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失敗し続けている世界の連邦構想

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かつて検討された壮大な国家統合計画

国家連合とか連邦国家とか聞くと、ちょっとワクワクしませんか?

大物感というか、壮大な取組みをやってる感というか、

地図に小さな国がバラバラとあるよりは、ダーーーンとデカい国家が1つあるほうが、何かよく分かんないけどカッコいいし強そうな気がする。

昔から連邦構想は盛んで、様々に取組みはなされてきたし、実際に連邦制を取り入れてうまくいっている国もいっぱいあります(アメリカ、ロシア、ドイツなど)。 

ただ、企画倒れに終わったり、やってみたもののうまくいかなかった例も多数あります。

ということで、今回は世界の連邦構想についてピックアップいたします。

 

 

1. ドナウ連邦

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オーストリア=ハプスブルグ帝国の後継的連邦案 

帝都ウィーンを中心として栄えたオーストリア=ハプスブルグ帝国は、その領土にハンガリー、チェコ、スロバキア、ルーマニアなどの諸民族を抱えた多民族国家でした。

オーストリア帝国末期に各民族による自立の声が高まり、結局第一次世界大戦後に帝国は解体され各民族は独立してしまいます。

そんな中、ハンガリー人コシュートらは「独立するとハンガリーは2流国家だが、オーストリアと連邦を組むと列強の一員になれる」としてドナウ連邦構想を打ち出しました。

第二次世界大戦中、戦後の国家構想として、英首相チャーチルは反共の防壁となることを期待し、オーストリア、ハンガリー、ドイツ南部から成るドナウ連邦を提唱しました。しかしスターリンは容赦なくハンガリーや東ドイツに軍を進め、この計画は頓挫してしまいました。

 

2. ペルー・ボリビア連合

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 3年間だけ存在した南米の大国

1836年、ボリビア大統領アンドレス・デ・サンタ・クルスはペルーに軍事侵攻。 

ペルーを降伏させると、北ペルー共和国と南ペルー共和国の2つに分割し、ボリビアとの3カ国連合国家であるペルー・ボリビア連合を結成

首都は南ペルーのタクナに置かれ、面積だけ見てもブラジル、アルゼンチンに次ぐ南米の大国が出現した形でした。

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Work by Shadowxfox

事態を重く見たチリやアルゼンチンは、1839年ペルー元大統領アグスティン・カマーラを支援し、亡命ペルー人を武装させて連合に攻め入らせました。

ペルー軍は連合軍に勝利し、アンドレスは亡命。連合は解消され、元の状態に戻りました。調子に乗ったカマーラは、今度はペルー軍を率いてボリビアに攻め入らせ、ペルー主導の連合を形成しようとしますが、今度はボリビアに敗れ、以降連合の試みはなくなってしまいました。

確かに、この2カ国が連合したほうが国力は強くなりそうですよね。

 

3. バルカン連邦

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  浮かんでは消えるバルカン諸国の協調戦略

19世紀半ばから、バルカン半島ではオスマン帝国が後退した後、諸民族が解放運動を進め、それに欧米列強が介入し骨肉の争いの舞台となることが懸念されており(東方問題)、その解決策としてハンガリー人のポリト=デサンチッチとミレティチが提示したのがバルカン連邦構想。

デサンチッチは、民族原理に則ってオスマン帝国を解体し、空白地帯に諸民族の政府からなる連邦国家を樹立することを提案しました。

国家レベルでは、1860年後半にギリシャ、ルーマニア、モンテネグロ間で対オスマン軍事同盟が結成されますが、その後はシュリンク。

第一次世界大戦中には、ロシアを後ろ盾にしてギリシャ、セルビア、モンテネグロ、ブルガリアの間に対オスマン軍事同盟が結成され、それに続く形で連邦制国家の樹立が検討されますが、結局マケドニア問題がネックになり先に進むことはありませんでした。

しかしその後も、1930年ごろのバルカン会議(6カ国による経済協力)や第二次世界大戦語の地域協力など、消滅することなく様々な形で表れています。

 

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4. アラブ連合

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アラブ民族の統一と復興を掲げる運動

アラブ民族の諸国家の統一を求める声は、アラブ諸地域が未だイギリスとフランスの植民地下にある頃から存在しました。

目的は、「かつて世界をリードしていたアラブの栄光を蘇らせる」ことで、そのため「列強が勝手に引いた国境を取っ払い、1つのアラブとして統一する」ことを目指しました。

1947年シリアの知識人サラーフッディーン・アル=ビータールによってシリア・バース党が結党され政治活動を開始。その後ヨルダン、イラク、イエメン、レバノンなどアラブ各国にバース党は拡大し、アラブの統一は大きなムーブメントとなりました。

シリアで政治的にイニシアチブを取ったバース党は、エジプトの英雄ナセルを説得し、1958年エジプトとシリアの連合国家・アラブ連合共和国を結成。

しかしシリアがエジプトの経済的植民地と成り下がり、政治的にもイニシアチブを奪われてしまった。不満を募らせたシリアが強制的に離脱する形で3年後に連合は解消してしまいます。

その後もアラブの政治統合の取組みは続き、1963年にはシリア・イラク・エジプトの3カ国でアラブ連合共和国連邦を設立しますが、これも政治的主導権争いから連合は解消してしまいました。

一連の顛末について詳しくはこちらの記事をご覧ください。

reki.hatenablog.com

 

5. 中央アメリカ連邦

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 Work by Huhsunqu

アメリカ合衆国をモデルにした中米諸国の連邦国家

スペインの新大陸領土ヌエバ・エスパーニャ副王領は、北はアメリカ合衆国南部から南は中央アメリカのコスタリカまでの広大な地域を版図としていました。

本国スペインでは、ナポレオンのスペイン侵攻とそれへの抵抗運動の後の1820年、リエゴ革命が起こり自由主義憲法が復活。メキシコでは自由主義憲法に反発する反乱が起き、1821年にアグスティン・デ・イトゥルビデを首班として独立を達成。その後、中央アメリカ・グアテマラ総監領でも同様に王党派・保守派による独立運動が進み、1822年にイドゥルビデはメキシコ帝国の成立を宣言しました。

しかし翌年イドゥルビデは失脚。旧グアテマラ総監領はすぐにメキシコ帝国から独立し中央アメリカ連邦を設立しました

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ところが連邦では、自由主義者(エルサルバドル&ホンジュラスに多い)と王党派・保守派(グアテマラに多い)の対立がすぐに顕在化。

両者の対立から内戦が勃発し、1838年にホンジュラスが連邦からの離脱を宣言。 

その後、櫛の歯が抜けるように構成国が離脱していき、1840年までにグアテマラ、ニカラグア、コスタリカ、ロスアルトスが独立。とうとう1841年にエルサルバドルも独立を宣言し、連邦は完全に終焉したのでした。

 

6. 高麗連邦

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 北朝鮮が主張する南北統一案

1980年10月に北朝鮮で開催された朝鮮労働党第6回大会で提唱された南北統一案。

民族統一政府の元、北と南でそれぞれ地域自治制を導入する、というもの。

ただし、統一政府は北朝鮮主導で組織されるのが前提であるため、韓国にとっては到底受け入れられない案です。

1988年10月、韓国の盧泰愚大統領は金日成に対して、南北首脳会談を申し入れますが、北は「高麗連邦」での統一案を受け入れるなら会ってやってもいい、と上から目線の解答をしたため実現せず。2000年の金大中と金正日の会談まで南北首脳会談は実現しませんでした。

 

7. 世界連邦

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全世界の国・民族を加盟させる連邦の構築を目指す組織 

第二次世界大戦が終わってすぐの1946年に、より強力に戦争を抑止する世界的な統合組織の設立を目指し、スイスのジュネーブに設立された国際NGO団体。

世界連邦政府の設立を目指し、1947年のモントルー宣言に基づき、以下の6原則を定めています。

  1. 全世界の諸国、諸民族を全部加盟させる。
  2. 世界的に共通な問題については、各国家の主権の一部を世界連邦政府に委譲する。
  3. 世界連邦法は「国家」に対してではなく、1人1人の「個人」を対象として適用される。
  4. 各国の軍備は全廃し、世界警察軍を設置する。
  5. 原子力は世界連邦政府のみが所有し、管理する。
  6. 世界連邦の経費は各国政府の供出ではなく、個人からの税金でまかなう。

国から一定の主権をはぎ取り、世界連邦政府が直接「個人」を統括管理する、という壮大なもの。

老舗の国際的NGOとして、現在でも一定の発言力を持っています。

 

 

まとめ

こう見てみると、民族対立や思想信条、利害対立で内部から破綻している場合がほとんどですね。

連邦なんてやっぱり異なる利害や立場の者同士の集まりにすぎず、外敵の出現とか、独裁者が強権的に取り締まるくらいやらないと、普通はなかなか結束できないもんじゃないかと思います。

地球連邦なんて、どうやったら実現できるんでしょう。

日本海のちっぽけな島1つでこれだけヒートアップする器量の小ささだもの。

ガンダムのジオン公国みたいな地球外の帝国が攻めて来たくらいの一大有事でもない限り、達成できないんじゃないでしょうか。

 

参考文献:

バルカンの民族主義 柴宜弘 山川出版社

北朝鮮現代史 和田春樹 岩波新書 

Peru–Bolivian Confederation - Wikipedia, the free encyclopedia(2015.08.14時点)

World Federalist Movement of Japan