世界中にいるゴーストバスターとその除霊方法
映画「エクソシスト」をご覧になったことはありますでしょうか?
女優クリスの娘リーガンに悪霊パズズが乗り移ってしまう。この悪霊を除り除くためにメリン神父とカラス神父が悪霊と戦うのですが、描写がなかなかエグい。緑のゲロを吐き出したりとか。スパイダーウォークで迫ってくるシーンは特に有名です。
エクソシストとは日本語で言うと「悪霊払い師」みたいな意味で、キリスト教文化圏の除霊の専門家。このような「ゴーストバスター」は世界中で見られ、日本でも陰陽師や修験者、仏教者が存在します。
このエントリーでは、ゴーストバスターの概要と世界の事例を紹介します。
1. ゴーストバスターとは?
1984年公開の映画「ゴーストバスターズ」は、3人の科学者がゴーストバスターを専門に行う会社を立ち上げ、ニューヨークに現れたゴーストたちと戦うドタバタSFコメディー。
だいぶ毛色は違いますけど、「ゴーストを追い払う・駆除する」という点では、エクソシストや世界のゴーストバスターたちと同じです。
1-1. ゴーストとは何を指すか
一口にゴーストと言ってもその種類は様々。
我々日本人は、生前に恨みを残して死んだ「成仏できない霊魂」を想像しますが、
地域によっては動物の霊魂だったり、船や馬車などモノの霊が出る場合もあります。
さらには、キリスト教圏だと「悪魔」や「デーモン」もゴーストバスターの駆除の対象に入ってきます。
悪魔は人間をたぶらかし、神の道に背かせ社会を堕落させようとする存在。
「デーモン」は悪魔と同義で語られることもありますが本来の意味は異なり、人間に害悪をもたらすスピリット・幽霊のことを指します。古代地中海世界やゲルマン世界での多神教の悪霊の概念が、キリスト教の「悪魔」の文脈と結合したのが、現代で語られるところのデーモンと言えます。
ヴァンパイアなんて典型的な例ですね。
墓の中から蘇ったヴァンパイアは、十字架を見ると逃げ出すと言いますし。
ちなみに、ユダヤ・キリスト教の悪魔たちは以前の記事でまとめていますので、興味がある方はご覧ください。
1-2. いつからいるのか
古代世界からゴーストバスターは存在しました。
人が霊や悪魔を恐れるのは今も昔も変わらないですし、むしろ、科学が発展しておらず世の中に起こる様々な事象を論理的に説明できなかった時代のほうが、いっそう恐怖は大きかったと思われます。
記録に残っている最古のゴーストバスターの話は、約2,000年前の古代ローマの時代、小プリニウスが語った話です。
ギリシャ・アテネのある家では、深夜になると鉄のぶつかるような音がせまってきて、外に「青ざめた顔の男の老人」の幽霊が現れた。老人は足かせ・手かせを付けられており、それが鉄のぶつかる音を出していたのだ。
近隣住民は恐れおののき、その家は長い間空き家になって買い手がつかなかった。
哲学者アテノドラスは興味を持って、その家に泊まってみることにした。
はたして、夜になると鉄のぶつかる音がして、ぬっと青白い顔の男の老人の幽霊が現れた。
幽霊はアテノドラスを手招きした。アテノドラスがついていくと、老人はある場所でスッと姿を消した。
翌日アテノドラスがその場所を掘ってみると、なんと足かせ・手かせを付けられた白骨遺体が現れたのだった。アテノドラスがその骨を丁寧に埋葬してやると、男の幽霊は二度と現れなくなったと言う。
この世に未練がある魂が現世をさまよって現れ、望みを果たすとあの世に行くことができる、という文脈がはるか昔から、しかも遠く古代地中海でも存在していたことが分かります。
1-3. どのような手法を使うか
まず欠かせないのは、呪文です。
キリスト教だと「イエス・キリストの御名により、ここより去り行くべし」と言って十字を切る。日本の修験者だと「臨兵闘者皆陣列在前(りんぴょうとうしゃかいじんれつざいぜん)」と手で印を結んで切る。呪文と手のアクションが両方ともあるんですね。
加えて、水や塩、薬草など「清め」のための素材。キリスト教だと聖水や聖油、聖塩、日本だと塩や香が使われます。
後は、各種除霊グッズ。キリスト教だと十字架、日本だと念珠や大麻(おおぬさ)があります。
最近だとハイテク化・デジタル化の波はゴーストバスター業界にも押し寄せているようで、電磁波測定器やサーモグラフィー、暗闇でも鮮明に撮影可能なカメラなどを駆使してゴーストを捉えようとする人たちもいます。
そういえばテレビ番組でよく見ますね。何も映ってないのに、サーモグラフィーが反応した!とか。
このように、ゴーストの種類も多種多様で、その除霊方法も様々です。
では、次から世界のゴーストバスターの種類とその除霊方法を見ていきましょう。
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2.ウィッチクラフト(イギリス)
魔女と言えば、悪魔サタンと契約して人間社会に堕落と厄災をもたらすとされ、特に中世に大弾圧されたことでよく知られています。今でも悪魔崇拝と同義で語れることもあるのですが、 本来のイギリスのウィッチクラフトは先住民族ケルト族の伝統を引き継いだもので、森や川の精霊、木や石の魂と対話する人たち。日本の神道に近い存在かもしれません。
キリスト教が王権と結びついて勢力を拡大していく際に、旧勢力の信仰を悪の信仰と断罪して異なるエスニシティを取り込んでいったので、ウィッチクラフトもそのような形で邪教扱いされていきます。
さて、ウィッチクラフトの司祭は除霊はどのようなものか。
まず白の法衣をまとい、塩をまいてハーブのお香を焚く(弱い霊ならこれで消えてしまう)。
そうしてアセイミーと言われる短剣で魔法円を描き、4方向の守護神を呼び寄せて場を守り、魔女が信仰する神を呼び寄せ、呪文を口にして霊に退散を迫るのです。
母なる女神の名において
女神ディアナの名において、去れ!
女神アスタルテの名において、去れ!
リリスの名において、去れ!
女神ブリギットの名において、去れ!
ここは我らの場所であり、我々はお前より強い!
全ての邪霊よ去れ!すぐにこの家より去れ!
「神さんはこっちの味方だ。オメーに勝ち目はねえ」
と脅している感じです。
3. フンガン(ハイチ)
Work by Doron
主にハイチで信仰されているヴードゥー教は、西アフリカの土着信仰が大本になり、そこにキリスト教の要素が極めて複雑に絡まってできた民間信仰。
ドラムを使った歌や踊り、動物の生け贄をつかった儀式、トランス状態で宇宙やスピリットと交信するなど、原始的で本能的な要素を持っています。
アメリカ映画で残虐で未開な宗教として描かれ、ネガティブなイメージを持たれることも非常に多いです。
ヴードゥー教にも悪霊払いの儀式があり、それを取り仕切るのは神官であるフンガンです。
聖なる木を模した柱が立つ祈祷場の床に小麦粉で魔法の絵を描く。霊の好きな酒を供える。そうしてドラムをかきならし、輪になって信者たちが踊り狂う。そうしてトランス状態になると、突然発狂して地面を転がり始める者が現れる。フンガンが生の鶏を差し出すと、バリバリと食いちぎってしまう。悪霊が現れた証拠だ。
やがてその信者は痙攣しながら失神。白いシーツに包まれて奥に運ばれ、フンガンによって悪霊が追い出される。
再び祈祷場に運ばれてきた信者は、酒を注がれ刀でたたかれると、何事もなかったかのように目を覚ますそうです。
4. 心霊手術師(フィリピン)
フィリピンは国民の大部分がカトリックを信仰する国ですが、スペイン支配以前はアニミズムを信仰していたので、その文脈が根底には滔々と流れていると思われます。
現代でも悪魔憑きの話はたびたびニュースになります。フィリピンでは心霊手術を専門にしてそれで食ってる人までいます。
彼らは道具を使わずに、手だけで手術を行います。
まず、患者の体を横たえて、患者の足の親指に両手をあてた上で、悪霊に去るように叫ぶ。横にいるアシスタントは、悪霊を嘲笑し続ける。笑いは陽の波動を持つため、悪霊の力は弱まってしまう。この時患者は体に激痛を感じるそうです。術師いわく、悪霊が体を離れたくなくズルズルとしがみつくため痛みを感じる、のだと。
5. タンキー(タイ)
プーケットには、ベジタリアン・フェスティバルと言う道教的儀式が伝わっています。
これは19世紀に流行したマラリヤを、たまたま慰問に訪れていた中国京劇団が道教の儀式で追い払ってしまったことで始まったもの。
10月に行われる儀式の1ヶ月前に、プーケットの信者は肉食を断ち菜食に徹してこの日を迎える。一家を代表して儀式に参加する信者は、ゾロゾロと中国寺院に集まり、導師タンキーの前に進み出る。するとタンキーは、鉄パイプや刀など尖った金属で信者の頬をブスッと貫く。そうして血をボタボタに垂らし、派手に爆竹を鳴らしながらゾロゾロと行進して家に帰り、家族とともに無病息災を祈るのです。
6. エデュラ(スリランカ)
スリランカは大部分の国民が敬虔な仏教徒ですが、仏教伝来以前に存在したアニミズムの文脈が未だに存在します。
仏教以前は、病気は霊や悪魔によって引き起こされると考えられていたため、それを治療するための信仰治療家・エデュラの役割は大きいものがありました。
まず野外に設けられた祭壇に患者を寝かし、取り憑く霊に捧げものをする。
人々はドラムの音色にあわせて呪文を唱えた歌を歌って踊り狂い、霊が体から出て行くようにお願いする。踊りのクライマックスに、病気の霊の主「マホ・コラ」のお面をかぶったエデュラが現れる。最強の霊を登場させて、取り憑く霊に退散願うのです。
まとめ
個人的には、悪霊とか霊魂の存在は信じていないのですが、
世界中のアニミズム・原始宗教の中で霊との対話や悪霊を放逐する儀式が存在するし、キリスト教や仏教といった人工宗教が普及しても、そのようなアニミズム的文脈は途絶えることなく脈々と受け継がれていくことを考えると、当然目には見えないし触れることもできないけど、何らか思念体や怨念のようなものはあるのではないか?という気になります。
今回は世界のマイナーなゴーストバスターをまとめましたが、次回は著名なエクソシストたちの伝説をまとめたいと思います。お楽しみに。
参考文献
Truth In Fantasy86 ゴーストハンター エクソシストから修験者まで 三猿舎編 新紀元社