イザベラ・バードの旅 黒石〜北海道
今回もイザベラ・バードの旅の途中で立ち寄った町々の印象を書いていきます。
前回書いた町は
- 新潟
- 山形
- 新庄
- 湯沢
- 久保田(秋田)
今回は黒石〜平取(北海道)までです。
黒石
宿が清潔であったことと、自然が美しかったこともあり、バードは黒石に比較的よい印象を持ったようです。その時の気分なのでしょうが、必要以上に褒めそやしたり、逆に乱暴に書きなぐったり、読んでいてこうもテンションの落差があるかと驚くほどです。
景色は明るい光を浴びて色彩も鮮やかで、実に美しかった。紺碧色と藍色、緑がかった青色と青みがかった緑色、思いがけない割れ目のところに白い泡のように光るものがあった。素木で家庭的な風景であり、まことに楽しい土地であった。農民の住みいくつかの村を通り過ぎたが、彼らは実に原始的な住居に住んでいる。(略)犬の顔も子どもの顔も、そして大人達の顔も、すべて静かに生活に満足して見えた。これらの百姓たちは多くの良い馬をもち、その作物もすばらしかった。(略)彼らはそれ以上の生活を知らないし現状の生活に満足している。しかし彼らの家は今までみたことがないほどひどいものであり、泥まみれになったエデンの園の素朴な生活といった感じで、毎週1回でも入浴しているだろうかと疑いたくなる。
青森
バードは函館に渡るために青森に立ち寄っていますが、ものの数時間もしないうちに船に乗っているので大した描写はありません。天気が悪かったせいもあり、「灰色の町」という印象しかないようです。
青森は灰色の家屋、灰色の屋根、屋根の上に灰色の石を置いた町である。灰色の砂浜に建てられ、灰色の湾が囲んでいる。青森県の都ではあるが、みじめな外観の町である。(略)この町の特産品は大豆と砂糖で作られるお菓子である。青森は深くて防波の充分によい港があるが、桟橋など貿易上の設備がない。
函館
画像引用元 oldphoto.lb.nagasaki-u.ac.jp
当時の函館は、駒ヶ岳の噴火(1856年)からの20年ほどで、まだ完全に復興しきれていない様子で、全体的に「貧弱でみすぼらしい」という印象を受けたようです。
ここも日本なのであるが、何か異なったところがある。霧が晴れると、一面に緑で包まれた山々ではなくて、裸の峰や火山が現れてくる。火山は、ほんの最近に爆発したもので、赤い灰が昼の太陽の下に燃え、夕日には桃色から紫色に変わってゆく。(略)砂浜が岬と本土とを結んでいるので、ジブラルタルと地形が非常によく似ている。(略)函館を一見しただけで、やはりどこかからどこまでも日本的だと感ずる。街路は非常に広くて清潔だが、家屋は低くてみすぼらしい。この町はあたかも大火からようやく復興したばかりのようにみえる。家屋は燃えやすいマッチも同然である。他の年都市にあるような雄大な瓦屋根は見られない。幅広く風の多いこの町で永久に存続するようなものは、一つもない。
幌別(ほろべつ)
北海道に入ってから、バードのテンションはMAXになります。
地平線の彼方まで続く、手つかずに自然の風景にいちいち感嘆しています。
幌別はそんな中にあるアイヌと日本人の混在の町で、バードは興味深げにアイヌの家屋を観察しています。
山を上って頂上から眺めると、室蘭湾は実に美しい。一般的に言って、日本の沿岸の景色は私が今まで見たうちでもっとも美しい。(略)太平洋の眺め、耕作地のない誰も人の住んでいない沼拓地、森林におおわれた遠くの山々、これらは私が幌別に着くまでの景色の全てであった。幌別は日本人とアイヌ人の混住の村で、海岸近くの砂上に作られている。(略)アイヌ村は実際よりも大きく見える。ほとんどの家が倉をもっているからである。それは木の長い土台棒に支えられて地面から六フィートの高さに上げられている。(略)彼らの家屋は日本人の家と似ていなくて、むしろポリネシア人の家屋と似ているとだけ言っておこう。
白老(しらおい)
気分良く旅を続けることができた上に、宿屋が清潔で、しかも好物の鮭が食べれたことでテンションが上がっている様子です。
私たちは暗くなるころ白老に着いた。ここは海近くにあり、日本人の家が十一戸の村に、アイヌ人五十一戸の村がついている。そこには古風な大きい宿屋がある。しかし、伊藤はたいそうきれいな新しい宿屋を選んでくれていた。(略)その真ん中に伊藤がおり、今新しい鮭の厚い切り身を炭火で焼いているという嬉しいニュースを知らせてくれた。部屋はさっぱりと整理されているし、非常に空腹だったので、魚油皿に灯芯を立てた灯火の下でおいしく食べた。その日いちばん楽しかったことである。
湧別(ゆうべつ)
北海道の大地は、よほどバードを魅了したらしいです。故郷のスコットランドと風景が似ているのか、荒れ果てた荒野を見てひどく感激しています。
八マイル進むと湧別に来た。ここは私の心をひどく魅了したので、もう一度来たいと思う。その魅力は、この土地の持っているものよりも持っていないものにあり、伊藤は、こんなところに二日も滞在したら死んでしまう、と言っている。ここは、荒れ果てた寂しさがこれ以上先にはあるまいと思われるような、地の果てといった感じがする。
平取(びらとり)
アイヌ人の対応や振る舞いはバードの好みにあったようで、日本人より好印象を持ったようです。風景の美しさも相まって、感動がいっそう高まっているのが分かります。
平取はこの地方のアイヌ部落の中で最大のものであり非常に美しい場所にあって、森や山に囲まれている。村は高い台地に立っており、非常に曲がりくねった川がその麓を流れ、上方には森の茂った山があり、これほど寂しいところはないであろう。私たちが部落の中を通っていくと、黄色い犬は吠え、女たちは恥ずかしそうに微笑した。(略)しかし彼らは日本人の場合のように、集まってきたり、じろじろ覗いたりはしない。おそらくは無関心のためであり、知性が欠けているためかもしれない。この三日間、彼らは上品に優しく歓待してくれた。
バードはこのあと、函館に戻り船で横浜に帰港しています。
まとめ
バードの紀行文を見ると、県庁があるような町は奇麗に整えられ、近代的な町並みに生まれ変わっていったようですが、関東からすぐの田舎でもものすごい貧しさがあったようです。バードが初めて日本を訪れて20年立ってからも変わっていなかったよなので、ほとんど田舎は近代化の波から取り残されていったのでしょう。
大川周明や北一輝は、このような圧倒的貧しさの中から身を起こし、貧しい農村の救済を求めて「国家改造」を主張します。昭和に入っても変わらない、農村の貧しさは戦前日本のアキレス腱であり続けたのでしょう。
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