夏にぴったりのトリニダード・トバゴの民族的音楽
カリブ海の島国トリニダード・トバゴの民族楽器スティールパンをご存知でしょうか?
名前を聞いたことなくても、きっとCMとかBGMとかでその音色を聞いたことはあるはずです。
スティールパンとはドラム缶で作られた打楽器で、歴史は浅いもののトリニダード・トバゴの人々のパッションの象徴であります。
通常複数人のメンバーで奏でられ、耳の中で何重にも響く高い音色は、 圧倒的な迫力をもって聴く者の心に深く訴えかけてきます。
この素晴らしさをもっと多くの人に知っていただきたい。
今回はスティールパンの概要と、ぼくのおすすめのグループを紹介いたします。
1. スティールパンとは?
スティールパンは0.8mmから1.5mmの幅の薄い金属で出来た楽器。
ボウル状になった金属の内側をハンマーで叩いて凹ませ、それぞれの面で異なる音が出るように調整されています。
凹ませ方の深さや幅によって音が決まってくるため、いかにくっきりはっきりとした音を出せるかがスティールパンの職人の腕の見せ所。一カ所を打つと、同じ金属だから、別の箇所の形状も変わってしまうため、全体最適を考えながら面を打っていくのです。
単純な楽器ですが良いものに仕上げるには、知識と経験、あとは霊感(勘)が求められます。
2. スティールパンの発明
黒人奴隷とカーニバル暴動
カリブ海の島々はイギリス、フランス、スペイン、オランダなどの国々が植民地としており、主に西アフリカから奴隷が連れてこられサトウキビなどのプランテーション農場が開拓されていました。
現在のトリニダード・トバゴの領地では、18世紀末にトリニダード島がスペインから、19世紀初頭にトバゴ島がフランスからイギリスに主権が移管。トリニダード・トバゴはイギリス領となりましたが、黒人奴隷たちの待遇は相変わらず最悪なもので、しばしば植民地の政府や警察相手の暴動が発生。
暴動は18世紀末から19世紀初頭に集中的に起こり、奴隷暴動から独立運動に発展していったのですが、その発生は「カーニバル」の時期に決まって起こっていました。
キリスト教の謝肉祭の文脈と、アフリカの楽器を用いた祝祭の伝統が融合してできたものなのですが、興奮して盛り上がりすぎて日ごろの鬱憤が全部出てしまい、暴動に発展するケースが多々あったのです。1880年、イギリス植民地政府は「カーニバル暴動」を取り締まるため、金属の棒を用いるパーカッション音楽を全面禁止にしてしまいました。
スティールパンの発明
しかし、そのようなお役所的な禁令で黒人にDNAレベルまでしみ込んだ音楽の情熱まで消すことはできない。
黒人たちは、竹の棒を使ってフライパンやドラム缶を叩いて音楽を楽しみ始めました。それをタンブー・バンブーといいますが、しばらくしたらそれすら当局によって禁止されてしまいます。
1939年、ウィンストン・スプリーという人物がボロボロになったドラム缶を叩いて直そうとしたところ、凹んだ箇所によって異なる音が出ることを発見。スティールパンの元となる楽器を偶然生み出し、一躍黒人の間に広まります。
これが有名になったのは1941年。
トリニダード・トバゴに派遣されたアメリカ海兵隊への余興として、現地のミュージシャンがドラム缶を利用したパーカッションを披露。大盛況を博します。
これ以降、アメリカ軍がトリニダード島に残した55ガロン(208リットル)の「石油缶」が再利用されてスティールパンに再利用され、スティールパン人気が本格化。
1951年には、「全トリニダード・スティール・パーカッション・オーケストラ(TAPSO)」が結成され、スティールパンがトリニダード・トバゴのナショナル音楽としてますます発展していくこととなったのでした。
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3. カーニバルがやってきた
トリニダード・トバゴのスティールパン演奏グループは、夏のカーニバルの時期に向けて1年間演奏やパフォーマンスの練習を積みます。
最も有名なものは、トリニダードのカーニバルで開催されるワールド・スティール・バンド・フェスティバル「パノラマ」。
1967年から始まったコンテストで、このコンテストに優勝することは国内のスティールパン演奏グループにとってはまさに悲願。演奏者たちは、「このコンテストのために生きている」と言っても過言ではないほど、時間とカネを惜しまずに真剣に取り組む。
またこの時期にには、パノラマを生で見ようとアメリカやヨーロッパから多くの観光客が詰めかける、トリニダード・トバゴにとって一番の「書き入れ時」なのです。
またこのコンテストで国際的に有名になると、アメリカやヨーロッパなど海外での演奏やCDデビューも夢じゃないため、カーニバルは「アーティストとしての夢を叶える場」でもあるのです
4. まずはこれを聞いてほしい
これ以上御託はいりません。音楽は聞かないと始まりません。
以下、ぼくが好きなスティールパングループをピックアップしました。
大音量でビール飲みながら聞いたら、もう最高ですよ!
4-1. Exodus Steel Orchestra
「パノラマ」コンテストで4度の優勝歴を誇る実力派グループ。
とりあえず聞いてください。鳥肌がやばい!
4-2. Arima All Stars
トリニダード島西部のアリマ地区の住民の選抜メンバーが集まったグループ。
CDアルバムにいくつも楽曲を提供するほどクオリティは高いです。
4-3. Desperadoes Steel Orchestra
1946年に結成されたグループで、「パノラマ」にて10回の優勝を誇る名門。
予選通過率・ファイナル進出率はダントツ。海外ツアーも数多くこなします。
4-4. Neal & Massy Trinidad All Stars
1935年に結成された歴史あるグループ。
トリニダードのカーニバルで何度も優勝。15枚のレコードをリリースし、海外での公演も多数ある屈指の実力派です。
メンバーはトリニダード以外の国にもおり、20〜30人ほどが在籍してツアーやイベントごとに集まって演奏しています。
4-5. Phase II Pan Groove
1972年に「コンテンポラリーとスティールパンを組み合わせたイノベーティブなサウンドの創造」を目指して6人のメンバーで結成されました。
クラシックやポップなどあらゆるタイプの音楽を取り入れ、また他のジャンルとのアーティストとのコラボレーションも積極的に行っています。
また、スポンサー企業がついていない珍しいタイプのグループでもあります。
4-6. Esso Trinidad Steel Band
その名の通り、石油会社のエッソがスポンサーのグループです。
1942年にTripoli Steel Bandという名前でスタートし、1967年にスポンサーがついて現在の名前になりました。
1976年にメンバーの1人Hugh Borde がアメリカに移住したことでトリニダードのメンバーは解散してしまいましたが、Hugh BordeはアメリカでTrinidad Tripoli Steel Bandの名前で音楽活動を再開し、アルバムを1枚リリースしています。
まとめ
いかがでしょうか、テンション上がりませんか?
これをですね、ぼくはトリニダードに行って生で聞いてみたいのですよね。一生に一度でいい。迫力がヤバいだろうなあ。
もしもっと聞きたいという方は、エクソダスの楽曲が多く入っているこちらのアルバムがおススメです。
<COLEZO!TWIN>スティール・パン コンプリート・ベスト
- アーティスト: オムニバス,デスペラードス,エクソダス,アール・ブルックス・ジュニア,レン・ブグジー・シャープ,アール・ブルックス,ケン・プロフェッサー・フィルモア,エクソダス・スティールバンド,トリニダード・オールスターズ,エクソダス・スティール・オーケストラ,アリマ・オール・スターズ
- 出版社/メーカー: ビクターエンタテインメント
- 発売日: 2005/12/16
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