Image from travelblog.org, DOGON MASK FESTIVAL
素朴で大胆、生命力溢れるアフリカの仮面の世界
アフリカの仮面が好きなのです。
東京近郊でアフリカの仮面の展示会があると絶対に見に行くし、学生時代にエジプトに行った時は古代エジプト芸術はそっちのけで、黒人行商人がカゴにかついで売る仮面に夢中になって、同行人を呆れさせたものです。
何がいいって、生命エネルギー溢れる造形、色使い。味わい深い表情。芸術品として作られているわけではないから、どこまでも素朴・純朴。
洗礼の対極にあると思われがちですが、むしろ無駄なものをとことん削ぎ落として、造形としてこれ以上ない完全なバランスに落ち着いている逸品も少なくありません。
アフリカの仮面の愛好家は世の中に数多くいますが、まだ知らない人も多いかと思うので、これを機会に是非、アフリカの仮面について興味を持っていただきたく、是非おつきあいのほどよろしくお願いします。
1. 仮面とはなにか
仮面というのは世界中そこらにあるように思いますが、実はそうではありません。
日本は世界に冠たる仮面大国でして、縁日でお面屋さんが出るほど仮面がありふれているのですが、これは世界的に見るとかなり珍しい部類に入るのです。
仮面がポピュラーな地域は、日本を含む東アジア、東南アジア、太平洋諸島、西アフリカ、ラテンアメリカ。
キリスト教圏では、貴族の仮面舞踏会のようなものが流行ったりしましたが、文化の主柱を担うことはなかったし、偶像崇拝を排斥するイスラム圏では仮面などあってはならぬものでした。
では、それらの地域でなぜ、何のために仮面が発達したかを見ていきましょう。
1-1. いつから作られたか
地域によって様々で、いつと断定するのは困難ですが、おおよそヒトが狩猟から農耕に移行した頃から始まったと考えられています。
農耕の成功はおおよそ天候や自然現象に支配されたため、豊作と子孫繁栄を祈って、自然崇拝、先祖崇拝、精霊崇拝などの抽象的思考が発展していく。
それと並行して、そのような目に見えない畏怖の対象を「見える化」したのが仮面でありました。
1-2. 何のために作られたか
これも地域によって様々ですが、大雑把にくくると以下の通りです。
- 邪悪な外力の侵入の阻止
- 畏怖による社会の統合
- 神事・舞台・演劇
- 戦争や航海などの安全祈願
- 不幸や禍などから身を守る装飾具
- 死者があの世の行けるための装飾具
1-3. どこで発展したか
例外は多くありますし、結果論でしかないのであまり信憑性がないのですが、
「熱帯雨林地帯」と「ジャングルの海洋地帯」というのが、現在仮面が残っている地域であって、かつ仮面が発達した地域とされています。
仮面の材料となる素材が容易に手に入るし、豊かな自然は多様な側面を人々に見せるため、多くのインスピレーションを与える。その上、奥深すぎてキリスト教やイスラム教などの人工宗教が入ってこなかった地域で、自然崇拝や精霊崇拝が連綿と続いていたところで、原始的な美術が生き残ってきたわけです。
さて、では実際の仮面をもろもろご紹介いたします。
2. キフウエベ族(コンゴ)
コンゴのキフウエベ族の仮面のデザインは、丸い顔と丸い目、中央から貫く長い鼻、下部にざっくり空いた口、というところが特徴です。
非常にシンプルだけど味わい深いを顔をしていると思いませんか?
この仮面は医者がかぶったもので、病は悪魔がもたらすものと考えていたため、病人の体から悪魔を取り除くために仮面を付けて祈祷に当たりました。
Image from Africanart.com
こちらの仮面は、新族長の就任や、VIPの歓迎など、新たな人の到来を告げるときに祝祭の踊りに使われたものです。
Image from Folk Art & Crafts, Virtual Museum,African Mask from the Luba tribe, Zaire
3. ドアラ族(カメルーン)
ドアラ族の神話では羚羊(カモシカ)が重要な役割を果たすため、聖なる動物として崇拝されています。そのため、ドアラ族の祭りや儀式には羚羊を擬人的に表現した仮面が用いられます。意匠は、青、黄、赤の色を幾何学的に配置したもので、高度に洗練された美意識が見て取れます。
Image from wilddogdesign.com
4. アシャンティ人(ガーナ)
これは仮面じゃありませんが、ガーナに居住するアシャンティ人は健康や一族繁栄を願って像を崇拝する習慣があります。
これは小児像で、幼い目鼻立ちと手を広げた姿が健康体であることを表現しています。若い母親はこうした像を作って祈り、子どもの健康と安産を願うのです。
Image from tribalworksgallery
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5. バンバラ人(マリ)
マリに居住するマンデ系バンバラ人のマスクは「ン・トモ」と呼ばれ、儀式の際に踊り子たちがこれを被って踊ります。細長い顔、まん丸の目と口が特徴。上に乗っているのは女性で、全体を支配している様を現しています。
Image from lotus mask&world import
子安貝を顔中にちりばめている高価なものもあります。
Image from zyama.net, TRIBAL AFRICAN ART BAMBARA (BAMANA, BANMANA)
一方、こちらは「チ・ワラ」と呼ばれ主に大地の恵みを感謝し、農作を祈る儀式に使われるもの。性別を分けて表現し、1番左が女性、左から2番目が男性。(右2つは不明ですスイマセン)。
農業を象徴する動物ツチブタの形をしています(ツチブタは地面に掘った土の中で暮らすため)。男性の背中のジグザグは全ての恵みをもたらす太陽の光を現し、尖った頭は子孫繁栄の象徴である男根を象徴します。女性は背中から何か生えてますが、それは子を現しています。おんぶしている様子ですね。
6. ドゴン族(マリ)
マリに住むドゴン族は独特の神話と宗教儀式を持っていることで有名ですが、高度に仮面を発達させたことでもよく知られています。
先祖を讃える祭り「ダマ(damas)」は村ごとに内容が異なり、被る仮面のデザインも異なっており、人々はバリエーション豊かなデザインの仮面を被って踊ります。
その他にも、仮面結社による祭りや氏族を祭る仮面の踊りがあるほか、60年に一度開催されるヘビの仮面を奉納する「シギの祭り」は有名です。
神話に登場する羚羊(カモシカ)を模した意匠がポピュラーです。
Photo from Bryan_T
Image from travelblog.org, DOGON MASK FESTIVAL
Photo by Anthony Pappone
7. バウレ族(コートジボワール)
丸顔と角に特徴があるバウレ族の仮面は彼らの守護神を現したもので、これを被って踊ることで平和な生活を脅かす悪霊を退散させようとします。
角は聖なる動物である水牛を模しており、丸顔と角は共通ですが、デザインは結構バラエティ豊かで、様々な幾何学的な意匠があり高度な美術意識が垣間見えます。
Image from haikudeck.com, AFRICAN MASK
Image from geniue AFRICA, African Masks - Baule Mask 50
8. ダン族(コートジボワール)
コートジボワールに住むダン族は、豊かな音楽と踊りの文化を持っており、冠婚葬祭、戦争、季節の儀式、スポーツイベントなど、あらゆるイベントで音楽と踊りがセットになっています。仮面も重要な役割を果たしており、踊り子が仮面をかぶって踊る他、戦争やスポーツでも仮面を被ることで精霊の力を得られて強くなると信じられています。
この仮面は女性用で、ダン族の最高の美である「唇がポテッと厚ぼったい」女性を表現しています。
Image from lotus mask&world import
この仮面は仮面秘密結社で用いられたもので、踊り子が被るもの。
Image from lotus mask&world import
これは女性が儀式で被って踊るための仮面です。
Image from lotus mask&world import
まとめ
素朴で大胆で、いかにも土の匂いがしそうな原始的なものですが、その中にも高度な美意識が見て取れると思います。
またこれらはアフリカの社会の思想や社会、宗教、自然と密接に結びついており、仮面を見ることでこれら部族の社会構造が見えてきます。
画像じゃなくて実際に生でご覧になったほうが、迫力が全然違います。
大阪の国立民族学博物館では常設展示されていますし、結構頻繁にアフリカの仮面の展示会は巡回してきますので、興味を持たれた方はぜひとも足を運んでみてください!
参考文献:世界の仮面 世界書房 太田南沼