現代社会を作り上げた偉大な科学者たちの功績を知ろう
電話を発明したグラハム・ベルや、白熱電球を発明したトーマス・エジソン、ラジウムを発見したキュリー夫人の功績は小学生でも知っています。科学者の伝記は人気があるジャンルなので、子ども向けの本がたくさんありますよね。
ですがまだまだ世に知られていない、多大な功績を残した科学者はたくさんいるので、そのような人たちを折に触れてピックアップしていきたいと思います。今回はその初回です。
1. ユーニス・ニュートン・フット 1819-1888(アメリカ)
地球温暖化現象を最初に予見した女性科学者
一般的に温室効果を発見したのはアイルランドの物理学者ジョン・ティンダルと言われていますが、彼が発表した数年前に二酸化炭素が温室効果ガスであることを発表していたのがアメリカの科学者ユーニス・ニュートン・フットです。
それは1856年にアメリカン・ジャーナル・オブ・サイエンスに発表された「Circumstances Affecting the Heat of the Sun's Rays」です。この中でフットは2つの円形状の容器を用意し、片方に普通の空気を満たし、もう片方に二酸化炭素を満たし、それぞれを太陽の下に置いて温度を測定しました。すると二酸化炭素を満たした方が温度が上がることを発見したのです。
フットは地球の二酸化炭素が増えると地球全体の温度が上昇するに違いない、と結論づけています。
彼女が発表した学会誌の論文はこちらから閲覧できます。
2. アントニー・ファン・レーウェンフック(オランダ)
「微生物学の父」
アントニー・ファン・レーウェンフックはオランダの科学者で、非常に高性能な顕微鏡を自作してミクロの世界には微生物やバクテリアが存在することを証明しました。
レーウェンフックは幼くして父と死別し叔父に育てられ、初等教育を受けた後16歳から働き始め、テキスタイル販売、ワイン貿易、土地測量の仕事に従事し、非常に富裕になりました。もともと手先が器用だったようで、40歳ごろから顕微鏡を自作で作って研究を始めました。好奇心旺盛で身の回りのものをなんでも顕微鏡で覗いてみて、何か面白いものが見つかるか探し続け、その発見をレポートにまとめていました。
彼は高等教育は受けておらず言語も日常オランダ語しかできませんでしたが、どういうわけか研究の質はとても高く、研究成果としてロンドン王立協会に送られた手紙は英語に訳され、レーウェンフックはオランダの市井の研究者として有名になりました。
最初の大きな発見は41歳の時、単細胞生物を世界で初めて発見したことです。次いで1674年に赤血球の正確な大きさを測定、1676年には水中のバクテリアを発見。1677年には精子を発見し、精子が卵子に入ることで受精することを突き止めました。さらには1678年にリンパ管も発見しました。
レーウェンフックの発見はひとえに彼がハンドメイドした顕微鏡の性能によるところが大きく、彼は誰にもこの顕微鏡の作り方を教えなかったので、その技術は1723年に彼の死と一緒に墓の中に持ち込まれてしまいました。
3. フランシズ・グレスナー・リー 1878-1962(アメリカ)
「法科学の母」
フランシズ・グレスナー・リーは犯罪捜査の場に「殺人現場のジオラマ」を再現して検証を行うという全く新たな捜査方法を導入し「法科学の母」と呼ばれる女性です。
リーはハーバード大学医学部で犯罪学を研究しており、その中で正確な捜査のために現場訓練が必要性を痛感していました。当時、捜査官の訓練はほとんど行われておらずノウハウもなく、しばしば重要な証拠を見落としたり、証拠品を誤って取り扱ったり、回復不能なほど現場を改ざんしてしまっていました。
リーは特に捜査が難しい現場で捜査官がより正確な捜査を行える一つの手法を考え出します。犯罪学者であると同時に才能ある芸術家でもあった彼女は、幼い頃に大好きだった「ミニチュア製作」の技術を犯罪捜査に採用しました。1940年代からリーは犯罪現場のミニチュア製作を捜査官に教えはじめ、この「現場の物理的な再現」は犯罪捜査のあり方を大きく変えました。
▽リーが作ったミニチュア
この功績によりリーはアメリカで史上初めて名誉警察署長に任命されました。
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4. キャスリーン・メアリー・ドリュー=ベーカー 1901-1957(イギリス)
「海苔養殖の母」
キャスリーン・メアリー・ドリュー=ベーカーは日本では「ドリュー女史」と呼ばれ、日本の海苔養殖業関係者から大きな尊敬を受ける人物です。
彼女は1922年にイギリスのマンチェスター大学を卒業後、カリフォルニア州立大学で海藻学を研究後に帰国して、母校の研究員となって紅藻類の発生と細胞学について多数の論文を発表し、藻類の生態についての大きな進歩をもたらしました。1952年にイギリス藻類学会の創立に携わり初代会長となりました。
ドリュー女史が日本で有名なのは、「海苔の胞子は貝殻に潜って夏を過ごす」という海苔の生態の発見によります。
この発見以前、海苔の生態は詳しく分かっておらず、胞子は海上に浮遊すると考えられていました。そのため海苔養殖業者は竹ひびや海苔網を海の中に建て込み、それに自然に海苔芽が付着して成長するのを待つ方法で海苔を生産していました。これは勘と経験が頼りのバクチに近いものでした。
しかしドリュー女史の発見により「人口採苗」という方法が確立します。これは海苔の果胞子を貝殻に潜らせて育て、果胞子が糸状に成長して再び果胞子を発芽させ、そこで生まれた胞子を海苔網に付着させて育てるという方法です。これは日本中の海苔養殖業者に広まり、海苔の供給と漁民の生活の安定をもたらしました。
親交のあった九州大学の瀬川教授と海苔養殖業者は、ドリュー女史への感謝のため日本に招くことを計画していましたが、その矢先に1957年に死去してしまいます。
ドリュー女史への感謝を忘れまいとして、全国の関係者は資金を出し合い海苔の一大生産地である有明海に面する熊本県宇土市住吉町に顕彰碑を建立し、毎年4月14日をドリュー祭として顕彰を続けています。
5. ウィリス・キャリア 1876-1950(アメリカ)
「空調技術の父」
ウィリス・キャリアは現在のエアコンの大元となる装置を発明した人物で、空調技術の父と呼ばれています。
大学を卒業後に、Buffalo Forge Companyという業務用のヒーターを製造する会社の技術者として働いていましたが、1902年にニューヨークのブルックリンにあるSackett-Wilhelms Lithographing & Publishing Companyという会社に納品したヒーターに不具合が発生し、その不具合を解消するために開発したシステムが、後に「エアコンの元祖」と呼ばれるようになりました。1902年に湿度管理機能を備えたシステムを開発し、これをもって「エアコンの誕生」と呼びます。エアコン・システムには、
・温度管理
・湿度管理
・空気の循環と換気の管理
・空気の浄化
の4つの機能が搭載されるものがエアコンとされ、この定義はキャリアのエアコンの機能を踏襲しています。
1906年には噴霧式空調設備を初めて開発。同年、湿度と露点温度に相関があることを発見し「露点制御」を発明しました。
キャリアは1914年に会社を辞めてキャリア・エンジニアリングを創業し、現在でも空調設備や冷蔵の分野で世界のリーディングカンパニーです。キャリア社は日本では東芝との合弁会社「東芝キヤリア」として展開し、主に業務用空調設備の製造・販売を行っています。
6. モーリス・ハイルマン 1919-2005(アメリカ)
四十ものワクチンを発明し多くの命を救った男
モーリス・ハイルマンは現在人間が日常的に摂取する十四のワクチンのうち、八つを開発した微生物学者です。その八つとは、麻疹・おたふく風邪・A型肝炎・B型肝炎・水痘(水痘)・髄膜炎・肺炎・インフルエンザです。確かに我々の生活の身近なワクチンばかりです。特に子どもにとって重要なワクチンばかりで、ハイルマンの開発したワクチンによって幼児死亡率は大幅に減少しました。彼は「歴史上最も多くの人命を救ったワクチン学者」と呼ばれています。
ハイルマンは民間企業に加わった後、軍の求めに応じて太平洋戦争に従軍するアメリカ軍の兵が悩まされた日本肝炎に対するワクチンを開発。その後1957年に香港で流行ったインフルエンザに対するワクチンを開発し、多くの命を救います。
同年、Merck&Co.に入社しウイルスおよび細胞生物学研究部門の責任者として勤務。1963年には娘が感染したおたふく風邪の菌を採取しワクチンを開発しました。この時のJeryl Lynn株は未だに使用されています。ヒルマンが自身で最大の発明と言っているのがB型肝炎のワクチンで、1981年に認可されて以来世界各国で使われ、2003年時点で150カ国で使われています。
ヒルマンは、国立衛生研究所のAIDS研究プログラム評価室、全国予防接種プログラムの予防接種実務に関する諮問委員会、国内外のアカデミック・政府・民間の諮問委員会に参加し、世界保健機関の顧問でもありました。 2005年に85歳で死去しました。
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まとめ
政治や軍事の偉人の歴史も面白いですが、世界を変える活躍をした技術者や科学者も面白いですし、もっと我々も知った方がいいですね。
普通に生活の中で使っている技術の開発の経緯やどんな人が作ったか知るのは、教養としても、技術に対して敬意を評するという点でも大切だと思います。
参考サイト
" EUNICE FOOTE - CIRCUMSTANCES AFFECTING THE HEAT OF THE SUN'S RAYS" (1856)" davidmorrow.net
"Antonie van Leeuwenhoek" Famous Scientists
"ABOUT WILLIS CARRIER" WILLIS CARRIER
"Murder Is Her Hobby: Frances Glessner Lee and The Nutshell Studies of Unexplained Death" SAAM