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世界の民族の「創世神話」(欧州・中東・アフリカ篇)

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クリエイティビティ溢れる創世神話の世界

前編に引き続き、世界の民族の創世神話の概要をまとめていきます。

前編では、

  1. アイヌ「天地開闢」
  2. 中国「天地開闢」
  3. 済州島「天地王ボンプリ」
  4. モンゴル「ラマ僧ウダン」伝説
  5. ハワイ「クリムポ」
  6. アボリジニ「太陽の母」伝説
  7. チェロキー族の創造神話
  8. ナバホ族の創造神話
  9. マヤ・キチェー人「ポポルヴフ」

をご紹介しました。前編はこちらからご覧ください。

後半は欧州・中東・アフリカ編いきます。それではどうぞ。 

 

10. メソポタミアの「エヌマ・エリシュ」

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Photo by Osama Shukir Muhammed Amin FRCP(Glasg)

エヌマ・エリシュは「The Seven Tablets of Creation」という名でも知られ、紀元前1,100年ごろの作品とされています。

 

始まりは、混沌の中で水が渦巻いていた。

この渦の中で、水は甘い新鮮な水、塩辛い苦い水に分かれ、前者はアプス神、後者はティアマート神となった。2柱の神はそれぞれ神々を増やしていった。

しかし、ティアマート神から生まれた若い神々はデカい声を出したりして、アプス神を眠れなくしたり、仕事から邪魔をした。困り果てたアプス神はワジール神やムンム神の助言を受けて、若い神々を殺すことにした。

ティアマート神はアプス神の計画を聞いて、長男のエンキ神に警告した。すると、エンキ神はアプス神を眠らせた上で殺してしまった。 エンキ神はアプス神の遺体から家を作って住んだ。

若い神々の暴走の怒ったティアマート神は、クイング神と相談して若い神々を倒してティアマート神の元での支配を確立しようとした。ティアマート神はカオスの力を使って11の恐ろしい怪物を作り上げた。

しかしエンキ神をはじめとする若い神々はティアマート神と戦うことを決意し、戦いに優れたマルドゥーク神をクイング神と戦わせ勝利した。そしてティアマート神を殺害した。ティアマート神の目から溢れた水は、ティグリス川とユーフラテス川になった。

さらにマルドゥーク神はティアマート神の遺体から天と地を作り出し、11の怪物を自分の足に拘束した。

マルドゥーク神は知恵の神エマと相談し、ティアマート神との戦いの中で死んだ神の遺骨を使って人間を創造することにした。そうして作られた最初の男はルッル(Lullu)といい、神の秩序を維持する助けのために働くことになった。

 

11. シュメール人の創造神話

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初めは、女神ナンムだけがあった。

ナンムは暗闇の中に生き、宇宙を生み出し、原始の海を作り出した。

空と大地の神アンキは、空気の神エンリルを作った後に世界を2つに分割し、空の神アンと地球の女神キを作った。

エンリルとキは宇宙全体の主エンキを儲け、ナンムから水を取ってティグリス川とユーフラテス川を作って土地を肥沃で豊かにした。また、動物たちを作って2つの川の間に放した。

初めは地上は神のみが住んでいて、掘削や農作業などの面倒臭い仕事は下っ端の神々がやっていた。3,600年近くも下働きをした挙句、神々は「俺たちばかり働かされるのは納得いかない」とストライキを起こした。農具を焼き払い、暴徒と化してエンリルの宮殿を取り囲んだ。エンリルはアヌとエンキの助言を求めた。

話し合いの結果、アヌ、エンキ、エンリルは新しい種族を作り出し、神々の下僕として働かせることを考えた。

彼らは知恵神ゲシュートを生贄に選んだ。生命の神ニンマはゲシュートを切り刻み、彼の肉と血を泥と一緒にこねた。

 

エンキは生命の女神ニンツと一緒に運命の部屋に入り、呪文を唱え最終的に14個の泥人形を作った。7つを右側に設定しそれは男になり、残りの7つは女性になった。

人間の誕生を祝して神々は祝杯をあげた。もう働かなくていいのだと。

ところがエンキとニンマは泥酔し、どちらが人間作りに貢献したかで口論になった。エンキは「ニンマがいかなる苦難を人間に与えても、私は彼らの場所と役割を見つけるだろう」と言ってのけた。

するとニンマは「やれるものならやってみろ」と言って、粘土をつかんで様々な病気や身体障害のある人々を作ってしまったのだった。 

 

12. 古代エジプト・ヘリオポリスの創造神話

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古代エジプト神話は地域によってバリエーションに違いがあります。今回紹介するのはカイロ近郊の町ヘリオポリスのバージョンです。旧約聖書と非常に似ているのが特徴です。

 

1日目
初めに水だけがあり、泡立つ水が混じっていた。これをヌーといった。

泡立つ水から青い巨大な蓮の花が現れ、そこから太陽神ラーが誕生した。ラーは宇宙に光を与えた。

2日目

ラーは大気の女神シューと妻テフヌトを創造した。

 

第3日

シューとテフヌトは空の女神ヌートと大地の神ゲブを生み出した。宇宙が作られた。

第4日

ラーの命令に反し、ゲブとヌートは結婚した。ラーは激怒し、離婚するように言うが、ヌートは既に妊娠していた。ラーは出産できないよう宣言したので、1年の内のどの日にも子供を出産できなくなってしまった。

哀れに思った学びの神トトは、彼女のために余計に光を出してあげることを賭けて月と戦った。その結果、360日間のカレンダーに5日間を追加することができるようになった。この5日間でヌートは、オシリス、ホルス、セト、イシス、ニーフィスを生んだ。

5日目、6日目、7日目

創造神クヌムは3日間かけて粘土をこねて動物、植物、人間を作った。

クヌムは骨の中の血管を通す仕組みや、体全体を覆う皮膚、それに呼吸器官や消化器官まで綿密に計算して作っていった。

 

13. ノルウェーの「ヴォルスパー」

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 ヴォルスパーは「巫女の予言」とも呼ばれ、「古エッダ」でも有名な詩篇の一説です。

elderedda こちらのサイトに邦訳があったので、一部引用させていただきます。

3. それは古き時のこと
そこにユミルが住んだ
砂浜もなければ海もなく
冷たい波もなかった。
地面はどこにも見られず
上に天もなかった
洞は大口を開け
しかし草はどこにもなかった
4. ブールの息子たちが
土地を引き上げる前に
彼らは名高き中つ国を
形造った
太陽は南から輝き
石の上の軒並みに光を射した
その時 地面は覆われた
緑なすニラネギに
5. 太陽は南から飛び上がった
彼女には月が
その右手にともにおり
空の辺を縁取った
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太陽は知らなかった
自分がどこに住まいを持ったかを
星も知らなかった
自分たちがどこに居場所を持ったかを
月も知らなかった
どんな力を自分が持ったかを
6. そのとき力ある神々は進み出て
自分らの運命の座に着いた
聖なる神々は
そしてこのことについて考えを巡らした
夜と彼女の子どもに
名前を授けようと。
彼らを「朝」と
「昼」と名付けた
午後と夕と名付けた
年を数えるために

 

7. 神々は集った
渦巻く河の平野にて
彼らは祭壇と聖所を
高く築いた。
鍛冶の竈を据え
富を造った
火ばさみを作って
道具をこしらえた。
8. 芝の上で将棋に興じた
彼らは陽気であった--
彼らにはなにものも
黄金において不足はなかった
三人の女巨人が
やってくるまでは。
彼女たちは恐ろしいほど力が強く
巨人の国から訪れたのだ。

 

9. その時力ある神々はみな進み出て
己が運命の座に着いた
聖なる神々は
そしてこのことについて考えを巡らした
はたしてドワーフたちの
一族を作るべきやと、
ブリーミルの血から
またブラーインの骨から・・・。
10 モートソグニル(勇気を吸い込む者)がいた
すべてのドワーフたちの中で
最も偉いとされた
次に偉いのはドゥリン(眠る者)だった
彼らは多くの
人の形をしたものを造った

(以下略)

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14. フィンランド神話の「ワイナミョイネン」

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フィンランド神話の英雄ワイナミョイネンは叙事詩カレワラの主要な登場人物で、様々な民間伝承に登場し、様々なバリエーションの話があります。その中に、ワイナミョイネンが世界誕生に貢献した話があります。

 

ワイナミョイネンの母、女神イルマタルは「エーテルの美しい娘」で、天国に住んでいたが疲れて下界におりて海の中に引きこもってしまう。

海の中でイルマタルは妊娠した。妊娠中、イルマタルは卵を産む場所を探しているアヒルを見た。可哀想に思ったイルマタルは肩と膝を水の中から持ち上げて、アヒルが巣を作る場所を提供してあげた。アヒルは7つの卵を産み、そのうち6つは黄金で1つが鉄だった。アヒルが卵を温めると、卵は異常に熱くなり、我慢できなくなったイルマタルは動いてしまい、卵を海に落としてしまった。

その卵から世界が生まれ、卵の下部は「冥界の天井」になり、卵の上部は「天国の天井」となった。

そして700年後、イルマタルはワイナミョイネンを産んだ。700年も母の体内で過ごしたので、ワイナミョイネンは既に白髭のお爺さんだった。

ワイナミョイネンは島に上陸した。島は不毛だったので彼は「あらゆる沼地」や「ゆるい土地の森」「松の木が生えた丘」「柳が生えた湿った土地」「ビャクシンの木が生えた丘陵」などあらゆる形状の土地を作った。

ワイナミョイネンの冒険の最後では、乙女マリアッタがベリーを食べて妊娠してしまう。ワイナミョイネンはこの子ども調べ、自然の摂理に反するため死ぬべきだと結論づけた。しかしこの子どもは生後2週間にも関わらずワイナミョイネンに話しかけ、結局この子は後にカレリア(フィンランド南東部の森林地帯)の初代王となった。

 

15. マンデ語諸族の「ペンバとファロの兄弟」伝説

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Credit: Fondazione Passaré website

創造の神マンガラは、1組2個のヒエの種を作った。このヒエは「すべての生命を産むための双子の卵」である。

次にマンガラは3組6個のヒエの種を作った。このうちの1組からは、この世の枠組みを定める「東西南北」の方向が生まれた。残りの2組はそれぞれ男女のつがいで、最初の人間であった。

ところがそのうちの1人であるペンバは、世界を支配したいと考えていたので、他の皆に先んじて種から出て来た。破った胎盤は地上となった。

ところが出てくるのがあまりにも早かったので、胎盤の成熟は不十分で地上の土は乾燥していてた。ペンバは3つの胎盤を使おうとしたが見つからなかった。ペンバは残りの胎盤を使って太陽を作り、創造神マンガラの鎖骨からオスの種を奪い、不毛の地に植えた。ペンバは自分の胎盤を与え、種のうち1つだけが発芽し、ヒエの実が生えた。しかし胎盤を与えて成長したため、ヒエの実は赤くなってしまった。

ペンバは他の双子の男ファロの種を60個の小片に切り裂いて地上に撒き木々にさせられていた。マンガラは哀れに思い、ファロを人間に戻してやるために彼の胎盤から箱舟を作り、またファロの胎盤から2組4個の種を作って、箱舟に乗せた。箱舟はまた、全ての動植物を乗せていた。

そうして大雨がふり、ペンバが作った不浄な世界は洗い流され、ファロの種から人間が生まれ生物が地上に栄えるようになった。

 

 16. ヨルバ族の「黄金の鎖」伝説

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その昔、すべての魂は空に住んでいてた。

天国の首長オロラン(Olorun)とオリシャ(Orishas)と呼ばれる魂たちは若いバオバブの木の上に住んでいた。バオバブの木の生活は何不自由なく、美しい着物や黄金のジュエリーなど必要なものすべてが見つかった。

ところがオバタラ(Obatala)と呼ばれるオリシャは木の上での生活に満足できなかった。オバタラはある時空の下に広大な海が広がっていることを知り、首長オロランに下界に行かせてもらえるように頼んだ。オロランは同意し、預言者オルミラ(Orumila)を紹介した。

オルミラはオバタラに黄金の鎖、パームの実、空の砂、トウモロコシ、それとオリシャの魂を運ぶ聖なる卵を集めるように指示した。準備が整うと、オバタラは空の砂を空のカタツムリの殻に入れ、小さなバオバブの木の粉を加えた。その他の材料とバオバブの種を包み、聖なる卵を胸の近くのシャツに卵を入れ、旅のあいだに暖かくなるようにした。

オバタラは空に黄金の鎖をひっかけ、7日間かけて下って行った。一番下にたどり着いたオバタラは、オルミラの指示通り、空の砂を水にまいた。すると砂は水の中でみるみると固まって陸地になった。オバタラは聖なる卵が割れるまでぶら下がっていた。

最終的に陸地におりたオバタラは、持って来た種を陸地に撒き、池のほとりの泥をこねて人形を作った。その後オバタラは宇宙からガスを集めて爆発させ、陸地のまだ乾いている場所を乾燥させ、泥人形を焼いて人間を作った。

 

17. ズールー族の「ウンクルンクル」

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その昔、地上は真っ暗で生物は存在せず、唯一とても大きな種があった。

ある時種が地面に沈み始め、種から葦が生え始めた。葦はウトランガ(Uthlanga)と呼ばれ、全ての生命の源となった。

ゆっくりと葦は成長し、最初の人間ウンクルンクル(Unklunkulu)が生まれた。

充分に重くなって地上に落ちたウンクルンクルは、成長中の葦を見て、男と女を刈り取った。さらに、牛、魚、鳥など多くの生き物を刈り取った。

ウンクルンクルは川や山、湖、谷、風、雨、太陽、月など、今日私たちの周りに見えるものすべてを作った。そして男と女に狩りの仕方、火のつけ方、服の作り方、トウモロコシの育て方などを教えた。またすべての生命に名前をつけた。

ウンクルンクルはカメレオンに命じて「人は決して死ぬことはない」というメッセージを人々に届けさせようとした。しかしカメレオンは非常に動きがのろまだったので、何日もかけて幾ばくも進まなかった。

数日後、ウンクルンクルはイラついて、バッタに命じて「人は死ぬ」というメッセージを人々に届けさせた。バッタはすぐにカメレオンを追い抜き、人々にメッセージを伝えた。するとメッセージが伝わってすぐに人は死んでしまった。それ以来、人は死を避けられないようになった。

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まとめ

神話は読むだけでも楽しいですけど、結構哲学的な命題が多く含まれていて、考えさせられませんか?

なぜ人は生きなければならないのか。 

なぜ人は苦しむのか。

なぜ不平等なのか…。

神話は国家権力がテリトリーを定め、権力者が人々を支配下に置くための大義名分の1つとして使われてきた側面がありますが、

素朴な自然への畏怖や賞賛の気持ちや、なぜ世界はこのようになっているのか、そして人間はなぜ生きなくてはならないのかといった、根源的な問いに対する古代人の一つの回答を表したものだと思います。

時間をかけてじっくり読み解いてみてはいかがでしょうか。

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 参考サイト

"Sumerian Creation Myth"Mesopotamian Mythology

 "Egyptian Creation Myth: Heliopolis Version"

"The Fantastic Adventures of Vainamoinen: Finnish Hero, Wizard, Shaman, and God" Ancient Origins

Mandé creation myth - Wikipedia

"Creation Stories from around the World"

"The Creation of the World – Zulu" Wewan Institute