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チキンナゲットの歴史-健康食からジャンクフードへ-

アメリカが誇るファストフードの申し子

マクドナルドやKFCといったファストフードチェーンに行ったら、チキンナゲットはだいたい食べると思います。

外はカリっとして、中はふわっとした食感。味は、チキンと名乗っているので確かにチキンなのですがあまりチキンっぽい味ではなく、「チキンナゲット」としか形容できない味です。強いて言うと油とケチャップと衣の味です。

冷凍保存が利き、仕事中や歩きながらも食べることができ、価格も安い。

いかにもアメリカらしい、ファストフード文化の申し子のような存在です。

しかしもともと、チキンナゲットは健康食品として開発され普及してきました。その後、食品偽装問題など社会問題化したことで、体に悪い食品の代表格のようなイメージがついてしまっています。

 

1. 消費者に敬遠されるチキン

アメリカ人にとって、チキンはさほど人気のある食材ではありませんでした。

アメリカの伝統的な肉と言えば牛肉か、感謝祭の七面鳥です。

チキンが一般的になるのは、第二次世界大戦中、軍需用に牛肉が不足したことで、代替のタンパク源としてチキンの消費が推奨されたことがきっかけです。

アメリカ国民の胃袋を満たすためにブロイラーチキンが大量生産され、安価に提供されたことで一気にアメリカ中に広がりました。戦争末期になると、軍もチキンを求め始めました。1945年の春、陸軍食糧管理局はチキンの主要産地であるデルマーバ半島の生産量のほぼ100%を徴発しました。

戦争が終わると人々は牛肉を再び食べるようになりますが、チキンの生産は拡大し続けました。1955年にはチキン出荷量は10億羽になり、価格もどんどん下がっていきました。

当時はチキンはほとんどが丸鶏のまま売られていましたが、様々な不満がありました。一羽だと家族ぶんには小さすぎるが一人で食べるには大きすぎる。丸焼き調理は時間がかかりすぎて女性には難儀。味が薄いので一週間に何度も食べると飽きる。

政府もチキンの消費を推奨しますが消費者からは敬遠され、チキンを食べることを「チキン・ファイト」と呼ぶようにすらなりました。

消費者のネガティブな反応を受け、チキン業界は「鶏肉を食肉製品として完全に位置づける」試みを開始。その一環で「チキンナゲット」が誕生します。

 

2. チキンナゲットの発明

チキンナゲットを誰が発明したかは議論がありますが、一般的には農業科学者のロバート・C・ベイカーが1963年にコーネル大学の研究室で発明したと言われています。

ベーカーは他にも、チキンハッシュ、コーネルソース、チキンコールドカット、チキンホットドックなど、チキン食品を数多く発明した人物で、南部アメリカの農業に多大な貢献をした偉大な植物学者ジョージ・ワシントン・カーヴァーに例えられ「チキン界のジョージ・ワシントン・カーヴァー」と称されています。

ベーカーは、鶏肉に酢と塩を加えて挽きひき肉にし、一口サイズにした上で、粉ミルクと穀物を加えた衣に包みました。この衣はベーカーが発明した特別なもので、冷凍しても縮まず揚げても膨らまないという特長がありました。これにより、大量生産と冷凍輸送が可能になりました。

この「チキンスティック」は、ニューヨーク州北部で大評判となり、6週間後には200箱以上が店頭に並びました。

ベイカーはチキンナゲットの特許を取らず、むしろレシピを何百というアメリカの会社に郵送して普及に努めました。何という仕事人でしょう。

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3. 健康食としての鶏肉

1955年、マクドナルド・オーナーのレイ・クロックがハンバーガーショップの1号店をオープンして以来、ファストフードは急激に成長し、手頃な価格で食事を楽しみたい郊外の人々に満足感のある食事を提供してきました。

一方で、20世紀初頭には心臓疾患と脳卒中が社会問題化し、1950年代には癌の死亡率の2倍に達していました。以前は心臓疾患と脳卒中は以前は高齢者だけの病気と考えられていましたが、朝鮮戦争で戦死した兵士の解剖から、若者も心臓疾患の初期症状が現れていることが明らかになりました。その原因はコレステロールの多い牛肉と豚肉に帰せられたのです。

このような健康問題が国民の課題とされる中で、1968年〜1977年にアメリカ上院において「栄養と人間欲求における合衆国上院特別委員会(United States Senate Select Committee on Nutrition and Human Needs)」という特別委員会が設置されました。これはアメリカ人の医療と平均寿命に警鐘をならし、このままではアメリカ経済は破綻するとして、世界中から学者を集めて食事と健康のあるべき姿を討議。1977年に「アメリカの食事目標」通称マクガバン報告を発表しました。

この報告書では、肉、乳製品、卵、砂糖、塩分の過剰摂取を控え、穀物、鶏肉、魚、野菜、果物を中心にした食生活が推奨されました。

この報告書の影響は大きく、アメリカ人は、牛肉、牛乳、バターなどの脂肪や脂肪分の多い製品を恐れるようになり、「ヘルシーな食品」への志向が高まりました。鶏肉は牛肉に代わるヘルシーな食材として売り出されたのです。

ほぼ同時期に、寿司や豆腐と言った日本食も「ヘルシー」とみなされ普及が進んでいきます。魚や大豆製品を好む日本人の感覚では、チキンがヘルシーフードに分類されるのはちょっと変ですが、バターをどっさり乗せて焼き上げるステーキに比べるとまだマシなのは分かります。

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4. チキンマックナゲットの発明

「健康に悪い」食品への風当たりが強くなり、「ハンバーガーを減らすべき」と言ったマクガバン報告以来、マクドナルドの売上は激減しました。

マクドナルドのオーナー、レイ・クロックは1981年、鶏肉に活路を見出し、新たな定番メニューを開発して起死回生を図ろうとしました。そのコンセプトは「骨なしチキン」「チキンのフライドポテト」でした。

マクドナルドは著名シェフ、ルネ・アーンドを雇い、試作品を作らせました。アーンドが作った「フライドチキンとグレイビーソース」は、社内では好評だったものの、フランチャイズで大規模な再現をすることは不可能と判断されお蔵入りとなりました。次に作った「チキンポットパイ」も却下されました。

そこでマクドナルドは、1983年に冷凍ハンバーガーのメーカーであるキーストーンフーズ社に、チキンを切る作業をオートメーション化するシステムの開発を依頼。さらに、冷凍魚スティックで有名なゴートンズ社に、フライドチキンの衣の大量生産を依頼しました。できたのが「チキンマックナゲット」でした。やはりファストフードではロジとシステムが勝利するのですね。

1983年、マクドナルドはアメリカで「チキンマックナゲット」を発売開始。宣伝効果もあり話題となり、世界的な大ブームとなり、店の前には連日行列ができました。数ヶ月のうちにハンバーガーレストランのマクドナルドを、KFCに次ぐ世界第2位のチキン小売店に押し上げたのです。

現在、マクドナルドは「2分間に平均2,500ポンド」のチキンナゲットを販売しています。まごうことなく看板商品の一つです。

 

5. チキンナゲットへの疑惑の目

ヘルシーフードとして登場したチキンナゲットですが、その食感がチキンと似ても似つかないこともあり、どのように作られているのか疑惑の目が向けられてきました。

2012年3月、ABCニュースがいわゆる「ピンクスライム肉」の報道を始めると、チキンナゲットへの疑惑はピークに達しました。

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ピンクスライム肉とは、アメリカの食肉産業でLFTB (lean finely textured beef) またはBLBT (boneless lean beef trimmings) と呼ばれるもので、牛骨に付着している肉片をこそぎ取り、加熱し遠心分離機にかけて脂肪を除去し、アンモニアで殺菌しペースト状にしたものです。牛ひき肉の増量剤に使ったり、脂肪含量を減らす目的で牛挽肉に添加されます。このピンク色のものをそのまま油で揚げるというわけではありません

生産過程で化学薬品を使っている点や、多くのひき肉製品に添加されている点が問題視されたわけですが、「知らず知らずのうちに得体のしれない気味の悪い肉を食わされている」という消費者の感情的な批判が高まりました。

この批判を受け、マクドナルドはピンクスライム肉の取り扱いを中止しました。

しかし、実際にチキンマックナゲットに多くの添加物が使われているのは事実です。

チキンマックナゲットの脂質は57%で、そのほとんどがトランス脂肪酸を含む水素添加大豆油。化粧品などに使われる石油製品の一部であるTBHQ(tert-ブチルヒドロキノン)は形状を保持するため、シリコン系消泡材であるジメチルポリシロキサンは調理中に表面に泡が立つのを防ぐために使用されています。

これらの添加物は少量摂取するぶんには人体に害はありません。これはなんでもそうです。塩や醤油も過剰摂取したら体に毒です。

 

チキンマックナゲットは実に批判の対象になることが多い食品です。

2014年の「マクドナルド期限切れ鶏肉使用事件」は記憶に新しいです。

マクドナルドの食材を卸す上海の食肉工場が、消費期限切れや床に落ちた肉なども使用してミンチを作っていたことが中国メディアの取材で明らかになり、世界的なニュースとなりました。その供給先の一つが日本であったこともあり、日本マクドナルドは一時チキンマックナゲットの販売を停止。この事件を機に日本マクドナルドの売り上げは激減し、長期の低迷期に入っていきました。

「ナゲットは毒」という人もいますが、適切に少量食べるぶんには全く体に害はありません。食べる・食べないは個人の自由なので、特に私が何か申し上げることはありませんが、過剰に心配する必要はない、ということは申し上げておきたいと思います。

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まとめ

チキンナゲットは、アメリカのファストフード産業の申し子のような存在です。

自宅であの味を再現することがほぼ不可能という点も含めて極めて謎多き食品で、我々の感覚では「ヘルシーフード」とはとても言えるものではないのですが、多くの人に愛され、確実に市民権を得ている食べ物です。

今後も様々なフレーバーと共に私たちの胃袋を満たし続けることでしょう。

 

参考サイト

"Who Invented Chicken Nuggets?" History.com

"Chicken nuggets: A fried favorite full of history" Carolina News&Reporter

"Secrets of the Chicken Nugget: A Surprising History" TIMES