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自動ドアの歴史

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進化を続ける自動ドアの歴史

よほど古い建物や歴史的建造物でない限り、商業施設や公的施設、法人事務所の入り口には自動ドアが設置されていると思います。

実は自動ドアの歴史は古く、古代ギリシアにまでさかのぼります。何気に利用している自動ドアですが、「扉が自動で開いてほしい」という人間の欲求は古く深いものがあったのです。

 

1. 古代ギリシアの自動ドア

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ヘロンの水力自動ドア

自動ドアを初めて発明したのは、紀元前3〜2世紀ごろ(もっと前という説もある)に生きたアレキサンドリアのヘロンという人物であるとされています。

ヘロンは、空気、水、蒸気で作動する様々な機械の図面を書いた人物で、例えば世界最古の蒸気エンジン、蒸気駆動の消防車、水時計、運搬機、コイン式自動販売機、風力オルガンなど多種多様な発明をしました。

ヘロンは一連の発明の中で「自動で開く扉」も設計し、寺院に設置されたと言われています。寺院の祭壇に火を付け温めると、祭壇とつながった水が入った真鍮の容器に気圧がかかる。気圧のため真鍮の水は管を通って隣の容器に水を溜める。 ある一定まで水が溜まると容器が重りとなり、ロープと滑車を使ってちょうど人々が祈りにやってくる時間に神殿の扉を開いた、というものです。

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原始的な作りではありますが、当時の人からするとまさに「神の御技」に見えたことでしょう。

 

近代以前の自動ドア

古代ギリシア以降も、人々は「ドアを自動で開けたい」という思いを持っていたようで、普及はしませんでしたが記録がいくつか残っています。

隋の煬帝はガジェット好きだったようで、『資治通鑑』には彼が命令して作らせた「からくり宮女」や「からくり部屋」についての説明があるのですが、中には自動ドアらしき機能が導入されていたという記述があります。

帝幸書室、有宮人執香炉、前行践機、則飛仙下、収幔而上、戸扉及厨扉皆自啓、帝出則垂閉復故

帝が読書室に入ると、(からくり)宮女が香炉を捧げ持ち、敷居を踏んで外に出ると、(からくり)仙女が降りてきてカーテンを引き上げる、扉やくぐり戸はすべて自動で開閉し、帝が出ると閉まって元に戻った

どういう仕組みで動いていたかは分かりませんが、何らかのボタンやレバーを引いて動いていたのかもしれません。

ルネサンス期だと、レオナルド・ダ・ヴィンチもフランス王フランソワ一世のために自動ドアを考案したという話もありますが、これは詳しいことはよく分かっていません。

1910年、SF作家のジョージ・ウェルズは、『睡眠者が目覚めるとき』の中で、自動ドアのような仕組みを描写しています。この作品は西暦2100年のディストピア社会を描いたもので、登場人物が「一見ただの壁」に近づくと音がして壁が開き中に出入りできるといったことが書かれています。

20世紀の初頭まで自動ドアは「空想の世界の話」だったのですが、1930年には現実になり、世紀の後半には当たり前になっていきます。

 

2. 商業用自動ドアの発売

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世界で初めての商業用の自動ドアが発売されたのは1931年のアメリカです。

工具会社スタンレー・ワークスのエンジニアが、コネチカット州ウエストヘブンのレストラン「ウィルコックス・ピア」に設置したのが始まりです。初の自動ドアは客用ではなくスタッフ用で、キッチンと客用フロアの間に設置され、トレイで手のふさがったウェイターが手や足を使わずに移動するためのものでした。

「この発明により、ウェイトレスがドアを蹴ったり、トレイを運ぶ以外のことに手を使う必要がなくなった」と、ハートフォード・クーラント紙は書いています。

このドアは、光電管が人の接近を感知した瞬間に開く仕組みになっていました。

 

日本の自動ドア製造の始まり

日本でも1930年代に銀座日劇前の東芝ショールームに自動ドアが設置されていました。この自動ドアがどのようなものだったか詳しいことが分かりませんが、おそらくスタンレー・ワークスの光電管を使った製品か、空圧式の自動ドアを輸入したものではないかと思われます。

本格的に日本で自動ドア製造が始まったのが戦後。1953年に日本エヤーブレーキ(現ナブテスコ)がアメリカのナショナルニューマティック社と提携し、自動ドアの技術供与を受け国産化に着手したのが始まりです。

当時ナショナルニューマティック社は油圧式自動ドアを完成させたばかりで、それを見た日本人技術者はすぐに油圧式の技術を日本に持ち帰り開発しました。そのため、日本初の建物自動ドアは、神戸にあった日本エヤーブレーキの本社の玄関です。

日本では銀行が自動ドアの導入を積極的に進めました。銀行に入るのは心理的な抵抗がありますが、客は自動ドアが物珍しく、興味本位でつい立ち寄りたくなる。それが銀行にとっては大きなビジネスチャンスでありました。

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3. 引き戸式自動ドアの普及

かつては主流だった「マットスイッチ」、つまりマットの上に人が立つと圧力センサが働き、油圧でドアが開くタイプの自動ドアは、1954年にアメリカ人技術者ディー・ホートンとルー・ヒューイットによって発明されました。

初期の自動ドアは「スイングドア(日本語で言うと観音開き)」で、風が強いとバタバタと開いたり閉じたりしてしまう欠点がありました。ホートンとヒューイットはこの欠点を克服し、左右に開く「引き戸式」のドアの構造を開発し、1960年テキサス州コーパスクリスティにマットセンサと引き戸式を用いた最初の自動ドアが設置されました。

この引き戸式は爆発的に普及し、銀行や商業施設、ホテルなどに導入が進んでいきました。

日本でも同時期、観音開きの自動ドアの安全性が問題視され、日本エヤーブレーキによって引き戸式の普及が図られました。日本で自動ドアが普及したのは1964年の東京オリンピックによる建築ブームがきっかけです。

自動ドアを組み込んだビルの設計が主流になると同時に、エアコンの普及も進んだため、従来は開けっ放しだった入口を閉じる必要が生じ、店舗への導入が進みました。

 

4. 人感センサー・電気式自動ドアの普及

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爆発的に広がったマットスイッチ式の自動ドアですが、物理的な接触により動作するため故障や誤作動が多いといった欠点がありました。自動ドアが体重の軽い子どもだと動作せず、開閉中に子どもを感知できずに閉まって挟まれる危険性もありました

マットスイッチ式に代わって導入が進んだのが、現在周流の「人感センサー式」。この技術は1970年代に発明されました。

人感センサーは様々な技術があり、人の耳に聞こえない超音波を出して人体からの反射波を検出する「超音波式」、ドップラー効果を利用して人体に反射した電波を検出する「電波式」、人体や物体の温度を検出する「熱線式」などが開発されてきました。現在では、赤外線を出して反射した光を検出する「光射式」が主流となっています。

 

ドアを開閉する動力も変化しました。

1970年代までドアの開閉の動力は油圧式が周流でしたが、1980年代から電気式が登場しました。電気式はマイコンを搭載でき、学習により適正な減速が得られるように自動調整する機能がつきました。これにより扉位置を検出するためのリミットスイッチが不要になりました。また、ドアに挟まれても反転する機能や、人が衝突した場合に駆動力が解除される機能など安全機能も充実しました。

人感センサーと電気式の登場により、自動ドアはさらに普及が進み、1990年代からは発展途上国を含む世界中に普及が進んでいきました。

 

5. これからの自動ドア

自動ドアは都市のバリアフリー化に欠かせない技術です。

日本では2006年にバリアフリー法が施行され、建築物や商業施設、公共施設において多機能トイレの設置が義務化されました。多機能トイレはボタン式のドアが設置され、車いすの使用者が使用しやすくなっています。

バリアフリー化で重要なのは駅のホームドアも同様です。ホームドアが世界で初めて設置されたのは1961年のソ連・レニングラード地下鉄です。日本では1970年に初めて万国博覧会の駅で設置され、2006年以降に加速的に設置が進んでいます。

技術的にはCAN通信を用いたネットワーク技術が導入され、ドアに付属する機器の情報ネットワーク化と一括管理によって、保守点検や異常検知を容易にしています。

自宅の家電や暖房、電気設備をIoT化するスマートホームは増えており、自動ドアシステムや家のドアを自動化する日もそう遠くないかもしれません。

1910年にSF作家のジョージ・ウェルズが描いたような未来は2100年と言わずもう来ているし、安全技術や利便性が進歩した自動ドアは街中や建物だけでなく、乗り物や家などあらゆる場所に普及していくのかもしれません。

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まとめ

「扉を開ける」という、行為にすると1秒程度の事柄を自動化するために、史上どれだけ多くの人が時間をかけて技術開発に努めてきたかと考えると、呆れると言うか、執念のようなものを感じます。

本文でも述べた通り、バリアフリー化の文脈でも重要ですし、特に新型コロナウイルスのようなパンデミックを経験してしまった後は、接触を出来る限り避けようとするため、自動ドアは需要は必然的に高まるはずです。

開ける、閉めるという単純な行為でも、まだまだ技術の進歩の余地はあるし、人間の想像力が新たな製品を作っていくことでしょう。

 

参考サイト・文献

"History of Automatic Doors" BEST BROTHERS GROUP

"Almanac: The first automatic door" CBC NEWS

「建物用国産自動ドアの技術史」 ナブテスコ(株)構井克典 IEEJ Journal Vol.140 No.4, 2020