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有名な10枚の「未完の絵」とエピソード

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 完成した作品よりも心惹かれる未完の絵の数々

 当たり前の話ですが、絵は完成して初めて世に出て、売られて、飾られるものです。

ですがどういうわけか、未完の絵にも関わらず、世に出て評価され、高値で売られているものもあります。

 今回はなぜこれらの絵は未完で終わったのかとそのエピソードを見ていきたいと思います。

1. 「東方三博士の礼拝」レオナルド・ダ・ヴィンチ

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飽きっぽいダ・ヴィンチによって途中で放棄された絵 

レオナルド・ダ・ヴィンチはかなり飽きっぽい性格だったようです。

彼の天性の才能は誰もが認めるところでしたが、とにかく筆が遅く、しかも一旦興味を失うといかに大きなプロジェクトでも放棄してしまう。依頼主からしたら相当扱いづらい男でした。

上記の「東方三博士の礼拝」は、イエスの誕生を星の知らせで知った東方三博士が、ベツレヘムのイエスを尋ねて礼拝をする聖書の逸話で、歴代の画家たちによって数多く描かれてきた人気のあるモチーフです。

1481年、スコペトの地にあるサン・ドナート教会に依頼されて絵の作成を始めたダ・ヴィンチ。彼はこれまでの典型のスタイルを大きく逸脱し、いななく馬と恐ろしい形相の人間を背景に入れ、通常は幸せに満ちた絵画であるはずが、何か不安と恐怖を感じる絵に仕上げようとしたようです。

ところがダ・ヴィンチは完成する前にすっかりこの絵の制作に飽きてしまい放棄してしまいました。

研究によると、この絵は第三者の手が加わっており、誰かがダ・ヴィンチが途中で辞めてしまった絵を完成させようとした形跡があることが分かっています。

 

 

2. 「パリ条約」ベンジャミン・ウエスト

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イギリス側が自分たちの姿を描くことを拒否し空白に

1783年、アメリカ独立戦争の講和会議がパリで開かれ、ここで13州の代表団はアメリカ合衆国の独立をイギリスから勝ち得ました。

この歴史的な出来事を記録に残すべく、歴史家のベンジャミン・ウェストが講和会議の模様を絵に描いたのですが、この絵の右側に座ったイギリス側の代表団は、完全な敗北の会談に自分たちが参加している姿が後世に残るのを恥じ、ベンジャミン・ウェストに塗装をすることを認めませんでした。そういうわけで、この絵の右側には何も描かれていません。

この絵はマサチューセッツ州アダムズ国立歴史公園の図書館に飾られています。 

 

 

3. 「フランクリン・ルーズベルトの未完のポートレイト」エリザベス・シュマートフ

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死の直前に描かれた未完の絵 

FDRの愛称で知られるフランクリン・ルーズベルト大統領の最期の姿を描いた未完の絵として、アメリカでは非常に有名な絵です。

この絵は当時最も著名なポートレート画家であったエリザベス・シュマートフが、ジョージア州ウォームスプリングスで休暇中の大統領の姿を描いたもの。

1945年4月12日、ポートレート制作の2日目、大統領を前に座らせ、シューマートフは大統領の顔の輪郭と肩を描いていました。すると突然、ルーズベルトは頭の後ろに激痛を感じ始め、その場で倒れてしまいました。

ベッドに運ばれますが、その3時間後に死亡。突然すぎる死でした。

ルーズベルトの死はアメリカ中を悲しみのどん底に突き落とし、その最期の姿を描いたものということで、この絵は未完でありながらある種物語として完成したものになっています。

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4. 「長首のマドンナ」パルミジャニーノ

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 「細長」に美しさを求めた男パルミジャニーノ

ジローラモ・フランチェスコ・マリア・マッツオーラは、パルマで生まれたためパルミジャニーノという名で知られています。

彼は絵画の美を追求した結果、「誇張した細長」にこそ美があると確信し、その独自のスタイルを追求しました。

彼は1540年に死ぬ前に自身の作品の集大成を飾るべく聖母マリアとイエスを描くのですが、結局彼は自分自身が理想とする美に到達することができずに、未完の絵を残し死亡しました。確かに全体的に、細長いですよね。

実際にこの絵には不完全な箇所がいくつもあり、柱と空は中途半端に描かれているし、右隅には足首のみが描かれています。

 

 

5. 「オスカー・ピストリウスのポートレート」ナタリー・オランダ

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Photo Credit: Natalie Holland 

オスカーが殺人罪で有罪判決を受けたため未完成

南アフリカの「ブレードランナー」として知られるオスカー・ピストリウスは、パラリンピックで6個の金メダルを獲得し、2012年のロンドンオリンピックでは男子400メートルにも出場。一躍世界中のヒーローになりました。

ロシア出身の画家ナタリー・オランダは、ピストリウスの肖像画を描くように依頼され、3枚の肖像画を描きました。ところが、3枚目の肖像画の顔と腕を完成させたその時に、ピストリウスはガールフレンドのリーバ・スタインカンプを銃で撃って殺害したというニュースが流れ世界中を震撼させました。

ピストリウスは殺人罪で有罪判決を受けて6年の実刑判決を受け、ナタリー・オランダは絵を完成することができなくなり、この絵は未完のまま終わってしまいました。

 

 

6. 「ジェームス・ハンター・ブラック・ドラフィティ」アリス・ニール

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Photo from "You Gonna Finish That? What We Can Learn From Artworks In Progress" npr

 謎に満ちた人物ジェームズ・ハンター・ブラックの憂鬱な表情

この絵に登場する男ジェームズ・ハンター・ブラックはベトナム戦争に招集されたばかりの若者で、パッと見ただけで憂鬱で、落ち着きがない状態であることがわかります。その精神状態が、画面でさえ、また顔しか塗っていないにも関わらず、ありありと伝わってきます。なんという強い絵でしょうか。

作者のアリス・ニールは当時は全然売れない画家で、街を歩く一般人を捕まえてはポートレートを描かせてもらっていました。

1965年にたまたま描いたのがこのジェームズ・ハンター・ブラックの肖像画で、途中まで描きますがその表情の力強さに自分でも驚いたニールは、この状態がベストであると判断し、未完の状態でウィットニー美術館に展示しました。この絵は反響を呼び、たちまちニールは名声を獲得したのでした。

ちなみにジェームズ・ハンター・ブラックはその後行方不明になりどうなったか分かっていません。ベトナム戦争の死亡者リストにもその名前がないということです。

 

 

7. 「マラーの死」ジャック=ルイ・ダビド

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マラーをキリストに置き換えて描いた作品

この絵は、フランス革命の指導者の1人マラーの死の姿を描いたもの。

マラーはジャコバン派を率いて、保守のジロンド派を弾圧しますが、持病の皮膚病が悪化し、療養のために一日中バスタブの中に浸かっていました。そんな中、ジロンド派支持者の女シャルロット・コルデーに暗殺されてしまいます。

この絵は未完ですがかなり意図的に描かれており、作者のジャック=ルイ・ダビドはマラーが「酢を染み込ませたターバン」と「鎮静浴」をし療養している様子を描いてはいますが、その肌は病気などないようにツヤツヤとしており、顔には微笑さえ浮かんでいます。

この穏やかに見えるマラーの死は、作者ダビドがマラーを「キリストに置き換えて」描いたもので、まるで英雄のようにマラーを宗教的なアイコンとして描いているのです。

実際にダビドはジャコバン党員であり、ロベスピエールにも協力し一時期は国民公会の議長をも務めています。

 

 

 

8. 「ジョージ・ワシントンのポートレート」ギルバート・スチュアート

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米1ドル札に採用されているジョージ・ワシントンの肖像画

ギルバート・スチュアートは1000人以上のエグゼクティブの人たちを描いてきた、当時のポートレート制作の超一流の画家でした。

ジョージ・ワシントンの妻マルタは、1795年にオーダーした1回目のポートレートが良かったので、1796年に再度オーダーしました。ところがスチュアートは顔と胸上までを描いた後描くのを止めてしまい、代わりに同じ絵を数十枚描いて、それぞれ100ドルで販売しました。苦労して全身を描いて100ドル得るより、同じだけの時間を使って複数の顔の絵を描いて儲けてやろうというわけです。商売人ですね。

ちなみに米1ドルに描かれているワシントンの肖像はこれが元になっているそうで、まんまとスチュアートの戦略はハマったといえそうです。

 

 

 9. 「埋葬」ミケランジェロ(?)

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 ミケランジェロか、その他の誰が描いたのか分からない未完の絵

磔直後にイエスを埋葬する直前を描いたこの絵は、美術史家の間でも論争があります。

いくつかの史家はこの絵をミケランジェロの作品だと主張しますが、これに反対し別の画家の作品だという意見もあります。

反対派の意見によると、この絵が描かれた1500年はミケランジェロはローマのサンタゴスティーノ礼拝でも祭壇画に取り掛かっているはずで、この絵には取り組んでいないはずだ、としています。ミケランジェロが描いたとする人は、あくまでそれは書面上の日付であって、必ずしもそれが守られていたとは限らないと主張しています。

また、反対派はこの絵がミケランジェロらしくなく平坦な視点で描かれており、凡庸な作品といいますが、いやそうではなくこれはミケランジェロによる新たな作風の実験なのだと主張され、まだ決着がついていません。

完成してないので作風の特徴が出ずに、どの画家のものか判断ができないのでしょう。

 

 

10. 「ターニング・ロード」ポール・セザンヌ

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Photo from "Why is an artwork left unfinished?" CHRISTIE'S

 完成したのか完成してないのか分からないセザンヌの絵

セザンヌは絵を描く時に非常にセンシティブで、一筆の間違ったストロークが全部を台無しにしてしまうという恐れから、かなり慎重に色を重ねていく傾向にありました。

特に後期になるとその「ミニマリズム」は進行していき、見たところこれが本当に完成しているのかしてないのか、全くわからないほどでした。

この絵「ターニング・ロード」も白い部分が非常に多く、一見して未完に見えますが、もしかしたらセザンヌ的には「これ以上塗る必要がない」のかったのかもしれません

人によっては、晩年のセザンヌが視力が大変衰え、絵がしっかり見えていなかったのではないかと考えています。

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まとめ

あえて未完のまま放置したもの、完成させたかったが未完に終わったもの、そもそも終わってるかどうかさえ分からないものなど様々です。 

 しかし、普通は未完のままだったら、「いや、これ完成してないから絵としてダメでしょ」というところなのですが、「この絵が未完になっているその背景、それ自体が物語であり、そこに芸術性があるのだ」と言われてしまうので、芸術というものは何だか難しいのね、と多くの人が思ってしまうように思います。

 

 

参考サイト

"Why is an artwork left unfinished?" CHRISTIE'S

"You Gonna Finish That? What We Can Learn From Artworks In Progress" npr

"Art Interrupted: The 5 Most Famous Unfinished Paintings" ART HEAVEN

"Top 10 Fascinating Unfinished Paintings" LISTVERSE