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テディベアの歴史

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畏敬の対象から愛玩動物へ

熊は古代ヨーロッパでは畏敬の対象でした。戦士は熊の皮を被って戦いにいきパワーを得ようとしたし、家には骨や首などを飾って魔除けとしました。

中世以降は熊は庶民ではサーカスの動物として人気者になり、王侯貴族の間では狩猟の対象として人気となりました。ですが長い間、熊をぬいぐるみやおもちゃなどにする習慣はなく、19世紀以降のことです。

 

1.  セオドア・ルーズベルトの小熊撃ち

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「テディベア」という名前は、アメリカ第26代大統領セオドア・ルーズベルトにちなんだニックネームであることはよく知られています。

1902年の秋、狩猟愛好者であったルーズベルトは、ミシシッピ州の森で熊狩りを行いました。しかし首尾が悪く獲物が得られませんでした。

気を利かせた側近たちは、子熊を放して大統領が撃てるように手はずを整えました。ところがルーズベルトは「そのような無防備な動物を殺すのはスポーツマンらしくない」と言って子熊を哀れみ、森へ帰してやったそうです。

このエピソードが同年11月16日のワシントンポスト紙にて、クリフォード・ベリーマンの人気政治漫画で掲載され、多くの人々に感動を与えました。

「ミシシッピの線引き」と題されたこの漫画は、もともとはミシシッピ州とルイジアナ州の境界紛争を解決しようとする彼の姿勢を示したものでした。またこの漫画では熊は黒熊として描かれたため、黒人に対する大統領の温情的な態度を表すものと解釈され、大統領の人気を勢いづかせることになりました。

この漫画に触発されたニューヨーク州ブルックリンのおもちゃ商店店主モリス・ミットムと彼の妻ローズは、大統領に敬意を表して布製のクマのぬいぐるみを作り、「テディベア」という看板と一緒に店の窓に飾ったところ、先述のエピソードも相まって一躍大ヒットしました。ミットム夫妻はその後、大統領に手紙を書き、大統領の名前を使用する許可を得ました。夫妻はアイデアル社(Ideal Novelty & Toy)という会社を設立し、テディベアの量産を開始しました。

これがテディベアの元祖ということになっています。

ただし「テディベア」という名前は特許があるわけではありません。テディというのはセオドア・ルーズベルトのニックネームで、公的な立場の人であるため、一法人が大統領の名前に対して著作権を得ることは無理だったのかもしれません。

 

2. シュタイフ社のシュタイフ・ベアー

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同時期に、ドイツ・ギーンゲンでもマルガレーテ・シュタイフという女性が熊のぬいぐるみ作りを始めていました。

マルガレーテは幼い頃に小児麻痺にかかり、自立のために17歳の時に裁縫を学んで仕立て屋を始めました。1877年、マーガレットは自分でフェルトの服飾業を始め、自分で作った服や日用品の販売を行うと店は繁盛。何人かのスタッフも雇うことができました。

その後、1879年12月8日付の雑誌 "Modenwelt"(ファッションワールド)で、マルガレーテは小さな象のぬいぐるみの縫製パターンを目にしました。さっそくピンクの象のクッションを作って売り出したところ、子どものおもちゃとして大ヒットしました。この成功をきっかけにマルガレーテは1880年に「マルガレーテ・シュタイフ社」を設立しました。

1897年、マルガレーテの甥であるリチャード・シュタイフが入社しました。彼はシュトゥットガルトの美術学校に通い、イギリスに留学もしていました。

1902年、リチャードは手足が動く世界初の熊のぬいぐるみ「55PB」をデザインしました。このぬいぐるみは座ると手が床につくほど長く、首や手足が動き、ふわふわで触り心地がよいという当時からすると斬新な製品でした。

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Photo by  MatthiasKabel

発売後、すぐにシュバーヴェン地方では評判となっていましたが、もっと売り込むためにリチャードはライプツィヒのおもちゃ見本市に出すことを提案。職人気質のマルガレーテは「こんなものが売れるはずない」と懐疑的だったそうです。

確かに会場のあまり反応はよくなかったそうですが、見物に来ていたアメリカ人商社マンの目に留まり、彼はすぐに商談をまとめて大量に発注。シュタイフベアはアメリカで売り出されると、かねてよりのテディベア人気により飛ぶように売れました。

シュタイフベアも1906年からテディベアとして売り出されるようになりました。

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3. テディベア製造会社の急増

シュタイフ社の成功を受けて、競合他社もテディベアの製造に乗り出しました。

1907年には同じくドイツでハーマン社、1909年にはビンク社がテディベア製造に参入。さらには、イギリスでも1903年にディーンズ社、1906年にJ.Kファーネル社、1920年にチルターン社など、複数の会社が参入しました。

競合は時の国際状況に大きく左右され、第一次世界大戦と第二次世界大戦により、テディベア需要の高いアメリカに対してドイツの会社が輸出をすることが難しくなったため、シュタイフ社を始めとしたドイツ企業が没落し、J.Kファーネル社を始めとしたイギリス企業が勃興しました。

第二次世界大戦後、シュタイフ社、ハーマン社といったドイツのおもちゃ製造会社は廃墟の中からスタートしなくてはなりませんでしたが、ドイツのメーカーはクラフトマンシップによる高品質な製品の製造とブランド化、時代にニーズに合わせた柔軟な製品開発、新たなメディアであるテレビでのテディベアのマスコット化など、あらゆる手を尽くして生き残りを図りました。

多くの競合他社がテディベア製造に乗り出しましたが大半は消えていきました。現在生き残っているメーカーは、アメリカ流の大量生産・ドミナント戦略でマーケットシェアを上げているか、ドイツ流の昔ながらのハンドメイド・高級路線でファンを確実につかんでいるかの二択となっています。現在の主要なブランドは以下の通りです。

 

シュタイフ(STEIFF)

シュタイフ テディベア フィン 40cm 111679(並行輸入) [並行輸入品]

マルガレーテ・シュタイフ以来の伝統を受け継ぐシュタイフ社は現在もテディベア・メーカーのリーディングカンパニーです。すべて職人の手作りで長持ちし、"ずっと「友だち」でいられることを何よりも大切に"している同社のテディベアは多くのファンを抱えています。

 

ハーマン(HERMANN)

ハーマン・テディベア テディ ゴールド 26cm

1907年にドイツで設立された老舗。上質な原料のみを使用し、大量生産をせず、世界全体で200〜500体、多くても1000体までしか作られないそうです。

 

ガンド(GUND)

GUND ガンド パーソナライズミー Tシャツベア メッセージテディベア (ホワイト)

ガンドはアメリカのニュージャージー州エジソンに拠点を構えるぬいぐるみメーカー。創業は1898年ですが、1925年ジェイコブ・スウェドリンに買収され、現在はその孫が経営者です。ウォルトディズニーやカートゥーンネットワークなどの大企業と契約を結び、中国に工場を持ち大規模な製造を行っています。

 

メリーソート(MERRYTHOUGHT)

G5815109 Merrythought シュールズベリー 25cm

1930年創業のイギリスのぬいぐるみメーカー。最高級の素材と伝統的な職人技を売りにしています。

 

バーモント・テディ・ベア(Vermont Teddy Bear)

Vermont Teddy Bear - 15cm Tooth Fairy Pillow

1983年創業のアメリカのブランドで、世界最大のテディベア製造・販売企業です。お祝いのギフトに花を贈る代わりにテディベアを贈りましょう、といったマーケティングプロモーションを行い成功を収めました。

 

ブコウスキー(Bukowski)

Bukowski - Peluche Lapin André© 40x 40cm

 1990年創業のスウェーデンのぬいぐるみメーカー。品質とデザインへの評価が高く、「すべてのクマに本物の個性と魂を与えようと努力を続けています」とのことです。

 

 

4. 愛玩物としてのテディベア

1926年に刊行された童話シリーズ『くまのプーさん(Winnie-the-Pooh)』もテディベア人気に一役買いました。

作者のアラン・A・ミルは、当時幼かった息子クリストファー・ロビン・ミルンのために童話を集めており、息子が持っていたぬいぐるみを登場させる物語を作りました。そしてクリストファーが持っていたテディベアが主人公となったのでした。

プーさんは1920年代から玩具やぬいぐるみといった製品になって人気を博していましたが、1961年にウォルトディズニーによって版権が買われてアニメーションとなり、世界中で人気を博すようになりました。熊のぬいぐるみが愛玩具として世界中で愛されるようになったきっかけとして『くまのプーさん』が果たした役割は非常に大きなものがあります。

また世界中でテディベアが人気が出たのは、テレビや流通網の発達が大きいですが、欧米流のライフスタイルの浸透もあると考えられます。伝統的に欧米では子どもは個室で寝かせられますが、その際にぬいぐるみと一緒に寝ることで1人の寂しさをまぎらわすことができ、ぬいぐるみに深い愛着を抱くようになります。

テディベアに愛着を得て育った人は、子どもをもった際にもテディベアを買い与えます。こうして世代間の愛着の継承が起こっていきます。

住宅の構造や家庭内教育が欧米流に変化し、子どもの自立化を求める傾向が高まったことも、テディベアをはじめとしたぬいぐるみが世界中で定着した理由にあるかもしれません。

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まとめ

ぬいぐるみはUFOキャッチャーの景品にあるような安いものから、今回紹介したような職人の手作業による高級品まで様々あります。

今回あらためて思ったのですが、確かに良い品物は可愛いし、長持ちするし、とても良いものです。大人でもちょっと欲しいなと思いました。しかし、それが子どもにプレゼントした時に気に入ってもらえるかどうか分からないのがなかなか踏ん切りがつかないところです。

 

参考文献・サイト

モノが語るドイツ精神 (新潮選書) 浜本隆志 2005年9月20日発行

"Who Invented the Teddy Bear?" HISTORY UPDATED:JAN 14, 2020ORIGINAL:AUG 20, 2014

 "The History of the Teddy Bear: From Wet and Angry to Soft and Cuddly" Smithonian Magazine

Company history - Steiff.com