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処刑のプロ・有名な「死刑執行人」

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 処刑という「特殊技能」

昔から死刑執行人になるのは身分が低い人物が多かったそうです。

直接手を下すため血を直接浴びるというのもありますし、呪いや穢れといった観念的な恐怖も強かったので、みんなやりたくない職業であったのは間違いありません。

執行人の職が代々世襲で受け継がれることも多く、後に出てきますがフランスのサンソン家など王に召し抱えられて専門的に処刑を担当しました。言わば処刑は「特殊技能」でもあったわけです。

電気椅子やギロチンが出現すると、こういう「プロの技術」は必要なくなっていくわけですが、今回はそのような「処刑のプロフェッショナルたち」を紹介します。

 

 

1. フランツ・シュミット(ドイツ)

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 ニュルンベルグの「処刑マイスター」

フランツ・シュミットは16世紀〜17世紀のドイツ・ニュルンベルグの死刑執行員で、代々死刑執行人の家系でした。

1573年に23歳で父親の跡を継いでから1617年に息子に受け継ぐまでの45年間で処刑した数は361名。処刑方法は鞭打ち、指や耳の切断、車輪、火や水を使ったものなど様々で、独自に彼が考案したものも数多くあります。

シュミットは45年間で行った処刑の内容を全て記録しており、そのためいつ誰がどんな手法で殺されたかが全て分かっています。彼は「プロの処刑人」であり、自らをもって「社会秩序の回復者」と任じていました。犯罪者が犯した罪の重さに等しい方法で刑は与えられるべきで、その刑はどのようなものが適当か、罪に等しい苦しみが与えられるのかをシュミットは生涯をかけて研究し続けたのでした。

引退後は執行人時代の解剖学の知識を活かし、医療コンサルタントとして活躍したそうです。

 

 

2. シャルル=アンリ・サンソン(フランス)

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死刑執行人(ムッシュ・ド・パリ)一家サンソン家の4代目

サンソン家は17世紀から19世紀まで200年以上にも渡ってパリの死刑執行を担った一家。日本でもマンガやアニメのモチーフとなっているので有名かと思います。

ファミリーの中でも最も有名な人物が4代目のシャルル=アンリ・サンソン。彼が生きた時代はまさにフランス革命の真っ最中だったため、死刑の専門家として数多くの人物を葬っていきました。

彼自身は王党派であり革命には反対でしたが、プロとして職務に徹していました。

しかし皮肉なことに、彼は国王ルイ16世を自らの手で処刑しなくてはならなかったのです。国王を敬愛する気持ちとプロ意識との間で相当悩んだに違いありません。

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 結局シャルル=アンリ・サンソンは自らの手でルイ16世を断頭台にかけ、その首を群衆に掲げたのですが、その目には涙が浮かんでいたと言います。死ぬまで自らの手で国王を殺したことを悔い、死刑制度と死刑執行人という自分の職業を呪っていました。

漫画「イノサン 」はシャルル=アンリ・サンソンが主人公の作品です。

イノサン 1 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)

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3. ジャック・ケッチ(イギリス)

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 処刑が下手すぎて有名になった男

ジャック・ケッチという名前は現在のイギリスでも「死刑執行人」という意味になっているほどイギリスでは著名な人物です。

1683年にラッセル卿、1685年にモンマス公爵夫人といった当時の著名人の死刑執行にあたっていますが、しかし特に有能な人物だったというわけではなくどっちかというと逆。当時は斧を使って首を切り落とすのが一般的でしたが、人間の首の骨は結構頑丈なので、上手にやらないと何度も斧が打ち下ろされ、生殺しの目にあっていつまでの苦しみ続けなければならない。

1685年7月15日、モンマス公デュークは「プロテスタントの殉教者」としてロンドンのタワーヒルの前で処刑されることになりました。

モンマス公は事前にジャック・ケッチに6ギニーを渡しており、「素早く屠ってくれ」と頼んでいたので落ち着いており、「私は言い訳をせず死ぬ。イングランド教会のプロテスタントとして死ぬのだ」と群衆に語りかけました。

そして断頭台に首をかけた。ジャック・ケッチは一発で終わらせるべく斧を振りかざして叩きつけた。しかし僅かな傷口を作っただけだった。そして2回、3回、4回と振り下ろすも首が落ちない。モンマス公は死にきれずに地獄にいるように悶えている。見かねた保安官が肉屋のナイフを渡し、最後ジャック・ケッチは泣きべそをかきながらナイフで首を切り取ったそうです。

 この大失態が原因でジャック・ケッチは死刑執行人をクビになってしまうのですが、この地獄のような処刑現場がイギリス中で語り草になり、恐怖の死刑執行人「ジャック・ケッチ」は有名になり、後任の執行人もジャック・ケッチと呼ばれるようになってしまったのでした。

 

4. ジョージ・マリドン(アメリカ)

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「絞首刑のプリンス」と言われたプロの処刑人

ジョージ・マリドンは1830年にドイツで生まれ、すぐに両親とともにアメリカに移住。南北戦争従軍後、フォートスミスで死刑執行を務める「特別代理人」に任命されました。

その後22年間で60名以上の囚人を処刑したのですが、当時のアメリカでは死刑は絞首刑がほとんどで、かつ1873年から1876年までは執行の模様は一般にも公開されたので、いつも死刑を執行する「暗い目と髪、長い髭の小さな男」は民衆にも有名になり、地元の新聞に「絞首刑のプリンス」とアダ名を与えられました

有名になるにつれ、絞首刑のプリンスによる「執行」を見ようと各地から人が押し寄せ、何千もの群衆が処刑を見学していたそうです。一度に12人の囚人が処刑されることもあったようで、そのような時は一大イベントでした。

マリドンが引退する際には、彼がこれまで使用してきたロープや殺害してきた囚人たちの写真などが展示されて華々しいショーが開催されたほどです。

マリドン自身は処刑がエンターテイメントになることを大変不快に思っていたようで、「自分は単に職務をこなしているだけである」と述べ、処刑は仕事以上でもそれ以下でもないと考えていました。1911年に81歳で死亡しました。

 

 

5. ピエール・ド・ランクル(フランス)

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 史上最悪の魔女狩り実行者

16世紀半ばから17世紀前半にかけてヨーロッパ中に魔女狩りの嵐が吹き荒れたのですが、主にスペインで膨大な数の女性を魔女として処刑したことで有名な人物が、フランス人のピエール・ド・ランクル。

1599年、聖地巡礼に赴く際に「少女が少年に変身する」のを見て以来、この世から魔女を根絶することが自分に課せられた宿命だと悟ったそうです。

 バスク地方の監察官に任じられた彼は、イギリス人を捕えて魔女の目撃談を無理やり語らせ、それを根拠として多くの女性を捕えて拷問室に送り、自ら拷問を行いました。その数約600名。ランクルは拷問の責めで女性たちに「悪魔と交わった」ことを自白させ、処刑場送りにしていきました。中には10歳の少女もいたそうです。

引退して後は魔女狩りの業績を書にまとめ、78歳で死去するまで自らの手で多くの魔女を葬ったことを誇りにしていたそうです。

 

 

6. マシュー・ホプキンズ(イギリス)

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イギリスの魔女の1/3を殺害した詐欺師

ピエール・ド・ランクルと並んで最悪の魔女狩り実行者がマシュー・ホプキンズ。

キャリアの前半は売れない弁護士でしたが、なかなか儲からないので「魔女狩り屋」に転向。

イギリス各地を巡っては、「我が子には魔女を発見する能力がある」と称して、群衆の中から適当に無実の女性をひっ捕らえて拷問を行い、莫大な謝礼を受け取っていました。

彼が殺害した魔女の数は約300名ほどで、イギリス全土で殺害された魔女の数は約1000名なので、およそ1/3をホプキンズが殺害したことになります。1回で受け取った額は庶民の年収に相当するもので、約3年で相当な荒稼ぎをしたようですが、ジョン・ゴール牧師などホプキンズのやり方を非難する声が多く上がったため、やむなく「魔女狩り屋」を廃業せざるを得ませんでした。

その後の彼はどうなったかよく分かっていませんが、1647年に自宅で死亡しました。

 

 

 

まとめ

確実に執行を行うというプロ意識もありつつ、でも行うことは人の命を奪うことであり、時には良心の呵責に苛まれることもあったに違いない。死刑執行人は社会的身分は底辺でしたが、お抱えの処刑人ともなるとその暮らしは貴族並だったそうで、そのギャップにも苦しんだはずです。

ジョジョの奇妙な冒険の第7部の主人公ジャイロ・ツェペリも死刑執行人の家に生まれ、幼い子どもの処刑を命じられるもそれを拒否したというエピソードがあります。

方や狂信的に無実の人を殺しまくる人や、カネのために殺人を犯すことに何のためらいもない人もいる。

善と悪、聖と穢、公と私、生と死、賞賛と差別、そのような色んな要素がコインの表裏となっている特殊な職業が死刑執行人で、それゆえ人々を引きつけるのでしょう。

 

 

参考サイト

"God’s Executioner" THE BERLIN REVIEW OF BOOK

 "Jack Ketch" Everything2 

Matthew Hopkins - Wikipedia

"OLD WEST LEGENDS George Maledon - Prince of Hangmen" LEGEND OF AMERICA

 

参考文献

拷問の歴史 (Truth In Fantasy)

拷問の歴史 (Truth In Fantasy)

 

 

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