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歴ログ -世界史専門ブログ-

おもしろい世界史のネタをまとめています。

【働いたら負け】中世ヨーロッパの「遊び人」の生活とは

イタリア・ローマ 西ヨーロッパ諸国 ドイツ フランス

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真面目に生きるなんて嫌だ!を実践した中世の遊び人

朝早くから会社に行って、こき使われて深夜にクタクタになって帰ってくる。

こんな生活は嫌だ!仕事を辞めて好き勝手に遊びながら暮らしたい!

たぶん、日本の労働者の大半はこう思っていると思います。でもほとんどの人は思うだけで終わるでしょうね。

でも現実にそういう生き方をしている人たちがいるし、増え続ける生活保護の問題も大きく関連してくるのですが、働かずにブラブラしている連中がかなりの数、日本社会に存在します。

こういった「遊び人」たちは世界中、いつの時代もどこの地域でも見られ、多くは深刻な社会問題を引き起こすのですが、中世ヨーロッパではそういう「遊び人」が問題を引き起こしつつも、独自のカルチャーを築き上げ文化の発展に貢献する様がみられました。

 

 

1. 遊び人とはどんな連中か

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さて冒頭でも言った通り、いつの時代どの社会でも堅気の仕事になじめず、日がな一日ぶらぶらしたり、博打を打ったり、酒を飲んで酔っぱらったり、のらりくらりしている連中がいるものです。

落語でも「熊さん・八っつあん」という江戸時代の遊び人が登場しますし、ロシアの文豪ドストエフスキーの作品の登場人物はたいてい無職です。

中世ヨーロッパでも同じようなもので、そこら中に無職の遊び人がいました。

当時の遊び人がどんな連中なのか、彼らを描写した詩を読めば何となく実態が分かってきます。

13世紀ドイツ 「カルミナ・ブラーナ」 第195歌 遊び人の歌

博打にふけり、ゴロツキと交わるなら、ワインを馬鹿にするな、居酒屋をひいきにしろ。

霊なる酒を飲むと、飲んべえどもが集まる。ワインは憂さを払い、喜びを与える。

みんな時間なぞ気にするな、博打の運を信じて飲み干せ。酒の旗印は「幸運」さ。

熱心にはげめ、指の練習だ。いかさまを目指せ、勝つのが目当てだ。

 日がな一日居酒屋にたむろして博打にふけり、いかさまをして相手から金品をだまし取る様子を描いています。

 

15世紀スイス セバスチャン・ブランド作「愚者の船」

博打好きの馬鹿なら、またたんと見つかる、どんな馬鹿よりいっそう馬鹿だ

サイコロとトランプよりほか、いっかな楽しみもない

狂ったように朝から晩まで遊びほうけ

遊びを奪われたらもう生きていけないと妄想しているほど

で、寝食も忘れて遊ぶのだ

テーブルにはりついては、まったきめくるめきの中で

それでもいつも手の下には、美酒の入った大きな瓶を置いている

というのも遊びはかれらをからからにし、肝臓を炎でつつみ、渇きで燃やすからだ

これも典型的な遊び人の姿を描写したもので、他のことには目もくれず、ひたすら博打を打っては酒を飲む「博打狂い」の連中です。

朝からパチンコ屋に並んで一日中ジャンバラやってる連中や、雀荘に入り浸ってずっと麻雀打ってる連中と全く同じですね。

 

2. 大都市に殺到したならず者たち

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中世ヨーロッパは特にこういった遊び人が大量発生した時代でした。

農業技術や商業ルートの発達で経済成長が促され、都市が大きくなる。すると、地方から都市にどんどん人が流れ込むようになる。

そういった中には商売や投資で大成功する者も現れますが、逆に失敗して落ちぶれる者も出てくる。貧富の格差が広がる。

また都市には大学や神学校が設立されたため、これまた地方から若い学生が押し寄せる。

これらの「田舎からやってきた貧者」と「若い学僧」が、おおよそ遊び人の供給源

学僧は全員が真面目に勉学に勤しむとは限らず、現代でも同じように、勉強そっちのけで遊んでばっかの奴が大半を占めていました。

彼らは若いが故、恋をしたり喧嘩をしたり、酒を飲んで暴れ、博打を打って女を買う。で、借金を抱えたり仲間から締め出されたりして、その町に居づらくなればフラリと姿を消してしまう。

そこから身を持ち直して真面目に働く者もいたでしょうが、堕落してゆくだけの者も多かったでしょう。

中世の大都市には、そういう学僧崩れや貧乏人が盗賊・いかさま師・贋作品売り・乞食など都市のならず者になり、ウヨウヨしていたのです。

まあ、社会不安の種になりますよね。

都市当局としても、そんな連中を放っておくわけにはいきません。

 

3. 遊び人を働かせろ!

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多くの都市当局者は、ゴロツキどもを都市から追放するといった対策しか取れませんでしたが、多くの場合いたちごっこで、追い出しても追い出してもまた舞い戻ってきてしまう。

そんな厄介な連中を追い出さずして逆に活かそうとしたのが、イタリア諸都市(マントヴァ・パドヴァ・ボローニャ・ルッカ・シエナ・フィレンツェなど)でした。

イタリア諸都市はゴロツキどもを集めて組合を作らせ、当局で設置した公的賭博場のスタッフとして雇ったのです。

筋金入りの遊び人たちにとっては天職だったでしょうね。

その代り、死刑執行人・間諜・収税人といった、あまり人がやりたがらない仕事も彼らに押し付けた。

遊びしか知らない遊び人にとっては、あまりやりたくなかったかもしれませんけど、それで食っていくしか仕方がなかったでしょう。

 

4. 中世のサブカルチャーを作った遊び人

このように遊び人は都市に寄生し、多くの場合社会不安の種になったのですが、中世ヨーロッパの重要なサブカルチャーを作ったのも遊び人でした。

それを担ったのは多くの場合、若い学僧崩れたち。

道を踏み外したとはいえラテン語を読めたり、ある程度教養はある。

そんな彼らは、学僧崩れだからこそできる表現、教会や聖職者をクソミソにけなす風刺や恋や自然をおおらかに表現する歌を作っていきます

彼らのことを「ゴリアール」と言い、居酒屋に入り浸っては博打を打つ点では普通の遊び人と変わりませんが、

遊び人ならではの観点からの作品作りをお互い切磋琢磨し、連帯意識をもって独自のカルチャーを作り上げていきました。

 

ゴロツキどもが作るアウトローのカルチャー

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15世紀フランスの詩人フランソワ・ヴィヨン。

彼はパリ大学自由学芸部で学びますが、根っからの遊び人であり、ゴロツキどもに交じって生活し、何回も投獄されています。

彼の書いた詩は粗野で暴力的で、当時の最先端の洗礼された作品とは相いれず、貴人たちの眉をひそませるものでした。

泥棒になれ、奪い取れ、襲い取れ

儲けた金は どこへ行く 何とおまえは考える

ことごとく 酒場と女の懐へ 行く

おれの名はフランソワ フランス人だ この事はほんとに重いんだ
ポントワーズの隣町のパリの生まれさ
2メートルたらずの縄につりさげられて
おれの首、尻の重さをたっぷり知ることになるんだよな

 ヴィヨンは15世紀半ばのフランスを荒らしまわった遊び人集団「コキヤール団(Coquillars)」のメンバー。

コキヤール団は団員が数百人~千人にも達する結社的グループで、サイコロ遊び、トランプなどの博打遊びや、詐欺・偽金銀作り・盗みで生計を立てるゴロツキ集団でした。

彼らは独自の隠語や掟を持っており、そのようなアウトローのカルチャーがヴィヨンの作品に反映されたのでした。

このようなアウトローの「遊びの文化」は徐々に市民権を得ていき、「文化」の中心を担った貴族や教会の洗練されたカルチャーを徐々に侵食。

中世後期にはいつの間にかキリスト教的な真面目な文化は、「遊び」の文化にとって代わられ文化の中枢になっていく。

来たるルネサンスでは、そのような「遊び」が整理・体系化され、人間形成の中での遊びの役割や望ましい遊びについて定義がなされ、上から広く一般に定着していくことになります。

 

 

まとめ

社会から煙たがられる存在の遊び人たちが、独自の文化を創造して発展させ、それが広く普及しやがてマジョリティーに取り込まれていくのは面白い現象ですね。

現代日本でも、2ちゃんねるで作られた独自の文化・文脈が、徐々に一般に普及し始めており、似たような状況にあると言っていいかもしれません。(2ちゃんねらーがニートだと言っているわけではありません)

先日の東京オリンピックロゴ騒動はその暗黒面だと思うのですが、ネット文脈の良い面も今後、より露出されてくるものと期待しています。

 

参考文献:賭博・暴力・社交 遊びからみる中世ヨーロッパ 池上俊一 講談社

賭博・暴力・社交―遊びからみる中世ヨーロッパ (講談社選書メチエ)

賭博・暴力・社交―遊びからみる中世ヨーロッパ (講談社選書メチエ)

 

 

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