歴ログ -世界史専門ブログ-

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国の擬人化キャラクターの女の子13名

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最も美しい国の擬人化キャラはどれだ

自分の国に特徴的なキャラクターを設定してカリカチュアに描くことがあります。

日本だとサムライの姿で描かれたりしますが、名前やビジュアルに固有のものがあるわけではありません。

特にアメリカとヨーロッパの国に多いんですが、自分たちの国の歴史や文化、国土を擬人化し名前をつけて表現し、しかも美しく若い女性の姿として描きます。今回はそのような「美人キャラ」をピックアップしてみます。

1. バラート・マタ(インド)

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Photo by Gautam Beera

ヒンドゥー・ナショナリズムを神の形に現したもの

バラート・マタはインドの国土の女神とされており、通常インドの国旗を手に持ち、側には獅子が控えています。その顔はヒンドゥーの神ドゥルガーやパールヴァティと類似しています。

バラート・マタの起源は19世紀末、反英・インド独立の機運の中で創られた文学や演劇・詩にあります。その内容は、可憐な女性バラート・マタが活躍し最終的に暴君で象徴されるイギリスが敗北するというものです。バラート・マタはヒンドゥー・ナショナリズムの象徴となり、ヒンドゥーの女神のように人々に崇拝されています。

 

2. マリアンヌ(フランス)

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別名を自由の女神、フランスを象徴する存在

このリストの中でも最も有名ではないかと思います。ドラクロワの名画「民衆を導く自由の女神」に代表されるように、フランスの「自由・平等・友愛」を象徴する存在です。

1789年のフランス革命前までは、フランス王権は男性的・家父的なモチーフで描かれましたが、アンシャン・レジームを打破する象徴としてフリジア帽を被った若い女性が描かれるようになりました。マリアンヌという名前は当時のフランスの庶民女性にありふれたもので、「普通の女性」が共和国の象徴であるということが、フランス人がマリアンヌを誇り革命以降も、時代によってアジャストされていきながらも、このキャラクターを使い続ける所以であると思います。

 

3. エフィージー・ダ・リパブリカ(ポルトガル&ブラジル)

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ポルトガルとブラジルの共和国の象徴

エフィージーはポルトガルとブラジルが王政から共和制に移行した際に重要なシンボルとなりました。

1889年にブラジルで帝政が倒され共和制が成立した後、フランスの「自由の女神」ことマリアンヌにインスパイアされ、共和国の印刷物やコインに使用されるようになりました。

 一方ポルトガルでは、元々共和党員のシンボルでしたが1910年に共和制が成立した後にエフィージーのコインや彫刻が作られるようになりました。

ただしフランスのマリアンヌのように人気があるわけではなく、現在はあまり使われることはないようです。

 

4. ゲルマニア(ドイツ)

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質実剛健なゲルマン民族の象徴

ゲルマニアのモデルは、古代ゲルマニアのケルスキ族の王子セゲステスの娘で、トイトブルグ森の戦いでプブリウス・クィンクティリウス・ウァルス率いるローマ軍を殲滅したアルミニウスの妻トゥスネルダであるそうです。

怒り狂ったローマは、将軍ゲルマニクスによる遠征軍を送り、彼女はローマ軍に捕らえられローマでの凱旋式の見世物にされました。トゥスネルダはアルミニウスを思い続け、ローマ人とは再婚せずに彼との間に生まれた息子を慈しんだと言われています。

ドイツ人にとってトゥスネルダは民族の誇りであり、ゲルマン民族の貞潔の象徴となり、時代を通して描かれましたが特に19世紀に統一ドイツ帝国が成立してから盛んに描かれるようになりました。フランスを象徴するマリアンヌは服がはだけてエロチックで、「自由・平等・友愛」を現しますが、ドイツを象徴するゲルマニアは「伝統・家族・貞節」を象徴する存在となりました。

 

5. ブリタニア(イギリス)

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Photo by Mageslayer99

7つの海を支配しようとするイギリスを象徴する女神

イギリスを象徴する女神ブリタニアは、海の神ポセイドンが持つ三叉の槍を手に持ち、頭にはコリント式の兜を被っています。

この意匠は2世紀にローマ帝国がブリテン島の一部を支配下に置いたときから始まっており、ブリテン島の女神ブリタニアの歴史はかなり長いものがあります。

ブリタニアが本やポスターなど様々な出版物に登場しだすのは16世紀のエリザベス1世の頃からで、新興海洋国として世界の海の支配に乗り出そうとしていた時代でした。おそらく衣装は時代によって色々変わっているのでしょうが、そのような時代のイギリスの姿勢とこのイメージはピッタリですね。

 

6. ジーランディア(ニュージーランド)

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「ブリタニアの娘」という設定

ニュージーランドを象徴する女神「ジーランディア」は、ここまで見てきたよくある女神様の姿をしており、20世紀前半から郵便切手、ポスター、漫画、戦争記念館、ニュージーランド政府の出版物に登場するようになりました。

ジーランディアはイギリスを象徴する女神「ブリタニアの娘」という設定らしく、国民に大英帝国の一翼としての存在感を与えると同時に、若い国家に伝統的な意匠を設定して国民としてもプライドを高めようとしました。

髪は金髪の場合と黒髪の場合と両方あるようですが、衣装はローブをまとった女神の姿で、クラシックな白人美女です。

 

7. メリータ(マルタ)

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 マルタ版ブリタニア

地中海の小国・マルタ島には、イギリスのブリタニアとそっくりのキャラクター「メリータ」がいます。ブリタニアは三叉の槍を持ちますが、メリータはランスか剣を持ちます。

メリータの名前は元々、ローマ時代のマルタ島の中心都市の名前で、イスラム支配時にメディーナという名前に変化しました。マルタ島は16世紀以降にマルタ騎士団によって支配されましたが、18世紀にナポレオンに占領された後にイギリス領となっており、その流れでブリタニアに似たキャラクターができたと思われます。

さて1899年2月に切手に印刷されたのが始まりで、その後切手やポスターを中心に描かれました。

 

8. デイム・ウェールズ(ウェールズ)

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ジョン・ブルに立ち向かうウェールズのおばさん 

ウェールズの風刺漫画家、ジョセフ・スタニフォース(Joseph Staniforth)がイングランドに立ち向かうウェールズの民衆の象徴として描いたのが、ウェールズの民族衣装を着た中年女性デイム・ウェールズ(Dame Wales)。

スタニフォースが描くカリカチュアには、イングランドを象徴するキャラクター、ジョン・ブルの横暴に粗野な労働者の言葉で小気味よく突っ込むウェールズの庶民が描かれました。

 

9. ヘルヴェティア(スイス)

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連邦国・スイスを象徴する女神

 ヘルヴェティアという名は元々、この地に住んだケルト人ヘルヴェティイ族に由来し、ローマ帝国支配時代にはヘルヴェティア属州が置かれました。現在のスイスの名前はスイス連邦ですが、別名をヘルヴェティア連邦とも言います。

 16世紀ごろはスイス国家を象徴するキャラクターは「牡牛」が一般的でしたが、17世紀ごろから女性で表現されるようになりました。ヘルヴェティアは長槍と十字の盾を持ちます。

 

10. ダッチ・メイデン(オランダ)

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オランダの自由の象徴 

ダッチ・メイデンはローマ風の服を着た少女で、通常ライオンをパートナーに描かれます。

17世紀の反スペインの反乱の中で、オランダの各州を統合する象徴として少女が描かれるようになり、1694年5月にホラント州とウェストフリースラント州が導入した連邦州の統一コインでは、槍を持った少女が聖書が置かれた祭壇にもたれかかっているデザインを採用しました。

ナポレオン戦争中に短期間成立したバタヴィア共和国の国旗には、槍と盾を持つ少女とライオンの姿が描かれました。

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 1815年にオランダ王国が成立して以降も、ダッチ・メイデンはオランダ統一のシンボルとして描かれています。

 

11. フィニッシュ・メイデン(フィンランド)

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フィンランド国家統合の象徴の乙女

 フィニッシュ・メイデンは19世紀以降にフィンランド国家の象徴となったキャラクターで、当初は成熟した女性の姿で描かれましたが、徐々に20代半ばの若い女性で描かれるようになっていきました。金髪碧眼で白い服を着て、裸足で描かれるのが一般的。フィンランドの旗を持っているか、あるいは青と白の服を着ている場合もあります。

フィンランドの国土を模して女性型に描くこともあります。

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Work by Jniemenmaa

 

12. コソヴォ・メイデン(セルビア)

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セルビアの叙事詩に登場する若い女性

コソヴォ・メイデンはセルビア人の民族的な叙事詩「The Maiden of Kosovo」に登場する女性です。

セルビア王国がオスマン帝国に大敗したコソボの戦いを歌ったもので、女性の婚約者は兵士として戦いに赴いた。女性は夫を探して戦場をさまよい、負傷したセルビア兵に水、ワイン、パンを与えて命を救う。しかし彼女は婚約者ミラノ・トプリカとその兄弟ミロシュ・オビリッチとイワン・コザンチッチが死んだことを知るのでした。

叙事詩の全文はこちらからご覧ください。

Serbian Epic Poetry : The Maiden of Kossovo

この詩はセルビア民族にとって大切なもので、登場する女性を慈愛と悲劇の象徴として彫刻や絵などに描いたのでした。

 

13. イタリア・トゥッリタ(イタリア)

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帝政ローマ初期からの長い伝統のあるキャラクター

 イタリアを象徴する女性「イタリア・トゥッリタ」が最初に登場するのは、ローマ初代皇帝アウグストゥスが鋳造したコインに描かれた女性だと言われています。

トラヤヌス帝の時代にアーチなど建造物にも女性が刻まれるようになり、また時代を経て様々なファッションに身を包んだ美しい女性がコインに描かれるのが通例となりました。このようなローマ時代の伝統は中世イタリア半島にも受け継がれ、建造物や銅像となりました。中世のイタリア・トゥッリタは王冠を手にしていることが多く、これは王権と都市の歴史を象徴しました。また別の場所ではトウモロコシを持つ場合もあり、これは農業の肥沃さを象徴しています。

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20世紀の全体主義の次代には、ローマ時代に要人の護衛リクトルが使った木の束「ファスケス」が描かれました。

 

まとめ

お気に入りのキャラクターは見つかりましたでしょうか?単に見た目だけでなく、その背景も理解すると楽しいですね。

個人的には、フィンランドの「フニッシュ・メイデン」がお気に入りです。国の形を女性の形状に例えるなんて言う発想が昔からあったって身近に感じて素敵です。

妖艶さでいうと、イタリア・トゥッリタ最強です。

 

参考サイト

"History lesson: How 'Bharat Mata' became the code word for a theocratic Hindu state" Scrollin

"Germania Briefmarken"

"JOURNAL ARTICLE Britannia and Melita: Pseudomorphic Sisters"Derk Kinnane-Roelofsma

"Dame Wales" Public Domain Super Heros 

Efígie da República - Wikipedia, la enciclopedia libre

" Ah, Zealandia -- what has become of thee?" Timespanner

Marianne - Wikipedia

Helvetia - Wikipedia

Britannia - Wikipedia

Italia turrita - Wikipedia