バッグパックに本とカメラを突っ込んでふらりと気の向くまま
他人が海外旅行に行って楽しい思いをしているのを見たり聞いたりするのは、基本的にはあまり気持ちいもんじゃないです。
「なんだよ、自慢かよっ!」
って思っちゃう。
でも次に「オレも行きたい!」っていうマインドシフトが起きるのは不思議なもんです。
他人が旅行に行った話を読んで「ああ、旅行きてえ」ってなるのは今も昔も変わらないようで、昔から旅行本は人びとを旅情に掻き立ててきました。
ということで、今回は「史上最も影響を与えた紀行本」のご紹介です。なお、今回紹介する本のセレクションはsmisonianmagからの引用で、ぼくも読んだことがないものが多くあります。
書評ではなく、あくまでご紹介という形でご覧ください。
1. ヘロドトス「歴史」
「歴史」は紀元前440年ごろ書かれた史上初めての「歴史書」で、
古代ギリシア人のヘロドトスがペルシア戦争後に地中海諸国を歴訪し、そこで聞いたコトモノをまとめた 全9巻の本です。
「エジプトはナイルのたまもの」という有名な言葉もこの本だし、ヨーロッパにエジプト文明の偉大さを伝えたのも彼の功績が大きいところです。
ところがヘロドトスの「歴史」は後世の歴史家からの評価が芳しくなく、というのもこの本はヘロドトスが現地で聞いた怪しげな奇怪話やゴシップがてんこ盛りだからです。
雄馬のアソコのニオイを体につけて雌馬を興奮させた王様とか、イルカの背に乗った吟遊詩人とか、部下に妻とのHを鑑賞させた王様とか、ヒドい話を散々書きたてた挙句「ま、ワシはホントかどうか知らんがね」とか書いてるものだから、マジでテキトー。
ただまあ、そんな本だけあってめっちゃくちゃ面白い。作中には「しつこいお土産売り」とか「ガイドが無能すぎてイライラする」とか、現代にも通じる記述もあって、親近感が沸きます。
2. マルコ・ポーロ「世界の記述」
13世紀ヴェネツィアの商人、マルコ・ポーロの旅は日本でも有名です。「黄金の国ジパング」をヨーロッパに紹介したのも、マルコ・ポーロによってだと言われています。
ポーロと父ニコーロ、叔父のマフィオの3人は、陸路と海路で中央アジア、中国、東南アジア、インド、ペルシャを経て、莫大な富を持ってヴェネツィアに帰国しました。
この冒険物語が世に出るきっかけになったのが、マルコが宿敵のジェノヴァとの戦争捕虜になり投獄されてしまったことです。
同じ牢獄の中にいた作家ルスティケロ・ダ・ピサは、この若造の世にも奇妙な冒険物語をヒアリングしてまとめ、自分が知ってる怪しげな東洋の知識とミックスさせて出版しました。するとこれが大ベストセラーに。
この本がヨーロッパに与えた影響は大きく、極東の富を目指してヨーロッパの冒険者が続々と海に乗り出していく要因の1つになりました。
その1人が、かのクリストファー・コロンブスであります。
3. ローレンス・スターン「センチメンタル・ジャーニィ」
イギリスの作家ローレンス・スターンは、エキセントリックな小説「トリストラム・シャンディ」の作者として有名です。トリスラム・シャンディはローレンスが亡くなったため未完で終わっているのですが、脈絡が無茶苦茶で話が飛びまくったり、突然真っ白なページや真っ黒に塗りつぶしたページが登場するなど、読者をからかうような表現がてんこ盛りで、18世紀当時に大変な話題となりました。
ローレンスはこの作品を書く途上で病気にかかり、その療養も兼ねてバカンスでフランスとイタリアを訪問しました。
その旅の記録をまとめたのが「センチメンタル・ジャーニィ」です。
ローマ時代の遺跡に思いを馳せ、ルネッサンス時代の芸術を鑑賞して目を楽しませ、大自然に体を委ねる。
この旅のテーマは「ローカルな人たちとのふれあい」や「今まで出来ない経験をする」「自分探し」にあったようで、今ではよくありますけど、このような旅のコンセプトは当時は相当に画期的だったようです。
この本が後に「旅行のコンセプト」のあり方を大きく変えたことは確かでしょう。
4. マーク・トウェイン「地中海遊覧記」
マーク・トウェインは「トム・ソーヤの冒険」や「ハックルベリー・フィン」で 有名。アメリカ文学の父と称される人です。
アルタ・カリフォルニア紙に長期連載をして大好評となったのが、彼が地中海とパレスチナを巡った「無邪気な旅路」「地中海遊覧記」。
この旅行記はユーモアあふれる愉快な内容であると同時に、「ヨーロッパが文化の最先端だって言ってるけど、意外とそーでもねえんだな」的な皮肉を交えて語りアメリカ人の愛国心をくすぐりました。
親愛なる読者諸君は、彼が海外に行くまで、ケツをどれほど完璧に仕上げてきていたか、知る由はないでしょう
私がいざフランス語を話し始めると、パリの奴らは目をまんまるにして驚いてやがった!パリのバカどもは、オレらアメリカ人にもフランス語が話せるやつがいることを知らなかったんだぜ!
このような旅行記のスタイルは当時は斬新で、新たな「コミック・トラベル」のスタイルの祖となりました。
PR
5. ノーマン・ダグラス「シレーヌの土地」
ローマ帝国の2代皇帝ティベリウスは、ナポリ沖に浮かぶ島、カプリ島をこよなく愛し、しまいにはローマに帰ってこなくなったことは有名です。
19世紀半ば、そのカプリ島の地に惚れ込んだオーストリア生まれのイギリス人、ノーマン・ダグラスは、外交官を引退してカプリ島に移り住み、そこで地中海をテーマにした創作活動を行いました。
ノーマンの代表作が「シレーヌの土地」(日本語版はないっぽい)です。
ノーマンはイタリア人の生活を「パガニズム的で、享楽と笑いに包まれている」と表しています。まるで「楽園」のようなイメージですね。
太陽がさんさんと輝き、果物がたわわに実り、人びとは愉快に酒を飲んで踊って暮らすというイメージは特に、イギリス人の読者に地中海に対する憧れをつのらせたといいます。
6. フレヤ・スターク「暗殺教団の谷」
日本では女性旅行家と言えばイザベラ・バードが有名ですが、
イギリスではフレヤ・スタークのほうが人気があるそうです。あまり日本では有名ではありません。
代表作「暗殺教団の谷」はその名の通り、イスラム教の異端グループ・アサシン派の根城であるアラムート城跡を訪れる旅行記。
このアサシン派(暗殺教団)は以前の記事「世界のアブナい(?)宗教 5選」にも書いたとおり、敵対勢力の指導者クラスを暗殺することで勢力を拡大したイスラム教のセクト。「山の老人」伝説も相まって、ミステリアスで危険がいっぱいの中東というイメージをヨーロッパ人に与えています。
この本は、女性が1人で旅行をすること、そしてその記録を書き成功を成し遂げたことで、多くの女性に勇気を与えた作品でもあります。 フレヤは文中にこのように書いています。
たとえどうやっていいか分からなくても、懸命さと旅行の術があれば、あなたはきっと飛び出していける。さあ、神様が与えてくださった全てのこと、あなたが全く知らないものもコトも、全部味わい尽くしてしまいましょう!
7. ジャック・ケルアック「オン・ザ・ロード」
この小説は、アメリカの小説家ジェック・ケルアックが若いころに実際に体験した、仲間とのアメリカ横断旅行をまとめたもの。
ジャックはこの小説をわずか3週間で書き上げたとされ、タイプライターの紙を変える時間がないから、全ての原稿が長い1枚の紙にまとまっていたという、まさに「伝説」と言っていい小説です。
若者たちの表しようがない怒りや、やりどころのないエネルギーに満ちたその旅路は、「ザ・青春」といえるもので、出版された1957年にアメリカで大変な議論を巻き起こしました。時は冷戦が始まったばかりの頃で、その硬直した社会の雰囲気に嫌気を感じた若者たちの「大人への反乱」のバイブルとなったのです。
ちなみに2012年にフランシス・コッポラ制作指揮で映画化しています。
この予告編は、ちょっと魅力的ですよ。本編を借りにツタヤに行きたくなります。
8. トニー・ウィラー「Across Asia on the Cheap」
日本人バックパッカーのバイブルと言えば、沢木耕太郎の「深夜特急」ですが、
イギリス人バックパッカーのそれは「Across Asia on the Cheap」。
1973年、トニー・ウィラーと妻のモーリーがロンドンからシドニーの陸路の旅で実際に体験した、安いホテルやレストランとその評価を90ページの紙にまとめて1.8ドルで販売しました。チープな旅行本が高かったら意味無いですしね。
で、実際これは飛ぶように売れた。
この本で紹介されているのは、5つ星ホテルのようなラグジュアリーな施設ではなく、1週間を10ドルで過ごすようなチープな施設。
この旅のスタイルは特に欧米の若者たちに絶大な支持を得て、いわゆる「バックパッカー」的旅行の始まりとなりました。
ちなみにこの本は、旅行ガイドブック「ロンリー・プラネット」の基礎となりました。
9. ブルース・チャトウィン「パタゴニア」
イギリスのロンドン・サンデー・タイムスの記者の仕事を放り出したチャトウィンは、南米アルゼンチンに行き、そこでフラフラしながらアルゼンチンの歴史や文化、詩などを収集して回りました。
いちおう旅の形にはなっているけど、語られているのは真偽も怪しげな話題のことばかりで、その歯切れのよい語り口と軽快なリズムですぐに人気の本となりましたが、あまりに着色されていて、モデルにされたアルゼンチンの人たちは激怒したとすら言われています。
この本は熱狂的な人気を得て、すぐにチャトウィンの辿ったコースをめぐる「巡礼者」が登場したほど。
ぼくはこれ、読んでないので読もうと思います。
10. ピーター・メイル「南仏プロヴァンスの12ヶ月」
ピーター・メイルは南フランス・プロヴァンスにどハマりしてしまったイギリスの作家。
一連のプロヴァンスの著作の中で、彼は「暗く惨めな」イギリスから脱出して、太陽が照り輝く南仏での暮らしを提案しました。
豊富な果物や野菜、新鮮なオリーヴ、安くて旨いワイン。
この本が出版された1989年以降、EU圏内の移住法、航空券の安価化、TGVの整備が進み、リタイア後にプロヴァンスに移住するイギリス人が相次いだそうです。
おかげで人が大量に押し寄せてしまい、 ピーター自身は喧騒に耐え切れなくなり、プロヴァンスから脱出してロールメインというさらに小さな村に引っ込んだそうです。
まとめ
マズイなあ。
これを書きながらめちゃくちゃ旅行に行きたくなってきた。
せめて紀行本を読んで行った気になるしかないかなあ。
今回は「世の中に与えた影響が大きい紀行本」をご紹介しましたが、実際に旅に出ている時に読んだら面白い本も前にご紹介しています。
こちらも併せてご覧くださいませ。
引用・参考