信頼のある幻想 "通貨"
1万円札の原価って知ってますか?約20円だそうです。
ちなみに1円玉の原価は約2円にもなるそうです。
本来は1円玉を11枚持った方が1万円札よりも価値があるのですが、
市場では11円ではうまい棒が1本しか変えません。
一方で、1万円札があればうまい棒が1000本も買えてしまうのです。
何でこうなっているかと言うと、みんながそれを認めているからです。
本来価値はないのですが、みんなが「そうだ」と認めているから「そう」なのです。
ということで、今回は「は?」と思うけど、その土地ではみんなが「そう」だと言っているから通用する奇妙な通貨を紹介します。
1. 石(ミクロネシア連邦)
Photo by Eric Guinther
海中に沈んでいても「流通」する石のお金
ギャートルズに出てくるような巨大な石のお金は、つい100年ほど前までヤップ島(現ミクロネシア連邦)で使われていました。
30センチから3メートルまでの石でしたが、これは島では算出せず約500キロ離れたパラオ島から運ばれたものでした。
この「持ってくる大変さ」に価値があり、デカければデカいほど高価だったわけです。
この「通貨」の所有者は実際に所有しなくてもよく、この石のお金は島の広場にゴロゴロと置かれていました。この通貨で何か買い物をしても、所有者が変わったことを当事者同士が了承すれば、所有権が移転していました。
100年ほど前に島一番のある老人資産家がいたのですが、誰も彼の石貨を見たことがありませんでした。
というのも、彼の2〜3代前の先祖が巨大な石をパラオで削り出したのですが、途中で嵐にあって海中に沈めてしまった。ただ、それがあまりにも大きかった!という仲間の証言があったので、海中に沈んでいるのにも関わらずその価値が認められ、彼の一族は島一番の資産家になったのです。
2. ポテトマッシャー(カメルーン)
ポテトマッシャーの形をした「鉄の塊」
現在のカメルーン中西部の町バフィアでは、「ポテトマッシャー」が通貨として流通しました。鉄で出来ていて重さは3キロ近く。かなり重い。
「鉄で出来ている」ことに価値があったようで、たまたまそれがポテトマッシャーの形をしていたのか、あるいはバフィアの食文化でポテトが重要な位置を占めていたからかは分かりません。
バフィアの主婦たちはこの重い鉄の塊を何個も持って買い物をしていたようです。それだけで一苦労ですよね。
ポテトマッシャーというより、巨大な釘か杭みたいですね。
3. ヘビ(ガーナ)
高度な鉄の工芸品
ヘビと言っても生きているヘビではなく、「鉄製のヘビの置物」です。
現在のガーナの町・ロビでは、人々は畑仕事で生計をたてていましたが、野には恐ろしいヘビがうじゃうじゃいた。
彼らはそのようなヘビを模した鉄製の置物を作り、自分の畑や縄張りに置いておくことで、まるでヘビが獲物を脅すように、他の人間に「ここは自分のテリトリーだ」と主張したわけです。
この鉄製の置物は製作に技術を要し、工芸的にも大変価値があったため、通貨としても流通しました。
4. 鯨の歯(フィジー)
画像転載元:minpaku.ac.jp
宝石くらい貴重な鯨の歯
フィジーでは鯨の歯は何よりも価値があるものとされ、大きければ大きいほど高価でした。
結婚式や葬式、各種の交渉ごとに交換されるもので、市場に広く流通するものではありませんでした。
鯨はめったに入手できない非常に価値のある資源で、それゆえ現代の感覚で言うと金や宝石のようなものと見なされていたようです。
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5. ナイフ(中国)
当時価値があった刀を模した通貨
古代中国では、刀を模した青銅製の通貨が使われました。
世界史でも習いますね。刀銭というやつです。その他に布を模した布銭というものもありました。刀も布も当時は大変価値があったことが分かります。
また実際に手柄をたてた部下に刀を下賜することもありました。
蛇足ですが、この文化は日本にも受け継がれて長い間、殿から下賜される刀は名誉の証でしたが、中国では「刀を受け取る=それで自殺せよ」という意味に変わってしまいました。
刀銭は周王朝で多く使われましたが、後に運びやすいように真ん中に穴が開いたリング型に変化していきました。
6. パルメザンチーズ(イタリア)
チーズを管理する銀行
日本ではパルメザンチーズとして有名ですが、
イタリア・パルマでは「パルミジャーノ・レッジャーノ」と言います。
このチーズの塊はパルマでは大変価値があり、昔は銀行でお金を借りるときの担保として使われていました。
そのため、パルマの銀行には「チーズ保管場所」があり、その「資産価値」を損ねないように厳重に品質管理されたそうです。
上手に管理すれば価値があがったとかあったのでしょうか?
7. リス(ロシア)
小銭感覚?で使えた小さな毛皮
正確に言うと「リスの毛皮」です。
中世のロシアではリスの毛皮が通貨として広く流通しました。
この小さな毛皮が流通したのはロシアだけでなく、中世ヨーロッパで黒死病が流行した際、ヨーロッパの人々は黒死病を媒介するネズミ目の小動物をことごとく捕えては毛皮にしてしまいました。
その数は市場に流通するのに多すぎず少なすぎずで、当時通貨として通用したそうです。なお、近代ではフィンランドがリスの毛皮を通貨として認めており、1枚3セントほどの価値があったそうです。
リスの毛皮って小さすぎて何かの役に立つようには思えませんが、当時はキツネやテンの毛皮は高値で取引されていましたから、例えリスであっても、毛皮ってだけで価値があったのかもしれません。
まとめ
そういえば、ぼくが小学生のころクラスで「ビー玉」が流通しました。
「丈夫でキレイなやつ」が高値で取引され、例え大きくてもすぐに割れてしまうものは価値が低かった。
ぼくが持っていた濃い青色でちょっとグリーンがかった代物はかなり高値がついて、普通のビー玉20個分くらいの価値はあったように記憶しています。
ビー玉で給食のカレーや「ドラクエバトル鉛筆」が購入できた他、宿題をやってもらったり、昼休みのサッカー陣地を確保に行かせたりできました。
子ども独自の経済圏がそこにはありました。
その感覚をもっと大きなスケールにしたのが上記のような「通貨」で、
モノとスケールが違うだけで、本質的には「ビー玉」だろうが「石」だろうが「紙」だろうが変わらないんですよね。
参考・引用:
10 Strange Forms Of Ancient Currency
金融の世界史 板谷敏彦 新潮社