歴ログ -世界史専門ブログ-

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実現する?夢の国際海底トンネル

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電車に乗ってロンドン、ニューヨークへ!

LCCの登場で、海外移動が随分と安価で気軽になりました。昔だと10万円近くかかった路線も、2~3万で行けたりします。

そんな航空機黄金時代の現在ですが、いまだに「国際鉄道」への期待と憧れは大きいものです。

中国が国家の威信をかけて取り組む「一帯一路」構想もあり、大陸間横断鉄道が強力に推進されています。コスト的に見合うのかはなはだ疑問ですが、広大な領土を持つ中国は国際物流を活性化することで地方の発展を促すという至上命題があるに違いありません。

そしてそんな国際物流のカギを握るのが「国際海底トンネル」です。

いかに高コストとはいえ、最寄りの駅から電車を乗り継いでロンドン、ニューヨークへ!というのはロマンがあるものです。

今回は現在建設計画がある世界の海底トンネル計画をピックアップします。

 

 

1. 日韓トンネル(日本〜韓国)

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 実現のハードルは高い「平和のトンネル」

日韓トンネルの構想は古くは戦前からあり、「大東亜縦貫鉄道構想」では日本本土から朝鮮半島を経て満州に至り、北京、南京を経てベトナム、マレーシア、シンガポールまでを結ぶ壮大な鉄道網が計画されていました。

戦後に日韓トンネルを強力に推進したのが韓国の宗教団体・統一教会で、1980年代に多額の資金を元に自民党議員を巻き込んで「人類を平和に導く高速道路」の建設を推進しました。実際に、佐賀県東松浦郡鎮西町や長崎県対馬には統一教会の資金で日韓トンネルの入り口が掘られています(現在は工事はストップ)。

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Photo from "日韓トンネル実現へ世論形成を | 対馬斜坑オープン式" 平和大使協議会

トンネルの開通による経済効果は少なくないと見積もられていますが、日本側には朝鮮半島有事に伴うリスクや「嫌韓」の世論による反対、韓国側にも「日本の侵略の足掛かりになる」など、双方の感情的な壁は根強く、また総工費用が経済効果に釣り合うかも疑問が持たれています。

朝鮮半島情勢がきな臭くなってきている現在、日本の世論的にも日韓トンネルはますます受け入れがたいものになっていることは間違いありません。

 

 

2. サハリントンネル&宗谷トンネル(ロシア~日本)

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 ロシアが熱いラブコールを送る日露トンネル

ロシア極東とサハリンの間の約10キロを結ぶ海底トンネルに加えて、サハリンと北海道の間の約43キロを結ぶ海底トンネルを組み合わせれば、鹿児島県から北海道を経てロシア極東、さらにはシベリア鉄道を経てモスクワまで繋がる路線が誕生します。

鉄道や乗用車の通行の他、液化天然ガスや石油のパイプラインの敷設も計画されており、日本側とロシア側で協議がなされています。

かつて青函トンネルを建設した日本からすれば、この2つのトンネルの建設は技術的には全く問題がないそうです。

この計画はロシア極東の経済活性化を目指すロシア政府にとっては悲願で、プーチン大統領をはじめロシア政財界は熱いラブコールを日本側に送っていますが、日本側は投資の割に経済的なメリットが少なく実現の可能性は低いとしています。

おおよそ建設費用は日本側の負担になるのに、メリットの多くはロシア側が享受する構図になる、という目算なのかもしれません。

 

 

3. シチリア・チュニジアトンネル(イタリア〜チュニジア)

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イタリアとチュニジアをつなぐ大動脈

イタリアのシチリア島と北アフリカのチュニジアを結ぶ海底トンネル建設の計画が存在します。シチリア島とイタリア半島は、メッシーナ海峡大橋で結ばれる予定(現在計画は延期中)で、両方が完成すればチュニジアとイタリア本土がつながる大動脈が完成します。

このトンネルの建設は、海底トンネルと4つの人工島の建設を含んでおり、総建築費は約280億ドル(約3兆円)ほどかかると見積もられています。

経済的に低迷する南イタリア経済の活性化のために、北イタリアやヨーロッパ各国との物流の大動脈を作るのはイタリア政府の悲願なのですが、経済低迷と資金不足により計画の延期が続いています。

 

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4. ベーリング海峡トンネル(ロシア〜アメリカ)

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シベリア開発の切り札として古くからある構想

シベリアとアラスカを海底トンネルで結ぶ構想は古くから存在し、1905年に皇帝ニコライ二世によって承認された計画が最初です。

その後、ソ連時代もレーニンやスターリン、ブレジネフの時代にもベーリングトンネル計画は持ち上げられましたが、構想だけで具体的な計画はまったく進みませんでした。

というのも、ベーリング海峡は狭いように見えて海底部分の距離は約105キロほどにもなり、世界2位の長さである青函トンネルの2倍近くになり、莫大な予算が必要になるのです。

現在でも構想は存在し、鉄道や自動車だけでなく、水道・ガス・石油・光ファイバーケーブルも繋がる予定で、その建設費用は約3500億ドル(約40兆円)。建設には12年~15年の期間がかかると見積もられています。

うーむ、果たしてその投資に見合っただけの経済効果があるのだろうか…。

 

 

5. ジブラルタル海峡トンネル(スペイン〜モロッコ)

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2025年に開通予定のヨーロッパ・アフリカ開通トンネル

ジブラルタル海峡を海底トンネルで繋ぎ、スペインとモロッコを結ぶジブラルタルトンネルの計画は、1980年代から存在しています。

過去は橋案や橋とトンネルの併用案などいくつか案がありましたが、現在は計画は地下トンネル案に絞られ、3本の並列トンネルが検討されており、ドーバー海峡横断トンネルと同様に電車と自動車が両方通れる計画です。

海峡は直線距離だと32キロほどですが、海底には硬い岩盤があり、そこを迂回してトンネルを掘らねばならぬため、距離は少し増えて38キロほどになります。

トンネルの建設費用は約6.5~13億ユーロ(805億~1600億円)ほどと見積もれていて、意外と現実性がありそうな気がしますが、ジブラルタル海峡は風や海流が強く難工事が予想される上、地盤が不安定で地震の震源にもなっているため、慎重な計画が必要になります。2025年に開通を予定してボーリング作業が続いています。

 

 

6. トランス・アトランティックトンネル(北アメリカ〜ヨーロッパ)

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 現代の技術では実現困難な海底トンネル計画

ロンドン・パリ・ブリュッセルといったヨーロッパ諸都市とアメリカ・ニューヨークを鉄道で結んでしまおうという壮大な計画は、古くは19世紀のSF小説から始まっています。

1888年、フランスの作家マイケル・ヴァーンが著書「Un Express de l'avenir(未来の表現)」の中で北アメリカとヨーロッパを結ぶ鉄道の構想を発表したのが最初で、次いで1913年にドイツの作家ベルンハルト・ケラーマンが小説「Der Tunnel」によって発展させました。これは大ヒットし、テレビドラマにもなりました。

www.youtube.com

 

夢の大西洋横断トンネルアイデアを実行に移す技術的な検討も長年続いており、最も有力な方法が「海底に固定したワイヤにトンネルを括りつける」というもの。

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Image from " Links across the waters" Tunnel Talk

 計画によると、トンネル内は超高速磁気浮上列車を備えロンドンとニューヨークをわずか4時間で結ぶ計画です。これが実現したら相当スゴイですね。

 しかし、このプロジェクトは約5600キロもの海底チューブをつなぐ技術的な問題が山積みで、かつ少なく見積もっても2000億ドル(約22兆円)もの高額な費用がかかると見積もられており、「2099年までには利用できないだろう」と予想されています。

ということは、2100年には利用できるようになるのでしょうかね~。

 

技術的な概要はこちらのサイトに詳しいです。

Strait Crossings symposium report - TunnelTalk

 

 

 

 まとめ

 既に建設に向けて実行に移っているものもあれば、構想だけで全然進んでいないものもあります。

いづれにせよ、莫大な資金が必要になるのは確かでそれにちゃんと見合った経済効果はあるのか、と問われると、結構微妙なところがありますよね。

実際のところ、航空機の利用料は年々下がっていますし、わざわざ時間のかかる鉄道や自動車で移動したり輸送をするメリットも少なくなってきています。

 それでも、都市の人口や富の一極集中を防ぐと当時に、経済的人的交流を進めて国境の壁を徐々に失くしていくという、「グローバル主義」的な発想からするとあってしかるべきなんでしょうが。

 

 

 参考サイト

" Links across the waters" Tunnel Talk

" 世界の海底トンネルプロジェクト"  青木智幸(大成建設(株)技術センター)

"Top 10 Proposed Intercontinental Bridges And Tunnels" LISTVERSE

 

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