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アイルランド独立闘争 - 第一次世界大戦からイースター蜂起まで

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Work by Jonto 

 第一次世界大戦を機に噴出した対英独立闘争の行方

現在アイルランド島には、グレート・ブリテンの一翼である「北アイルランド」と「 アイルランド共和国」の2つのアイルランドが存在します。

 北アイルランドはプロテスタントが多く、南はカトリックが多い、というのはご存知の方は多いかと思いますが、ではなぜアイルランドが統一せずに2つに分裂したままなのかまではあまり知られていないのではないかと思います。

 ということで今回は、第一次世界大戦前後のアイルランド独立闘争の歩みです。

 

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◆背景

 イギリス連合王国内に組み込まれていたアイルランドでは、長年自治への要求が根強く、イギリス政府もアイルランドの自治をどのように実現するか調整を重ねていました。

カトリックが多い南部は、アイルランド全島の自治を求めますが、プロテスタントが多い北部はカトリック主導の自治に反対し、あくまで連合王国内に留まることを主張します。

 

話の始まりは1914年。アスクィス内閣によりアイルランドに自治を与えようとする第三次自治法案が検討されていましたが、プロテスタント住民とカトリック住民の対立が深まり、ナショナリストたちは自衛のために武装化を進めていきます。

アイルランドは分割と内戦の危機を迎えていました。

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1. イギリス軍参戦派 vs 抗戦派

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アイルランド義勇軍創設者、ロジャー・ケイスメント登場

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ケイスメント「アルスター義勇軍(自治に反対する北部のプロテスタント系義勇軍)の連中がドイツから武器を密輸しよったで。戦いになったらワシらおしまいや。アイルランド義勇軍(自治に賛成する南部のカトリック系義勇軍)もドイツから武器を買うで」

 →ロジャー・ケイスメント、メアリ・スプリング・ライス、アリス・ストップフォード・グリーン、ロバート・アースキン・チルダースら、アイルランド自治主義者は委員会を結成し、アイルランド義勇軍の武器密輸を計画

 

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小説家、ロバート・アースキン・チルダース登場

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チルダース「その役目、ぜひ私が。私の小説『砂洲の謎』は私の航海経験が元になってます。ヨットの操作は慣れています」

→1914年7月26日、チルダースが操縦するアズガード号、ドイツからの武器を密輸に成功。アイランド義勇軍に配布する。

 

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アイルランド義勇軍指導者、ジョン・レドモンド登場

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ジョン・レドモンド「よくやった者共よ!しかし心せよ。その武器を使ってイギリス人やプロテスタント住民を殺してはならぬ。我らの国の治安維持のために武器を使わねばならぬ。そうすればいま北部と南部に駐留するイギリス軍を撤退させることができるではないか。北部のプロテスタントと南部のカトリックで共に国を守ろうではないか」

→レドモンド、アイルランド義勇軍の武装闘争に反対

 

ジョン・レドモンド「アイルランド人はイギリス軍に加入し、大戦に喜んで参加しドイツと戦うべきである。帝国に貢献してこそ、我らの国の自治が達成できるのである!」

 →1914年9月18日、「ウドゥンブリッジ演説」にて、大戦への参戦とイギリス軍への協力を宣言。

 

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ジョン・レドモンドの弟、ウィリー・レドモンド登場

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ウィリー・レドモンド「兄者に賛成。アイルランド国民は、小さなカトリック国・ベルギーを助けるべきだ」

 

チルダース「その通り、ドイツは小国ベルギーに侵攻する悪い奴らです。小国アイルランドの独立を目指すのであれば、同じく小国であるベルギーを助けるという大義に賛同する必要があるでしょう」

 

アイルランド義勇軍の幹部たち「おい、ふざけんな!イギリス人は敵だ!なぜ敵であるイギリス人の戦争に参加せにゃならんのだ」

→レドモンド、ピアース、アイルランド義勇軍から追放される。レドモンド支持派は新たに「国民義勇軍」を結成

 

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アイルランド義勇軍、第一次世界大戦への参戦派と反対派に分裂

アイルランド義勇軍の創設者の一人でイギリスへの協力に強く抵抗するケイスメントは、敵であるドイツに接近 

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2. ケイスメントの「ドイツ軍アイルランド旅団」

ケイスメント「敵の敵は味方や。アイルランドはドイツと組んで、イギリスを倒すべきや」

→1914年8月、ケイスメント、ドイツの協力を得るために訪独。

 

ケイスメント「勇敢なるドイツ国民、アイルランドは皆さんの味方でっせ。アイルランド人はドイツの側に立って戦いますがな」

 

ドイツ政府「ヴンダバー(すばらしい)!ぜひ協力してください。具体的にはどのように協力してくださるので?」

 

ケイスメント「おたくらが捕まえたアイルランド人の捕虜おりまっしゃろ。連中を組織してイギリス相手に戦わすねん。なあに、ワイが話せば簡単や」

→ケイスメント、イギリス軍のアイルランド兵捕虜を糾合し「アイルランド旅団」を結成することを宣言。リクルートを開始。

 

ケイスメント「お前はんたち、祖国アイルランドのために戦いたいやろ?イギリスは敵や。祖国のためにワイの言うことを聞くんや」

 

アイルランド兵捕虜「は?馬鹿じゃねーの。この間まで一緒に戦った仲間と戦えだと?この売国奴が」 

→ アイルランド兵捕虜、ケイスメントの提案に反発。協力を申し出たのはわずか55人

 

ドイツ軍「おい、まじか。55人しかいなかったら何にもできねえよ」

→ドイツ、ケイスメントの申し出に非協力的な態度をとるようになる

 

ケイスメント「ドイツこいつらアカンわ。もうイギリスに帰りまひょ」

→1914年4月、ドイツに絶望したケイスメント、Uボートに乗ってイギリスに強制帰国。逮捕。1916年8月に絞首刑される。

 

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ドイツとの連携で独立を果たす試みが消滅

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3. 戦争協力派の行き詰まり

ウィリー・レドモンド「ドイツに魂を売ったケイスメントは国賊だ!アイルランドはイギリスと共に戦ってこそ独立を達成できるのだ」

→ ウィリー・レドモンド、第16アイルランド師団に入隊し1915年8月にガリポリ、次いでギリシャ、パレスチナ、フランスを転戦 

 

チルダーズ「その通りです。我々が先頭に立って戦う姿勢を見せねばなりませんね」

→ 海軍に入隊、諜報士官を経て航空機爆撃の任務などに参加

 

ジョン・レドモンド「見よ!戦場ではプロテスタントもカトリックも、言い争いなどせずに共に命を守り合っているのだ。諸君、彼らを見習うべきだ」

 

チルダース「戦争はすぐに終了します。見ていてください、死者もそんなに出ませんよ」

 

→戦争は長期化・泥沼化し、アイルランドの若者が次々に死んでいく自体に

 

アイルランド人A「おい、今朝もまた負傷者の船が着いたらしいぞ」

 

アイルランド人B「戦争もう嫌なんだけど。近々、徴兵制が敷かれるって噂だぞ」

 

アイルランド人A「はあ?まじかよ。国民義勇軍クソだわ。やっぱアイルランド義勇軍支持するわ」

 

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厭戦気分が高まり、国民義勇軍が主張する対英戦争の協力により自治を獲得する方法が急速に支持を失う

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4. イースター蜂起

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アイルランド義勇軍指導者、パトリック・ピアース登場

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 ピアース「おめえらよ、イギリス軍に反乱を起こすの今しかなくねぇ?あいつら戦争長引いてるしよ、こっちまで手ぇ回んねぇだろ」

 

アイルランド義勇軍及びアイルランド市民軍「そうだ!そうだ!」

 

ピアース「負けるかもしれねえ。死ぬかもしれねえ。ただ、イギリス野郎に抵抗して死んだオレらのハートはよ、飼いならされて腐ったアイルランドを目覚めさせるんだ」

 

アイルランド義勇軍及びアイルランド市民軍「目覚めよ、目覚めよアイルランド!神よ我らに祝福を!」

 

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1916年4月24日、イースター蜂起勃発

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ドイツから密輸した武器で武装した義勇軍と市民軍は、ダブリン市内を制圧。「共和国宣言」を出し独立を宣言した上で籠城戦に入る。

しかしイギリスの治安当局によってすぐに反撃が始まり、主要拠点が次々に制圧される。

29日、蜂起軍の司令官ピアースは降伏を決断。死者は500人ほどで、ほとんどが戦闘にまきこまれた一般住民。

蜂起軍は、キリスト教の祝日イースターに蜂起を行い死ぬことで、「聖なる犠牲」であることをアピールした。

5月3日〜12日にかけてピアースら、蜂起の首謀者15名が銃殺刑となる。

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5. レドモンドの死

ウィリー・レドモンド「義勇軍が蜂起しただって!?…ああ、なんて馬鹿なことを。これで戦争協力で自治を獲得するという計画がすべてパーだ。なんてこった。」

 

ピアース「なんてこと…。イギリスは小国ベルギーを助けると言いながら、結局アイルランドの自治を認めようとしないじゃないか」

 

アイルランド大衆「なんと勇敢な人たちだ。国のために命を投げ打った英雄を殺したイギリス、絶対許さない」

→ 蜂起軍に対する同情が広がり、一気に反イギリス感情が高まる

 

イギリス政府「あー、アイルランド問題めんどくせえ。戦争終わんねえし、さっさとケリつけようぜ。とりあえず北部6州は自治に反対ってことで連合王国の一部にして、南部26州は自治権付与!ファイナルアンサー!」

→ 英首相ロイド・ジョージ、ジョン・レドモンドに南北分断を通告

 

ウィリー・レドモンド「まずい!まずいぞ!このままではアイルランドが分断国家になってしまう。国内で南北和解の世論を作らなくては!」

→ 庶民院で戦場におけるプロテスタント兵とカトリック兵の和解を演説。1つのアイルランドの必要性を訴えるも、大きな世論にはならず。

 

ウィリー・レドモンド「カトリックの第16師団とプロテスタントの第36アルスター師団、この2つが協力する姿を見せることで、人々はきっと納得するだろう」

→サイド・バイ・サイドを体現すべく、南北アイルランドの部隊がメシーヌ・リッジ攻略戦に参加。レドモンド自身も突撃に参加する。

 

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ウィリー・レドモンド、手と足に被弾し戦死

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ウィリー・レドモンド、南北共闘を体現する戦いの中で自ら戦死。

彼は自らの死をもって南北の和解を人々に訴えようとした。

南アイルランドのカトリック、政敵のアイルランド義勇軍はおろか、北アイルランドのプロテスタントすら哀悼の意を捧げた。

しかし、戦争協力派は全く支持されなくなり、国民義勇軍は泡沫化していく。

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 5. シン・フェイン党の勃興

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「自治主義」を掲げる弱小政党シン・フェイン党登場

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アイルランド人「シン・フェイン!蜂起してくれてありがとう。今後とも期待しているよ!」

 

シン・フェイン執行部「は?ワシら共和主義者じゃないし、イースター蜂起にも参加してへんのに、なんや、みんなワシらのことを英雄みたいに言うとるな。なんか知らんが、党勢拡大のチャンスやでこれは!」

 

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イースター蜂起指導者の1人、エイモン・デ・ヴァレラ登場

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デ・ヴァレラ「いま勢いのあるシン・フェインで共和主義を達成すべく活動を続けるぞ」

→ イースター蜂起に参加した急進的ナショナリストが多数シン・フェインに参加

 

シン・フェイン執行部「新生シン・フェインは、アイルランドの独立と共和制を目指すでぇ」

→ 1917年10月の党大会で旧来の自治主義を放棄し、イースター蜂起の精神を受け継ぎ独立共和国を目指すことを宣言。1917〜18年の選挙で急速に台頭。

 

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アイルランド義勇軍の指導者の1人、マイケル・コリンズ登場

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コリンズ「アイルランド義勇軍はシン・フェインと協力します。共に戦いましょう」 

→ アイルランド義勇軍、シン・フェインと連携を深める

 

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国内世論が急速に急進的共和主義・対英武装路線に向かう中、イギリス政府、アイルランド自治問題を話し合うため、国内主要勢力を集めたコンヴェンションを開催

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チルダーズ「全員が集まるこの場で建設的な議論をしましょう。これがきっと、南北と自治問題を話す最後のチャンスです」

シン・フェイン「っつーか、ワシらの代表枠少なすぎや。ワシらはアイルランド人の代表や。もっと席よこせ。出てやらねーぞ」

アルスター分離反対派「南北和解?へっ、そんなの必要ないよ。この会議無意味だし」

→ チルダーズ、南北の統一と自治領化に奔走するも、シン・フェインのボイコット、アルスターの非協力的態度で対話をまとめられず、会議は失敗に終わる

 

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コンベンションの失敗で、イギリスの元で平和裡に南北自治が実現する可能性がほぼ消滅。

蜂起の精神を受け継いだシン・フェインが支持を拡大し、武装闘争への支持が広がっていく。

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つなぎ

ウィリー・レドモンドが自らの死をもって体現した南北アイルランドの和解。

その理想と彼の劇的な死は多くの人の心を動かすも、イースター蜂起によって醸し出された感情的な反英の雰囲気を打ち消すことはできず、レドモンドが目指した「イギリスの元での理性的な南北アイルランドの協力と自治」は消滅します。

これよりアイルランド独立闘争の主眼は「共和国家アイルランド」をいかに達成するかになるのですが、イースター蜂起の精神を受け継ぐシン・フェインとアイルランド義勇軍主導の武力路線が強くなり、とうとう対英武装闘争が始まり、そして内戦へと進んでいきます。

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参考文献