歴ログ -世界史専門ブログ-

おもしろい世界史のネタをまとめています。

世界のエクストリームな無政府主義団体

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Work by Jsymmetry 

人間の完全なる自由を目指し黒旗を掲げよう

伝統的な右派と左派の政策の違いは、右派「国家統制・規制強化・中央集権」である一方、左派「自由化・規制緩和・地方分権」なのですが、国によって状況はかなり異なります。

日本では右派と言われる自民党が規制緩和を進めて、左派である共産党が反対するといった逆転現象が起きています。極右と極左の政策が似通っている場合すらあります。

ただし、基本的にはリベラリズムというのは人間の理性と合理性を重んじる考え方であり、その考えを究極まで追求すると「政府は必要なく、すべて個人の選択と自由によって社会を構成する」という無政府主義的な考えに行きつくことになります。

なかなか一般的には共感を呼びにくいところがあるのですが、特にヨーロッパでは一定の人気があります。

中にはジョーク政党のようなものもあるんですが、世界の無政府主義団体とその主張をピックアップします。

 

1. ドイツ無政府主義ポゴ党

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 パンクロッカーが作った急進的極左政党

ドイツ無政府主義ポゴ党(APPD)は、1981年にハノーバーの高校生パンクロッカー「Zewa」と「Kolze(ゲロという意味)」によって設立されました。

「ポゴ」とはパンクロック・ファンに好まれるダンスで、観客全員でジャンプしたり、体をぶつけ合ったり、手を垂直に掲げたりしてリズムに体を委ねるもの。実際に映像見ていただいたほうが分かりやすいですね。

www.youtube.com

ポゴのように激しく急進的に変化を目指す意志を示しています。

ジョーク政党ではなく、1983年には全国組織を築き、1994年には選挙には候補者を立てて出馬。1997年にはハンブルクの選挙で5.3%の得票数を獲得し第4党にまでなりました。弱小政党ながらも現在も存続しています。

かつてのAPPDの選挙スローガンは以下の通り。

  • 平和・自由・冒険
  • 政治はたわごとだ!
  • クソ野郎万歳!
  • 飲め、飲め!とにかく毎日ただ飲め!

 

「犯罪者の居住を許す、フリー暴力地区を作るべし」

APPDは、失業、地域の崩壊、そして「ヘドが出る文明の圧力」 から人々を救済し、ドイツ社会を全面的に刷新することを目指しています。

特に駆逐すべきは、SNSや義務教育、警察など人間を特定の方向に縛り付けるもので、人間を原始的な状態に戻すべきと主張しています。

最も過激な政策の一つが「犯罪者、ネオナチ、サイコパス、強姦者」などの凶悪犯が住むことができる「どんな犯罪も許される居住区」を作るというものです。こわっ。

 

2. 階級戦争(イギリス)

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Photo by Garry Knight

 無政府主義団体による唯一の日刊新聞

階級戦争(Class War)は1982年にイギリスで設立された無政府主義団体及び新聞社。世界で唯一の無政府主義団体による日刊新聞です。

彼らは、労働者階級が金持ちや支配者と戦わなくてはならないが、労働党の政治家や労働組合のボスには助けを求めず、労働者の連帯と共闘によって実力行使を行うことをモットーとしています。

1980年代はいくつかの「金持ちをぶん殴れ(Bash the Rich)」デモを組織し、ロンドンの裕福な地域を行進して「将来の死刑執行人を見よ!(Behold your future executioners!)」と書かれたバナーやプラカードを掲げました。しかしあまりにも過激なメッセージを掲げたため警察に厳重な取り締まりにあい、1985年に一度組織は衰退します。

 2010年代にイアン・ボーンが階級戦争を政党として復活させました。

2013~2014年は、アメリカやイギリスで「プア・ドア(poor door)」が問題となっていました。賃貸のアパート物件で、富裕層向けの高価格帯の部屋と庶民向けの手頃な部屋でそれぞれ入口が分かれており、富裕層向けのドアからはジムやスパなど様々なアメニティ施設に行くことができた一方で、庶民向けのドアからは遮断されて行けない作りになっていたことが問題視されたものです。

階級戦争はこの問題でロンドンで毎週積極的なデモを繰り広げ、最終的に政府の「プア・ドアの廃止の発表」という大勝利を勝ち取りました。

freedomnews.org.uk

彼らはこの実績を引っ提げて2015年の選挙で7人の候補者を擁立するも、合計得票数はわずか526票、総得票率は0.002%未満で、党は2015年7月に選挙管理委員会に登録解除されてしまいました。

現在は主にネット上にて日刊新聞を発行しています

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3. 社会党(ノルウェー)

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Photo by Kvikanes

 反EU・北ノルウェーの分離独立を主張

ノルウェーは伝統的に無政府主義運動が盛んな地域で、現在でも首都オスロやトロンヘイムなどの地方都市には、無政府主義や左派リバタリアニズムを実践する自治的コミューンがいくつもあります。無政府主義を掲げる政治政党も、1916年創立の老舗のノルウェー・サンディカリスト協会、1977年創立のANORGなど活動が続いています。

ノルウェーの社会党(Samfunnspartiet)は、ヘイスタイン・マイヤー・ヨハネセン

によって1985年に設立された無政府主義を掲げる政党です。

名前は普通ですが主張や行動は過激。

 特に注力しているのが反EUの抗議活動で、もしノルウェーがEUに加盟した場合、北部ノルウェーのノルウェーからの分離独立を目指すとしています。北部ノルウェーには豊富な鉱物資源があるものの、オスロを中心とする南部ノルウェーにコントロールされているとする反感が住民には根強くあるそうです。

また社会党はパレスチナ問題にも関心が強く、 2005年に物議を醸した抗議活動を行っています。

それはアラビア語で「神は偉大なり!ユダヤ人がパレスチナを離れるまで、聖戦は続く。」とメッセージを書いた描いたバンを路上に置くというもの。発見した警備員は車爆弾かと怯え、警察が駆け付け大騒ぎとなりました。

マイヤー・ヨハネセンは、自分はパレスチナ人に同情的であるとして、「アラビア語でなにか書かれているだけで皆震えはじめるのだ」と指摘しました。

社会党は実際に登録されている政党で、 2013年の国会議員選挙で同党は295票を獲得しています。新党首であるビョーン・ダールは2021年のノルウェー議会選挙に立候補しています。

 

4. 青年国際党(アメリカ)

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Image by Raymond1922A

独自のカルチャーを築いたヒッピー的政治グループ

青年国際党(Youth International Party)は1967年12月に設立されたグループ。既に存在していたサイケデリック・ヒッピーと左派的政治活動家の有機的な連合体として、設立者の一人であるポール・クラスナーが「イッピー」という呼び名を思いつきました。

その後、同じく設立者の一人であるアニタ・ホフマンが「YIP」の頭文字から「国際青年党」という名称をひねりだしたそうです。

イッピーは1968年3月にニューヨークで最初の記者会見を行い「新国家宣言」を発表。

「我々は、すべての人が自分の人生をコントロールし、お互いを思いやることを望んでいる。我々は、生命の破壊と利益の蓄積を目的とした態度、制度、機械を容認しない」

として、ヒッピー・カルチャーが非常に濃い政策を挙げました。

食料の共済、地下新聞、医療無償化、学校無償化、芸術家や先住民の保護、フリーマーケット経済、フリー・ストア、有機農業、海賊版ラジオ、パブリック・アクセス・テレビなどなど。

有機農業やパブリック・アクセス・テレビ(今で言うインターネットとして)など今では当たり前のものになっているのもありますが、当時は特にラディカルなものととらえられました。

イッピーはメディアを駆使した派手でジョーク的な活動で知られます。例えば、1968年にはアメリカの大統領候補として豚を擁立する、ニューヨーク証券取引所のバルコニーからコピーしたドル札をばらまき必死にかき集めようとするトレーダーの写真を撮影して公開する、などなど。

イッピーの運動は1968年にシカゴで開催を予定していた「生命の祭典」で一つの頂点を迎えました。

大会前、イッピーは「シカゴの水道にLSDを入れる」「我々はビーチでファックするぞ! ... 我々はエクスタシーの政治を要求する!」などといった過激な声明を発表したため、シカゴ市はフェスティバルを禁止。有名なロックバンドやシンガーソングライターが出演し、全米から数万~数十万の観客を集める予定でしたが失敗に終わりました。

 イッピーはその後もカウンターカルチャーの発信源として活動を続け、1970年代に大きな影響力を持ちましたが、次第にコミュニティは小規模化していきました。

 

5. 山岳党(ドイツ)

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Image by Benjamin Richter

「ヒエラルキーなし、代表者なし」の政治を目指す 

山岳党(Bergpartei, die Überpartei、略称B*)は、ベルリンのスコッター(土地や建物の不法占拠活動)にルーツを持つ、2005年に個別に設立された「Bergpartei」と「ÜberPartei」(ÜPD)が合併して誕生したオルタナティブ左翼の政党です。

公式には「エコ・アナキスト・レアルダディスト集会所」という追加名称を持ち、自らを「ユートピア的連帯の翼、ラディカル・フェミニストの翼、ポスト・アイデンティティ的反国家・反物質主義的行動セクション」と表現しています。

山岳党は2005年から州・連邦選挙にも毎回参加しており、選挙のたびにシルクスクリーン印刷による手作業ですべてのポスターを制作することで有名です。1枚1枚が異なるものとなっていて、それによって、「大規模な洗脳によって占拠された公共空間の再征服に取り組みたい」としています。また自作の大型看板も衆目を集めるようにもなりました。

 

2017年「大規模プロジェクトくそくらえ」

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Photo by  Jürgen Scheer

 

2017年「動物の死骸ではなく、金持ちを食べよう」

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Photo by  Jürgen Scheer

 

 山岳党のマニフェストはラディカルな左派のそれで、例えば無条件のベーシックインカム、私有財産の制限と富の公共化、自動車の規制と自転車の推進、NATOからの撤退、グリーンエネルギーの推進と樹木の保護などを訴えています。また、政治は直接民主制を支持し、「ヒエラルキーなし、代表者なし」の政治を実現するとのことです。

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まとめ

ルーツは伝統的なアナキズムやアナルコサンディカリズムにありつつも、反戦運動、フェミニズム、環境保護主義、コピーレフト運動などを取り込んで発展している政党が見られ、とても興味深いです。

 これらの運動は政治のメインストリームになるのは難しいですが、イッピーがかつて主張した当時としては極端なものが、今では普通に受け入れられたり当たり前になっているものもあり、我々の社会が発展していく上で必要な「生態系の一部」なのではないかと思います。

 

参考サイト

" Punks and pirates: the oddest political parties" The Local de

 CLASS WAR DAILY

 "Derfor parkerte de «bombebilen»" Dagbladet

"Youth International Party" Brittanica

Youth International Party - Wikipedia

 "bergpartei, die überpartei" bpb

"bergpartei.de – Offizielle Website der bergpartei, die überpartei"