7〜9月のおもしろそうな世界史関連の新刊をまとめます
2018年の夏季は面白そうな新刊が多数出ており、 どれを買おうかかなり迷ってしまいそうです。
平たく特定の地域の歴史を概説するものではなく、あるトピックから歴史を眺めてみるというテーマのものが多いです。
秋の読書の時間のために、何か気になる本をぜひ見つけてください。
1.興亡の世界史 東南アジア 多文明世界の発見
講談社学術文庫 石澤良昭著(8/17発売)
講談社創業100周年記企画「興亡の世界史」の学術文庫版。大好評、第4期の2冊目。東南アジアは、インドと中国にはさまれた地理上の位置から、双方の影響を受けながら多彩な歴史と王朝の興亡を繰り返してきた。自然に恵まれた多言語、多宗教世界の軌跡をアンコール・ワット研究に半生をささげた著者が追求。仏教やヒンドゥー教の宇宙観にもとづく寺院や王宮の建設と王朝盛衰の真相を新たに発掘された考古学上の成果から解明。遺跡に刻まれた人々の暮らしを復元するとともに、500年前、鎖国直前にアンコール・ワットを訪れた日本人の足跡を明らかにして東南アジアと日本の隠された歴史をも発掘した渾身の力作である。[原本:『興亡の世界史11 東南アジア 多文明世界の発見』講談社 2009年刊]
ぼくは講談社の攻防の世界史シリーズはハードカバー版を読みました。
平易で分かりやすく、地域史を初めて読む方には非常におすすめです。
東南アジア史は個人的に、もっと多くの人に知っていただきたい分野です。
2.タイムトラベル 「時間」の歴史を物語る
柏書房 ジェイムズ グリック著, 夏目大翻 (8/25発売)
――1895年、その1冊がすべてを変えた。
*
「時間とは何か」。有史以来人類を悩ませてきたこの問題を、想像上の概念である「タイムトラベル」から読み解くサイエンスノンフィクション。 数々の《時間旅行》物語―H・G・ウェルズの『タイムマシン』、ボルヘス『八岐の園』、プルースト『失われた時を求めて』、ウディ・アレン『ミッドナイト・イン・パリ』、『浦島太郎』、村上春樹『1Q84』etc―、そして科学者たち―ニュートン、アインシュタイン、ファインマン、ホーキング―の著作や言葉を総動員し、時間の本質に迫る。
*
『カオス―新しい科学を作る』『インフォメーション―情報技術の人類史』の著者が紡ぐ21世紀の時間史。
これは厳密には歴史書ではなくてSFなのですが、歴史上の哲学者・科学者・小説家がこれまで考えてきた「時間」の概念を総動員して紡いで読み解いていくというものです。すごい面白そう。
3.文字と組織の世界史 新しい「比較文明史」のスケッチ
山川出版社 鈴木董著 (9/1発売)
中国・インドが近未来の2大経済大国となりつつある今、世界は「西欧の世紀」から再び「アジアの世紀」を迎えるのか?この事態を読み解くための、新しい「文明史観」がここに登場! 諸文明を「文字世界」として可視化し、歴史上の巨大帝国を「支配組織」の比較優位で捉え直す、トインビー、マニクールを越える「比較文明史」の試み。
「文字と組織」という観点から文明比較を試みるとのことです。
この視点は面白いですね。業績の良い会社の優れた理由を組織論やコミュニケーション論で比較・評価することありますけど、それを思いっきりスケールアップしたような感じかもしれません。面白そうです。
4.物語 アラビアの歴史 知られざる3000年の興亡
蔀勇造著, 中央公論新社 (7/19発売)
アラブについて記された最初の石碑は紀元前九世紀に遡る。メソポタミア・エジプト両文明の影響を受けた地に誕生した諸国家は交易と遊牧と農業で栄え、互いにしのぎを削り、エチオピアやインドとも交渉を持った。西暦七世紀にはこの地にイスラームが誕生し、世界史に大きな影響を与える。二十世紀以降は石油資源をもとに近代化を進めるが、政治的安定からはほど遠い。古代文明から現代まで、中東の核心地帯の三千年を追う。
イスラム以前のアラビア半島の歴史はあまり見たことがないので、これはいいですね。
大抵、メソポタミア文明、ギリシャ・ローマ文明、ペルシア文明と続いてイスラムに飛んじゃいますから。間違ってはないけど、アラビア半島の固有の文化といかに文明と繋がってきていたかという視点は重要と思います。
5.済州島を知るための55章
梁 聖宗,金 良淑,伊地知 紀子 明石書店 (9/6発売)
ユネスコ世界自然遺産に登録された豊かな自然、かつて耽羅という独立国だった固有の歴史、神話に彩られた独自の伝統文化、「辺境の島」としての差別と抵抗の歴史、悲劇の4・3事件からの再生、日本との深い繋がりなど、済州島の多彩な魅力に迫る最新の案内書。
済州島ってもともと朝鮮半島とは全く異なる固有の文化があってとても面白いんですけど、あまり関心は高くないですよね。「韓国のハワイ」とかって言われてリゾートが有名なくらいでしょうか。これは是非読みたいです。
6アジア・太平洋戦争と石油: 戦備・戦略・対外政策
吉川弘文館 岩間敏著(5/25発売)
日本の資源を総動員したアジア・太平洋戦争。国外との輸入交渉、真珠湾攻撃での洋上給油作戦など、総力戦の実態と末路を解明する。
太平洋戦争を石油という資源から見るという本です。
諸外国との石油輸入交渉、軍の石油見通し評価、石油確保のための軍事戦略などなど。確かに石油は太平洋戦争開始の直接のきっかけとなった資源だし、その確保と輸送が難しくなった故に戦争自体も敗北に向かっていったため、このようにして石油から戦争の全過程を追うのは貴重な試みと思います。
7.日本のヤバい女の子
柏書房 はらだ有彩著 (5/28発売)
イザナミノミコト、乙姫、かぐや姫、虫愛づる姫、皿屋敷・お菊――。
日本の昔話や神話に登場するエキセントリックな「女の子」たち。キレやすかったり、バイオレンスだったり、そもそも人間じゃなかったり。彼女たちは自由奔放に見えても、現代を生きる私たちと同じように理不尽な抑圧のなかで懸命に生きていた。
作者は、友達とおしゃべりするように、彼女たちの人生に思いをいたして涙を流し、怒り、拍手と賛辞を送る。ときには、ありえたかもしれないもう一つの人生を思い描く。時空と虚実を飛び越えたヤバい女子会が、「物語」という呪縛から女の子たちを解放する。
ウェブマガジン「アパートメント」の人気連載を、大幅加筆・修正しての書籍化。優しくもパワフルな文章に、フレッシュなイラストが映える、懐かしくて新しい昔話×女子系エッセイ、ここに誕生!
ちょっと趣旨が違いますけど、こういう「歴史学」という枠から外れた、そもそも自分と他人という枠すら無くして、自由で曖昧な感情の海に埋没していく話も楽しいです。
歴史の本ばかり読むのもよろしくありません。
8.インド的思考 新版
前田專學著, 春秋社 (7/23発売)
世界の屋根・ヒマラヤ山脈から赤道近辺に及ぶ広大なインド亜大陸。この地に根づき過酷な気象条件のもとに暮らす人々が形成し、3200年余かけて現代まで連綿と受け継いできた〈インド的〉な思考の根底にあるものを、ヒンドゥー教ほか正統派とされている思想に焦点を当てひもとく。
インド的思考、と一言にまとまりきれるのだろうか?とタイトルを見た時に思いました。インド哲学もこれまた膨大な海です。どのような形でまとめられているのか気になります。
9.初期仏教――ブッダの思想をたどる
岩波書店 馬場紀寿著 (8/22発売)
2500年前、「目覚めた者」が説いたのは、「自己」と「生」を根本から問い直し、それを通してあるべき社会を構想する思想だった。その教えは、古代インドのいかなる社会環境から生まれてきたのか。現存資料を手がかりに、口頭伝承された「ブッダの教え」に遡ることは可能か。最新の研究成果を総動員して、仏教の原初の世界をさぐる。
初期仏教もこのブログで何回か記事にしていますが、なんども学び直す価値があると思います。仏教に興味はあるけど分かりづらい、と思っている人は、まずは初期仏教の本を手に取るといいと思います。
PR
10.NHKスペシャル 人類誕生 大逆転! 奇跡の人類史
NHKスペシャル「人類誕生」制作班著, 馬場悠男監修,海部陽介監修 (5/26発売)
初めて確実に直立二足歩行をしたラミダス猿人から、絶滅の危機を経てきた私たちホモ・サピエンスまで、人類は数々の試練を乗り越え、大逆転を繰り広げてきた。年代測定技術や遺伝子解析技術の進歩によって、詳細が明らかになり始めた“奇跡の足取り"を大公開。
これテレビ番組ずっと見てました。すげー面白かったです。
どういう風に書籍にまとまっているか気になります。
11.史上最悪の破局を迎えた13の恋の物語
原書房 ジェニファー・ライト著, 二木かおる 訳 (8/22発売)
ネロとポッパエア、ヘンリー八世とアン・ブーリン、オスカー・ワイルドとダグラス卿など、歴史に名を残すカップルたちの別離にまつわる13の逸話。傷心ゆえの悲しみ、愚かさ、みじめさに突き動かされた人々の奇異な運命を描く。
なんでこう、読んで毒にも薬にもならないこういう本を読んでしまうんでしょうね。
こんなの読んで絶対いいことないし、参考にもならないと思うんですけど…でも面白そうなんだよなあ…。
12.マリー・アントワネットの暗号: 解読されたフェルセン伯爵との往復書簡
河出書房 エブリン・ファー著, ダコスタ吉村花子翻
暗号解読により、マリー・アントワネットと、最後の恋人とされるフェルセン伯爵との往復書簡の内容が明らかに。池田理代子氏推薦。
マリー・アントワネットの書簡の内容も気になりますが、どういう暗号が使われていて、それをどのように解いたかというほうがもっと気になります。
昔の暗号ってときめきますよね…。
13.図説 指輪の文化史 (ふくろうの本/世界の文化)
河出書房 浜本隆志著 (8/24発売)
結婚指輪、魔除けの指輪……アクセサリーのなかでも権力、契約、呪術など多様な意味と古い歴史を持つ指輪文化の謎を読み解く。
美しい写真と文章をバラバラと読みながら酒が飲みたいです。書斎に置いておきたい。
14.魔女・怪物・天変地異 ─近代的精神はどこから生まれたか
黒川正剛著, 筑摩書房 (8/9発売)
ヨーロッパ中世末期。魔女狩りが激烈をきわめる中、各地で怪物、凶兆、天罰等々、怪異現象が大増殖した。前代未聞の規模で押し寄せる「異なるもの」に対して、人々は恐れおののきながらも、その異形に魅せられていく。畏怖と好奇心の交錯するなかから、いかにして近代的精神は立ち現れてくるのか。そこにどのような人間的本性が見えてくるのか―。ヨーロッパ中世怪異を丹念にたどり、近代的思考の誕生を切り出す。
うわーやばい、超面白そう。
物理的な世界の拡大に伴い思考や思想も拡大し、人々の恐怖の感情も拡大していく。それがいかにして近代的思考に繋がってきたか。たこれは買います。
15.世界史を変えた13の病
原書房 ジェニファー・ライト著 鈴木涼子訳 (9/11発売)
数多くの犠牲者を生み、時には文明を崩壊させた疫病の数々が、人類史に与えた影響とは?無知蒙昧からくる迷信のせいで行われた不条理な迫害や、命がけで患者の救済に尽くした人、病気にまつわる文化までの知られざる歴史。
病気の世界史、といったところでしょうか。
単なる病気の怖さや世界びっくりカルチャーを学ぶに終わらずに、いかにして人間は公共衛生を確立し病気を克服してきたかの戦いの歴史です。
16.ラム酒の歴史
原書房, リチャード・フォス著, 内田智穂子訳(8/17発売)
カリブ諸島で奴隷が栽培したサトウキビで造られたラム酒。有害な酒とされるも世界中で愛され、現在では多くのカクテルのベースとなったり、熟成させた高級品が造られたりしている。多面的なラム酒の魅力とその歴史に迫る。レシピ付。
これまたピンポイントですが面白そうですね。
ラム酒といったら海賊。有名な海賊たちとラム酒のエピソードがあるかな。
あまり日本人には一般的じゃないですけど、歴史を動かしてきた酒ですね。
17.共産テクノ 東欧編
パブリブ 四方宏明著 (9/10発売)
ソ連編に続く東ドイツ・ポーランド・チェコスロバキア・ハンガリー
科学技術・音楽・アート・数学に秀でた民族達の冷戦期電子音楽を徹底調査!
パンクでも4週間働いていないと懲役刑、バンドの給料は機材の重量で計算etc
■東ドイツ国家公認の反体制スピリットを体現した「オストロック」 Puhdys、City、Silly、Karat
■カセットテープで地下出版せざるを得なかった「真のアンダーグラウンド」 ディー・アンデレン・バンズ
■検閲逃れの為に歌詞を拒みながらも米刑事ドラマカヴァーのエレクトロニック・インストルメンタル Key
■東ドイツのチャート1位になりながらも西側に亡命しスピリチャル化したパンクの女王 ニナ・ハーゲン
■メンバーの内、二人がシュタージへの情報提供者だったパンクバンド Die Firma
■ソ連そして米国進出まで果たしたアイドル的エレクトロポップ・バンド Papa Dance
■白塗り、空手着を着て中華風ディスコ「ブルース・リー」でデビュー Franek Kimono
■ソ連をロボットに喩え、駐米チェコ大使が作詞したテクノポップMluví K Vám Robot
■イギリス人母を持ち、英語で歌いながらもベトナムやラオスまで遠征したスロバキアの Žbirka
■日本、そして国交がなかった韓国で人気を博したハンガリーのキャンディポップ ニュートン・ファミリー
●共産趣味スポット、ノイエ・ドイチェ・ヴェレ再検証等のコラムも
紹介文からすでに面白いです。
四方宏明さんの本はいくつか読んでますが、視点がユニークでどこでこんな知識を得てくるのか本当に気になります。
YouTube開きながら読み進めていきたいです。
18.越境の野球史 ―日米スポーツ交流とハワイ日系二世
関西大学出版 森仁志著 (8/8発売)
野球好きなら知ってほしい! 日本のプロ野球のルーツがここにある ハワイの日系人最強チーム「朝日」の選手たち。 日米の架け橋になってプロ野球の誕生から発展期にはたした役割を描く。 「朝日」出身の若林忠志、銭村健一郎、ウォーリー与那嶺…… 太平洋を渡る野球人たちのグローバルな生き方を活写。 ハワイ(布哇)を基点に「日米」野球交流の歴史を「日布米」交流史として書き換える。
野球好きな人はこれ読んでおいたほうがいいんじゃないでしょうかね。
戦前の野球史とか、台湾の高校野球とかは有名ですけど、この話はあまり知られてないんじゃないでしょうか。ぼくも全然知りません。
19.肉食の社会史
山川出版社 中澤克昭著 (9/5発売)
人間は、動物を殺して食べることに、いつから「うしろめたさ」を抱いてきたのか、それともそれは後世の〈文化〉なのか。難問のひとつがここにある。 日本人は、殺生禁断と言われて、一般的には肉食は禁じられてきたと考えられている。しかし、仏教伝来までは、どうだったのであろうか。それ以後も、鷹狩りや肉を口にしたとの記述が見られるが、庶民も同じように口にしなかったのか。これまでの、「穢れ」からくる肉食の実態に迫る好著。
「肉食にうしろめたさを感じるようになったのはいつなのか」と肉食にまつわる穢れ意識に関する本。美味しいお肉の歴史の本じゃなくて、かなり哲学的な問題ですね。
肉食・菜食は人間の永遠のテーマで絶対結論なんて出ないと思うのですが、これまで人々が肉食をどう感じてきたかを整理する貴重な書と思います。
20.アフリカ眠り病とドイツ植民地主義
みすず出版 磯部裕幸著 (7/18発売)
「眠り病」が猛威を振るっていた20世紀初頭の赤道アフリカ地域。 そこを植民地としていたドイツはどのような研究や対策を行なったか。 西洋近代医療を通した「他者」認識の方法、植民地社会における 医療政策の展開、医療とナチズムの関係など、 ドイツ史からポストコロニアル問題を提起する気鋭の書。
植民地史の中でもひときわマニアックな書です。
ただし植民地での医療政策を通じてドイツ近現代史とその問題を読み解くという趣旨なので、ドイツ近現代史好きな人はかなり好きなんじゃないでしょうか。
PR
まとめ
今月はかなり面白そうなものが多かったです。
秋の夜長のお供に是非、新しい歴史の本を揃えてみてください。
過去の新刊まとめはこちら。
【2018年7月版】世界史関連の新刊20冊まとめ - 歴ログ -世界史専門ブログ-