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歴史上実在した「野生児」とその逸話

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人間社会から捨て置かれ野で成長した子どもたち

伝説によると、ローマ帝国の祖ロムルスは弟レムスと共に雌狼の母乳で育ったとされています。

兄弟は自分たちが捨てられた丘に街を建設しようとしたが、兄弟同士でいさかいが生じロムルスがレムスを殺害。弟を排除したロムルスは自分の名を冠する街「ローマ」を建設したのでした。

これは伝説ですが、歴史上に数多く「野生児」は存在していたし、実際にロムルスとレムスのように動物に育てられるケースも見られたようです。

もっとも有名なのは1920年代にインドで見つかった狼少女「アマラとカマラ」ですが、あれは作り話だったことが後に分かっています。

今回はその他の有名な野生児の事例と逸話を紹介します。

 

 

1. 野生児ピーター(イギリス)

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イギリス王室に飼われた野生児

1725年夏、北ドイツの森で12歳前後と思われる少年が発見されました。

少年は服を着ておらず、キーキーと奇怪な叫び声をあげて草の中や木の上を逃げ回ったとされています。

この奇妙な野生児のニュースを聞き興味を持ったイギリス王ジョージ1世は、少年をロンドンに招きよせ、洗礼を施して「ピーター」という名を与えた上で、宮殿の晩餐会に野生児を招待することにしました。もちろんマナーなどは知らないピーターは、野菜や生肉を動物のように喰らいついたり、ポケットに食べ物をしこたま詰め込んだり、王宮の女性たちにキスをしようとしたり、大変な大騒ぎを演じてゲストの王族や貴族たちを大いに楽しませたのでした。

ピーターを何とか人間社会に慣れさせようという試みもなされましたが、彼が言語を覚えることはなく、服は好んだようですが、夜になると床に丸まって寝た。

イギリス王室はピーターが手に余るようになり、結局田舎に送られて王室から年金を受けながら農家の手伝いをしながら暮らし、1785年に死亡しました。

彼の墓は現在でもイギリス・ノースチャーチに存在します。

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Photo by Neale Monks

 

 

2. リエージュのジョン(ベルギー)

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野生生活に耐えられるように成長を遂げた少年

イギリス王室の外交官だったケネル・ディグビー卿が1644年に記述した年代記によると、長年森で暮らしたと思われる野生児がベルギーのリエージュで発見されたとされています。

記述によると、ベルギーが宗教戦争に巻き込まれ敵兵から逃れようと5歳だったジョンとその家族は森の中に逃げこんだ。戦争が終わった後家族は元の家に帰ったのだが、ジョンは家に帰るのを異常に怖がったため、家族は諦めてジョンを森の中に放置してしまった。

それから16年間彼は森の中で草や根っこやらベリー類を食べて暮らし、21歳の時に農家の食べ物を盗もうとして捕まりました。捕まった当時、彼は「裸で髪や髭はぼうぼう」で「犬のように四つんばいで歩き、体臭がまるで犬のような獣臭がした。また、森の中で獲物を見つけるためか視力が異常に発達しており、かなり遠くの食べ物も発見できた」そうです。

ジョンは完全に言語を忘れていましたが、教育を施すと徐々に言語を思い出していき、ちゃんと市民生活に復帰できたそうです。

 

 

3. マミー=アンジェリーク・メミー・ル・ブラン(フランス)

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フランスに現れた野生少女

1731年、フランス北東部の町ソンギーに「獣の皮をまとい、石斧を持った少女」が出現しました。少女は10〜18歳程度に見えたが恐ろしく力が強く、石斧一振りで獰猛な番犬を屠ってしまったほど。

少女はまともな言葉をしゃべらずに野獣のような唸り声をあげ、殺したばかりの獣の生肉を好んで食べて村人たちを驚かせました。

後に少女は教育を施されてフランス語を話せるようになり、マミー=アンジェリーク・メミー・ル・ブランという名をもらって修道院で暮らしたそうです。

 

 

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4. アヴェロンの野生児(フランス)

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最後まで言語を習得できなかったフランスの野生児

1800年、南フランスのアヴァロン近郊の森で12歳前後と思われる少年が保護されました。

彼は裸で言語を解さず、おそらく幼い頃から森の中で一人で暮らしていたと思われた。彼は人に触られたりするのを嫌い、また体を洗われるのを極度に嫌い、突如として凶暴な発作を起こし暴れまわった。

彼は音楽やピストルの音といった音には反応しなかったが、彼の大好物のクルミの殻が割れる音には反応するなど、聴覚、視覚、触覚にも欠落が生じていたため、医師は彼を先天性の知的障害であると結論づけました。

医師のジャン・イタールはこの結論に納得せず、適切な教育を施せば彼は回復し市民生活に復帰できるはずだと主張し、野生児を引き取ることにしました。

野生児は「ヴィクトル」と名前をつけられ、イタールの家で教育を施されながら暮らしたのですが、5年の教育の末ヴィクトルは身振り手振りのコミュニケーションや簡単な文章は理解できるようになったが、言語を習得することはできなかった。

イタールは時折起こるヴィクトルの凶暴な発作に疲れ切り養育を断念。

ヴィクトルはその後、世話役のゲラン夫人の元で暮らし40歳で死亡しました。

 

5. カスパー・ハウザー(ドイツ)

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未だに全容が謎に包まれている「ニュルンベルグ少年監禁事件」

1828年、バイエルン王国のニュルンベルグに「カスパー・ハウザー」と名乗る16歳ほどの少年が現れました。

少年はまともに話すことができなかったため、市の孤児院で読み書きなどの教育を施され次第にコミュニケーションができるようになっていきました。

彼が話したところによると、彼は物心ついた頃から「狭い暗い部屋」の中で暮らしており、1日に数回「正体不明の男が食事を運んでくる」。部屋に唯一あるのは2つの「木のおもちゃ」だけだった、というのです。

この奇妙で特異な少年はヨーロッパ中の関心を集め、特に少年が暗闇の中でも本を読めたり、触っただけで鉄か別の金属かを当てることができたりなど、通常の人間が持たない視覚や触覚を有していることにも注目が集まりました。

ところが1833年12月17日、21歳になっていた少年は突然正体不明の男に襲われて暗殺されてしまった。犯人も結局捕まらなかった。

少年がようやく言語を理解し始め、少しずつ16年間のことを話そうとしていたタイミングでの暗殺劇だったため、彼を拉致監禁していた犯人かグループの犯行だと考えられています。

 

 

6. ディナ・サニチャル(インド)

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Photo by whatsthatpicture

インドのリアル狼少年

1867年、インド北部のウッタル・プラデーシュ州ブランドシャール近郊の山で狩りをしていたハンターが、洞窟の入り口付近で眠りこけている正体不明の野生の獣を発見。煙をいぶして獣をおびき出し、生きたまま捕獲に成功しました。

その正体は6歳前後の少年で、ハンターたちはぶったまげてしまった。

少年はおおよそ生涯を山で成長し、4匹の狼と共に共同で暮らしていたと考えられています。

少年はディナ・サニチャルと名付けられアグラにある孤児院に引き取られ、そこでリハビリテーションが行われました。

ところが少年は何年たっても言語を覚えようとせず、骨をかじり生肉をむさぼる野生のままの生活から抜け出せず、1895年に死亡しました。

一説によると、彼はラドヤード・キップリングの小説「ジャングル・ブック」に登場する狼少年「モーグリ」のモデルになったそうです。

 

 

 

まとめ

人間は多様な環境で生きていくための様々な能力を持っており、人間社会の中で生きていくために記憶や言語を高度に発展させているけど、それが必要ない社会であれば状況に応じて様々な能力を会得できるものなのかもしれません。

そうしてそういう能力を持つ人間を我々の社会に連れてきた時、もちろん人である以上市民生活に戻す必要があると思いますが、本人にとってはものすごく苦痛が生じるのではないかと思います。逆の立場で考えるとわかりやすいです。高度に発達した文明に生きる僕らが、ある日突然森の中に放り込まれそこで暮らせと言われたら相当辛いでしょう。

当時も現在も「野生児」は好奇の目で見られるし、何か珍奇な野生動物のような感覚で見てしまいがちですが、こうしていくつかの事例を見てみると、果たして人間や人間社会とはいったい何なのかと考えさせられる気がします。

 

 参考サイト

"10 Feral Human Children Raised by Animals" Top Ten List

"6 Famous Wild Children from History" HISTORY LISTS

"10 Children Raised by Animals" mom.me