奥深い悪魔の世界
前編では悪魔とは何か、そして何でたくさんの悪魔がいるのかと、悪魔の幹部的な6体を紹介しました。
- 魔王・サタン
- 堕天使・ルシファー
- 堕天使・アゼザル
- 魔王・マステマ
- 闇の天使・ベリアル
- 蠅の王・ベルゼブブ
今回は中編の7体です。それではどうぞ。
7. 好色の悪魔・アスモデウス
若い女に取り憑く悪魔
アスモデウスは新婚の女に取り憑き、男女の仲を引き裂いてもてあそぶ悪魔。
2世紀頃に成立した「トビト書」に逸話があります。
あるところに、若く美しいサラという娘がいた。サラは7人の男に嫁いだが、7人とも初夜を迎える前に死んでしまった。
実はサラにはアスモデウスが取り憑いており、彼女を不幸にしようとしていたのだ。
次に婿になったのは、トビトという若者。トビトには大天使ラファエルの庇護があった。ラファエルの助言の元、まずは香をたき、魚の心臓と肝臓をいぶした煙をサラにかけた。
すると、アスモデウスがたまらずサラの体内から逃げ出してきた。すかさずラファエルはアスモデウスを捕まえ、縛り上げた。
元々、アスモデウスはゾロアスター教の悪神・アーリマンに仕える7人の大悪魔の1人「アエーシュマ」で、それがパレスチナに伝来して好色の悪魔となったそうです。
8. 毒の天使・サマエル
アダムとイブに禁断の果実を進めた悪魔
一般的に、アダムとイブに禁断の果実(リンゴ)を勧めたのは蛇ということになっています。 ところが、新約聖書外伝「ギリシア語バルク黙示録」によると、エデンの園にあったのはブドウの木で、それを植えたのがサマエルらしいのです。
サマエルはブドウからワインを作りアダムとイブに飲ませ、そのことで神の怒りに触れたサマエルは悪魔となり、アダムとイブも楽園を追放されてしまいました。
どんな姿に化けられる冥界の王
3世紀ころのユダヤ教の伝説によると、悪魔=サマエルと呼ばれることも多くなり、
当時の物語によると、12枚の翼を持ち、全身に目があり、どんな姿にも化けられる冥界の王なのだそうです。
9. イナゴの王・アバドン
この世の終わりに地上に現れる恐怖の悪魔
「ヨハネの黙示録」には、この世の終わりの瞬間、天から星が落ちてきて大地に落ちて巨大な穴が開き、そこからイナゴの大群が吹き出してくる、とあります。
そのイナゴこそアバドンで、顔は人間で長髪、身体は馬、頭には冠をつけ、戦車のような羽音をたてて飛び、サソリの毒尾を使って人々を殺しまくるそうです。
元々は地獄のことを指していた
アバドンとは元々ヘブライ語のabad(彼は殺した)に由来しており、
「滅びの国」や「冥界」「地獄」という言葉を指す時に使われた普通名詞でした。
ヨハネの黙示録の作者がその言葉をもじって、アバドンというキャラクターを作ってしまったようです。
発想はほとんど、東映の怪獣映画のそれですね。
10. ドラゴン
サタンとも同一視される怪獣
「ヨハネの黙示録」にはこうあります。12章7〜9節。
さて、天で戦いが起こった。ミカエルとその使いたちが、竜に戦いを挑んだのである。竜とその使いたちも応戦したが、勝てなかった。そして、もはや天には彼らの居場所が無くなった。この巨大な竜、年を経たヘビ、悪魔とかサタンとか呼ばれるもの、全人類を惑わす者は、投げ落とされた
竜=ヘビ=サタン=悪魔がほとんど同一視されています。それぞれの土地や流派で悪魔のイメージが違ったから、こういう書き方をしてるんでしょう。
古代から悪の象徴だった
悪の象徴としてはサタンよりも歴史が古く、バビロニア帝国や古代ギリシアでも悪の権化として恐れられ、特に洪水や嵐、暴雨などの水害は竜の仕業とされました。
そう言えば日本でも、水神と言えば竜ですよね。神社の手水舎には、竜の口から水が流れていることも多いです。きっと、ペルシア→インド→中国を経て伝わったものなのでしょう。
11. 黙示録の獣
サタンの代理人として地上を支配する怪獣
「ヨハネの黙示録」に、世界の終末の際に「10本の角と7つの頭を持った獣」がサタンの代理人として地上を42ヶ月に渡って支配する、とあります。
獣の身体は豹に似ており、足は熊、口は獅子のようで、神を冒涜する「666」という数字が刻印されているそうです。
「怪獣」の代名詞
英語で「The Beast」はこの黙示録の獣のことを指すため、一般的に怪獣の代名詞となっています。
黙示録では、この獣の子分的な「第二の獣」なるものの登場し、人々を騙して獣を崇拝させるのだそうです。
今みたいにメディアがなくて、一生自分の生まれた村から出ないような時代、人々は為政者や指導者がどんな姿形をしていたか想像すらできなかったでしょうから、「キリスト教を否定する勢力」を悪辣で醜いものとして、ビジュアル的に分かりやすく言い換えたのでしょう。
12. 偽救世者・アンチキリスト
救世主を騙るダークサイドのキリスト
キリスト教の終末論によると、
この世界が終わる時に、人間界に「救世主」を名乗るキリストの偽物が現れ、異端者・異教徒・不信心者を集めて神に挑戦するそうです。
この偽物こそ、サタンが受肉した人間界のダークサイドで、神が受肉したキリストと敵対する人間です。
ぼくは子どもの頃、特撮ヒーローものが好きだったのですが当時、悪の組織が遣わせたレッドの偽物が現れて、ブルーとかイエローがたぶらかされてしまう、などどいったストーリーがあったように思います。今もあるんでしょうか。
子ども向けの話にも結構、こういうキリスト教の逸話が盛り込まれているのですよね。
13. 女悪魔・リリト
アダムの前妻
リリトはアダムと一緒に土から想像されたが、二人の生活、特に性生活はうまくいかなかったそうです。そのためリリトは紅海まで逃げ、その後悪魔サタンの妻となりました。カバラの伝承では、リリトの上半身は人間ですが下半身はヘビの形をしているそうです。
創世記の記述ミスから生まれた
旧約聖書の「創世記」の第一章には、「神は土から男女を作った」とありますが、
第二章には「アダムの肋骨から女を作った」と書かれちゃってます。
この矛盾を埋めるために、イブの前に実は最初に作られた女がいて、逃げちゃったのでしょうがなく新しく女を作った、という補足のストーリーが生まれました。
繫ぎ
このシリーズ、あともう一回続きます。
いろんな人たちが状況に応じて書き繋ぎ、
自説を説明するためのストーリーを作り上げ、
生じた矛盾を埋める継ぎはぎのお話を作って、
という感じで、雪ダルマ式に大きくなっていったのでしょうね。
ユダヤ・キリスト教の悪魔たち20体【後編】 - 歴ログ -世界史専門ブログ-
参考資料:「悪魔学」草野巧著 新紀元社