いざ、ヴァーチャル世界温泉旅行へ
前編に引き続き、ヨーロッパの有名な温泉地の歴史をまとめてまいります。
ヨーロッパの温泉の楽しみ方は様々で、日本と同じようにザブンと湯につかるところもありますし、温泉水を飲んでサウナで汗をかきデトックスするのがメインのところもあります。
日本人は湯けむりを見ると入りたくて入りたくてしょうがなくなりますが、
そこは郷に入れば郷に従えで、現地方式をやってみるとそれはそれで趣きがあってよいものです。
それでは後半いきます。
7. サン・ペレグリノ(イタリア)
Photo by Kweedado2
温泉よりミネラルウォーターのほうが有名な町
サン・ペレグリノと言えば、赤い星の炭酸水を思い出す人も多いと思います。ちょっと小洒落たリキュールショップでよく見ますよね。
実はこの炭酸は天然じゃなくて、後から人工的に足されています。
サン・ペレグリノは古代ローマの時代から有名で、多くの人がここの水を飲みにやってきました。ペレグリノとは「巡礼者」という意味があります。
意外ですが、ここに温泉施設が出来たのは1848年で、次いでミネラルウォーターの出荷が始まったのが1899年。
治療センターには19世紀の浴槽やシャワーがほとんど残されており、地下ではマッサージ用の常時「ファンゴ(温泉泥)」が作られています。
20世紀前半にここに湯治にやってくる人用にカジノが作られました。
手がけたのは20世紀初頭のイタリアを代表する建築家ロモロ・スクァドレッリ。
ステンドグラスのある壮麗な階段間、大理石の柱がそびえるエントランスホール、厳粛で趣きのあるギャンブル室など、豪華な作りが人びとの目を楽しませました。
戦後カジノが禁止され、湯治客のかつてほどは来なくなり、どちらかと言えば炭酸水の名のほうが有名になってしまった感はあります。
カジノの建物の正面に同じくスクァドレッリの設計になる壮麗な「グランド・ホテル」がありますが現在は廃墟で荒れるままになっており、立て直しが計画されているようですが費用が膨大で、未だに放置されたままだそうです。
8. サトゥルニア(イタリア)
Photo from Traveladdicts.net, A DAY AT THE SATURNIA HOT SPRINGS IN ITALY
温泉の川に身を委ねる極上のひととき
トスカーナ地方はイタリア有数の温泉地帯で、山肌のあちこちから湯気が立ち上り温泉が吹き出しています。
サトゥルニアはそんな中でも、硫黄を含んだ温水が川を流れる「温泉川」があることで有名。
観光客たちは水着を着て、思い思いの場所で温泉に浸かることができます。
夜になると、満点の星空を眺めながら湯に浸って、川のせせらぎや木や草のさざめきを聴く。こんなゼイタクありますか、もう!
もちろん、ちゃんとしたホテルに泊まれば温泉療法も受けられるとのこと。
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9. エヴィアン・レ・バン(フランス)
Photo from TOURFILTER.com
芳醇な水の町・エヴィアン
ミネラルウォーターのブランド名で有名なエヴィアンの町は、温泉街としても名が知られています。
エヴィアンの温泉の歴史も古代に遡り、ローマ皇帝フレヴィアス・クラウディウス・ヨヴィアヌスが立ち寄ったこともあるし、中世ではエヴィアンの水を求めて遠くから人びとがやってきたほどでした。
エヴィアンの名前が一躍知られるようになったのは1789年のこと。
腎臓結石を患っていたルセール候がエヴィアンの温泉水の柔らかな味わいを気に入り、何度も通って飲んでいると、長年彼を悩ませていた腎臓結石がウソのように消えてしまった!
このことでエヴィアンの町は温泉保養施設として賑わうようになり、20世紀にはレマン湖を見渡す箇所にロイヤル・ホテルとスプレンディド・ホテルという2つの豪華なホテルが建設されてから大いに賑わうようになりました。
当時の最先端のモードと建築技術を集めた最高峰のホテルで、その内装の豪華さは訪れる者を嘆息させたと言います。
目の前に広がるレマン湖を眺めながらゆったりとした椅子に座り、上品に談笑しエヴィアンの温泉水を飲む。食事をとった後は湖畔をゆっくりと散歩し、「トニーのバー」に行き「赤い果実のカクテル」を飲む。
うう、羨ましい…。
10. スパ(ベルギー)
Photo by Norbert Schnitzler
温泉の名が付いた町
「スパ」とは元々ラテン語の「スパゲーレ(うるおす)」から来ていると言われています(諸説あり)。
ベルギー・スパで温泉が発見されたのは1326年で、その後神聖ローマ皇帝カレル4世がボヘミアのカールスバートの温泉をスパと呼ぶようになって以来、スパという言葉が定着しました。
ところが、発掘調査で五賢帝の1人ネルヴァのコインが発見されたため、実はローマ人は昔からスパの存在を知っていたと考えられています。
暗黒時代には、スパはベルギーにキリスト教をもたらした聖レマクルス信仰の中心として栄えました。聖レマクルスはケルト人の古来信仰の偶像を打ち壊し、精力的に修道院を建てた男で、彼のカリスマ的な功績は彼自身が水を清めて新たな源泉を生み出す力があると信じられました。
聖レマクルス信仰と結びついて、遠方から「奇跡の水」を求めて巡礼者が集まるようになりました。「聖レマクルスの奇跡」という本には、スパの水で目を洗った盲目の女の目が開いたという奇跡が掲載されています。
温泉の再発見後すぐにスパの町は湯治客で賑わうようになり、フランス王室の他、スウェーデン王やオーストリア皇帝なども通うようになりました。
特にスパの温泉水は「水の女王」と呼ばれ効能が高いとされ、リウマチなどの病気の治療のために用いられました。ドイツ皇帝ヴィルヘルム2世は1918年、この水を毎日飲むために本拠地をスパに移したほどでした。
現在のスパの町は、どこにでもあるような小さなヨーロッパの1町となっていますが、温泉水を求めて各地から人が訪れています。
11. バート・ラガツ(スイス)
Image from HEIDLAND, Willkommen in Bad Ragaz
谷底から湧き出る温泉で栄えた町
伝説によると、13世紀にある騎士が東スイスのタミーナ渓谷という場所に源泉が湧き出しているのを発見したのが、バート・ラガツの温泉の歴史の始まりだそうです。
タミーナ渓谷に行くには、縄ばしこか綱をたぐって谷底に降りて行くほかなく、かなり危険度が高かった。しかしこの温泉を求めて人がひっきりなしに訪れたようで、ドイツの神学者セバスチャン・ミュンスターは
聖パトリックの煉獄にいる死者の魂のごとく、みな暗闇の中にうずくまっている
と書いたほど。そうとう混雑していたようです。
タミーナ渓谷はその光景がそれは美しいらしい。
この渓谷は、地質学上の驚異とも言うべきものだ。大聖堂のような洞穴の内部を湯が流れ、天井の岩の隙間からは光が漏れてくる。その神秘的な光、足元に響く水音、熱湯から立ち上る湯気、これらすべてが相乗効果をあげ、自身のさなかに南国の大聖堂にいるような、この世ならぬ感覚を呼び起こすのである。 (水と温泉の文化史 アルヴ・リトル・クルーティエ著, 武者圭子訳 三省堂 P222)
1839年にタミーナ渓谷からラガツの谷までパイプが通ると、バート・ラガツが温泉街として一躍発展するようになりました。
他の温泉地と同様、19世紀には政治家や著名人が温泉に詰めかけ、アメリカ人指揮者のジョージ・セルは「ここの温泉に浸からないといい演奏ができない」と言ったほど。
頭上に雪を頂く雄大なアルプス山脈を眺めながら、ゆったり浸かる温泉はさぞかし格別でしょうね。
12. バーデン(スイス)
Image from The Swiss Rock, City Hopper: Baden, Switzerland
古代から現代まで人びとが集まる伝統ある温泉
バーデンは2000年以上の歴史があり、伝説によると紀元前58年にシガウィンというヤギ飼いの男が、飼っていたヤギを見失い、温泉のほとばしる岩の上にヤギを見つけ、ついでに温泉を発見した、と言われています。
ローマ人はここに大規模な温泉施設を建設し、また近くに軍団の野営地を設け、軍団の団員の慰労施設としました。
中世になるとハプスブルグ家がバーデンに家を立てて長期滞在するようになり、湯の上にお盆を浮かべてワインやごちそうを楽しむ遊技場となりました。
19世紀以降にはチューリッヒ〜バーデン間に列車が通過したこともあり、さらに大勢の客が訪れるようになりました。当時の湯治客、特に女性は流行の最先端だった「入浴発疹」を肌につけようと頑張って湯につかったそうです。現代で言う日焼け跡みたいなもんですかね。
現在のバーデンは当時のシックなカルチャーの面影を残した雰囲気の良い温泉リゾートになっているようです。
まとめ
ヨーロッパは訪れるべきところ、買うべきもの、食べるべきものが多すぎて、
わざわざ温泉に行ってみよう、という気にはなかなかならないですよね。
「温泉は日本が究極」という何かよくわからないプライド(?)もあります。
日本の温泉文化が強すぎるので、そのマインドのまま行っちゃうと、海外の温泉では結構がっかりする場合が多いように思います。
日本は日本、海外は海外でアッチのスタイルを受け入れると、案外楽しめるんじゃないかと思います。
今年の冬休みは、ヨーロッパ温泉旅行はいかがでしょうか?
参考文献 水と温泉の文化史 アルヴ・リトル・クルーティエ著, 武者圭子訳 三省堂