歴ログ -世界史専門ブログ-

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一度は行ってみたい歴史あるヨーロッパの温泉地(前編)

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ちょっと温泉に入りにヨーロッパに行ってきます

温泉いいですよね。

ぼくは週末はだいたい近所の温泉で一週間の疲れを癒すのが習慣になっています。

やはり温泉は日本が一番だと思うのですが、海外の温泉も趣があってなかなかいいものです。

これまで台湾、ハンガリー、トルコ、イタリアの温泉に行ったことがあるのですが、いつかは行ってみたい世界の有名な温泉がまだまだあります。

今回なヨーロッパの有名な温泉とその歴史をまとめていきます。

たくさんあるので前後編の二回に分けてお送りします。

 

 

1. バース(イギリス)

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古代ローマから栄えた温泉

イギリスの伝説によると、バース温泉を発見したのは紀元前800年ごろブリトン人7代目の王ブラダッドだそうです。

ブラダッドはらい病にかかり王宮を追い出されて豚飼いとなっていました。ある時、豚が病気にかかってしまい、失意の中でバースの湯の前を通りかかった。すると病気の豚たちが次々と湯の中に入っていき、しばらくすると元気な姿になって上がってくるではないか。王子は豚をマネて湯に入ってみた。すると、らい病はすっかり治ってしまった、とのこと。

古代からバース温泉は賑わっており、温泉好きのローマ人はここにキングス・バスと呼ばれる神殿付きの立派な温泉施設を建設しました。

湯の温度は46度もあり、現在でも1日に200万リットルを越す湯がこんこんと湧き出ています。

 

大衆温泉から上流階級の温泉街へ

ローマ帝国崩壊後は、温泉施設は荒れるにまかせる状態でした。

12世紀になりようやく、バースの修道院の修道僧が施設を再建し、公共浴場として再オープンさせました。そこから長い間大衆的な温泉として市民に親しまれていましたが、18世紀に入ると王侯貴族のための最高級の温泉療養地に姿を変えました。

舞踏場や競技場、劇場、カジノ、スイーツハウスなどなど、上流階級の人びとが休暇と湯治を楽しむ場所になりました。彼らは温泉をどのように楽しんでいたか。

まず一日は朝六時から九時のホット・バス・タイム。つづいて音楽を聞きながら、ポンプ・ルームで温泉水を飲む。それから遅い朝食をとる。

午後は希望者は教会でのお祈り。それ以外の者は昼寝をしたり、買い物をしたり、思い思いに過ごす。三時になると豪華な昼食。済むと、再び温泉水を飲む。 

夕刻にはお茶のサービスがあり、そのあとにはギャンブルや見世物、音楽、芝居など様々な娯楽を楽しむというわけです。ゼイタクですねえ。

ヴィクトリア朝時代の狂乱の時代が終わると、人びとの足はバースから遠のいていき、一時は閉鎖に追い込まれたものの、現在は観光地として再び賑わいを見せています。

  

2. バーデン・バーデン(ドイツ)

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Photo from army.mil, Soak your worries away in Baden Baden 

「ヨーロッパの夏の首都」 バーデン・バーデン

バーデン・バーデンも古代ローマの時代からの歴史を持ち、カラカラ帝が石造りのカラカラ浴場を作らせたことで有名です。

19世紀には、政治家・文化人・芸術家などがこぞって集うヨーロッパ有数の避暑地となりました。夏のヴァカンス時にはヨーロッパのお偉い方はみんなここに集まることから、「バーデン・バーデンはヨーロッパの夏の首都」とまで言われるまでになりました。

バーデン・バーデンに足繁く通った人物は多く、少し挙げるだけでも有名な名前がキラ星のように連なっています。

英ヴィクトリア女王、エドワード7世、プロシア皇帝ヴィルヘルム1世、ショパン&ジョルジュ・サンド、ドラクロワ、デュマ、スタンダール、バルザック等々…

その賑わいは現在も健在で、世界中からセレブたちが優雅なヴァカンスを過ごしにやってきます。最も有名なのがローマ浴場跡に19世紀に建てられた「フリードリッヒ浴場」

浴場内はローマ式に大理石で出来ており、フレスコ画や彩色タイルで色鮮やかに彩られた壁。入浴の順番もローマ式で、まずはテピダリウム(微温浴室)でゆっくり発汗を促し、次にカリダリウム(熱浴室)でダラダラと汗をかく。もうダメ、と思ったらフリギダリウム(冷浴室)で体を冷まし、また初めからというのを何巡か繰り返す。

圧巻は中央にあるローマ・アイリッシュ式の豪勢な浴室。大きな円形プールのような浴槽で、ドバドバと温水が湧き出す。天井はドーム型で、窓からは光が差し込む。周囲はローマ彫刻が置かれた何ともゼイタクな空間になっているそうです。

いやあ、一度でいいから行ってみたい!!

 

3. ヴィースバーデン(ドイツ)

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Photo from goloro, Wiesbaden Kurhaus

湯量の豊富な素朴な温泉街

伝説によると大昔、不器用な巨人がずしんずしんと歩いていたが、つまづいて転んで大地が凹んでヴィースバーデンの谷ができた。巨人は怒って、持っていた槍で何度も地面を突き刺した。すると今度は大地が怒り、巨人の顔に熱い湯を吹きかけた。こうしてヴィースバーデンの温泉は生まれた、そうです。

やはりローマ人はこの地に温泉施設を作りました。大プリニウスがこの温泉地の優れた様を紹介し、ローマ人の旅行者がたくさん保養に訪れるようになったそうです。

近代に入ると、バーデン・バーデンほどではないにしても、豊富な湯量と効能のある温泉水を求めて一般の人だけでなく王族も訪れるようになりました

ドイツ王家ホーエンツォレルン家や、ロシア・ロマノフ家もヴィースバーデンに自分たちだけの別荘や教会を作り、たびたび湯治に訪れたそうです。

現在でも田舎の素朴な雰囲気を持ちつつ、湯治旅行には充分な施設を備えており、多くの観光客を引きつけています。

 

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4. マリエンバート(チェコ)

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Photo by AndreasPraefcke

上流階級が「束の間の恋」を楽しんだ温泉リゾート

マリエンバートと言えば、アラン・レネ監督の映画「去年マリエンバートで」が非常に有名です。

豪奢だが、どこか冷たいたたずまいを見せる城館に、今日も富裕らしい客が、テーブルを囲み、踊り、語って、つれづれをなぐさめている。まるで凝結したような、変化のない秩序に従った生活。誰も逃げ出すことの出来ない毎日なのだ。この城館の客である一人の男が、一人の若い女に興味をもった。そして男は女に、「過去に二人は愛しあっていた、彼は女自身が定めたこの会合に彼女を連れ去るために来た」と告げた。男はありふれた誘惑者なのか、気ちがいか?女はこのとっぴな男の出現にとまどった。だが男は真面目に、真剣に、そして執拗に、少しづつ過去の物語を話して聞かせながら言葉をくり返し、証拠を見せる……。

Movie Walkerより引用

www.youtube.com

この映画で描写されるように、19世紀のマリエンバートは密通の舞台であり、上流階級の者たちが「束の間の恋のパートナー」を探し、ひとときを楽しむ場所でありました。

ドイツの文豪ゲーテも74歳の時にここを訪れて19歳の少女と関係を持っているし、ワーグナーが「水精のような」少女と時を共にしたのもマリエンバートでした。

その後、共産主義政権が出来るとこのよな「退廃的な」雰囲気は一掃されて、社会主義的な味気ないサナトリウムになってしまいました。

現在はかつての華やかな雰囲気を取り戻すべく、自治体が努力をしているとのことです。

 

5. モンテカティーニ・テルメ(イタリア) 

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 Photo from  Around Tuscany, Montecatini Terme: what to see and do

 効能が高い温泉水で名高い町

あまり知られてませんがイタリアは隠れた温泉大国。

イタリア人は温泉水の効能を結構信じていて、「かの有名なモンテカティーニの水だ!」とありがたがって飲んでいます。

温泉は国が所有しており民間会社が買うことはできず、テルメと言われる温泉施設は国が負担しており、福祉政策に利用されています。

モンテカティーニはそんなイタリアを代表する温泉で、古代ローマの時代から今に続く温泉保養地。この町の温泉水は、肝臓疾患、消化不良、風土病、婦人科系疾患、肥満症に効くとされています。

ここに到着した人はすぐにザブンと温泉に入れるわけじゃない。

まずは医師の診察を受け、それぞれの症状に適した温泉が指定され、その服用や療養について細かく指導を受けます。指定された場所に移動し、医師の指示通りに1日に数回温泉水を飲み、体を動かし、体を休め、デトックスするわけです。文字通りの「療養」なのですね。

モンテカティーニの水は塩辛く刺激臭がして、飲むのがけっこう辛いみたいですが、その効能は驚くべきものがあるらしく、ほとんどの消化器科系疾患に効き下剤効果もあると言われています。

 

6. サルソマッジョーレ(イタリア)

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 通好みの温泉リゾート

サルソマッジョーレはパルマ近郊にある温泉町。

サルソマッジョーレとはイタリア語で「特上の塩」という意味で、古代ローマ時代から食塩の供給地でした。ここはまたヨウ素を含んだ温泉が湧き出すことでも有名でした。

1839年、ロレンツォ・ベルツィエーリという医者がサルソマッジョーレの温泉水で胃炎の少女を完治させたことがきっかけで脚光を浴び、多くの人が訪れるようになりました。

ここの名物はアール・デコ調のベルツィエーリ温泉保養館。

1923年に完成した建物は、当時世界一美しい浴場として評判でした。

ここに通ったのはヴェルディ、オーストリア公女マリー・ルイーズ、ソフィア・ローレンなど。イタリアで温泉といえばモンテカティーニだし、パルマといえばホテル・ミラネーゼだしってことで、通好みの温泉リゾートといった趣きがあります。

 

 

繋ぎ

日本人の温泉の楽しみ方の9割は湯船に浸かることですが、ヨーロッパでは半分以上が医療用というか、温泉水を飲んでデトックスすることに目的があるようです。

しばらく飲みつづけないと効果がでないから、しばらく温泉地に滞在して体を静養させて温泉水を飲み続ける。

カネを持っている連中が集まっているからカジノとか娯楽施設が集まり、温泉街が出来ていく。

するとその温泉街の娯楽を目当てに人が集まるようになる。そのそのリラックスした雰囲気は次第に退廃的な雰囲気に変わっていき、見知らぬ男女同士のいかがわしい行為が行われるような、性欲の吹き溜まりになっていきました。今は多くが健全な温泉施設です。

日本もそうですけど、温泉と性風俗ってのは切っても切れない関係なんでしょうか。 

さて次は後編です。お楽しみに。 

 

reki.hatenablog.com

 

参考文献 水と温泉の文化史 アルヴ・リトル・クルーティエ著, 武者圭子訳 三省堂 

水と温泉の文化史

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  • 作者: アルヴ・リトルクルーティエ,Alev Lytle Croutier,武者圭子
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