ヴァイキング時代に各地を荒らし回った戦士たち
9〜11世紀のバイキング時代には、ヨーロッパだけでなくロシア、カフカス、中東、北アフリカ、果てはアメリカ大陸にまでバイキングが進出し、盛んに交易・略奪・移住を試みました。
有名な人物だと、ノルマンディーに侵入したロロ(ロベール)、北海帝国を築いたクヌート、ノヴゴロド国を築いたリューリク、グリーンランドに移住した赤毛のエイリークなどがいます。しかし記録が少ししか残っておらず、名前が知られていないヴァイキングは星の数もおり、中には歴史に大きなインパクトを残した者もいます。
1. ロバ乗りの海賊
中東の内陸の都市を攻めた名もなきヴァイキング
ブワイフ朝の行政官だったペルシア人ミスカワイヒと、クルド人の歴史家イブン・アスィールが、943年に現在のアゼルバイジャンの町バルダにヴァイキングの侵入があったことを記録しています。
バルダの町はカスピ海に注ぐクラ川の西にある内陸の町で、まさかこんなところにまでヴァイキングがやってくるとは、という感じです。
ヴァイキングの首領はロバにまたがっており、名前も分からないため「ロバ乗り(The Donkey-Rider)」と言われています。
クラ川を遡ってやってきたヴァイキングはブワイフ朝のペルシア守備兵5,000を粉砕した後、市民から石を投げつけられたことで怒り、多数の市民を虐殺したそうです。
ペルシア兵はヴァイキングに占領されたバルダの町を包囲しますが、圧倒的な戦力の差の前に手が出ません。長期間の包囲のおかげでバルダの町で赤痢が流行し、首領のロバ乗りも死亡したことでヴァイキングたちは撤退を余儀なくされました。
ヴァイキング撤退後、ペルシア兵はヴァイキング兵の墓を暴いて彼らの剣を略奪したそうです。それほどヴァイキングの武器は発達していて高価だったということですね。
2. ブロディール
アイルランド王ブライアン・ボルを殺した男
ブロディールはマン島の有力なデーン人で、弟にアスパクという勇敢な戦士がいました。
隣国のアイルランドでは、長年有力者が割拠し内乱が続いた後、1002年にブライアン・ボルが覇王(High-King)となりました。このことでアイルランドのヴァイキング勢力は深刻な脅威にさらされ、ダブリン王シグルド・シルクビアードはマン島のブロディールとアスパクの兄弟に援助を求めました。
ブロディールはシグルドの要請を受け入れますが、弟のアスパクはこれは勝てる戦いではないとして兄に反発。アスパクはブライアン・ボルの側につき、兄弟は分裂してしまいます。
ブライアン・ボル率いるアイルランド軍と、シグルド・シルクビアード率いる北アイルランドのヴァイキング連合軍はクロンターフで衝突。7,000〜10,000もの兵が死ぬ凄まじい流血戦となり、戦い自体はブライアン・ボルの軍の勝利に終わりました。
しかし、ブロディールはたまたま敵陣深くで戦いの結果を聞くために待機していたブライアン・ボルとその親衛隊に出くわし、ブロディールは護衛兵を蹴散らして70代のブライアン・ボルを殺害することに成功しました。
しかしすぐにブライアンの弟「短気のウルフ(Wulf the Quarrelsome」」につかまり、内臓の片端を抜き取られて木に打ち付けられ、死ぬまで木の周りを歩かせるというやり方で殺されました。
この戦いではブライアン・ボルの子もシグルドも死んだため、アイルランドは再び内乱期に突入し12世紀後半まで覇王不在の状態となりました。
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3. 強健なラウド
キリスト教への改修に抵抗して殺されたヴァイキングの司祭
ノルウェーにキリスト教をもたらしたのは、美髪王オーラヴ一世(オーラヴ・トリグヴァソン)で、彼の布教活動で支配下のヴァイキングは渋々洗礼を受けキリスト教徒となりました。
そんな中で、キリスト教の受け入れに断固として抵抗したのが「強健なラウド(Raud the Strong)」。彼は土着宗教の司祭であり、ロングシップを操る有能な船乗りでもありました。
魔法が使えるという言われた彼は地元の戦士を集めてオーラヴ一世の軍と海戦に挑みますが敗北。向かい風の中前に進むという航海技術で戦場から逃げ出して地元に戻りました。
天候が落ち着いた後、オーラヴ一世の軍は暗闇に紛れてラウドが潜む集落を包囲して捕らえました。オーラヴ一世は、キリスト教を受け入れれば土地と船を守ると約束しますが、それでもラウドは「おれはキリスト教など信じない」と言って断固拒否。とうとうラウドはオーラブに処刑されました。
サガによると、その処刑のやり方は、ラウドに口を開けさせて丸い木の棒を口の中にいれて喉を開けさせ、その中に蛇を入れ込むというもの。それだけでは蛇は入らなかったので、酒を飲む用の角を口に突っ込ませ、そこに溶けた鉄を流し込んで喉の入り口を焼いて穴を広げて蛇を突っ込みました。結局胃内に蛇が到達しラウドは死亡しました。
4. 骨なしのイヴァール
身体障害のあったデーン人ヴァイキング
「骨なし(Boneless)」というあだ名がついているデーン人ヴァイキングの首領がいます。
弱虫とか意気地なしという意味ではなく、彼は現代で言う所の骨形成不全症で、一部の骨がなかったり破損していたりしたようです。彼は自分自身で立つことができず、「部下の盾で運ばれて移動した」とあります。
イヴァールは伝説的なヴァイキングの王ラグナル・ロズブロークの息子であると言われていますが、ラグナルは神話的な人物なので本当のところはよく分かりません。確かなことは、865年にイヴァールと彼の兄弟はデーン人の大軍を率いてイングランドに侵入し、イースト・アングリアとマーシアに破壊的なダメージを与えたことです。
マーシアのバーグレッド王はウェセックス王アテルレッドと同盟し、占領されたノッティンガムの町を包囲しました。結局町は落ちませんでしたが、イヴァールらをヨークの町に撤退させることに合意させました。
870年以降イヴァールの存在は記録から消えていますこの歳に死んだか、あるいはその3年後に死んだと考えられています。
5. イマール
イヴァールと同一人物説のあるダブリンのヴァイキング
イマールは骨なしのイヴァールと同時期にアイルランドとスコットランドで活躍したヴァイキングです。
850年〜860年代前半にかけては南イー・ネールを拠点にアイルランドで最も有力な人物の一人であったモール・セックネールと長年抗争を繰り広げました。イマールは北イー・ネールの有力者アエド・フィンドリアスとオソリ族の王ケルボールと同盟を結び、モール・セックネールを攻めました。
彼の死によって南イー・ネールの土地は分割されて諸侯らに分捕られ、その後もイマールとその同盟は新たな土地を求めて周辺諸侯と戦いを繰り広げました。イマールはその後はしばらく何をしていたか記録が残っておらず、870年にスコットランドに現れダンバートンロック要塞を包囲しました。4ヶ月の包囲の後、要塞の水源がヴァイキング軍によって経たれたことによって要塞は陥落。略奪され、戦利品をアイルランド に持ち帰るための船は200隻にもなったといいます。
イマールは873年に原因不明の理由で死亡しますが、彼の足跡と死亡時期の関係から、骨なしのイヴァールとイマールは同一人物であるという説もあります。
6. ガンダード
ガリシアに攻め込んだ正体不明のヴァイキング
ガンダードとはスペイン語で「海王」という意味で、968年にガリシア地方(スペイン北西部)に攻め込んでしばらくの間統治したヴァイキング王を言います。
ガンダードは100隻の船を率いてガリシアに侵入し、サンティアゴ・デ・コンポステーラの教会を破壊して大司教を殺害、ガリシア全土を占領しました。
占領は3年続きましたが、疫病が流行してガリシア人の抵抗運動も活発化し、加えてガリシアの土地が貧しくヴァイキングが思ったほどの富を得られなかったため、ヴァイキングは自主的に去って行きました。
ガンダードが誰かよくわかっていません。ノルウェー王ハーラル二世の兄弟であるという説もありますが、正しいところは不明です。
7. トルステイン・ザ・レッド
騙し討ちで殺された悲劇の王
トルステインの父はダブリン王オラフで、母親はスコットランドのヘブリディーズ諸島の君主の一族のオード・ザ・ディープマインド。
オラフはヘブリディーズとの連携を深めようとするも島民の反発は根強く危険が高まったため、オラフはオードと息子のトルステインをヘブリディーズに送られました。
成長したトルステインは戦士になり、オークニー伯シグルド・エイスタインソンと同盟を結び、ケイスネス、サザーランド、ロス、モーレイをはじめスコットランドの北半分を制覇しました。
しかし彼の能力を恐れたスコットランドの族長たちは、900年に彼を騙し討ちで暗殺してしまいました。
息子の死を嘆いた母オードは、ヘブリディーズにしばらく滞在した後に、一族の者と一緒にアイスランドに渡り、そこにトルステインの墓を立てました。
波が常に墓を洗ってくれるようにと、海岸沿いに立てたそうです。
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まとめ
ヴァイキング時代はなぜか心惹かれるものがあります。
有象無象の乱暴者が海に出てヒャッハーと陸地を襲い、その中で男たちを統率して大勢力を作る英雄が現れて大地域を支配してしまう。まるで北斗の拳。大混乱時代特有の、ごちゃごちゃしてよく分からない時代の魅力を感じます。
まあ、その時代に住みたいとは思いませんけどね。
参考サイト
"Ivar the Boneless" Encyclopedia Britannica
"Raud the Strong, the mighty chieftain of Arctic Norway" BIVROST
Brodir and Ospak of Man - Wikipedia
"10 Forgotten Vikings Who Terrorized The Dark Ages" LISTVERSE