歴ログ -世界史専門ブログ-

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ユダヤ・キリスト教の悪魔たち20体【前編】

 

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デビル、サタン、デーモン

デビルマンとか、ミスター・サタンとか、デーモン小暮とか。

特にエンタメやアニメ、ゲーム関連で悪魔の名前は馴染みがありますが、

実際どんな悪魔が存在するのか知っていますか?

ぼく自身まったく知らなかったので、「悪魔学」の本を買って調べてみました。

このエントリーでは、そこで学んだユダヤ・キリスト教の悪魔たちを紹介します。

20体もいたので、全3回に分けることにします。

 

 

悪魔概論

本編に入る前にまずは、悪魔とは何かを説明したいと思います。

悪魔とは何か

悪魔とは一言で言い表すと「この世の悪の人格化」です。

一神教のキリスト教では、この世界は絶対的善の神によって導かれているのですが、

そうなるとこの世になぜ悪がはびこっているのか説明ができません。

そこで、悪徳や退廃が起こる原因を悪魔のせいにして、唯一神の完全性を守ろうとしました

それは同時に宗教的権威や正当性を守ることでもありました。

何でたくさんの悪魔がいるのか

善の神が1人なら、じゃあ悪魔も1人でいいじゃんって思いますが、何でたくさんいるんでしょうか。

いくつか理由があって、まずは1つ目。

旧約聖書や新約聖書には異教の神がたくさん登場しますが、後世の聖書研究者はそれを総じて悪魔と断罪して悪徳や退廃の原因とした。

2つ目。

旧来の宗教を捨ててキリスト教に帰依した人たちが、旧権威を否定するために前に崇拝していた神様を悪魔にしてしまった

3つめ。

聖書を解釈するときに出てくる矛盾点や意味不明点を説明するのに、悪魔のせいにするのが簡単だった

というところが、悪魔がたくさんいる理由と言えると思います。

では、実際の悪魔たちを紹介していきます。

 

1. 魔王・サタン

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 神の力に匹敵する力を持った大魔王

サタンは全ての悪魔を統括する、悪魔の大親分的な存在。 

配下の悪魔はいっぱいいてそれぞれ悪さをしているから、つまるところ、

この世の全ての悪の責任はサタンにある、ということになります。 

サタンの能力は神にも匹敵し、この世が終わるまでサタン悪の軍団を引き連れ、神の天使たちと飽くなき戦闘を続けているそうです。

元は神様の小間使い

旧約聖書では、人間に不幸をもたらす神様の小間使いにすぎませんでしが、

新約聖書ができるまでの間に書かれた文書で、悪の権化として表現されるようになってしまいました。

 

2. 堕天使・ルシファー

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 元・エリート天使の悪魔

ルシファーは元々は神様の配下にいた、最高の天使の1人でした。

しかし自らの力を過信し、傲慢な振る舞いをしたため神様によって天上から追放され、悪魔になったとされます。

旧約聖書のとある表現が悪魔に

旧約聖書イザヤ伝14章12節に、 

ああ、お前は天から落ちた、明けの明星・曙の子よ

お前は地に投げ落とされた、もろもろの国を倒した者よ

 という表現があり、実はこれは時の権力者を暗喩するものだったのですが、

後にこれは「天使の堕天」を意味すると解釈され、色々と尾ひれがついて、悪魔ルシファーとなってしまいました。

 

3. 堕天使・アゼザル

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この世に悪徳をもたらした悪魔

 「エチオピア語エノク書」の中でアザゼルは、

神の命令で地上に降りて、人間を指導する天使だったのですが、

何を思ったか人間と結婚し、 天使の知識や技術を人間に教えて周ります。

男には武器、女には化粧を教えたころ、男たちは互いに殺し合い、女たちは男をたぶらかすように。純朴だった人間は、悪に染まってしまいます。

元々は砂漠の神様

元は、ユダヤ人がまだ多神教だったころの砂漠の神様の1人だったのですが、

ユダヤ教が成立し、ヤハウェが唯一神として君臨して以降、この世の悪徳の原因すべてを負わされたのがアゼザルだったそうです。

かわいそうに。

 

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4. 魔王・マステマ

神のお墨付きを貰って悪いことをしている

 神様が悪魔たちの悪行三昧に腹を据えかね、フルパワーで全員地獄へ突き落とそうとしたことがありました。

 あせったマステマは神様に言います。

主よ、創造主よ。彼らのうち何人かはわたしに残してください。わたしのいうことを聞かせ、わたしが彼らの命ずることをすべて行わせたいのです。…(中略)…彼らはわたしの決定に従って人間を堕落させたり、迷わせたりするのが役目です

そこで神様は、1/10ほどをマステマに預け、残りを全て地獄へ突き落としました。

マステマは神様からのお墨付きをもらったので、自由に悪行を行った、とのことです。

 

5. 闇の天使・ベリアル

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サタンと同等の悪の力の持ち主 

 ユダヤ教の一派エッセネ派は、ペルシアのゾロアスター教の「善と悪による最終戦争」の物語に影響を受け、それを自分たちの教えに取り入れます。

 それによると、ユダヤの神ヤハウェは、この世界に光の道と闇の道という2つの道を作った。

そして、世界はこの2つのうちどちからを選ばなくてはならず、2陣営は世界の終わりの瞬間まで、互いに争いを続けるのだそうです。

その、闇の陣営を率いるのがベリアル。

ベリアルは、闇の天使と人間を率い、天使ミカエルが率いる光の軍と戦い、最終的に敗れてしまい、この世には光の世界が訪れるそうです。

 

6. 蠅の王・ベルゼブブ

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 サタンと同一視される悪霊の支配者

「ソロモン王の遺言」 や新約聖書外伝「ニコデモ福音書」に、

悪霊の支配者や地獄の王として登場し、しばしサタンと同一視されます。

17世紀のミルトンの「失楽園」では、サタンの次席の悪魔として登場。

蠅は病気をもたらす存在で、イコール災いをもたらすと考えられました。

元々は「至高の王」

元々ベルゼブブは、カナン地方にあったペリシテ人に祀られていた至高の王「バアル・ゼブル」という名前でした。 

ところがユダヤ教が普及した後、「ゼブル」を「ゼブブ」=「蠅」と言い換えて、悪魔にしてしまいました。ほとんどダジャレですね。

 

 

繫ぎ

前編終わりです。

もともと普通の神様だったり、天使だったり、小悪党だったりしたのに、

人間の都合で極悪非道に仕立て上げられてしまってます。

旧権力の否定を庶民に分かりやすく表現したり、聖書の不明点を悪魔のせいにして、

それが独り歩きしてしまった結果なんでしょうね。

このシリーズあと2回続けます。

中編



・関連書籍

悪魔と悪魔学の事典

悪魔と悪魔学の事典

 

 

 

 

参考資料:「悪魔学」草野巧著 新紀元社