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【まとめ】イザベラ・バードの見た明治日本(東京〜会津)

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明治期の日本を5回訪れたイザベラ・バード

イザベラ・バードはイギリスの女性旅行家。

明治時代の日本を訪れ、その旅行記をまとめた「日本奥地紀行」の著作で有名です。

彼女は日本以外にも、ハワイ、ロッキー山脈、マレー半島、ペルシャ、クルディスタン、朝鮮、中国に関する旅行記を残しています。

その中でも日本は多く訪れていており、都合5回ほど来日。満州や朝鮮、中国への旅のベース基地や夏の静養のために、伊香保温泉や日光湯元温泉に滞在していました。

 

 

 ほとんど変わらない日本の農村

最初の日本滞在から20年を経た日本の進歩を、彼女は目の当たりにしました。

そのため、日本紀行も新版を出していますが、「奥地」の部分はほぼ改編がなされていません。理由は

農村では人々の生活はほとんど変わっていないので、私は紀行文を少しも書き換えずに、そのまま再び刊行する

とあり、日本の農村の姿が20年たってもほとんど変わっていなかったことを示唆しています。

しかしバードは日本の田舎の風景を愛し、その美しさを精彩な文章で現しています。

一方で否定的な描写も多く、偏向の少ない一外国人の見聞録として貴重な書物です。

 

バードの日本旅行の経路

バードは東京を経て北海道まで、約3ヶ月間旅行をしています。

 

東京 → 粕壁(春日部) → 栃木 → 日光 → 会津 → 新潟 → 小国 → 置賜(山形県南部) → 山形 → 新庄 → 横手 → 久保田(秋田) → 青森 → 函館 → 室蘭 → 白老・平取(アイヌ部落) → 函館 → 横浜

 

いろいろな町を訪れていますが、いい印象ばかりではなく、悪い印象をもった町もあったようで、中には悪し様に罵っているところもあります。

天気やそのときのバードの気分など、色々な要素が含まれての印象なので、これが当時の全てではありませんが、「日本奥地紀行」に書かれている、各地の印象や感想をまとめてみました。

長いので、全3回に分けたいと思います。

 

東京

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画像転載元 oldphoto.lb.nagasaki-u.ac.jp/

横浜港に到着したバードは、そのまま記者で東京を目指します。

初めて訪れた東京は、バードにとっては特に感激も感動もなかったらしく、淡々と情景を描写をするにとどまっています。

この肥沃な平野には、百万の人口をもつ都があるばかりでなく、寸尺の土地も鋤を用いて熱心に耕されている。その大部分は米作のために灌漑されており、水流も豊富である。いたることろに村が散在し、灰色の草屋根におわれた灰色の木造の家屋や、ふしぎな曲線を描いた屋根のある灰色の寺が姿を見せている。その全てが家庭的で、生活に適しており、美しい。勤勉な国民の国土である、雑草は一本も見えない。どこでも人間が多いと言う点を除けば、一見したところ何も変わったところはなく、それほど目立つ特色もない

 

粕壁(春日部)

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あまり印象が良くなかったらしいです。旅はまだ始まったばかりだというのに、ノミやシラミだらけの汚い宿屋、ぞっとするほどいやなもののスープの食事(みそ汁)に辟易している様子が描かれています。

こんなことを書いていいものかどうか分からないが、家々はみすぼらしく貧弱でごみごみして汚いものが多かった。悪臭が漂い、人々は醜く、汚らしく貧しい姿であったが、何かみな仕事にはげんでいた。

 

栃木

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画像転載元 oldphoto.lb.nagasaki-u.ac.jp/

日本旅行をやめてしまおうか、と思ったほど最悪だったようです。。

宿屋は汚い上に、日本人客が夜通し騒ぐせいでろくに眠れなかったからです。

六時に栃木という大きな町に着いた。ここは以前に大名の城下町であった。(略)多くの屋根は瓦葺きで、町は、私たちが今まで通過してきた町々よりも、どっしりとしていて美しい姿をしていた。しかし、粕壁から栃木に来ると、事態はさらに悪化した。(略)蚊帳はまったくノミの巣であった。(略)障子は穴だらけで、しばしば、どの穴にも人間の目があるのを見た。(略)夜がふけるつれて、家中のうるさい音がはげしくなり、真に悪魔的となって、一時過ぎまで止まなかった。

 

日光

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画像転載元 oldphoto.lb.nagasaki-u.ac.jp/

今まで通ってきた関東平野が醜い夢に過ぎない、と書くほどその美しさを絶賛しています。日光では金谷さんという、地元の雅楽奏者の家に宿泊してますが、金谷家の雰囲気とともにその人柄についても誉め称えています。

私がいま滞在している家について、どう書いてよいものか私には分からない。これは、美しい日本の田園風景である。家の内も外も、人の目を楽しませてくれぬものは一つもない。宿屋の騒音で苦い目にあった後で、この静寂の中に、音楽的な水の音、鳥の鳴き声を聞くことは、ほんとうに心をすがすがしくさせる。(略)金谷さんの妹は、たいそうやさしくて、上品な感じの女性である。(略)日光は「日の当たる光輝」を意味する。その美しさは全日本の詩歌や芸術に有名である。男体山を主峰とする山々は一年の大半を雪におおわれ、あるいは残雪を点在させているが、人々に神として尊崇されている。すばらしい樹木の森林。人がほとんど足を踏み入れない峡谷や山道。永遠の静寂の中に眠る暗緑色の湖水。250フィートの高さから中禅寺湖の水が落ちる華厳の滝の深い滝壺。霧降の滝の明るい美しさ。大日堂の庭園の魅力。大谷川が上流から奔り流れ出てくる薄暗い山間の壮大さ。つつじ、木蓮の華麗な花。おそらく日本に並ぶものがない豪華な草木も、二人の偉大な将軍の社をとりまく魅力の数々のほんの一部にすぎない。

 

田島(南会津) 

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画像転載元 oldphoto.lb.nagasaki-u.ac.jp/

本を読んでいけば分かりますが、バードは基本的に自然が好きな人で、山々や木々や、そこを通る光の美しさを褒める傾向にあります。そういう点で田島(南会津)は自然の美しさでバードを魅了したようです。

私たちは田島で馬をかえた。ここは、昔、大名が住んでいたところで、日本の町としてはたいそう美しい。この町は下駄、素焼、粗製の漆器や籠を生産し、輸出する。(略)この地方はまことに美しかった。 日を経るごとに景色は良くなり、見晴らしは広々となった。山頂まで森林におおわれた尖った山々が遠くまで連なって見えた。山王峠の頂上から眺めると、連山は夕日の金色の霞につつまれて光り輝き、この世のものとも思えぬ美しさであった

 

 車峠〜津川(西会津)

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画像転載元 oldphoto.lb.nagasaki-u.ac.jp/

同じ会津地方でも、車峠〜津川までの道のりは風景もつまらない、人も野蛮人以下、と糞味噌にやっつけています。同じ文脈で日本人の道徳性さえ貶しているので、よっぽど不快感を感じたのでしょう・・

宝沢と栄山に来ると、この地方の村落の汚さは、最低のどん底に到達しているという感じを受ける。 鶏や犬、馬や人間が焚火の煙で黒くなった小屋の中に一緒に住んでいる。堆肥の山からは水が流れて井戸に入っていた。(略)彼らはあぐらをかいたり、頭を下げてしゃがみこんでいるので、野蛮人と少しも変わらないように見える。彼らの風采や、彼らの生活習慣に慎みの欠けていることは、実にぞっとするほどである。慎みに欠けていると言えば、私がかつて一緒に暮らしたことにある数種の野蛮人と比較すると、非常に見劣りがする。(略)私が日本人と話をかわしたり、いろいろ多くのものを見た結果として、彼らの基本道徳の水準は非常に低いものであり、生活は誠実でもなければ清純でもない、と判断せざるをえない。

 

次回は、新潟〜秋田を旅します。


【まとめ】イザベラ・バードの見た明治日本(新潟〜秋田) - 歴ログ -世界史専門ブログ-

 

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日本奥地紀行 (平凡社ライブラリー)

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