歴ログ -世界史専門ブログ-

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トルコの一休さん “ナスレッディン・ホジャ”

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トルコのおとぎ話に登場する「とんち和尚」

ナスレッディン・ホジャは、トルコや近隣のチュルク系民族の民話、小説に登場する人物。

機転を効かせたとんちで権力者をやっつけるなど、ユーモアに富んだ笑い話の数々は現在でもトルコ人に人気があります。

ホジャはイスラム教の坊さん(イスラムに僧職はいませんが、コーランを読み聞かせる人はいた)で、我々日本人からすると一休さんを連想させます。

このエントリーでは、トルコの一休さんこと、ホジャの逸話について紹介していきます。

 

 

ホジャはいつの時代に生きたか?

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ホジャの生きた時代がいつかは諸説あり、未だに議論が続いています。

逸話の中にはティムールをやりこめる話がたびたび登場するため、14世紀末〜15世紀半の人物という説がありますが、

近年のトルコの学者によると、ホジャは13世紀、現在のアゼルバイジャンの生まれで、モンゴル軍の侵入によりアナトリア半島に逃げてきたイスラム学者だそうです。

そもそもホジャとはトルコ語で「先生」や「師匠」のようなニュアンスの言葉

フルネームは、「ナスール・ウッディーン・マフムド・アル・コーユィ」と言います。

ホジャの生きた時代は諸説ありますが、共通しているのは、

ホジャのモデルとなった人物の逸話に加え、後年創作された、時の権力者を批判するような笑い話が「ホジャの話」としてどんどん加えられていった、というのが正しいようです。

 

ホジャの笑い話

ホジャの笑い話は星の数ほどもバリエーションがあり、論と理を持って論破するものから、ヤクザまがいの屁理屈で言いくるめるもの、とんちになっているようでなってないものなど様々です。

いくつかをここでご紹介します。

どっちを信じるんじゃ?

ある日、ホジャの隣に住む男が訪ねてきた。

男「先生、悪いんだけど、一日ロバを貸してくれねえかな?隣町まで商品を運ばなくちゃならねえんだ」

ホジャは正直なところその男を信頼できず貸したくなかったが、本音を言うのもなんなので、こう言った。

ホジャ「すまないね、ロバなら他の人に貸しちまったところなんだよ」

と、壁の向こうでホジャのロバが「ボエーーー」と鳴いた。

男「先生、ちょっと待て。いまロバの声が聞こえたぞ、いるじゃないか?」

ホジャは憮然とこう答えた。

「お前さんはこのわしを信じずにロバを信じるというわけかい?わしとロバ、どっちを信じるんだ?」

天国と地獄

スルタン「先生、人間とはいつになったら、アラーの御慈悲によって生まれることも死ぬことも止めさせてもらえるのだろうか」

ホジャ「天国と地獄がいっぱいになる日までじゃよ」

百歳の老人

村一番の金持ちの老人が、百歳で若い娘と結婚したので村の衆は呆れたが、なんと娘に子どもができたので、皆ぶったまげてしまった。

村の衆「先生、百歳で子どもを作るなど可能なんでしょうか?」

ホジャ「近所に若い男が住んでいたら作れんこともなかろうて」

村の衆は納得して帰っていった。

貧乏人の悩み

ある男が思いがけず親類の遺産を手に入れて大金持ちになったものの、悪い仲間と遊びまくって大金を使い果たし、すぐに困窮するようになってしまった。

男「先生、もう私は1ディナールも持っていません。明日からどうしたらいいか悩んでいるんです。何か名案はありませんか?」

ホジャ「気にすることはないさ。お前はすぐにその悩みから解放されるよ」

男「では何か名案があるのでしょうか!?」

ホジャ「お前さんはすぐに貧乏に慣れてしまうということじゃよ」

鍵を探しておくれ

ある晩、若い男が家路を急いでいると、ホジャが家の周辺を行ったり来たりしている。

男「先生、こんな夜中にいったい何をしているんですか?」

ホジャ「ああ、友よ。家の鍵を落としちまってね。ちょいと探すのを手伝ってくれないかい?喫茶店までは手元にあったのは覚えているんじゃが」

男「わかったよ、先生」

男は喫茶店から家までをくまなく探したが見つからない。ふと見ると、ホジャは通りの明かりが灯った周辺をウロウロしている。

男「先生、何でさっきからずっと明かりの周辺のみを探してるんだい?」

ホジャ「明かりがついてない場所はこの老人には探せるもんかい。さあ早く見つけておくれよ」

アラーの存在の証明

ある日、ジャーミィ(モスク)でホジャがアラーの尊さを説教していると、村一番の不信心な男がやってきてこう言った。

男「先生、おれはアラーが存在すると、どうしても信じられないのだがね。どうやって証明するんだ?」

ホジャ「わしは生まれてから70年になるが、一度も自分の思うままの夢が実現したことはない。これが証明じゃよ」

男「どういう意味だい?」

ホジャ「いつでもアラーの思われる通りにしかならなかったということじゃよ」

ティムールの尋問

ティムールがホジャの住む町を征服し、地域の知識人を集めて尋問を行った。

「そちは余を正しいと思うか?それとも悪党と思うか?」

正しいと答えても悪党と答えても、ティムールは死刑を命じた。

とうとうホジャの尋問の番になり、同じ質問をされた。

ホジャ「あんたは正しくも悪くもないわい。あんたはアラーの御心のままに振る舞っているだけで、わしらが長年好き勝手をやってきたので、アラーがそれを懲らしめようと思われたのでしょうな。あんたはアラーから遣わされた災難というわけじゃ」

ティムールは大笑いし、ホジャを許したという。

ティムールの値段

ある日、ティムールとホジャはいっしょに蒸し風呂に入った。

それぞれ下帯1つになった時、ティムールはこう言った。

「余は帝王の中の帝王であるが、もし余に値段がつけられるなら、お前はいくらと値踏みするかな?」

ホジャはじろりと見て答えた。

「まあ、1ディナールが値いっぱいといったところですかな」

「なんだと!この老人め!余の下帯だけでも1ディナールでは買えぬものだぞ!」

「じゃあわしはその下帯だけを買いましょうかの。あんたみたいな大酒飲みの暴君は、買ったところで大赤字ですわい」

ホジャの遺言

ホジャが危篤状態に陥った時、病床を囲む人たちにこう遺言した。

「わしが死んだら、決して新しい墓には入れてくださるな、頼みますぞ」

人々が不思議がって理由を訪ねるとこう答えた。

「罪状あらための天使様に会った時、わしは古びた墓を見せて、とっくに尋問は済んでおります、と申し上げるのじゃ」

 

 

まとめ

なかなかウィットに富んだ、イスラム風のジョークですね。

もし興味がわいた方は、遊牧民族の歴史の権威である護雅夫氏の著書をご覧になってみてください。

ナスレッディン・ホジャ物語―トルコの知恵ばなし (ワイド版東洋文庫 38)

ナスレッディン・ホジャ物語―トルコの知恵ばなし (ワイド版東洋文庫 38)