歴ログ -世界史専門ブログ-

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華麗で大胆な女スパイの物語

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美貌・頭脳・剛胆さで敵を欺く女スパイたち

ハリウッド映画に出てくる女スパイは、全身黒スーツをまとった美女で、銃で敵を次々となぎ倒すマッチョな感じです。主人公と恋に落ちちゃうケースも多いですね。

特異な存在なだけあって、視聴者のみなさまを満足させるような華やかで美しいけど強くてしなやか、みたいな存在として描かれる女スパイですが、実際はどんなものだったのか。

海外サイトで著名な女スパイが紹介されていたので、紹介いたします。 

 

 

1. べルバレー・ディッキンソン(アメリカ)

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日本軍のスパイとなった人形屋の女主人

ニューヨークで人形屋ベルバレー・ディッキソンを営んでいた女主人は無類の人形コレクターであると同時に、裏の顔は敵国日本にアメリカの情報を流すスパイでした。 

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ニューヨーク・マジソン通りにあったベルバレー・ディッキソンは、主にアンティークの人形を取り扱っており、アメリカ人のみならず海外からも引き合いがある人気店。

昔から日本の要人と親しかった彼女が店をオープンさせると、日本の領事館員が頻繁に姿を見せるようになりました。

 

時は移って1942年、戦時検閲官がアルゼンチンのブエノスアイレスに宛に送られた怪しい手紙を発見。

その手紙は修理のために「素晴らしい人形病院」に預ける「3つの古い英国人形」に関する内容で、「魚網」や「風船」についても言及されていました。

FBIは「3つの古い英国人形」は3隻の軍艦のことで、「人形病院」は造船所「魚網」は潜水艦用の網で、「風船」は西海岸の何らかの防御施設のことを指していると結論づけました。

その他にも駆逐艦USSショーの戦線復帰を「ショー君は間もなく復帰する」など、機密情報を人形屋の発注などに装った手紙が数多く発見され、文章のクセからディッキンソンが割り出されて逮捕されました。

ディッキンソンの金庫には、日本軍から渡された13,000ドルものカネが保管されていたそうです。

ディッキンソンは自身が日本軍のスパイであったことを否定しますが、裁判の結果、彼女が知り得た日本軍の情報を提供することで罪状を軽くする司法取引が成立し、懲役10年と罰金10,000ドルの刑となりました。

 

2. ステファニー・ヴォン・ホーヘンローフェ(オーストリア)

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 美人で剛胆な「ナチスのプリンセス」

ステファニー・ヴォン・ホーヘンローフェは、若い頃からその美貌と知性は有名でした。

彼女は二重スパイならぬ、二重プリンセス。

トスカーナ公フランツ・サルヴァトールとオーストリア公フレデリック・フランツの両方と結婚式を挙げ、お互いの夫はステファニーが自分だけの妻だと思っていました。

彼女はサルヴァトールとの間に出来た子を、フレデリック・フランツにも見せて「あなたの子よ」と言っていたそうです。なんちゅう剛胆な女だ。

ステファニーはドイツの上流階級ではスター的存在で、ヒトラーを始め多くのエグゼクティブが彼女の虜になったといいます。実はステファニーはユダヤの血が半分入っていましたが、ヒトラーはそれを信用しなかったそうです。

ステファニーは第一次世界大戦の頃からドイツのスパイとなり、1930年代にイギリスにいた時は、ナチスシンパを通じて本国にイギリスの情報を流していました。

第二次世界大戦が始まったときはアメリカにいましたが、真珠湾攻撃でアメリカが参戦したタイミングでアメリカ当局に逮捕され、終戦まで獄中にいました。最終的に釈放されてドイツに帰国したそうです。

 

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3.  セシリー・レフォート(イギリス)

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 イギリスのスパイとなったアイルランド系フランス人主婦

1900年にアイルランド生まれのセシリーは、若い頃にフランスに渡り、ヨットの技術を身につけるなど、普通の主婦として暮らしていました。

ところが1940年、フランスがナチスドイツによる侵入を受けると、セシリーはイギリスに渡り、英軍特殊作戦執行部隊(SOE)に入隊。「アリス」のコードネームを与えられ、ドイツ占領下のフランスに舞い戻ると他の2人の女スパイとともに活動を開始。

ジョッキー・ネットワークというスパイグループに所属し、様々な諜報活動に従事するも、3ヶ月後に彼女自身が「危ないから近づくな」と周囲に忠告していた家でドイツ密偵に捕まってしまう。

セシリーは収容所に収監され、終戦間際の1945年5月1日に処刑されました。

 

4. ヌール・イニャット・カーン(フランス)

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 スパイになったインド系フランス人の児童本作家

ヌール・イニャット・カーンの出自は複雑で、インド人の両親のもとでソ連に生まれ、イギリス、次いでフランスに引っ越しそこで育ちました。 

カーンは児童本の作家になって暮らしていましたが、1940年にフランスがナチス・ドイツに占領されると、イギリスに渡ってWAAF(Women’s Auxiliary Air Force)に参加し、後に英軍特殊作戦執行部隊(SOE)のラジオ・オペレーターに籍を置きます。コードネームは「マデリーナ」。当初はイギリスから占領下のフランスへ伝令を送る任務にあっっていたものの、前線勤務を希望しフランスに潜入しスパイ活動に従事しました。

しかしすぐに、カーンは不用意にも暗号文書を手元に持っていたところをゲシュタポに見つかって逮捕され、1年間の収監の後に処刑されてしまいました。 

 

5. サヴィトリ・デヴィ(ドイツ)

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 ナチズムに傾倒したインド系フランス人

インド系の両親の元でフランスに生まれたサヴィトリー・デヴィは、若くしてアドルフ・ヒトラーの思想に魅了されたといいます。

卍(まんじ)をモチーフにしたナチ党のシンボルは、彼女にとってヒンドゥーイズムと被って解釈され、自分のアイデンティティをたどる思索から、ナチスが掲げる反セム系民族(ユダヤ人はセム系)運動に傾倒していきました。

その結果、デヴィはヒトラーはヴィシヌ神の変化であるアヴァタールであると結論づけ、悪を倒すためにこの世に送られた神だと信じました

1930年代、デヴィはインドで枢軸国のプロパガンダ活動に従事する傍ら、英国の諜報活動に従事。大戦中は欧州戦線を巡って兵士たちを慰問して周りました。

ナチスが倒れた後も彼女は自分の思想を変えず、「ホロコーストを否定した最初の人物」となりました。

 

6. サラ・アーロンソン(イギリス)

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 トルコに抵抗したユダヤ人スパイ

サラ・アーロンソンは、オスマントルコ支配下のイスラエルの生まれ。

若い頃にイスタンブールに少しの間住み、イスラエルに戻ってきた時に彼女の人生を大きく変える事件、トルコ兵が5,000のアルメニア人を殺戮して積み重ね、火をつけて焼くという事件が発生します。

イスラエルにおいても反トルコ活動が活発化し、サラの兄アーロンはユダヤ人で作るスパイ組織「ニリ」に参加。組織的にイギリスに情報を流す活動を始めます。2年後にサラもニリに加わってスパイとなり、第一次世界大戦の中東戦線において、トルコ当局の情報をイギリス軍に提供し続けました

しかし1917年10月1日にトルコ当局に身柄を拘束されてしまう。

サラは拷問にあい、イギリス軍や味方のスパイの情報を言うよう迫られますが、決して口を割らなかった。しかし、このまま拷問をされ続けるといつかは口を割ってしまうかもしれないと恐れ、自宅でピストル自殺しました。

 

7. ジーニー・ルソー(フランス)

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 第二次世界大戦中に最も活躍した女スパイ

第二次世界大戦中で最も活躍した女スパイと言われているのが、ジーニー・ルソー。彼女はフランスでジョージ・ラマルクーの対ドイツ抵抗組織に参画し、「アムニアリックス」のコードネームを与えられました。

元々は彼女の一家はパリに住んでいましたが、戦火が及ぶと北フランスに避難。しかしそこもイギリス侵攻のための拠点とするためにドイツが侵攻してきます。父は憤り、娘にドイツに接触して情報を盗み出すよう促しました。

その美貌と語学力もあり、ジーニーはすぐにドイツ軍に信頼されて色々な情報を聞き出すようになります。特に彼女が聞き出したドイツ軍の軍事施設「ピーネミュンデ・センター」に関する情報は貴重かつ正確なもの。ここはドイツ軍の先端的な技術が集約されていた場所で、一流のスパイでもなかなか聞き出せなかったもの。

英首相チャーチルも注目し、おかげでドイツがイギリスに向けて発射したV-1、V-2ミサイルでは被害を最小限に食い止めることができたほどでした。

他の女スパイと同じく、ジーニーもドイツ軍に捕まってしまいますが、運良く処刑を免れて終戦を迎え、戦後は国連の通訳して働いたそうです。

 

 

まとめ

 女スパイと聞くとなんか結構華やかなイメージがありますが、実際はかなり残酷で、儚いものだったというのがわかると思います。

現実、そんな甘いものじゃないというか、すっごいリアルな世界です

カネのために祖国を売るとか、理想に燃えて頑張るけどすぐにバレて殺されるとか。

タイトルにあるような華麗とかそんな奇麗なもんじゃない、よほど理想に燃えるか、ビジネスとして割り切ってないとできない、「極限まで達したヒト」の世界がそこにはあります。

しかも当時は「女性が働くのなんて」という認識が一般的だった世界だったわけですから、ますます女スパイとなった人たちはスゴイものです。

 

参考・引用

 listverse.com, 10 Intriguing Female Spies You Might Not Know

FBI Histroy Velvalee Dickinson, the “Doll Woman”

 

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