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現存する世界の「聖剣伝説」

さまざまな伝承・伝説が語り継がれる剣

日本神話に登場する「草薙剣」は、三種の神器の一つに数えられ、王権の正当性を示すアイテムと見なされました。現在でも愛知県の熱田神宮に保管されているとされます。

剣は世界中の国・地域で王権の支配や神からの信託の象徴とされ、神話や伝承で重要な役割を果たします。ものによっては草薙剣のように(真偽は議論があるにせよ)現在まで受け継がれているものもあります。

今回は現存する「伝説の剣」をピックアップします。

 

1. ウォリックのガイの剣

伝説の騎士が怪獣を倒した剣

ウォリックのガイは中世イングランドの物語に出てくる英雄騎士です。

ガイはウォリック伯爵の宮廷に仕える卑しい身分の騎士だったが、伯爵の美しい娘フェリチェと恋に落ちてしまう。しかし結婚するには身分が低く、彼は功を挙げて名を高めようとします。人々を苦しめていた怪獣ダン・カウを退治し、ヨーロッパではドラゴン殺しを含む大冒険を果たして英雄となります。

彼はフェリチェと結婚することができたのですが、彼は過去の暴力に対する自責の念に駆られ、巡礼者となってエルサレムに旅立つ。道中もさらなる冒険に巻き込まれ、人々のために悪を正し、正義を実現する。国に戻ると、デーン人の脅威にさらされていた。彼はデーン人の戦士コルブロンドを壮絶な戦いの末に打ち負かす。その後エイヴォン川のほとりにある庵を訪れ、祈りながら暮らし、死の間際にフェリーチェに再会する。

ウォリック城には、怪獣ダン・カウの肋骨とされる巨大な骨が展示され、ガイのものとされる両手剣も保管されています。ダン・カウの骨は本当はクジラの骨だそうですが、物語はこのようにして現実的に見える形となって歴史の一部になっていくことが分かります。

 

2. プラセーンカンチャイシー

Photo by Heinrich Damm 

タイ「五種の神器」の一つ

プラセーンカンチャイシーは直訳すると「勝利の剣」という意味で、タイ国王を象徴する5つのアイテムのうちの一つです。

刀身の長さは64.5cm、柄を含めると89.8cm。重さは1.3kgで、鞘に納めると長さ101cm、重さ1.9kgになります

この剣には伝説があります。1784年、カンボジアのトンレサップ湖で、漁師が立派な短剣を網にかけたそうです。漁師はこれをシェムリアップの領主チャオプラヤー・アパイプベトに献上したのですが、彼はこれを神聖なものと思い、さらに宗主国タイのラーマ1世に贈ったのだそうです。

この剣がバンコクに到着した瞬間、剣が入った市門や王宮の正門を含む7つの落雷が同時にバンコクを襲ったと言う伝説があります。

戴冠式では、王は高僧から剣を手渡され、自らベルトに装着します。忠誠の誓いの儀式では、国王が剣を聖水に浸しその水を飲み、その後側近や軍人がそれに続いて忠誠を誓います。

 

3. 聖ペテロの剣

新約聖書に登場する聖遺物

新約聖書には、ゲッセマネの丘でイエス・キリストが逮捕された時、弟子の一人が剣を抜いて大祭司の召使の耳を切り落としたという記述があります。

『マルコによる福音書』第14章43節~47節。

そしてすぐ、イエスがまだ話しておられるうちに、十二弟子のひとりのユダが進みよってきた。また祭司長、律法学者、長老たちから送られた群衆も、剣と棒とを持って彼についてきた。

イエスを裏切る者は、あらかじめ彼らに合図をしておいた、「わたしの接吻する者が、その人だ。その人をつかまえて、まちがいなく引っぱって行け」。

彼は来るとすぐ、イエスに近寄り、「先生」と言って接吻した。

人々はイエスに手をかけてつかまえた。

すると、イエスのそばに立っていた者のひとりが、剣を抜いて大祭司の僕に切りかかり、その片耳を切り落した。

この剣の伝説はまだあります。4世紀初頭の聖ゲオルギウス(ジョージ)が、悪の騎士を倒した報酬として魔女からこの剣を授かったという伝説です。この話では聖ゲオルギウスがイギリスのコヴェントリーの出身ということになっているのですが、実際は彼はカッパドキアで活動をした人で、11世紀以降にイギリスの騎士階級に広まったお話のようです。

さてこの聖ペトロの剣ですが、現在はポーランドのポズナン大聖堂に保管されています。

1699年にポズナン大聖堂の大司教がこの剣について、「ヨルダン司教がポズナンに持ち込んだ聖ペテロの剣の一部であり、年に数回人々に見せる以外は、大聖堂の宝庫に保管されていた」と記しています。

オリジナルかどうかは極めて怪しいですが、かなり古いものであることは間違いなさそうです。

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4. シュチェルビェツ

Photo by metal.beast

中世ポーランド王権の象徴

シュチェルビェツは、1320年から1764年までのポーランド王の戴冠式で使われた儀式用の短剣で、中世ポーランド王権の象徴とされました。

この剣には伝説があり、1018年のキエフ継承戦争に介入したポーランド王ボレスラウス1世が持っていて、キーウ(キエフ)入場の際に黄金門にぶつけて刃が欠けたのだ、と言われています。

しかし、キーウに黄金門が建設されたのは1037年でこれは後世の創作だそうで、この剣は実際には12世紀後半から13世紀に作られ、1320年にラディスラウス短命王が戴冠式の剣として使用したのが最初とされています。

1795年にプロイセン軍に略奪され、19世紀には何度も人の手に渡り、1884年にサンクトペテルブルグのエルミタージュ美術館が購入しました。1928年にソ連からポーランドに返還されました。

第二次世界大戦中はカナダに非難し、クラクフに戻ったのは1959年のことです。現在はクラクフのヴァヴェル城の宝物庫に展示されています。

 

5. ウォレスの剣

Photo by Glenn J. Mason

スコットランドの英雄が使用したという伝説のある大剣

ウォレスの剣は現在スターリング城に保管されている剣で、刀身は約1.7メートル、重さは約2.7キロという大剣です。

こんなデカい剣を扱えたのはさぞ巨躯の戦士だっただろうと思うのですが、この剣の持ち物はウィリアム・ウォレスであると言われています。

ウィリアム・ウォレスは13世紀〜14世紀の初期に生きたスコットランドの軍人。スコットランド民衆の反イングランド抵抗運動を組織し、1297年のスターリング・ブリッジの戦いでイングランド軍に大勝。その功績によりスコットランド守護官に任ぜられるも、フォルカークの戦いでイングランド軍に敗れ、その後イングランド軍によって捕らえられロンドンで処刑されました。

バノックバーンの戦いの英雄ロバート1世ブルースと並んで、スコットランド史で有名な愛国の英雄とされます。

伝説では、この大剣はスターリング・ブリッジの戦いでウォレスが実際に使い、1305年8月5日の夜にウォレスがイングランド軍に捕らえられた時にも彼の枕元に置かれていたのだそうです。

ウォレスが処刑された後、彼を裏切ったスコットランド人のダンバートン総督が褒美として授かり、ダンバートン城で保管されてきたとされます。

記録では1505年12月8日、英国王ジェームズ4世の命令により、26シリングがダンバートン総督に渡され、「ウォラスの剣を絹糸で縛り」「新しい柄と柄杓」「新しい鞘とベルト」が支給されました。

その後1888年にダンバートン城からスターリング城に移され、そこにウォレス・モニュメントが設置されました。

これが本当にウォレスのものだったかは現在でも不明です。

 

6. ティソーナ

エル・シッドが使ったとされる大剣

ティソーナは、スペインの叙事詩「我がシッドの物語」によると、英雄エル・シッドが持っていた2本の剣の一つであるそうです。

エル・シッドは本名をロドリーゴ・ディアス・デ・ビバールといい、11世紀後半に活躍した騎士で、イスラム勢力に押されていたイベリア半島にて、バレンシアを取り戻したレコンキスタの英雄として知られます。

ティソーナは長さ93.5センチメートル、重さが1.15キログラムで、中世イベリア半島のキリスト教諸国によく見られた型のデザインです。

「我がシッドの物語」では「Tizón」と呼ばれており、「Tizona」は、中世後期(14世紀)から使われているそうです。剣の刃には「YO SOY LA TIZONA ~ FUE : FECHA ~~ ENLAERA : DE : MILE : QVARENTA」と刻まれており、これが刻まれたのは13世紀か14世紀であると推定されます。しかしこれは「我はティソーナ、1040年に作られた」という意味です。

後代に付け替えられたか、あるいはもともと贋作であるかは未だに議論があります。

ティソーナは長い間ファルセス侯爵家が所有しマルシーリャ城に保管されていましたが、現在はブルゴス美術館に保管されています。

 

7. デュランダル(フランス)

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Work by Patrick Clenet

切れ味と頑丈さを兼ね備えたロランの剣

デュランダルはフランスの叙事詩「ロランの歌」に登場する伝説の武器で、主人公ロランが持つとされます。

もともとデュランダルは天使がシャルル王に授けたものでしたが、ロランはシャルル王から賜ったもので、切れ味が大変鋭いのはもちろん頑丈さも素晴らしい。

ロンスヴァルの谷でピンチに陥ったロラン。デュランダルが敵の手に渡ることを恐れて岩でたたき割ろうとしたところ、岩が砕けてしまったそうです

フランス南部の町ロカマドゥールには伝説があり、ロランがこの土地に逃れてきたときに、デュランダルを隠そうとして壁に投げつけたところ岩を引き裂いて途中で止まった、とのこと。

上記写真のように現在でもデュランダルを見ることができます。

しかしどう見てもレプリカのようです。

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まとめ

偉大な王や戦士が使っていた剣が、年月が経って神聖視され、超常現象や超能力などの尾ひれがついて語られ、さらに神聖性が増していく。そんな大切なものを紛失しては大変なので厳重に保管して衆目に晒されないようにすると、さらに神秘的なものになる。

聖剣伝説というものはそうして生まれるのかなと思います。もしかしたらその途中で偽物に入れ替わってしまった場合もあったかもしれませんし、そもそもそんなものは存在せず、話に語らられていたものを後の人が作ってしまったものもあったかもしれません。

そういう、後の人の営みも含め「聖剣伝説」の伝説たる所以なのだろうと思います。

 

参考サイト

"GUY OF WARWICK: A VERY ENGLISH HERO" OUR WARWICKSHIER

"The royal regalia and their origins" The Nation Thailand

"Royal St. George - Folklore or Fact?" David Nash Ford's Royal Berkshire History

 "Szczerbiec. Co wiemy o najsłynniejszym polskim mieczu?" Onet Podróże

"The Wallace Sword" Clan Wallace Society

"Swords of Cid, Tizona sword and Colada sword" Aceros de Hispania