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「金髪女はバカ」という偏見はなぜ生まれたか

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金髪女はIQが低く、ルックスしか興味がないという偏見 

欧米では「Dumb Blonde Jokes」というのがあります。

直訳すれば「バカな金髪ジョーク」というものです。例えばこんなものです。

赤毛女が金髪女に言った

「この間ブラジル人と寝ちゃってさ」

「まあ、あなたったらなんてふしだらなの。ところでそのブラジルジンって人は何人なの?

金髪がジグソーパズルを完成させるのに半年かかったが自慢げだ

箱を見ると「2 to 4 years」と書いてあった

Q.頭の良い金髪の名前を挙げよ

A.ゴールデン・レトリバー

 これはあくまで一例で「金髪女はIQが低い」とか「ルックスしか興味がない」などといったステレオタイプを信じる人も大勢いて、そういった偏見がネットの世界でも大量に流れています。

そのようなステレオタイプはとんでもないデマとすぐ分かるものですが、なぜこのような偏見が根強く残っているのでしょうか。

 

1. 金髪に対するステレオタイプ

金髪、特に金髪の女性に対するステレオタイプは

「金髪女は非常に魅力的で性的興奮を起こすが、おしゃれや化粧ばっか気にして勉強をやってないので、概して頭が悪く常識もない」

というもの。冒頭に述べたDumb Blonde Jokesも、子どもでも分かるような常識的なことも分からない金髪女性がトンチンカンな行動や返しをする、というのが典型です。

このような「バカな金髪女」の元祖とされているのが、18世紀フランスのロザリエ・デュテという女性です。

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もともと修道女でしたが単調な生活にうんざりして抜け出し、その美貌を活かしてイングランドやフランスの著名な貴族・ブルジョワの愛人となり、パリ・オペラ・バレエのダンサーとしてデビュー。フランスの社交界で名だたる王族・名士たちと関係を持ちました。デューク・ド・デュルフォート、ジェンリス伯爵、そして若き日のフランス王シャルル10世も関係を持った1人です。

ロザリエ・デュテはその美貌で人気となったのですが、彼女はミステリアスさと蠱惑的な雰囲気を醸し出すため、話す前にしばらく言葉を出さず沈黙するという習慣がありました。

当時の高貴な女性はおしとやかさや優雅さが求められ、デュテはそれを極端な形で実行したに過ぎないと思うのですが、パリの社交界では「デュテは美しいけどオツムの方はイマイチだわね」と陰口が広がり「パリジャンたちを数週間笑わせた」そうです。

これがDumb Blondeの元祖と果たして言えるのかというのは甚だ疑問ではありますが、文化史家のジョアンナ・ピットマンは「On Blondes」という著作の中でこう述べています。

1774年のパリでは、マドモワゼル・ロザリエ・デュテという高級売春婦が最初の公式なDumb Blondeといううさんくさい称号を獲得した。

現在のDumb Blondeをたどるとデュテにたどり着くということではないので、この定義はいかがなものかと個人的には思うのですが。

Dumb Blonde目に見える形で表現して大衆に提示したのが20世紀から始まる「映画」であり、ここにDumb Blondeステレオタイプの大部分の原因があります。

 

2. 金髪女性=理想的な女性のイメージ

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映画史家のカリ・ボーチャンプによると、映画の歴史の中で最初に典型的な「金髪」が表現されたのはグロリア・スワンソン主演の1921年のサイレント映画「The Affairs of Anatol」だそうです。

当時は第一次世界大戦が終了し社会が自由な雰囲気が満ちていた時代。ニューオリンズでジャズが最新の音楽として流行り始めていた頃です。禁欲的で家父長的な雰囲気は特に若い世代に嫌われ、保守的な人は若い男女の自由恋愛や婚前の性交渉に苦言を呈していました。「The Affairs of Anatol」はそんな時代を象徴したような、男女の恋愛を描いたコメディ作品です。

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グロリア・スワンソンは髪は黒で金髪ではなかったのですが、この映画で描かれた「男を性的魅力で誘う女」というのが以降典型的な描かれ方となっていきます。

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3. 金髪女性が映画に欠かせなくなったきっかけ

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金髪こそ美の象徴という概念は映画によって広く広まり、作家のアニータ・ルースはそのものずばり「紳士は金髪がお好き」という作品を書いて「金髪美女=馬鹿」というイメージが広く普及するきっかけを作りました。この小説は1952年にマリリン・モンロー主演で映画化され、世界中で大ヒットとなりました。

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この映画のストーリーは、お金が大好きな主人公ローレライ(金髪)と、彼女の美貌に魅了され結婚を望む金持ちの御曹司のガス(ブ男)が一緒に豪華客船に乗り込もうとするも、ガスの父親によって結婚を反対され、ガスは船に乗ることができなくなったため、親友のドロシー(黒髪)を誘って「いい男探し」をするも二人はトラブルに巻き込まれ…というドタバタ恋愛ミュージカルコメディ。

金髪のローレライは「ダイアモンドは女の子の親友よ(Diamonds are a girl's best friend)」と歌う通り、お金とか宝石とか高級品が大好きで、ビークマン卿夫人の持つ高価なティアラを「ちょうだーい!」とか言っちゃったりします。

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 一方で黒髪のドロシーはあまりお金には興味がなく、とにかく「イケメン」と結婚したがります。

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最終的にはローレライはお金持ちのガス、ドロシーはイケメンのマローンを捕まえてめでたくハッピーエンドとなります。当時は大スターのマリリン・モンロー主演ということで世界中で大ヒットを記録した映画なのですが、「結局女は金かイケメンか」と世の男性たちを嘆息させました。

ちょっと前まで日本でも「三高」という言葉がありました。「高年収、高身長、高学歴」というやつです。女性の幸せはお金かイケメン、という文脈はこのような流れの行き着いた先だったかもしれません。

同時に、お金しか興味ないという軽薄さを見て「金髪美女は頭が悪い」というイメージが広がることになってしまいました。この映画の主演マリリン・モンローのインパクトも相当大きかったのかもしれません。

 実際のところ、マリリン・モンローの地毛は金髪ではなかったし、彼女はとても賢く戦略的で「世の男性が好む理想の女性像」を冷静に分析し自らフィルム上に表現したわけです。それは見事に的中してヒットしました。 結局、世の男性の多くが「金髪のセクシーな女性」に魅力を感じていた、というわけです。

映画はエンタメ産業なので商業的に成功させるために、どんな見た目のどんなキャラクターがどんなを役を演じるかというある種の「方程式」を蓄積しています。

そんな方程式のピースの1つが「金髪美女」であり、それに掛け合わせるもう1つのピースが「ワガママ」だったり「ど天然」だったり「つっけんどん」だったりするわけです。

 

4. 金髪女性のステレオタイプ

ドイツの心理学者アネット・クーンは、映画に登場する金髪女性のステレオタイプを3つに分類しています。 

 

3-1. 冷淡な金髪

主人公に対しては冷たい対応をするも、「炎のような感情を下に隠している」タイプの金髪。いわゆる「クール・ビューティー」というやつです。

代表例が、のちにモナコ王妃となったアメリカの女優グレース・ケリー。

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後の大人気テレビドラマの原点となった1942年の「奥様は魔女」の主演ヴェロニカ・レイクもそのミステリアスな雰囲気から人気となりました。

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 3-2. エロチックな金髪

色香がムンムンと漂う魅惑的な美人で、男の欲情を掻き立て「我が物にしたい」と思わせてしまうような金髪美女。

マリリン・モンローはこれに分類されています。

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「フランスのマリリン・モンロー」と呼ばれたブリジット・バルドーもこちらに分類されています。

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3-3. 天然な金髪

最後に、馬鹿な金髪。作中では「ド天然、無垢、世間知らず」により主人公や登場人物を振り回す役柄です。

代表的な女優が、古くは1920〜1930年代に活躍したマリオン・ディビス。新聞王ハーストの愛人としても有名です。彼女は天然でお馬鹿なキャラを演じるコメディ映画に出演し続け、ハーストは自分の愛人が馬鹿だと世間に思われたくないからか、真面目な役のキャスティングを要望し続けていたそうです。

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1950年代では「女はそれを我慢できない」や「気まぐれバス」で主演を演じたジェーン・マンスフィールド。

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1960年代だと、「先生のお気に入り」や「奥様はジャズが好き」で主演を演じたマミー・ヴァン・ドーレン。

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言われてみればこのような金髪女性キャラクターは、特にハリウッドの映画では定番です。

 

ステレオタイプ・スレット

1999年にコベントリー大学の研究者が異なる髪色によって人の印象がどのように変わるかの調査を行いました。

調査では、銀、金、茶色、赤色の4種類のかつらを同じモデルに着用させて、60人の男女にどのような印象かをインタビューしました。すると、大部分の被験者が銀髪と金髪を「他の色よりも知能が低い」と評価し、金髪を「魅力的」と回答しました。

2004年のドイツの研究によると、金髪の人にDumb Blonde Jokesを読ませた後にテストをさせると、読む前より能力が低下してしまったそうです。調査の結果は「ステレオタイプ・スレット(stereotype threat)」と呼ばれ有名です。

なぜいくつかある要素の中で「頭が悪い」というものだけことさら取り上げられ、ステレオタイプになってしまったのでしょう。

 

5. 金髪=若さ、無垢さ、無邪気さ

金髪が人気になったのは最近のことではなく、はるか昔から人々は金髪に憧れてきました。

古代ローマの時代には、スラブ人の金髪で作ったかつらが高値で取引されたし、女性たちはヤシ油と木の灰、酢、サフランを混ぜた染料で髪を金髪に染めたそうです。

詩人プロペルティウスは金髪に熱狂する女性を見て

「美とは生まれ持ったものが至高であるのに、女たちは髪をダメにして偽物の色に染める愚かしい行為をしている」

と嘆きました。プロペルティウスは「だから金髪女はバカだ」と言ったわけではありませんが、この逸話からは多くの人が金髪になりたがっていること、でも自然な金髪はほとんどないので何か人工的な加工が必要であることが分かります。

実際に、「天然物の金髪」はほとんど存在しません。マリリン・モンローがそうだったように、金髪が美しいハリウッド女優の大部分は染めています。ただし、コーカソイド人種には子どもの頃は美しい金髪だったのに、大きくなったら髪質が変わって茶色や黒に変わっていくケースがよくあります。

つまり、金髪は「若さ」の象徴であり、「純粋」「無垢」の暗喩であるわけです。

若さはイコール美であるため、多くの人が金髪に魅力を感じるのは当然とも言えます。

ただし、「純粋・無垢」は「無知・愚かさ」と表裏であります。なので、「金髪女はバカ」という偏見は「金髪女は魅力的」と表裏の関係ということになります。

Dumb Blondeの根源的な原因はこの辺にある気がしており、それを可視化したのがハリウッド映画で、偏見が定着したのではないかと思われます。

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まとめ 

これも世に溢れるステレオタイプ、例えば「黒人は走るのが速い」とか「日本人は出っ歯でメガネをかけている」とかと同じく、断片的な情報を切り取って大げさに表現したものに過ぎず、非常にIQが高い金髪女性が世には数多くいるのはご周知の通りです。

日本人は基本的に皆黒髪なので髪の色による差別は基本的にはないはずですが、「茶髪は真面目じゃない」「金髪は不良」といった謎の差別は根強く存在します。

 普通に考えると、髪がいくら金髪だからって学習態度や勤務態度になんら影響を及ぼさないはずです。もしかしたら「金髪=反社会的な輩と付き合いがある」というイメージが強くあるのかもしれません。

このようなレベルの低い外見差別を自分自身やってしまっていないか、一度胸に手を当てて自省すべきかもしれません。

 

参考文献・サイト

"The Blonde Paradox - Power and agency through femine masqurade and carnival" Lani Michelle Burton BVA Hons 

"The Women's Companion to International Film" Annette Kuhn、 Susannah Radstone

"The Dumb Blonde Stereotype and Deconstruction" Robert Sandu

"The rich history of 'dumb' blondes" The Bultimore Sun

"The meaning and origin of the expression: Dumb blonde" Phrase Finder

"When Did Blondes Get So Dumb?" SLATE