歴史を揺るがす大発見!かと思いきや…
アカデミックの世界で「ガセ」はつきものです。
「つきもの」って言っちゃあ本当はアカンのですが、小保方さんとかゴッド・ハンドとか黄禹錫とか、パッと思いつくだけでもいろいろやらかした人います。
なんでみんな騙されちゃうんだろうと思いますが、発見の衝撃が大きすぎてそれを事実と信じたい意識が働き、小事に目が届かずほら吹きが英雄と祭り上げられていく。そんなかんじでしょうか。
ガセネタは今に始まったことじゃない、というか今はむしろ減ってる方で、昔の発見はは大体ガセだったと思うんですが、その中でもとびきり奇妙なやつをHistory.comの記事より引用で紹介します。
1. ドレイクの真鍮板
ドレイクの「北カリフォルニア領有宣言」が彫られた板
キャプテン・ドレイクと言えば、言わずと知れたエリザベス女王時代のイギリスの私掠船船長。
世界一周の航海をしながらスペイン船を襲ってお宝を分捕りまくり、金銀財宝を満載にしてイギリスに帰還。その後アルマダの海戦でスペインの無敵艦隊を打ち破って一躍イギリス国民のヒーローになりました。
大英帝国のその後の飛躍の基礎を作った人物でもあります。
さて、「ドレイクの真鍮板」は、1936年にアメリカ・北カリフォルニアで見つかった真鍮製の板で、ドレイクが太平洋航行中に当地に上陸した際に彫ったものとされましたが、問題はそこに彫られていた文言。
なんと「この地はイングランドが領有する」と記載されているのです。
ドレイクがアメリカ太平洋岸に到達したのは1577年のこと。当時スペインは1542年に北カリフォルニアの領有を宣言してはいましたがまだ開拓は進んでいない状態。このドレイクの真鍮板の逸話は教科書にも記載され、アメリカ合衆国のカリフォルニア領有が必然性のあるものであることが確認されたのでした。
ところが、1977年にドレイクのカリフォルニア来訪300周年を記念してドレイクの真鍮板の科学的検証を行ったところ、なんとこれが真っ赤な「ガセ」だったことが判明した!
しばらく誰が何のために作ったのか不明でしたが、2003年に調査でカリフォルニア大学の歴史学教授ハーバート・ボルトンが作ったことが判明しました。
この男はドレイクについて研究しており、しかも「ドレイクの真鍮板」を「本物」と断定しカリフォルニア大学図書館に寄贈することを決めた張本人。まったくの自作自演だったのでした。
2. アルカエオラプトル
Photo from National Geographic
ナショナルジオグラフィック誌最大の失態
1999年、ナショナルジオグラフィック誌は中国で発見された「原始的な鳥」の化石についての特集記事を掲載しました。
「羽が原始的な鳥の姿をし、尻尾は恐竜」という、恐竜が鳥に進化したことを裏付ける決定的な証拠であるとされ、アルカエオラプトルと名付けられた化石は業界にセンセーションを巻き起こしました。
ところが数ヶ月後、この化石は「贋作」であることが発覚しました。
経緯はこうです。
中国人の農民がカネのために、それっぽい化石同士をつなぎ合わせて高く売れそうな感じに仕上げた。よほど出来がよかったのか、中国人の化石バイヤー経由でアメリカの博物館に売れ、しかも8万ドルという高価格がついた。その話を聞きつけたナショナルジオグラフィックが大々的に取り上げることになった、というわけです。
ナショナルジオグラフィック誌は後に紙面で「化石はガセ」であったことを読者に謝罪することになってしまいました。
3. サイタフェルネのティアラ
あまりに出来がよかったため贋作にされたティアラ
1896年、パリのルーブリ美術館がロシア人の古物商から「金のティアラ」を購入しました。これは古代ギリシアの植民市オルビアがスキタイの王サイタフェルネに贈ったものとされ、その保存状態の良さから超一級品と目されました。
専門家はこのティアラに彫られていた物語が「イリアス」であることから、偽物の可能性があるとしましたが美術館側は専門家の意見を否定し展示をしていました。
ところがしばらくして学芸員は、このティアラがごく最近ウクライナ・エデッサに住む工芸職人イスラエリ・ローチョムスキーという人物が作ったものであることが発覚。
学芸員はパリにローチョムスキーを招いたところ、彼は「サイタフェルネのティアラ」のレプリカの一部を持っていた。ローチョムスキーは「ワシの作ったものが勝手に古代のものとされて売られ、とんだ風評被害じゃ」と文句を垂れたそうです。
一連の顛末が報じられると、ローチョムスキーの元には仕事が殺到して風評被害どころかビジネスチャンスになったそうですが。
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4. カーディフの巨人
19世紀後半のアメリカを揺るがした大ペテン事件
1869年、ニューヨーク州カーディフにあるウィリアム・ノーウェルの農場の小屋の裏手で人夫たちが井戸掘りをしていたところ、全長3.2メートルもの「巨人のミイラ」が発掘されました。
この巨人は聖書の「創世記」に出てくる巨人であるとされ、神学者や宗教保守派は「聖書の正しさを裏付けた」と熱狂しました。カーディフのノーウェルの農園には人が殺到し、ノーウェルと従兄弟のハルは見物料をとってしこたま儲けたのでした。
専門家は一瞥しただけでこれが「出来の悪い石膏の彫像」だと見抜いていた。
事実、この「化石」はカーディフの従兄弟ハルが石工職人にカネを払って作らせて化石っぽく加工し、後でノーウェルの農園に埋めたものだった!
専門家たちの「ガセ」宣告にも関わらず、人々はこの巨人の化石を見ようと押しかけた。
ところが、後にP.T.バーナムという興行主の男が「第二の巨人の化石」なるものを公開。観客が新たな巨人の出現に大興奮。バーナムの「巨人の化石」には押すな押すなの大行列ができた。
客を奪われたハルは怒り狂い、バーナムに「第二の巨人」の興行を禁止するよう訴訟を起こした。ところが裁判の中で「バーナムの巨人」がガセである証言がいくつも出てきて、これが広くマスコミで報道されたことで「巨人事件」は沈静化したのでした。
5. カラヴェラスの頭蓋骨
誰かのいたずらを大真面目に信じた考古学者
1866年、カリフォルニア州カラヴェラス郡の炭鉱で、「5〜6万年前の猿人」の頭蓋骨が発掘されたと発表されました。
この頭蓋骨は100フィートも地下でほぼ火山層から発掘されたとされ、ハーバード大学の考古学者ジョシア・ウィットニーは、「アメリカにも猿人が存在した証拠」と興奮気味に語りました。
ところが、後にこれは地元の人間がいたずらでやったものだと発表され、ウィットニーはまんまと騙されていたのでした。
後に解析の結果、この頭蓋骨はせいぜい1000年前のものだということが判明したそうです。
6. 「エトルリア人の戦士」の像
Photo from "The Case of the Etruscan Terracotta Warriors in the Metropolitan Museum of Art."
イタリア人がそれっぽく作った古代ローマの像
1915年から21年、ニューヨーク市メトロポリタン博物館は、紀元前5世紀ごろのものと言われる「エトルリア人の戦士の像」を入手しました。
近年イタリアで発掘されたものだとされ、専門家の間にはその真偽に疑問を持つものがいましたが、博物館側は1933年から「エトルリア人の美術品」というコーナーにその像を飾っていました。
ところが1960年代に入って、本格的な科学調査を実施したところ、この像は古代ローマ時代どころか美術館が購入する10年ほど前に作られたことが発覚。
後の調査でイタリア人の贋作家がそれっぽく作ったことが判明しました。博物館は展示を取りやめ、他の美術館に展示されている小さなエトルリア人の像の「写真」を代わりに展示するという情けないことになってしまいました。
7. 「知られざるバスタブの歴史」の記事
後世にまで信じられてるとんでもないジョーク記事
1917年、ニューヨークのイブニング・メール紙のスター記者 H.L.ヘンケンが「忘れられた記念日(A Neglected Anniversary)」というタイトルの記事を発表しました。
この記事によると、今年は「我がアメリカでモダン・バスタブが発明されて75周年」であり、「最初にバスタブを発明したのはシンシナティで、発明したのはアダム・トンプソンという男。ミラルド・フィルモアが大統領のときに初めてホワイトハウスに導入された」。記事は続いて「バスタブに浸かることはアメリカの一部では無法行為とされた。なぜなら当時の医者は入浴は健康に悪いと考えていたからだ」などと続きます。
当然この記事は真っ赤なウソでジョーク記事だったのですが、この話は広く信じられ他紙もヘンケンが書いた「バスタブの歴史」を引用して記事を書いたり、書籍に引用されたり、一部ではまだ信じている人がいるそうです。
記事の全文はこちらから閲覧できます。
まとめ
専門家は疑問を持っていたけど、関係者の意向で無理やり…というケースが多いですが、頭蓋骨のように実際に専門家ですら騙されてしまうこともあるのですね。
炭素年代測定すればすぐにウソは分かるんでしょうけど、測定するにもカネがかかるだろうし、関係者からしたらわざわざカネをかけて真偽を証明するよりは、引き続きお客さんに来てもらってお金を落としてもらったほうがいいに違いない。どうせ素人には分かんねえんだしよ!
…とか言ってしまったらアカデミックの世界は終わりだから、商業的な観点とアカデミズムの良いところのバランスを保っていかねばならんのでしょう。
参考サイト