歴ログ -世界史専門ブログ-

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醜い姿形をした世界の妖怪たち

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 人のようでいて人でない、想像上の妖怪たち

昔の人は自分の村からほとんど出ることなく生涯を終えていました。

村の外に出る必要があまりなかったというのもあるでしょうけど、外はどんな野蛮人や怪物が跋扈しているか分からない危険な地帯だ、という迷信もあったと思います。

妖怪が本当にいたと信じられていた時代、夜の山中を歩いて超えるなんて度胸がないとできなかったと思います。

日本にも魅力的な妖怪たちはたくさんいますが、コチラ世界史専門ブログですので、今回は世界の妖怪たちを集めてみました。

 

 

1. キュクロプス(ギリシア神話)

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逆恨みしたアポロンに殺された哀れなひとつ目の巨人

キュクロプスはギリシア神話に登場するひとつ目の巨人。

ホメロスの「オデュッセイア」では、キュクロプスは人間を襲って脳を食らう恐ろしい巨人として描かれ、主人公オデュッセウスに熱した棒を目に突きつけられて盲目にされてしまいました。

物語では悪者的な扱いをされていますが、ヘシオドスによればキュクロプスはもともと神の子で、創世の夜明けに大地の母ガイアから息子のウラノスによって3人の巨人ブロンテス、ステロペス、アルゲスが生まれたとされています。しかしウラノスは3人を愛さず、地底の国タルタロスに3人を投げ込んでしまう。

ゼウスは3人を不憫に思い地上に引き上げて自由にさせてやった。その代わり、ティタン神との戦いでオリンポス神側で戦うように説得した。

3人は大活躍し戦いはオリンポス神側の勝利に終わった。その礼に3人はシチリアのエトナ火山の地下に鍛冶の仕事を与えられ、そこでゼウスに雷鎚(いかずち)を、ネプトゥヌスに三叉の銛を鋳造して贈った。

その後、ゼウスはその雷鎚を使って神の命に逆らったアポロンの息子アスクレピオスを殺害した。アポロンは逆恨みし、雷鎚を作ったキュクロプス3人を殺害してしまった

哀れな巨人たちは幽霊となり、今でもエトナ山の火山のふもとでゴロゴロと音をたててさまよっている、という言い伝えです、

 

2. キュノケファロス(ギリシア神話)

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辺境に住む犬の頭を持つ人間伝説 

キュノケファロスは古代ギリシアの時代から語られる頭が犬の形をした人間。特別な力はない。ヘロドトスは彼らはエチオピアに住むと書き、またマルコ・ポーロはアンダマン諸島に住むと「東方見聞録」に記しました。

この犬の顔の人間の存在は中世ヨーロッパで広く信じられており、知識人もそのその存在を認めており、実際に辞書にも載っていました。

キュノファロスは上記の図の通り聖人の姿をして描かれることがあります。

これは古代ローマ時代にリビア砂漠に住んでいた犬の顔をした巨人が、ローマ軍団と戦って降参したあと洗礼を受けてキリスト教に帰依し、皇帝デキウスの迫害の中最後まで信仰を守った、という東方教会の神話に基いています。

 

3. バーバ・ヤーガ(ロシア神話)

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 ロシアの森に住む人喰いババア

バーバ・ヤーガはロシア神話に登場する妖怪で、森に住み小さな子どもを襲って食べる老女(バーバはロシア語で婆という意味)。臼にまたがり、杵を櫂にして空を飛ぶ。鉄の歯を持っており、人間の肉をバリバリと貪り食う。家はロシアの森の奥地にあり、ニワトリの脚の上に建った小屋に住んでいる。小屋の周りの杭は人間の骨で出来ており、てっぺんには頭蓋骨がかけてある。

ロシアの童話「麗しのワシリーサ」では、継母と兄弟にいじめられた美少女ワシリーサは、継母にバーバ・ヤーガに火種をもらってくるように命令された。恐怖で泣きながらバーバ・ヤーガの元に赴いたワシリーサ。バーバ・ヤーガはワシリーサにとてもできそうもない家事を次々と命令するも、魔法の人形の助けもあってワシリーサはうまくこなした。根負けしたバーバ・ヤーガは火種をワシリーサに渡してあげた。帰宅し継母と兄弟にそれを見せたところ、バーバ・ヤーガのかけた魔法が解き放たれて継母と兄弟は燃え尽きて死んでしまった。その後ワシリーサはペテルブルグで王子様に見初められて幸せに暮らしたとさ。

 

4. ブレミュアエ族

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異国に住むと考えられた異形の人びと

ローマの博物学者プリニウスの著した「博物誌」には、様々な奇獣・珍獣の情報が記されていますが、その中に遠く異国に住むとされる風変わりな人の情報が載っています。

半獣のアエギパン族が、そしてブレミュアエ族、ガンパサンテ族、それからサテュロスとヒマントポデスがいる

と書いており、とくにブレミュアエ族は「頭がなく、口と目は胸についている」と述べています。プリニウスはこの情報をヘロドトスの本から拝借したようです。

ヘロドトスの話はウソばっか(だから面白い)ですが、エチオピアの山岳地帯に頭がなく胴体に顔がある人種がいる、と根拠もない話を披露しています。

このヘロドトスのホラ話は中世まで語り継がれ、かのシェイクスピアの劇「オセロ」にさえ登場しました。 

荒涼たる洞窟、不毛の荒野
荒々しい岩場、天にも届きそうな岩山、
たまたま語る機会を得て・・・このようなことを話しました、
互いに食い合う人食い人種のこと、
同じく人食いのアントロポファジャイのこと、また
肩の下に頭がある人種のこと、こんな話を
デズディモーナは熱心に聞きたがりました。

引用元:james.3zoku.com

 

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5. サテュロス(ギリシア神話)

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 下半身がヤギの姿をした性欲旺盛な山羊人間

サテュロスは古代ギリシアの酒の神ディオニュソスの従者で、下半身がヤギの山羊人間です。プリニウスによれば、サテュロスという名前時代が男根を意味するギリシア語から来ているらしく、特にルネサンス期に性欲旺盛な存在として絵画に好まれて描かれました。異常性欲は英語で「サティリアシス(Satyriasis )」と言いますが、それはサテュロスから来ています

その存在から古代ギリシアの田舎では「繁栄」や「豊穣」の象徴して崇拝され、サテュロスに家畜や果物を供える習慣があったそうです。

 

6. ウェンディゴ(カナダ原住民)

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 極寒の森の厳しさを象徴した恐ろしい怪物

カナダ原住民のアルゴンキン族の神話に登場する怪物ウェンディゴは、彼らが冬の森に対して抱いていた恐怖を具現化したような存在です。

ウェンディゴは骨が透けて見えるほど痩せた姿で、また足や手の先は朽ちている。ウェンディンゴに襲われると食べられてしまい、最悪の場合自分自身もウェンディゴになってしまう

冬の森の貧しさ、凍傷、餓死の恐怖がストレートに表されています。

 

7. バンシー(アイルランド)

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 すすり泣く美しい女の妖精

バンシーとは「妖精の女」という意味で、 ケルト人がアイルランドに到来する前に居住していた妖精たちが、地下に潜った後に地上に残った一部だと考えられました。

バンシーは女性の姿で白か灰色の通夜の服装をしており、たいていすすり泣いているか取り乱している。そのすすり泣く声を聞いてしまったら、近いうちに身内に不幸が起こるとされています。

 

スコットランドにも「洗濯女」と呼ばれる似たような怪談があります。

戦場に行く兵士が、川で血に汚れた服を泣きながら必死で洗う女を発見する。

兵士「あんた、いったい何をしているんだい?」

女「洗っているのさ、服を。でもいくら洗っても血が取れないんだよ」

兵士「誰の服なんだい?」

女「それはね……未来のお前の服だ!!!」

 

…こわっ

 

8. ノーム

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Work by Jean-Noël Lafargue

老人の姿をした土の精霊

ノームが登場するのは実はそんなに古くなく、考えたのは中世の医師であり錬金術師であったパラケルスス。

パラケルススは宇宙を構成する4大元素として土・風・火・水を定義しましたが、その土元素を司る存在としてノームという精霊を作り出しました。

ノームは身長が50cmほどで老人の姿をしており、たいてい長い三角形の帽子を被っている。ドワーフと同じく鍬やスコップを使って土の中を自由自在に動き回ることができ、埋蔵される鉱物や財宝を守護する存在であります。

白雪姫に登場する小人たちのモデルかもしれませんね。

 

9. マラ(北欧神話)

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北欧の人びとが考えた「金縛り」の擬人化 

脳は眠りから目覚めているのに体がまだ睡眠状態であるとき、体が縛られたように動かない。このような金縛り体験をした人は多いでしょうが、古来から人びとはこれは悪霊や精霊のしわざだと考えました。

 北欧の人びとは亡霊の女性のような姿をした怪人マラが、夜寝室に忍び込み、寝ている人の上に座って起き上がれなくしていると考えました。

マラはその家の馬にも悪さをすると考えられ、朝馬が汗だくになって起き上がれずに苦しんでいる場合は、上にマラが乗っていると考えられました。

上記の絵は1782年に描かれたハインリヒ・フュースリの絵画「悪魔」。

眠っている女性の上にグロテスクな姿のマラが乗っており、その向こうには馬が白目を向いてマラを凝視している。マラが起こす悪夢の恐怖を描いたロマン主義を代表する作品です。

 

10. スクォンク(アメリカ)

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開拓民が考えだしたアメリカの森の醜いモンスター

1910年ごろ、ウィリアム・コックスという男がアメリカ開拓民の語る話を「木こりの森の恐ろしい動物たち ー付、砂漠と山の獣たち」という短い本にまとめました。

この本は、アメリカ開拓民が夜な夜な語るアメリカの山や森の恐ろしい話をまとめたもの。その中に登場するモンスターがスクォンク。このモンスターはペンシルベニア州の森に住んでいるが、イボや吹き出物で覆われており非常に醜く、自分の醜さを理解して苦しんでいる。日がな自分の棲家に引きこもって、己の醜さを嘆いて泣き明かしている。黄昏時、自分の姿が見えづらくなると外に出てくる。

 J.P.ウェントリングという男がスクォンク狩りを行ったことがあるそうで、スクォンクの涙の跡を辿って森を進んでいき、スクォンクの泣き声をモノマネしておびき寄せ首尾よくスクォンクを袋に入れることに成功したものの、気がついたら袋は涙で溶けて取り逃がしていた、そうです。

 

 

まとめ

誰かが勝手にそれっぽくつくった妖怪が、何世紀にも渡って語り継がれて、文学作品や絵画にも登場するなんて、本人は思ってもみなかったでしょうね。

でもそれが人の本能に訴えるものがあったからこうやってインターネットの世界になっても語られて人びとの興味を引いている。

そういう意味で、今日紹介した妖怪たちは未だに世界で生き続けていると言えるかもしれません。

 

参考文献 ヴィジュアル版世界幻想動物百科 トニー・アラン著,上原ゆうこ訳 原書房

ヴィジュアル版 世界幻想動物百科

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