歴ログ -世界史専門ブログ-

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実はふさわしくない?神話をモチーフにした企業名・ロゴ

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企業のロゴや名前に似つかわしくない「本当の意味」とは

企業のロゴやブランドの名称というのは、 実は相当時間をかけて作られています。

企業の向かう方向性をとりまとめてステークホルダーに了承を得、整合性が取れる形状やトンマナ、モチーフを選んでデザインし、他国・地域に展開した時に問題は起きないかを確認し…等々。

「企業がロゴを一新しました」

と言われても、一般の人ならふーんで終わりますが、その後ろではたくさんの大人が血へどを吐きながら作り上げているんです。

さて、「信頼」や「安心」を伝えたい場合は、トラディショナルな意匠やモチーフ、名称を借用することも多くあります。ロゴやブランド名が何やら見なれた / 聞きなれたものだと、人はなにかしら安心した気持ちになり、その会社や製品・サービスと受け入れることができるからです。

ですが、よくよく背景を知ると「このモチーフで本当にいいのか?」と思うものもあったりします。

 

 

1. スターバックス

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人を食う怪物セイレーンがロゴに

スターバックスのロゴの中央に描かれている女は、ギリシア神話に登場する「セイレーン」 です。

古代ギリシアではセイレーンは上半身は人間で下半身は鳥であるとされましたが、後代には魚であるという認識のほうが広まっていきました。

神話によると、セイレーンは海の岩礁の上から美しい声で船を招き寄せ、船を難破させて船員を食い殺すとされています。

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Photo by Rh-67

しばしばセイレーンは二又に分かれたヒレを両手で持った意匠が見られ、スターバックスのロゴもそれを採用しています。

なんで人を食う怪物をロゴとして採り入れたのかと言うと、「港町シアトルの海のイメージにぴったりだったから」だそうです。あんま深くは考えてないっぽいですね。

ですが、美しい歌声に引き寄せられるように、Mac bookを抱えた人々が日々スタバに集まってきているから、セイレーンのモチーフもある意味整合性が取れているといえなくはありません。

 

 

2. ヴェルサーチ

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 死をもたらす危険な首・メデューサ

ヴェルサーチと言えば、言わずと知れたイタリアの高級ファッションブランド。オンラインショップを覗いてみたところ、Tシャツ1枚で9万4000円。高!! 

レディ・ガガやマドンナなど、著名なスターを毎年広告塔にたてて話題になります。憧れのセレブリティブランドってとこですかね。

さて、そんなヴェルサーチのロゴに描かれているのは、怪物メデューサ

ギリシア神話では、メデューサはもともと海の神ポセイドンの愛人であり絶世の美女でした。ところが、「自分は女神アテネより美しい」と言ったことでアテネの怒りを買い、美しい顔は世にも醜い姿に変えられ、自慢のサラサラヘアーは蛇に変えられてしまった。メデューサの顔を見た人間は石に変えられてしまう、という話は非常に有名ですね。もはや怪物になってしまったメデューサを退治したのは英雄ペルセウスで、彼は鏡のように磨いた盾を見ながら近づき、寝ているメデューサの首を掻き切って殺した。

なぜヴェルサーチのロゴがメデューサなのか、公式サイトにも書いてなくて詳細はよくわからないんですが、ペルセウスからメデューサの首を受け取ったアテネは、自分の盾に首を括り付けて最強の盾にした、という逸話があり、その故事にあやかって西欧では盾にメデューサの首を描く習慣があったそうです。

もともとメデューサが持っていた美と、強さを纏うという護符的な意味合いがあるのでしょうか。

 

 

3. トロジャン・コンドーム

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悲劇のトロイの名前がついたコンドーム

トロジャン・コンドームは1917年に創業したアメリカの老舗のコンドーム製造会社で、アメリカでNo.1の売り上げを誇るブランドです。

トロジャンとは、ずばり木馬で有名な「トロイ」のこと。

トロイは現在のトルコ北西部にあった古代都市で、ギリシア神話ではアガメムノン率いるアカイア軍と10年の戦闘を戦った後に滅ぼされたとされています。

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かの有名な「トロイの木馬」の逸話はこの時の話。オデュッセウスは巨大な木馬を作らせその中に兵士を潜ませた。トロイの者たちは降伏の証だと思って木馬を市内に引き入れた。夜半に木馬に潜んでいたアカイア兵は市内に夜襲をかけ、また城扉を開け放ってアカイア軍を引き入れトロイは陥落した。

なぜトロジャン・コンドームがその名前なのか、公式サイトを見ても何も書いてなかったのですが、「敵を市内に引き入れてしまい陥落してしまう」のだから、避妊具という点では果たして適当なのか?

「熊本城コンドーム」とかだったら、すごい安心感があるのですが。

 

 

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4. フォルクスワーゲン・フェートン

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Photo by M93

 暴走戦車のパエートンの名を冠する高級車

フェートンはフォルクスワーゲンが販売する高級車で、現在のモデルの定価は約1,200万円ほど。性能は確かにいいんでしょうけど、その高額なお値段からアメリカばかりかお膝元のドイツでもあまり売れてないらしく、それゆえ日本での販売も見送られつづけているようです。

フェートンの名前の由来は、古代ギリシアの神パエートン。

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パエートンの父は太陽神アポロンですが、パエートンの友人たちはそれを信じようとしなかった。「なんだよテメえら、ようし!見てやがれ」ってんで、パエートンは東宮殿に行き、父アポロンの保有する「太陽の戦車」を操縦した。

しかしコントロールするのが非常に難しく、戦車はパエートンを乗せたまま大暴走

おかげで地上のあちこちに大火事が起こってしまい、マグリブは砂漠になってしまい、エチオピア人の肌は黒くなり、世界中の川は干上がってしまった。

大地の女神ケレスは見かねて最高神ユピテルに相談し、やむなくパエートンを撃ち殺してしまいました。

戦車に乗って大暴走してあちこちに被害を出してしまった神様の名前を、しかもクルマにつけるのはいかがなものでしょうか?

あまりに売れなさ過ぎて、フォルクスワーゲン社内では火を吹いて名前にふさわしい製品になっているかもしれません。

 

 

5. HTC Droid Eris

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 争いと不和を招く悪女の名前がついた携帯端末

HTC Droid Erisは、HTC Heroの修正版として2009年にアメリカで発売された機種。

日本ではあまり台湾・HTC社の端末はポピュラーではありませんが、海外ではコスパが良いと絶大な人気があります。

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エリスとはギリシア神話に登場する女神で、争いや不和を好む。地上に起こる戦争はエリスが災いを起こしていることも多く、ヘラ、アテネ、アプロディテの三人の女神が「誰が一番美しいか」で喧嘩させるきっかけを作り、仲裁として決められた「パリスの審判」の結果、トロイ戦争が起きる要因となりました。青年パリスがアプロディテを選び、褒美としてスパルタ王メネラオスの妻ヘレネスを奪ってしまったためです。

争いばっか起きそうな名前がついた携帯電話とか持ちたくないです。

 

 

6 . サーベラス・キャピタル・マネジメント

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冥界の番犬・ケルベロスの名前がついた投資会社

サーベラス・キャピタル・マネジメントはニューヨークに本社があるアメリカの投資ファンドで、日本の経営者に恐れられている「物言う株主」の代表格みたいな会社。

2003年にあおぞら銀行の筆頭株主になったサーベラス社は、企業状況や背景を無視して「短期間で最大限の利益を出せ」と経営陣に迫り、CEOがクルクルと変わるあおぞら銀行の迷走のきっかけを作ったともされています。

現在で大きなところでいうと、西武ホールディングスの株式の20%程度を保有しています。

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さて、サーベラスとは「ケルベロス」の英語読み。ケルベロスは「冥界の番犬」とも称され、首が3つあり龍の尾と蛇のたてがみを持つ恐ろしい化け物です。

ダンテの神曲では、大食の罪などを犯した罪人がケルベロスに引き裂かれる様子が描かれています。

創業者は「顧客の資産を安全に守護するため」に、冥界の番犬であるサーベラスという名前をつけたそうですが、実際のケルベロスは人間を食い殺す獰猛な怪物です。

サーベラス社に株を買われたら「これからお前たちの資産を食ってやるぜ」という宣言にしか思えません。震えますね。

 

 

まとめ

神話モチーフじゃなかったので上記に挙げませんでしたが、日本でもスズキが「ハスラー」という名前の軽自動車を販売してますが、Hustlerは「ポン引き」とか「売春婦」みたいな意味です。

「元気よくハッスルする人たち」みたいなニュアンスなんだろうな、というのはわかるんですが、とんでもねぇ名前です。

上記のギリシア神話モチーフの名前は、あんまりよく検討されずに、神話モチーフでなんかそれっぽいじゃん?みたいな感じで命名された感があります。

正直なところ、品物やサービスがよければ名前はあまり気にされないものなんですけど、開発思想やヴィジョンを提示するのが名前でありますので、やっぱり慎重に決めるに越したことはないですね。 

 

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・ロゴについて

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参考サイト

" 7 Horrifying Historical Origins of Famous Corporate Logos" Cracked