世界のぶっ飛んだ政党を見てみよう
選挙が近づくと、皆自分の選挙区の候補者は誰で、各党の政策はどうかを調べてみる気が起きます。自分の知り合いに自分のひいきの政党を薦めて回る人が出るのもこの頃です。最近ではウェブコンテンツで、質問に答えていったら自分と合っている政党が推薦されるものも人気です。
ところで選挙のたびにワンイシューの政党や主張がラディカルな政党がネットで話題になります。たいてい泡沫で終わってしまうのですが、話題になっただけで成功と言えるのかもしれません。
日本だけでなく、世界でも数多くのクレイジーな政党があります。
過去記事
1. ボストン茶会党(アメリカ)
リバタリアン党の分派的政党
ボストン茶会党という名前から、2010年ごろにアメリカで勢いを増した草の根保守運動・ティーパーティーの政党か勘違いしてしまいそうですが、まったく別の組織です。
アメリカの二大政党、共和党と民主党に次ぐ第三の勢力であるリバタリアン党から2006年に分離独立した政党です。リバタリアン党よりも過激な自由主義で、「あらゆるレベル、問題での政府の規模・権力を拡大することに反対する」という政治的主張を行いました。
主要な主張は以下の通り。
- 法定通貨を廃止して自由な競争を認める
- 必要最小限の政府資産をすべて清算し、補助金や軍事費を大幅に削減する
- 議会を必要最小限にまでダウンサイズする
- 国外駐留しているすべての軍隊を帰国させる
- 政府があらゆる「個人の自由」に対して介入することに反対する
連邦政府を最大限縮小し、予算もほとんどなくして、公共サービスも必要最小限にして、個人が好きな生き方を生きる社会を作るというものです。
キャッチフレーズは「Time to party like it's 1773!(1773年同様のパーティーがいま来たれり)」。
2012年にはアメリカ大統領選に候補者を擁立しようとしますが、誰を擁立するかで内部もめを起こし、対立が激化し同年解散してしまいました。
2. オフィシャル・モンスター・レイブン・ルーニー党(イギリス)
確定的な当選者への抗議票の受け皿となる
オフィシャル・モンスター・レイブン・ルーニー党(Official Monster Raving Loony Party)は、1983年にミュージシャンのデビッド・サッチによって設立された政党。
政治風刺的な活動を行っており、当選が確実視される有力な候補者がいる選挙区に候補者を擁立し、有力候補者への抗議票の受け皿となっています。
彼らのマニフェストは、現実の不条理・不合理を強調するためにわざと奇抜なものになっていて、例えば「99ペニー硬貨を鋳造すること」「国が犬になるのを止めるためにドッグレースを禁止すること」などがあります。
彼らがかつて主張していたマニフェストの中には、例えば「ペットのためのパスポート」、「犬の免許の廃止」、「パブの終日営業」など現実になったものもあります。
2011年、イギリスでは主要政党がイギリスのEU離脱を議論してましたが、OMLCPは、ノエル・エドモンズ(イギリスのバラエティ番組Deal or No Dealの司会)を欧州議会に送るべきだ、なぜなら彼は「ディールをするかしないか(Deal or No Deal)」を理解しているからだと主張しました。
3. カナダ・レモン党
レモンに拘る謎のジョーク政党
レモン党(Parti Citron du Canada)はかつてカナダにあった政党で、連邦とケベック州議会で候補者を擁立しましたが、1998年代以降は候補者を10人以上擁立しなかったため登録が抹消されました。
党は「初代教皇テレンス」なる謎の人物が指導者で、 公式代理人はマリー=ガブリエル・ブレイ2世というこれまた謎の人物です。情報があまりなく謎が多い政党です。
彼らの公約は以下の通り。
- レモンの生産を中心としたカナダ経済の再構築
- レモンがカナダで栽培できるように、地球温暖化を促進する
- トロントを廃止する
- 重力の法則を廃止する
- 五大湖の統合
見た通りジョークなのですが、2004年には「苦いカナダのために(For a bitter Canada)」というスローガンを掲げてのもと、新たなキャンペーンを始め、2006年には自由党と保守党のリーダーを揶揄するビデオを公開するなど、政治活動を行っていました。現在は公式Twitterも非公開になっており、おそらく活動停止されていると思われます。
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4. びっくり党(アメリカ)
大統領選挙に出馬した人気コメディアン
現在では俳優やコメディアンがその知名度を活かして大統領選に出馬することは珍しくありません。ウクライナやインドネシア、パキスタンではそういった候補が勝利しています。元カリフォルニア州知事のシュワルツェネッガーも、アメリカ大統領ロナルド・レーガンも俳優でした。
びっくり党(Surprising Party)を立ち上げて1940年のアメリカ大統領選に出馬したグレイシー・アレン(写真下の女性)は、その走りのような人物かもしれません。
彼女はもともとジョージ・バーンズと共演していた当時の超人気ラジオ番組「The Burns and Allen Show」のホストでコメディアンだった人物。
このラジオ番組も先進的で、1932年から33年にかけて行方不明になったと思われるアレンの弟を1年かけて探すという企画を行い、大成功を博しました。
そしてそのラジオの企画で「大統領選挙に出馬する」ことをやってしまいました。
専用列車でロサンゼルスからオマハまでをめぐる政治キャンペーンを行ってさまざまな都市でラジオの生放送を行いました。選挙演説の中でグレイシーは、「レンドリース法(武器貸与法)案についてはよく知らないが、アメリカが他国に武器を借りているのであれば、払わないといけないのでは」と述べたそうです。
また「法案を議会に提出することに関しては、女性が男性よりも優れていることは常識だ」とも述べています。
結局アレンは途中で大統領選出馬を断念し、1940年の選挙ではフランクリン・ルーズベルトが勝利したのですが、アレンの名前を書いた票が何千もあったそうです。
5. ロバの党(イラン)
すべての無能な人にとって暮らしやすい社会を
ロバの党は、イスラム革命が起きる前の1963年にイランに存在した政党です。
ロバはイランでは「従順な無能」の象徴で、彼らは
- イランと世界のロバは団結せよ
- ロバが安心して暮らせる世界を作ろう
- すべてのロバが自由に鳴くことができる雰囲気を作ろう
- すべてのロバのような専制政治に反対し、終わらせよう
といったメッセージを掲げました。
ロバの党の入党希望者は、「賄賂を受け取れたにも関わらず、受け取っていないこと」「盗むことはできたにも関わらず、盗まなかったこと」を主張し証明しなくてはなりませんでした。
パフレヴィー朝末期のイランでは、国王モハンマド・レザーが主導し近代化政策「白色革命」を推進しましたが、腐敗や汚職がすさまじくなり、貧富の格差が拡大して社会の矛盾が高まっていました。そのような社会的背景がこのようなジョーク党を生んだのかもしれません。
しかし今のイランでは考えられませんね。
6. サイの党(カナダ)
すべての公約がふざけている政党
サイの党(Parti Rhinocéros Party)は、連邦レベルのカナダの政党で、もともと「サイの党(Rhinoceros Party)」という名で活動していた党が2010年に党名を変更したものです。
サイの党は「当選しても公約を一切守らない」ことを公約としています。
その公約はこちら。
- すべての州にタックスヘイブン(租税回避地) を開設し、毎年2兆円もの利益をもたらす
- 休職中の教師を有名な科学者の写真で置き換える
- すべての労働者をプチプチで包むことで、工場での事故の数を減らす
相乗りを促進するために、すべての車のブレーキペダルを助手席側に設置する - 地球温暖化と戦うために、すべての国民に夏は窓を開けたままにし、エアコンを最大限に作動させることを強制する
- ベーコンを国有化する
- 文盲をカナダの第3公用語にする
- 医師や看護師の不足に対処するため、すべての医療関係者にステロイドを支給し、パフォーマンスを向上させる
他にもいろいろあります。公式サイトはこちら。
7. ステーキ党(イタリア)
「長生きして楽しめ」「明日の帝国よりも今日のステーキ」
ステーキ党は1953年にイタリアのフィレンツェで出版社社員のコッラード・テデスキとウーゴ・カヴァリーニが設立した政党です。
正式名称は当時人気のあった週刊パズル雑誌『Nuova Enigmistica Tascabile (NET)』にあやかった「イタリアン・NET主義党(Partito Nettista Italiano)」という名前でしたが、公約として「市民全員に毎日ステーキを届ける」を掲げ、また牛の鳴き声でできた党歌もあったので、ステーキ党という名で知られていました。
ステーキ党は1953年6月7日の下院議員総選挙でローマ、フィレンツェ、ミラノの選挙区で候補者を擁立。
「長生きして楽しめ」
「明日の帝国よりも今日のステーキの方がいい」
をスローガンに掲げ、ステーキ党は4,305票の有効票を集めました。
その他に彼らが掲げた公約は以下の通りです。
- すべての人に無料の医療と薬を
- すべての国民に3ヶ月の休暇を
- すべての税金を廃止
- 一人当たり450グラムのステーキ、デザート、果物、コーヒーを毎日無料提供
- 刑務所は廃止。すべての人が毎日ステーキを食べたら犯罪がなくなる
毎日ステーキは日本人には無理ですね…。毎日国民全員に寿司を提供する「寿司党」とかいいかも。
8. 太陽のように熟した温かいトマト党(オーストラリア)
ガス色の偽トマトを首都キャンベラから追放しろ
このふざけた名前の政党は、1989年3月4日に行われたオーストラリア首都特別地域(ACT)議会選挙に登場しました。
主にローズマリー・フォレットが率いる労働党と、トレバー・ケインが率いる自由党が争ったのですが、争点であるACTの自治権をめぐり、多くの泡沫政党が自治に反対して立候補しました。
「パーティ!パーティ!パーティ!」や「びっくり党」といったふざけた政党の中に、ひと際ふざけた「太陽のように熟した温かいトマト党(Sun Ripened Warm Tomato Party)」がありました。
彼らの主張は「ACTからガス色の偽トマトを追放しろ」というもので、よく意味は分かりません。
この時の選挙は混とんとしており、立候補117人の候補者が全員記載された1メートル近い投票用紙が使用されるなど、争点も含めて全てが茶番で馬鹿げていると批判され、後に「太陽のように熟した温かいトマト選挙」と揶揄されました。
9. ドナルドダック党(スウェーデン)
存在しないのにスウェーデンで9番目に人気の党
ドナルドダック党という党は実在はしていないにも関わらず、スウェーデンの選挙記録上確かに投票がされていて、しかも2002年時点で全体で9番目の人気を誇る存在です。
スウェーデンの投票は自署式で、登録をしていない政党に投票された場合は無効票になりますが、例え無効票であってもどんな名前でいくつ投票がなされたのかすべて公表されます。
その結果、毎回の選挙でそれなりの数の人が「ドナルドダック党」と記入し投票しているのです。1985年には291票、2010年は167票、2014年は133票を獲得しました。
2006年に選挙ルールの改正が検討され、立候補していない候補や政党への投票を禁じる動きがありましたが、結局なされずに今でもドナルドダック党は人気で票が入り続けています。
10. 交通バス・エルビスの党(イギリス)
意味が分からないイギリスのジョーク政党
この意味不明の党の党首はデイヴィッド・ビショップという男で、総選挙のたびに謎の政党を立ち上げてジョーク・マニフェストをぶち上げる、政治パフォーマーのような人物です。
2005年の総選挙ではイアウォッシュ地区から立候補し、
- 望ましくない外国人のイギリス入国を阻止するため空港に有名人の巨大な写真を設置する
- 南極に行って氷山に「溶けるのをやめろ!」と叫ぶ
- ロバート・キルロイ・シルク(元欧州議会議員)に王室の便器の番人の仕事を与える
などを公約し、最下位となりました。
党名もコロコロ変えており、2001年には「過激的エルビス教会の党( the Church of the Militant Elvis party)」
2011年には「バス交通エルビスの党(the Bus-Pass Elvis Party)」
2012年には「エルビスはペットを愛している党(the Elvis Loves Pets party)」
2017年には「エルビス&イエティのヒマラヤ保存党("Elvis & The Yeti Himalayan Preservation party)」
たびたび国政や地方選挙に立候補。いずれも見事に落選しています。
2017年のノッティンガム市議会シャーウッド区の補欠選挙では、「トライデント潜水艦から発射された欠陥ミサイルが金正恩を外してチベットに当たっちゃうかもしれないから、トランプ大統領とメイ首相は北朝鮮への共同軍事攻撃を行わないように」と訴えました。
意味不明すぎて、ブラックジョークの国イギリスでもこれは異端すぎるのかもしれません。
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まとめ
ジョーク政党とはいえ、世相が反映されているというか、皮肉がきいていて面白いです。
それにしても日本人は真面目と言うか、この手のジョーク政党があまりありませんよね。自民党は嫌だ、でも野党は頼りにならない、という時の「批判票」としてこういったジョーク政党があってもいいのではないでしょうか?
参考サイト
The Boston Tea Party (archive)
Official Monster Raving Loony Party - Wikipedia
حزب خران - ویکیپدیا، دانشنامهٔ آزاد
The Promises | Parti Rhinocéros Party
Italian Nettist Party - Wikipedia
"Donald Duck's a Big Bird in Politics" abc NEWS, 24 February 2006, 06:21