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1947年トーキョー・怪獣パニック

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「海から現れた怪獣は現在、東京に向かって北上中!」

 1947年5月29日、日本占領軍の軍用ラジオ局WVTRが突然「東京湾に20フィートの怪獣が現れ、内陸に向かっている」という臨時ニュースを伝えました。

この放送に占領軍はパニックになり、マッカーサーも慌てて状況を確認するなど大混乱となりました。

 

1.  「トーキョーに怪獣が現れた!」

太平洋戦争終了後、アメリカ軍の実質的な占領下にある東京で起きた事件です。

1947年5月29日、軍用ラジオ局WVTRは、夕方のダンスミュージックの放送を突然中断し緊急ニュースを流し始めました。

「東京湾に20フィート(約6メートル)の怪獣が現れ、内陸に向かっている」

「場所は横須賀の南にある小さな漁村の沖合で、何隻かの漁船が行方不明になっている」

怪獣に関する緊急放送は続きます。

「怪獣は漁村に上陸、いくつかの村が破壊された」

「怪獣は海岸に沿って東京に向かって北上中」

それからの1時間は、電車を脱線させたり、ビルを破壊したりしながら都心を進む怪獣の進行状況を伝えるニュースが続きました。

「アメリカ軍は東京への上陸を阻止すべく、兵士が展開するも銃弾はまったく役に立たない。その代わりに火炎放射器、手榴弾、催涙弾、リン酸爆弾などを使って対抗している」

リスナーは、屋内に閉じこもり、電話線を確保するように求められました。

その後のラジオは、人々の救助や脱出、遠隔地との無線連絡、怪獣と戦うための重火器や戦車の移動などの情報が矢継ぎ早に報道されました。怪獣の咆哮やパニックに陥った民衆の悲鳴や叫び声も流されました。

 

2. 大パニックになるアメリカ占領軍

ラジオはついに、怪獣が東京都心に到達したことを伝えました。

シカゴのジム・カーナハン中尉と名乗るアナウンサーは、怪獣との戦いの様子を実況していたが、「私はこれから怪獣に近づいてみます」とリスナーに伝えました。

すると突然、怪獣はハイトーンの声でリスナーに向かって言いました。

「軍用ラジオ局WVTR、創立5周年おめでとうございます!」

実はこの1時間の放送は、ラジオ局開局5周年を記念したジョーク放送だったのです。

しかし、かなりの数のリスナーがこれを真に受け、実際にパニックが起きてしまいました。

情報を求める人々で局の電話回線はパンクし、憲兵隊は警戒態勢に入り、日本の警察も怪獣退治に駆り出すため待機命令が下りました。

種明かしをしたラジオ局員は、これはジョークなので陸軍本部などの公的機関に問い合わせはしないでください、と呼びかけました。しかし放送終了後14時間がたっても、怪獣を心配する問い合わせの電話が殺到しました。

イギリス占領軍の将校からは「部下が怪獣との戦いに参加するために、ライフルや手榴弾を要求している、どうすればいいのだ」と問い合わせが。

あるアメリカ占領軍の将校からは、「私もその怪獣を見た!恐ろしくて皮の厚い生き物で、ぬるぬるした感じで笑っていた!」と証言まで出る始末。

マッカーサー元帥も騙されて、スタッフにラジオ局に電話させたと言われています。

なおこの放送は、軍関係者向けの放送だったため、日本人はまったくこの事件のことを知ることはありませんでした。

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3. ガチギレされたイタズラ犯

占領軍の軍部は、この放送にガチギレ。

放送の翌日、WVTRの5人が調査を待たずに解雇されました。

WVTRのマネージャーであるジェームズ・B・ティアー少佐。脚本を書いたアーサー・バーティック少佐とアーサー・トンプソン少佐。番組ディレクターであるウィルトン・クック。アナウンサーのピエール・マイヤーズ少佐の5人です。

実はラジオ局員の誰もが、このような演出をすることを事前に軍当局に伝えていなかったのです。ラジオ局のスタッフは、「せっかくのサプライズが台無しになってしまうことを恐れた」と後に説明しています。

また、WVTRはマッカーサー元帥から在日本の英語話者に向けての指令を公式に伝える放送局であるため、このようなジョークを流すのはまったく不適切だとされました。

この中の何人かは、後に罰として朝鮮半島に配属になったと言われています。

 

 

4. ゴジラのモデルになった?

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 さてここまで読んで明らかなように、この話はゴジラに非常によく似ています。

映画『ゴジラ』が公開されたのは、この事件の7年後の1954年のことです。両者とも、東京湾から巨大な怪獣が現れ、都市を破壊して回るという内容です。

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類似性からこの1947年のイタズラ放送がゴジラに影響を与えたという説があります。しかし、『ゴジラ』の制作に関わった人の中で、WVTRの放送をヒントにしたと証言している人はいません。

『ゴジラ』に直接影響を与えたとされているのは、1953年にアメリカで公開された怪獣映画『原子怪獣現る(The Beast from 20,000 Fathoms)』。レイ・ブラッドベリが書いた短編小説を基にした作品です。

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おそらくこの事件とゴジラに直接的なつながりはないと考えられます。

ですが、偶然の一致というには類似しすぎていて、製作者の一人がこの逸話を聞いたことがあったとか、何らか繋がりを邪推してしまいます。

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まとめ

 ゴジラと直接つながりはなさそうですが、怪獣が東京を襲うというアイデアは日本人の専売特許じゃないというか、アメリカ人がゴジラ前に考えてついていたというのはおもしろい話です。

当時のクリエイターがイマジネーションを膨らませると、太平洋からは謎の怪獣が出現したらおもしろいし、大都市東京を徹底的に破壊させたらインパクトでかくて衆目を引く、という結論に達したのかもしれません。

 

参考サイト

 "Sea Monster Attacks Tokyo" Museum of Hoaxes

 "WVTR's Sea Monster" Radio Heritage Foundation