歴ログ -世界史専門ブログ-

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大騒ぎになった重要書物の誤植事件

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誤植のせいで歴史に名が知られてしまった有名な事例

歴ログは誤植が少なくなく、いつもご指摘くださる方に感謝申し上げます。いつもありがとうございます。

ぼくが言うのも何ですが、普通に出版されている本を読んでてもたまに誤植ありますし、歴史的に重要な書物にも誤植が見つかって、その間違いがとんでもないものだったから却って歴史に名が残ったケースもあったりします。

 

 

1. 1631年「姦淫聖書」(イギリス)

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史上最も有名な聖書の誤植

 「姦淫聖書」は数ある聖書の誤植版の中でも最も有名なもの。

これは1631年にイングランドで国王チャールズ1世の要請で、ロバート・ベイカーという人物によって王立印刷所で出版された聖書です。

この聖書の出エジプト記第20章第14節、「あなたは姦淫してはならない」の文章に「NOT」を入れるのを忘れたため、

Thou shalt commit adultery.(あなたは姦淫しなくてはならない)

というとんでもない誤植が入ったまま出版されてしまいました。

すぐに間違いが発覚してベイカーは法定で裁かれ「充分に校正しなかった」罪で罰金を課せられ、チャールズ1世はこの姦淫聖書をすべて破棄するように命じました。

聖書を誤植版は誤植が見つかり次第、大号令がかかって回収されて破棄されてしまうケースが多いため、現物はあまり残っておらず、現代のオークションでプレミア価格が付くそうです。

 

 

2. 1580年「馬鹿者聖書」(ドイツ)

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印刷屋の妻のとんでもないイタズラ 

「馬鹿者聖書」と呼ばれる聖書は史上2つあります。

一つ目は1580年にドイツで発行されたもの。

夫に何の恨みがあったのか、聖書を出版する印刷屋の妻が夫の仕事場にこっそり侵入して、創世記の

Und er soll dein Herr sein.(彼はなんじの主たるべし)

の並び順を組み替えて

Und er soll dein Narr sein.(彼はなんじの馬鹿者たるべし)

と罰当たりな言葉にしてしまい、気付かずに出版した夫は大目玉を食らうことになってしまったのでした。

 

二つ目は1763年にイギリスで発行されたもので、詩篇第14篇第1節

the fool hath said in his heart there is no God(愚かな者は心のうちに神はないと言う)

とすべきところを、NOを入れるのを忘れて

the fool hath said in his heart there is God(愚かな者は心のうちに神はあると言う)

とこれまた不道徳な言葉で発行してしまいました。

 

 

3. 1717年「酢の聖書」(イギリス)

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Photo from "The Theft of the Vinegar Bible" THE NEW ENGLANS TODAY LIVING

 全編誤植だらけの聖書

1717年にイギリスのクラレンドン・プレスという出版社のJ.バスケット(J. Baskett)という人物が発行した聖書は、あまりにも誤植が多いため「バスケット(basket)山盛りの誤植」などと揶揄されています。

例えば、上記の写真にあるようにルカ福音書第20章の表題は、

the Parable of the Vineyard(葡萄畑の寓話)

ですが

the Parable of the Vinegar(酢の寓話)

となっています。そのためこの聖書は「酢の聖書」と呼ばれています。

 

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4. 1884年「ハックルベリー・フィンの冒険」(アメリカ)

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歴史的名作の初版に写り込んだとんでもないモノ 

1885年に発表された「ハックルベリー・フィンの冒険」は、マーク・トウェイン作の児童文学。19世紀のアメリカ社会を鋭く描き出した名作で、アメリカ文学の歴史的名作とされています。

一方で奴隷制が残っていた当時のアメリカ社会や人々の意識といったものをそのまま描いているため、しばしば「人種差別的」「下劣で無教養」などとされ発禁処分になったり、図書館から取り除かたりなど、論争が多い作品でもあります。

実はアメリカで初版がされたのはイギリスとカナダの2ヶ月後で、この作品に描かれた「問題の多い」内容が各所で反発があったためでした。

そして、アメリカ版の初版にある主人公ハックと叔父のシラスと叔母のサリーが会話している挿絵はその「妨害行為」が取り除かれることなく、とんでもない形で残ってしまった結果の誤植です。

左が初版で右が重版なのですが、左の叔父シラスの股の少し下に写ってはいけないものが写っています。

これは出版を妨害しようと意図的に挿絵に猥褻なものが加えられていたのですが、初版時にそれが取り除かれることなく出版されてしまったのでした。

 

 

5. 1623年「リチャード2世」(イギリス)

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 シェイクスピア作品に登場するファンシーな誤植

 シェイクスピアの歴史劇「リチャード二世」は、イングランド国王リチャード二世を卑劣で陰険で強欲な王として描き、その治世と廃位までを描いた歴史超大作です。

その中の一節に

White beares have armed their thin and hairless scalps against thy majestie(シロクマは汝の陛下に対し、薄く禿げ上がった頭であった)

とあります。

なんで唐突にシロクマが登場するのか?という感じで文脈的にも通じず、後にも先にもシロクマさんは物語には登場しないので、これは

White beards have armed their thin and hairless scalps against thy majestie(白ひげは汝の陛下に対し、薄く禿げ上がった頭であった)

の間違いであるとされています。

なんでこんな誤植があるのか詳しくは分かっていませんが、bear"e"sとbear"d"sを印刷屋が間違えた可能性があります。

たった一文字間違えただけで、急に重厚な物語がディズニー映画になってしまいますね。

 

 

 

まとめ

特に聖書なんて神の言葉だから、間違えた時の影響がハンパないです。

間違いが多すぎて歴史に名が残るなんてのもの恥ずかしすぎますし。

ぼくも歴史をテーマに扱っているので、少しの誤植がとんでもない意味違いになるケースもあるわけで、重々気をつけていこうと思います。

 

参考サイト

"The Troubling Truths Of Huckleberry Finn" ROBERT GERARD HUNT

"5 Insane Printer's Errors That Changed Entire Books" Cracked

Bible errata - Wikipedia

 

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