンはお告げで女神レートーの子によって殺されると予告されてしまう。そこでピュートーンは腹にアポロンとアルテミスを宿したレートーを追いかけて殺そうとするも、レートーは巧みに逃れ、オルテュギア島でアルテミスを産み、デロス島でアポロンを産んだ。
アポロンは母を殺そうとした大蛇の存在を知ると、生後4日目にして弓を使ってピュートーンを殺してしまい、彼の担当だったデルポイの神託所の番人の後釜となり、またテミスが行っていた神託を下す担当にもなってしまったのでした。
なんでプログラミング言語に大蛇の名前がついているのかよく分かりませんが、Phython使いのSEの皆さまには、ピュートーンのように予言なぞ信じず目の前のコードを信じて実装いただきたいと思います。
2. オルトロス
ヘラクレスに殺された双頭の犬
オルトロスは顔が2つある犬の怪物で、怪物テューポーンとエキドナの息子。兄に地獄の門番ケルベロス、子供らに怪物スフィンクスとネメアン・ライオンがいる怪物界のサラブレッド。
オルトロスとエウリティオンは、西地中海の「夕焼けの土地」エリュセイアにいる三つ頭、三つ体の巨人・ゲリュオンの監視の任務にあたっていましたが、どういうわけかガチムチの戦闘神ヘラクレスの棍棒で殴られて死んでしまいました。
映画の序盤のやられ役の雑魚キャラみたいで可哀想です。
3. スキュラ
上半身は女、下半身は魚、腹部から3匹の犬が生えた異形の怪物
スキュラはもともと非常に美しい人間の女性で、彼女を口説く男が後を絶たなかったが彼女は男に興味がなくシケリア島の浜辺で一人で過ごすのを好んでいました。
そんな彼女をたまたま見かけた海の神グラウコスは彼女の美しさに一目惚れしてしまう。何とかしてスキュラを射止めたいグラウコスは、魔女キルケーに相談してみた。ところが魔女キルケーはグラウコスに惚れてしまい、逆に言い寄られてしまった。
あくまでスキュラを愛するグラウコスはキルケーの誘惑を断ったが、逆恨みしたキルケーはスキュラに呪いをかけ、下半身は魚で腹から3匹の犬が生えた醜悪な姿に変貌させてしまったのでした。
嘆き悲しむスキュラの心は次第に壊れていき、船を襲って人間を食い殺す怪物と化してしまった。
ところが最後は岩と化してしまい、「スキュラの岩」はギリシアの船乗りたちに恐れられていたそうです。
4. テューポーン
ガイアの息子たちの壮絶なる兄弟喧嘩
テューポーンは女神ガイアの息子にして、先述のオルトロスなど様々な怪物の先祖。
その体は宇宙に匹敵するほど巨大で、腕を広げると東西の星に手がとどくほど。灼熱の炎を吐き、万物を破壊する最強のデストロイヤーであります。
女神ガイアは自分の息子たちのオリュンポスの神々が兄弟のティタンやギガスらと敵対しかつ調子に乗っていることに腹をたて、彼らを懲らしめるためにテューポーンを産みました。
テューポーンは瞬く間に地球を火だるまにし宇宙をぶっ壊し、オリュンポスの神々は慌てふためいて動物の姿に化けてエジプトのほうに逃げてしまいました。
攻勢しまくるテューポーンに対しゼウスは応戦するも叶わず、腱を奪われデルポイ近くの洞窟に閉じ込められてしまった。テューポーンは腱を隠して療養に赴いた。ゼウスの兄弟のヘルメスとパーンは腱を盗み出してゼウスを助け、洞窟から出してあげた。そして再度テューポーンと戦って追い詰めていく。
追い詰められたテューポーンは「勝利の実」と間違って「無常の実」を食ってしまい、力が出なくなって最後はシチリア島のエトナ火山の下敷きになってしまいました。
5. オフィタウルス
Photo by Carole Raddato
超絶パワーを秘めた内臓を持つ怪物
この怪物は古代ローマの詩人オウィディウスの著作に言及があります。
オフィタウルスは原初神カオスと天空神ウラノスの子。その割には、上半身は雄牛ですが下半身は蛇でとても上等な神様に見えません。
オフィタウルスの内臓には秘密があり、この内臓を取り出し燃やした者は超絶パワーを手に入れて神々を打ち負かすことができるというのです。
当然多くの者がオフィタウルスを殺そうとし、結局巨人タイタンがオフィタウルスを殺して内臓を手に入れますが、いざ燃やそうとした時にゼウスが使わせた鷹が内臓をかっさらってしまったのだそうです。
タイタンはゼウスの敵クロノスに味方していたから、マッスルパワーを獲得されないように妨害したのですね。
とはいえ、血統がいい割にオフィタウルスのあまりのサブキャラ扱いは悲しいです。
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6. ラミア
ゼウスの妻ヘラの嫉妬心から怪物にされてしまった美女
ラミアはもともと怪物ではなく、ポセイドンの息子ベロスと母リュビエとの間に出来た娘で絶世の美女でした。
その美しさに惚れたゼウスは、ヘラという妻がいながらラミアと関係を持ってしまい、何人か子どもまで儲けてしまう。嫉妬に狂ったヘラは、ゼウスとラミアの子を全員抹殺した上で呪いをかけ怪物の姿に変えられてしまいました。
ラミアは子どもを失った悲しみから、他人の幸せな親と子どもを憎むようになり、子どもを襲って喰らう正真正銘の怪物に変貌してしまったのでした。
7. グライアイ
Image from GREEK MUTHOLOGY.com
目が1つしかない3姉妹の魔女
ディーノ、エニュオー、ムプレドーはポルキュースとケートーという怪物夫婦の間に生まれた3姉妹。 兄弟に後述のエキドナや、蛇の髪のゴルゴーンなどがいます。一族皆怪物という由緒正しい血統の持ち主です。
3姉妹は常に一緒で、というのも目玉が3人で1つしかなく共有しているためです。
英雄ペルセウスがゴルゴーンを退治しようとした時、グライアイ3姉妹に居場所を訪ねました。初めは3人は兄妹のゴルゴーンの居場所を教えませんでしたが、ペルセウスはグライアイの目玉を隠してしまったので、やむなくゴルゴーンの居場所を教えてしまいました。ゴルゴーンの居場所を知ったペルセウスですが、目玉を取り戻したグライアイがゴルゴーンにチクりに行かないか心配になり、目玉を湖の中に放り投げてしまいました。
…ペルセウス、なんという外道野郎なのだ…!!
8. エキドナ
Photo by Gabriele Delhey
テューポーンの妻にして、ケルベロスやオルトロスの母
エキドナの上半身は美女ですが、下半身は蛇の姿をしたまごう事なき怪物。先述の通りポルキュースとケーレーという怪物夫婦の娘で、兄妹にグライアイ3姉妹やゴルゴーンがいます。
彼女はガイアと宇宙を巻き込んだ大喧嘩を演じた怪物神テューポーンと結ばれ、ケルベロスやオルトロスなど様々な怪物を世に解き放ちました。
怪物たちの「グレート・マザー」と言ったところでしょうか。
9. エリューニュス
青銅のムチを持った恐るべき復讐の女神たち
エリューニュスはメガイラ、ティシポネ、アレクトーの三女神の総称で、天空神ウラノスの傷口から大地に滴り落ちた血から生まれたとされています。
女神とはいえそのビジュアルは醜悪で、頭髪は蛇、顔は犬、コウモリの翼を持ち、目は老婆のよう。
彼女らは神の拷問係で、殺人、特に血族殺人をした者を見つけると青銅のムチを持って容赦なく打ってくる。このムチに打たれたら最後、苦しんで死ぬ以外にない。
エリューニュスは悲劇詩人アイスキュロス作の戯曲「オレスティア」に登場します。
トロイ戦争に勝利した将軍アガメムノンは、アテネに帰還してすぐに妻のクリュタイムネーストラーと彼女と恋仲になったアイギストスに共謀され殺害されてしまう。
成人したアガメムノンの息子オレステスは、父の仇をとるべく旅人に扮して王宮に侵入し、情夫アイギストスと実の母クリュタイムネーストラーを殺害し復讐を果たした。
しかし血族殺人の罪を犯した事で、オレステスは復讐の女神エリューニュスに付きまとわれることになる。
オレステスは助けを求めてデルポイの神託所に赴きアポロンにすがろうとするが、アポロンはアテネに行き裁判を受けよと命じた。
そうして、アテネでオレステスを無罪とするアポロンと、有罪とするエリューニュスとの間で裁判が開かれる。陪審員の多数決により7対6で無罪。エリューニュスは激怒するも、なだめられてこれからは復讐の女神ではなく、慈しみの神になるよう促されそれを受け入れた。オレステスは解放されアテネにも平和が戻ったのだった。
10. ハルピュイア
メシに意地汚い下等な怪物
この見るからに醜悪な面構えの怪物はハルピュイアといい、顔から胸までが女性で、下半身が鳥となっています。
そのビジュアルから想像がつく通り意地が汚く不潔な怪物で、食べ物を発見するとガツガツと食い散らかす上に、飽食すると残飯の上に糞を撒き散らして去っていく。ハルピュイアが登場するエピソードで有名なのが、盲目のピーネウスの逸話。
ピーネウスは元々クレオパトラーとの間に2人の子どもがいたが、イーダイアーという若い女と再婚して前妻との子も連れてきて養育した。しかしイーダイアーは前妻との子を邪魔に思い、夫ピーネウスによからぬことを吹き込んで子ども2人を盲目にしてしまいました。これに神々は激怒した。
まずゼウスがピーネウスを盲目にしてしまった。次いでヘリオスがハルピュイアを使わせて彼の手元から食べ物を奪わせた。
ピーネウスは目が見えず食べ物も食べれず弱っていたが、ボレアースの息子たちの助けを借りてハルピュイアを追っ払って無事に助かったということです。
まとめ
神々の戦いとか言うとハイレベルに聞こえますが、中身を見てみるとだいたい色恋沙汰か嫉妬のもつれ。寝とったとか浮気したとか内容が低俗すぎて「マジかよ」と思っちゃいます。日本の週刊誌も裸足で逃げ出すレベルです。
このようにギリシア神話はしょーもない話ばっか書いてあるので、全然道徳の役には立たないのですが、だから今でも語り継がれるくらい面白いのかもしれませんね。
興味がありましたら一度じっくりご覧になって、3000〜4000年前のキチガイのような色恋沙汰に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。
・ギリシア神話をもっと知る