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イギリスのある「インチキ健康博士」の生涯

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稀代の山師ジェームス・グラハム博士

いつでもどこでも、「インチキ健康法」は世にあふれているものです。 

最近だと「水素水」が、怪しげな説明にも関わらずブームになりました。

18世紀にイギリスの特に富裕層を中心にカリスマ健康博士となったのが、今回の主役ジェームス・グラハム。

電気健康法やセ◯クス健康法などの斬新な健康法と巧みな話術で、セレブリティの間でカリスマ的な存在となりました。

健康法で一時代を築いた稀代の山師の生涯です。

 

 

1. 「病気はすべて機械で治せる!」

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ジェームズ・グラハムは1745年、スコットランド・エディンバラの生まれ。

エディンバラの大学の薬学部に学びますが中退。その後「医者」だと称して世界中を放浪しながら身銭を稼ぎ、最終的にアメリカ・フィラデルフィアに落ち着きました。

フィラデルフィア滞在中にジェームズに影響を与えたのは、ベンジャミン・フランクリン。ベンジャミンは実業家であり、政治家であり、また有能な発明家でもあった人物。広く認められているだけでも、「避雷針」「遠近両用眼鏡」「グラスハーモニカ」などを発明しています。それ以外にも様々な機械や発明品を湯水のごとく作りだしていました。

ジェームズはベンジャミンに教えを乞う内に、「機械こそ万病を治療する唯一の手段」と確信するようになったそうです。

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2. 電気健康器具の開発

1775年、ジェームスはロンドンに戻り、健康器具の販売事業を始めました。

それは「電気の力で健康になる」と銘打ち、「電気の流れる王冠」をかぶったり、「電気の流れる王座」に腰をかけることで、万病を直すというもの

メインターゲットは富裕層。ジェームズは得意の「おしゃべり」でいかにこの機械が健康にいいのかをまくしたててかなりの数を売りさばいた。

どれだけ儲けたのかの金額は分かりませんが、相当な大金を手にしたようです。

 

電気健康器具って18世紀からあったんですね。

ぼくが子どもの頃、近所の空き店舗に怪しげな「電気健康器具の即売場」がよくありました。食品を配布してお年寄りを集めて、電気健康法の良さを問いて高額な器具を買わせる詐欺みたいな商法です。充分に売れたのか、2〜3週間ほど経つとだいたいいなくなっていました。こういうのって未だにあるんでしょうか。

グラハム博士は電気健康器具販売の元祖なんでしょう。

 

 

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3. セ◯クス健康法の象徴「テンプル・オブ・ヘルス」

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その資金を元手にして、ジェームスは「テンプル・オブ・ヘルス(健康の聖院)」と名付けられた豪華な健康ランドをオープンしました。

入会料はえらく高額ですが、施設はラグジュアリで奢侈な作りになっていたそうです。優雅な音楽が流れ、芳しい香水が放たれ、来訪者はゆったりとくつろぎながら電気を体に浴びてグラハムの健康に関する講義を聞いたり、薬や電気器具を購入したりできました。

 施設には若く美しい女性がスタッフとして働いており、その中には後にウィリアム・ハミルトン卿と結婚し、ホレーショ・ネルソン提督の恋人になるエマ・リヨンまでいました。

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人々がテンプル・オブ・ヘルスに通った理由は、「天のベッド(Celesital Bed)」に横たわるため。

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このベッドは完全予約制で寝るには一晩50ポンドもの大金が必要。

グラハムは「このベッドを借りた人は子孫が繁栄する」と喧伝しました。すなはち、不妊やインポテンツが治るという触れ込みです。

ベッドには「栄えよ、繁栄し、地上を満たせ(Be fruitful. Multiply and Replenish the Earth)」と句が刻まれており、

このベッドのマットレスは「新鮮な小麦や麦のわら、香油、バラの葉、ラベンダーの花」が混じっており、英国産高級種馬の尾の毛で編まれていました。

予約した男女は電気が流れるベッドに横たわり、良い香りを吸いながら天井に吊り下げられた鏡を見つめる。そうして愛し合うことで不妊治療になるというものです。

 

グラハムは講演の中で「性行為と出産は愛国的行為である」として、人々が健康になり子孫が繁栄することが大英帝国の繁栄につながると説きました。

自慰や売春は非難され、健康的な性交や性器を清潔に保つための冷水洗浄も推奨されました。

  

 

4. 「病気はすべて泥風呂で治せる!」

 テンプル・オブ・ヘルスは大盛況でしたが、収入以上に維持費がかさみ、グラハムは常に借金に追われていました。

維持費を稼ぐべく健康に関する講演を行いますが、次第にこの頃から彼を「胡散臭い山師」とみなす人々が増えていったようです。グラハムは「淫らで卑猥な広告」を出し「ウソだらけの講演」をした罪で告発されてしまいました。最終的に棄却されましたが、とうとう首が回らなくなり、テンプル・オブ・ヘルスは閉鎖に追い込まれてしまいました。

 

絶望の中でグラハムはキリスト教に目覚め、ニュー・エルサレム教会という新教会を立ち上げ(信者は彼1人)、「電気治療」を含む過去の栄光を全て捨てて新たに生まれ変わることを決心しました。

そして新たに開発した健康法が「アース・バス」、直訳すると「地球風呂」。

穴を掘ってその中に裸で入り、泥をかけて入浴すると、生命維持に必要な栄養素を泥から全て吸収でき、万病が治るという触れ込みです。…全然改心しちゃいねえ。

彼はこの理論を実証すべく、自ら泥の中に浸かって2週間ほど数滴の水以外は摂取せずに耐え「まったく飢えも乾きも感じなかった」と証言しました。

 

この頃からグラハムの言動は狂ってきており、通りで貧しい人を見るとその場で衣服を脱いで与えて公衆猥褻で逮捕されたり、奇妙なことを繰り返すようになり、もはや健康の神様グラハムの評判は地に落ちていました。

1794年、グラハムは脳出血で他界しました。49歳でした。

 

 

まとめ 

金儲け目的で「それっぽい」こと言って煙に巻いて金をむしり取る悪質な業者もいますが、純粋に健康の秘訣を追い求めた結果たどり着いたのが「科学的に証明されていない」治療法だという場合もきっとあるでしょう。

今回の主人公であるジェームス・グラハム博士はどっちかよく分かりませんが、「健康法」に命をかけた生涯であったことに間違いはありません。

 

ジェイムズ・グラハムの生涯は、英語の本ですが、Roy Porterの「The Facts of Life: The Creation of Sexual Knowledge in Britain」が詳しいです。

The Facts of Life: The Creation of Sexual Knowledge in Britain, 1650-1950

The Facts of Life: The Creation of Sexual Knowledge in Britain, 1650-1950

 

 

 

参考文献

"Graham’s Celestial Bed" MUSEUM of HOAXES

"Doctor of love: A new book tells the tale of Dr James Graham whose sex clinic scandalised 18th century society" Mail Online

James Graham (sexologist) - Wikipedia, the free encyclopedia

 

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